ことぶき不動産お祓い課 事故物件対策係 ~魔女の城編~

鷲野ユキ

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魔女の城8

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「さっきね、私、一通りパーティーの招待客に声をかけて回ってきたの」
 さすがは華ちゃんだ、と社は感嘆する。物怖じすることなく知らない人間と打ち解けるスキルは、彼女の職業にぴったりだといつも思っている。その十分の一でもそのスキルが社にあったならば、あくまでも普通の不動産屋として活躍出来ていたのかもしれない。
「でね、聞いたところによると、この招待客たちの中に、前の事故に居合わせた人たちがいるみたいなの」
「え?」
 というと、寿社長は意図的に事件の関係者を呼び寄せたのだろうか。
「そ。お宅の社長さん、除霊だけじゃなくて犯人探しもしようとしてるのかも」
「犯人探しって」そんなの、僕の業務対象外だ。
「でも大丈夫、任せなさい。ここに現役の刑事がいるんだから」
 得意げに華ちゃんが拳で豊かな胸を叩いた。彼女の職種は警察官。いわゆる刑事なのだ。
 ならば百人力、と思いつつも簡単に流されるような問題でもない。なにせ社はえらい約束を幽霊としてしまったのである。
「本当に大丈夫?首がざっくり切れた幽霊に、事件解決しないと呪い殺すって言われてるんだけど」
「任せてよ!お父さんの念願を叶えるいいチャンスだもの」
と彼女は静かにこぶしを握った。
「華ちゃん……」
 確か華ちゃんのところは、お母さんが早くに亡くなったんだっけ。小学生の頃を思い出し、社は納得がいった。その分、父親との繋がりが深いのかもしれない。なにしろ彼女は、父親に憧れて刑事になったくらいだ。
「お父さん、この事件納得してないみたいでしつこくってね、よく言ってたの。地震でもないのに、いきなり天井だけ落ちてくるもんかって。この建物自体はすっごい丈夫に出来てるらしいの」
「でも、古い建物なんじゃないの?」
「まあね、なんでももともとは明治時代に作られたらしいけど、戦争で一度壊されちゃってそっくり同じ形に作り直したって」
「充分古いだろ」
「それが、こまめにメンテナンスしてたみたいでね、事故の一年くらい前にも手を入れて免震工事をしたみたい。それだけじゃなくて建物全体に手を入れてて、それは天井も例外じゃなかったのに、なんでそこだけ壊れたのかってずっとお父さんブツブツ言ってた」
「じゃあ誰かが意図的に壊したってこと?天井を?どうやって」
「それがわからなかったから事故で片されたんじゃない。でもさすがに、幽霊から事件解決の依頼を受けるとは思ってもみなかったけど」
 それは社も同感だった。今まで何かしてほしい――例えば何々を供えてほしいだの、誰々に会わせて欲しいだのと言われたことはあったけれど。
「とりあえず、華ちゃんのお父さんに聞いてみようよ。幽霊と約束しちゃったんだから、一時間後に詳しい話を教えるって」
「そうしたいのはやまやまだけど、今電話しても出るかわからないよ」
 聞けば結城刑事は、つい先日県内で起こった殺人事件だかの調査で忙しいという。ためしに華ちゃんが電話をかけてみるも、一向に出る気配がない。
「やっぱり駄目だ。あの人、一つのことに集中するとそれしか見えないから」
 スマホを忌々しげに見つめて華ちゃんが言った。けどそれは華ちゃんも一緒なのでは、という言葉を社は胸にしまっておく。
「困ったな。華ちゃんは事故について、なにかお父さんから聞いてないの?」
「耐震工事してあったってことぐらいしか知らないよ。だって十年前なんて、私高校生だもん。いくら同じ県内で起こったやつだからって、そんなの興味なかったし」
 それもそうだろう、同い年の自分だって初耳の話だ。
「え、じゃあネットで調べるとかした方が早いのかな」
「そんな回りくどいことしなくても、ここに関係者が揃ってるんだから直接聞けばいいじゃん」
 と軽いノリなのは華ちゃんだった。
「でも、仮に本当にその事故が事件だったとして、この中に犯人がいたとしたらさ、僕たちが過去の話を急にほじくりまわすの変に思わないかな」
「こんなかわいらしいお嬢さんに聞かれたら、うっかり答えてくれるんじゃないかな」
「お嬢さんて」
 言うや否や、ヒールで足を踏まれた。痛い!
 社が抗議の声を上げようとしたところ、華ちゃんに掛けられる声があった。
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