ことぶき不動産お祓い課 事故物件対策係 ~魔女の城編~

鷲野ユキ

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魔女の城7

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 先ほどの恐怖体験のせいで冷や汗の止まらない社は、シャンデリアの裏にでも先の幽霊が隠れていたらどうしよう、とばかりに天井を睨み付けながらホールに足を踏み入れる。
 踏み入れたとたん、声を掛けられた。
「社くんどうしたの、廊下で涼みすぎたんじゃない?顔が真っ青だよ」
 そう言う華ちゃんの顔は真っ赤だった。着ているカクテルドレスと同じくらいに。
「華ちゃん、飲みすぎじゃないか?」
「大丈夫だって!だって今日は非番だし、せっかくこんな豪華なパーティーに呼んでもらえたんだもん、楽しまなきゃ損でしょ」
 そう言って社の背をバシバシと叩くものだから痛くて仕方がない。
「その非番のところを申し訳ないんだけど、ちょっと調査の手伝いをしてもらえないかなぁ」
 ごきげんな華ちゃんの機嫌を損なわぬよう、社は低姿勢でお伺いを立ててみる。なんだか今日は女性の顔色をうかがってばかりだ。
「調査あ?」
「十年前の事故について改めて調べてくれって」
「事故?」
「そ。ついさっき、幽霊から依頼があってさ。あの事故が本当に事故だったのか、それとも事件だったのか調べないと殺すって脅されちゃって」
「脅されて?なにそれ立派な恐喝罪じゃない」
 どうにもうまく説明が伝わらなかったらしい。ちょっと待ってて、そいつを捕まえてくるから、と意気込み覚束ない足取りで歩いていく華ちゃんの腕をあわてて掴み、とりあえず彼女を会場隅の方へと連れて行く。
「で、そいつはどこに消えたの?」
 酔い冷めやらぬ華ちゃんが、勇ましい顔つきで社の目を見据える、が、やはりどうにも酔っぱらっているようでなんだか目付きが定まらない。
「廊下に飾ってあった絵のなかに消えてったよ」
「絵のなか?」
 そんなのあったっけ、と記憶の底をさらうかのように、華ちゃんがどこか遠くを見つめている。
「なんか……高そうなやつ?」
 けれど出てきた感想は庶民の社と同じのようだった。
「そう、たぶん有名なやつ」
「そうって。……もしかして、噂の幽霊?」
そこで酔いも覚めたのだろうか、華ちゃんが恐る恐る社に聞いてきた。
「たぶん、そうだと思う」
「ドレス姿の?」
「そう」
「やだ、それじゃあ本物じゃん。やっぱりお父さんが言ってたように、あれは事故じゃなかったってこと?」
 さすがは長い付き合いなだけはある。社の言い分を嘘だのと騒がず、むしろ当然のこととして受け入れた華ちゃんは状況を把握すべくぶつぶつと語りだした。とてもさっきまでただの酔っぱらいにしか見えなかった人物とは同じと思えない。
「事故じゃないってことは、その幽霊は殺された?」
「本人はそうかもしれないって思ってるみたいだよ」
「うーん、証言者が幽霊じゃ弱いなあ。殺されたって、それ本当なの?」
「でも、なかなか幽霊になんて人はならないんだ。よほど、強い恨みだとかがないと」
 社がお祓いで行く中古物件は、殺人事件が起こったものが多い。例えば、金持ちの邸宅に押し入った強盗が、そこに住む人を殺してしまう。人が人に殺された恨みというのは強く、得てしてそういう物件に霊は現れる。ゆえに良い建物にもかかわらず買い手が付かず、寿社長は安価でそういった物件を買い取り社に霊を祓わせては転売するのだ。
 しかし、彼女は何によってこの世に残っているのだろう。
「はあああ、だから私も呼ばれたのね」
そこでなにやら合点がいったらしい華ちゃんが、深いため息混じりに言葉を吐いた。
「おかしいと思ったんだよ、確かに寿社長はうちの父親とも懇意だし、社くんとこの社長さんだけどさぁ、けれどなんでそれで私が呼ばれたのかなって思ってたんだよ。なるほど、そういうことだったのね」
「そういうことって?」
 全く理解のいっていない社が問い返す。
「社くんは幽霊退治が得意で今回呼ばれたんでしょ?」
「別に得意じゃないけど」
 不満の色も露わに、社はそう返しておいた。けれどそんなものには一向に構わず、華ちゃんの推理は続いていく。
「で、ここに出るとしたら十年前の事故の被害者の幽霊だ」
「そうなの?」
「それ以外に出たら逆に怖いんだけど。他にも死んだ人がいたことになっちゃうじゃない。で、社長はさらに保険をかけたんでしょ。今までの経験則で言うと、ただの事故で悪霊が出る確率は低い。――もちろん連続して事故が起こるとかいう場所なら別だと思うけど、ここはそうじゃないもの。ということは、あれは事故じゃなかったんじゃないかと」
「社長がそこまで考えるかなぁ」
「でも一回、ちゃんとお祓いはしたんでしょう?」
「うん、改装工事前に。全部還したと思ってたんだけど……」
「でも社長はそうは思っていなかった」
 信用されてないなあ、僕。華ちゃんの言葉に、社は内心うなだれた。
「ここはホテルの経営まで寿不動産でやろうって企んでるんでしょ?お宅の社長さん。なら、徹底的に祓っておかないと。まだ強い霊がいたら開業できないもの」
 そう、なぜだか今回に限って変に色気を出したのか、さらに寿社長は敷居を広げようとしているらしい。いままでハコだけ作って渡してきてノータッチだった、ホテル経営まで行おうというのだ。
「そのつもりで人も雇ってるらしいけど。どこまで本気だか」
「なら、可能性はできる限り潰しておいた方がいい。もしかしたら、霊は殺された恨みを引きずって、その怨念から生きてる人間に害を加えるかもしれない。ならその怒りを鎮めるために、彼女を殺した犯人を見つけてやらないと、って」
「でも、あの場にいた人はみんな不幸な事故の被害者だって結論が出たんでしょ?」
「でも幽霊はそう思ってないんでしょ?」
「まあ、『アタシは殺されたの』って言ってたけど」
しかし肝心の事件自体を覚えてないのだから、幽霊の思い込みの可能性も否定できないけれど。水を差すのも悪い気がして、社は心のなかでのみそう返す。
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