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閉ざされた城15
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例えシャンデリアを設置した犬尾建設に不備があったとしても、責任はそれを依頼したことぶき不動産も負うべきだろう、皆そう考える。それに、暖炉からの出火と不完全燃焼は、意図的にそれらが起こされたわけではないというならば、原因は整備不足その一点に尽きる。そうなればもはや言い逃れはできまい。なにしろ、寿社長が雇った人間が手入れをしているのだ。その責を負わないわけにはいかない。
「ええ、そうだろ寿さん」
「……ふん、すべては原因を特定してからの話じゃろ。現場検証して、こちらに非があるというならばそれは認めよう」
「認める?認めるって言いましたね寿さん?」
「だから、あくまでもそれはこちらに非がある場合においてじゃの」
「あるに決まってるじゃないか!現に俺たちは命の危機にさらされたんだ。これで認めないだなんて、なにを馬鹿なことを」
「まだ原因も分からないのに、早まったことを言うでない」
「原因?原因はアンタにあるに決まってるでしょう。俺たちは危うく殺されかけたんだ!誠意をもって対応してくれないとなぁ」
「誠意、じゃと?」
「そうですよ、寿さん。けれどなあ、人の命は何ものにも代えがたいのは周知の事実だ。ならば何でその代わりが務まると思いますか?」
「まさか、金だなんて言うんじゃなかろうな」
なにやら雲行きが怪しくなってきた。
「金で済むなら安いもんでしょう?これで俺らがここであった事実をまわりに伝えたらどうなりますかね。寿さんとこの信用もガタ落ちでしょう」
「風評被害で落ちるような評判なぞワシは掲げた覚えがないがの」
あくまでも社長は強気だ。けれど情報があっという間に拡散されるこの世の中だ、根も葉もない噂で廃業に追い込まれる会社だってある。それはこの寿不動産だって例外てはない。果たして、そのようなことが起こってしまったら、自分はどうなってしまうのだろう。職を失って路頭に迷ってしまうのか?
社長に詰め寄る湯布院さんの姿を絶望的な気持ちで社が眺めていると、なにやら考えているのか、華ちゃんが眉間にしわを寄せながら口を開いた。
「湯布院さんの部屋。カーテンレールが変にゆがんでたの、覚えてますか?」
そういえば彼女は、しきりに窓のあたりを気にしてたけれど。
「カーテンが何だっていうんだ、あれは落ちてきたガラスが当たっただけだろ」
「でも、シャンデリアとは離れた位置にある窓まで、ガラスが当たるものでしょうか」
確かにちぎれたソケットの真下、というよりはやや窓に近い位置にシャンデリアは落ちていたとは思ったけれど。
「そんなのは知らん、けれど実際当たったんだ、だからレールが壊れたんだろ」
「それと、気になったのは妙にボロボロになっていたシーツです。掛布団はそこまでひどくなかったのに、なぜだかシーツだけ破れていた」
「一番上に掛けてたからだろ」
「シーツをですか?」
へえ、と不思議なものを見るような目つきで華ちゃんが続ける。
「掛布団の上にシーツ?敷布団の上にじゃなくて?」
「上にかけたほうが暖かくなるってテレビで見たんだよ!」
それは初耳だ。社は思った。毛布を上に掛けると暖かいっていうのは聞いたことがあるけれど。
「それに、あのシャンデリア。まるで引きずり落としたみたいじゃありませんでした?ソケットも天井から外れちゃって」
「もろい天井がシャンデリアの重みに耐えられなかっただけなんだろ」
「でも社くん、これなら社くんも知ってるでしょ?一般的な天井の、吊り下げられる耐荷重って何キロくらい?」
「ええと……」
社はおぼろげな記憶を思い起こさせようと躍起になる。さっき馬虎さんが教えてくれたっけ。ええと……
「確か、十キロくらい?」
「大体そのくらいでしょう。佐倉さん、佐倉さんが用意してくれたシャンデリア、重さはどのくらいだったか覚えていますか?」
「さすがにホール用に用意したものは十キロ以上あるけれど。その為に天井の補強工事もしてもらったのよ。他の部屋のものは大体三キロから七キロくらい。確かに黄水晶の間のシャンデリアは重い方だけど、それでも六キロくらいがいいところよ。一番重い金剛石の間ので七キロだもの」
急に話を振られて、驚きながらも佐倉さんが答えてくれた。
「そんな重さで落ちちゃうなんて、よっぽどこの建物が欠陥工事なんだと思うけど」
そう言ってチラリと犬尾さんの方を見た。
「なんや、俺んのとこが手ぇ抜いたってゆうんか?けどな、ここの基礎工事はしっかりしたもんやったで。それこそ俺んとこの出る幕なんてないくらいにな」
佐倉さんの視線に、自分の会社が疑われたと思ったのだろう。犬尾さんが騒ぎ出した。
「なあ寿さん。アンタももちろん知っとるやろ。俺んとこが手ぇ付けたのはホールと内装くらいやろ」
「あ、ああ。事実他の部屋も馬虎君と宮守君に点検してもらったが、特に異常はなかったようじゃ」
「そうです。どこにも不備はなかった。けれど落ちるはずのないものが落ちてしまった。なぜだと思います?」
そこで意味ありげに華ちゃんが湯布院さんを見つめる。
「そ、そんなの知るか」
「でも華ちゃん、一体どうやってあんな高いとこにぶら下がってるものを落とすっていうんだよ」
「ええ、そうだろ寿さん」
「……ふん、すべては原因を特定してからの話じゃろ。現場検証して、こちらに非があるというならばそれは認めよう」
「認める?認めるって言いましたね寿さん?」
「だから、あくまでもそれはこちらに非がある場合においてじゃの」
「あるに決まってるじゃないか!現に俺たちは命の危機にさらされたんだ。これで認めないだなんて、なにを馬鹿なことを」
「まだ原因も分からないのに、早まったことを言うでない」
「原因?原因はアンタにあるに決まってるでしょう。俺たちは危うく殺されかけたんだ!誠意をもって対応してくれないとなぁ」
「誠意、じゃと?」
「そうですよ、寿さん。けれどなあ、人の命は何ものにも代えがたいのは周知の事実だ。ならば何でその代わりが務まると思いますか?」
「まさか、金だなんて言うんじゃなかろうな」
なにやら雲行きが怪しくなってきた。
「金で済むなら安いもんでしょう?これで俺らがここであった事実をまわりに伝えたらどうなりますかね。寿さんとこの信用もガタ落ちでしょう」
「風評被害で落ちるような評判なぞワシは掲げた覚えがないがの」
あくまでも社長は強気だ。けれど情報があっという間に拡散されるこの世の中だ、根も葉もない噂で廃業に追い込まれる会社だってある。それはこの寿不動産だって例外てはない。果たして、そのようなことが起こってしまったら、自分はどうなってしまうのだろう。職を失って路頭に迷ってしまうのか?
社長に詰め寄る湯布院さんの姿を絶望的な気持ちで社が眺めていると、なにやら考えているのか、華ちゃんが眉間にしわを寄せながら口を開いた。
「湯布院さんの部屋。カーテンレールが変にゆがんでたの、覚えてますか?」
そういえば彼女は、しきりに窓のあたりを気にしてたけれど。
「カーテンが何だっていうんだ、あれは落ちてきたガラスが当たっただけだろ」
「でも、シャンデリアとは離れた位置にある窓まで、ガラスが当たるものでしょうか」
確かにちぎれたソケットの真下、というよりはやや窓に近い位置にシャンデリアは落ちていたとは思ったけれど。
「そんなのは知らん、けれど実際当たったんだ、だからレールが壊れたんだろ」
「それと、気になったのは妙にボロボロになっていたシーツです。掛布団はそこまでひどくなかったのに、なぜだかシーツだけ破れていた」
「一番上に掛けてたからだろ」
「シーツをですか?」
へえ、と不思議なものを見るような目つきで華ちゃんが続ける。
「掛布団の上にシーツ?敷布団の上にじゃなくて?」
「上にかけたほうが暖かくなるってテレビで見たんだよ!」
それは初耳だ。社は思った。毛布を上に掛けると暖かいっていうのは聞いたことがあるけれど。
「それに、あのシャンデリア。まるで引きずり落としたみたいじゃありませんでした?ソケットも天井から外れちゃって」
「もろい天井がシャンデリアの重みに耐えられなかっただけなんだろ」
「でも社くん、これなら社くんも知ってるでしょ?一般的な天井の、吊り下げられる耐荷重って何キロくらい?」
「ええと……」
社はおぼろげな記憶を思い起こさせようと躍起になる。さっき馬虎さんが教えてくれたっけ。ええと……
「確か、十キロくらい?」
「大体そのくらいでしょう。佐倉さん、佐倉さんが用意してくれたシャンデリア、重さはどのくらいだったか覚えていますか?」
「さすがにホール用に用意したものは十キロ以上あるけれど。その為に天井の補強工事もしてもらったのよ。他の部屋のものは大体三キロから七キロくらい。確かに黄水晶の間のシャンデリアは重い方だけど、それでも六キロくらいがいいところよ。一番重い金剛石の間ので七キロだもの」
急に話を振られて、驚きながらも佐倉さんが答えてくれた。
「そんな重さで落ちちゃうなんて、よっぽどこの建物が欠陥工事なんだと思うけど」
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「なあ寿さん。アンタももちろん知っとるやろ。俺んとこが手ぇ付けたのはホールと内装くらいやろ」
「あ、ああ。事実他の部屋も馬虎君と宮守君に点検してもらったが、特に異常はなかったようじゃ」
「そうです。どこにも不備はなかった。けれど落ちるはずのないものが落ちてしまった。なぜだと思います?」
そこで意味ありげに華ちゃんが湯布院さんを見つめる。
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