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閉ざされた城16
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「社くんの言うとおり、ぶら下がったのよ」
とこともなげに華ちゃんは言うではないか。
「ぶら下がる?何が?」
「決まってるじゃない、湯布院さんよ」
「湯布院さんが?」
「そ。見ての通り、湯布院さんはすごく重そうでしょ?」
タプタプの腹を抱える湯布院さんは確かに重いだろうが、あまり本人を目の前にずけずけと言っていいようなセリフではないような気がする。と思っていたら案の定、湯布院さんがさらに怒りを増して怒鳴ってきた。
「重くて悪かったな!けどいくらなんでも俺がシャンデリアにぶら下がるなんてことできないだろ!大体、落ちてきたシャンデリアに潰されて大けがどころか下手したらほんとに死ぬぞ!」
「ええ、普通にぶら下がったらそうでしょう。けれどそこで、湯布院さんはあるものを使ったんです」
「あるもの?」
「そう、妙にゆがんだカーテンレール。シャンデリアに引っかけた紐を、カーテンレールを通して引っ張ったとしたら?」
ソケットの真下に落ちていないシャンデリア、歪んだレール。社はあの時の状況を思い浮かべ想像する。紐をシャンデリアにかけ、その紐を離れたカーテンレールに通し、それを体重をかけて引っ張る……。
ガシャン、と大きく揺れたシャンデリアが社の脳内で落ちた。
「確かに、それならシャンデリアの下敷きにならないかも」
「いやいやいや、一体あの部屋のどこに紐なんてあったんだ。そんなのなかっただろ?」
「紐……」
これはさすがに社に出さえ目星がついた。
「湯布院さん、シーツを紐代わりにしたんじゃないですか?」
「な、なにを……」
「だからあんなにシーツがボロボロだったんだ」
「あんな薄い布きれで何が出来るっていうんだ!」
「確かに薄い布ですが、それでもよじってやればそれなりの強度になる。ほら、こよりって知ってます?紙をねじると、強い紐になるんですよ」
チッチッチ、と華ちゃんが人差し指を振った。
「しかも部屋にあるベッドはセミダブルが豪華に二つ!」
信じられませんよね、と華ちゃんは付け加えたのち、
「二つのベッドのシーツを斜めによじれば、合わせて6メートルくらいにはなる。天井の高さが三メートルだとしても、例えばシーツの先に重りをつけて、机の上に登って投げれば引っかけるくらい出来るでしょう。シャンデリアからカーテンまでは五メートルほど。引っ張るためにつかめればいいだけですから、紐は六メートルで十分です。そうしてかけたシーツ紐を、椅子を使ってレールの上の方に引っかけて、そうして垂れたシーツの端を体重をかけて引っ張った」
と見事な推理を披露してくれた。
「ふん、けれどそんなことして何になるっていうんだ、それに証拠もないだろ、証拠も!」
「証拠は吹雪が止んで警察が来てさえくれれば見つかるでしょう。多分、レールに湯布院さんの指紋が付いているはず。普通そんなところ触りません。けれどそこから指紋が見つかったら……?」
「せやけど、なんで湯布院さんがそないなことするんねん」
「それは先ほどから言っている通り、寿社長に損害賠償を請求するためですよ。それに、犬尾さんや佐倉さん。あなたたちも共犯なんじゃないんですか?」
「きょ、共犯ですって?」
突如華ちゃんから疑いの矛先を向けられて、声を荒げたのは佐倉さんだった。
「冗談じゃない、なんで私がそんなことするのよ」
「そうや、俺らが自作自演したって証拠でもあるんかいな。ほな佐倉とこは確かに怪しいけども、俺のとこはなんでドリアンなんて落ちてたんや、自作自演でそないなことするもんか」
「私だってそんなことするメリットなんてないわよ。突然暖炉から火が上がったのよ!?」
「じゃあ、いったい誰がこんなことをしたっていうんです」
喚く二人に華ちゃんが睨みを利かせると、
「だから私は最初から言ってるじゃない、幽霊よ」
と佐倉さんは依然として犯人=幽霊説を揺るがない。
話が平行線を行ったり来たりしているだけで、結局犯人は特定できそうにもない。社は人知れずため息をつくしかできなかった。これ、僕は今晩はたして眠れるのだろうか。
そこにまさしく鶴の一声を放ったのは 鶴野さんだった。
「とりあえず、幽霊は置いておくにしても、ここにいる人間の誰かが怪しいことにはかわりないんですよね?」
「だから、湯布院さんが一番怪しいんです!」
おっとりと放たれた鶴野さんの言葉に華ちゃんが反論するものの、
「でも決定的な証拠は、結局吹雪が止まないと得られないんですよね?」
と返されてしまう。でも怪しいことはこの上ない、やはり犯人は湯布院さんだと社が加勢しようとしたところで、
「なら、定番ですけど。みんなで固まっていた方がよろしいのではないでしょうか」
と鶴野さんが提案するではないか。
とこともなげに華ちゃんは言うではないか。
「ぶら下がる?何が?」
「決まってるじゃない、湯布院さんよ」
「湯布院さんが?」
「そ。見ての通り、湯布院さんはすごく重そうでしょ?」
タプタプの腹を抱える湯布院さんは確かに重いだろうが、あまり本人を目の前にずけずけと言っていいようなセリフではないような気がする。と思っていたら案の定、湯布院さんがさらに怒りを増して怒鳴ってきた。
「重くて悪かったな!けどいくらなんでも俺がシャンデリアにぶら下がるなんてことできないだろ!大体、落ちてきたシャンデリアに潰されて大けがどころか下手したらほんとに死ぬぞ!」
「ええ、普通にぶら下がったらそうでしょう。けれどそこで、湯布院さんはあるものを使ったんです」
「あるもの?」
「そう、妙にゆがんだカーテンレール。シャンデリアに引っかけた紐を、カーテンレールを通して引っ張ったとしたら?」
ソケットの真下に落ちていないシャンデリア、歪んだレール。社はあの時の状況を思い浮かべ想像する。紐をシャンデリアにかけ、その紐を離れたカーテンレールに通し、それを体重をかけて引っ張る……。
ガシャン、と大きく揺れたシャンデリアが社の脳内で落ちた。
「確かに、それならシャンデリアの下敷きにならないかも」
「いやいやいや、一体あの部屋のどこに紐なんてあったんだ。そんなのなかっただろ?」
「紐……」
これはさすがに社に出さえ目星がついた。
「湯布院さん、シーツを紐代わりにしたんじゃないですか?」
「な、なにを……」
「だからあんなにシーツがボロボロだったんだ」
「あんな薄い布きれで何が出来るっていうんだ!」
「確かに薄い布ですが、それでもよじってやればそれなりの強度になる。ほら、こよりって知ってます?紙をねじると、強い紐になるんですよ」
チッチッチ、と華ちゃんが人差し指を振った。
「しかも部屋にあるベッドはセミダブルが豪華に二つ!」
信じられませんよね、と華ちゃんは付け加えたのち、
「二つのベッドのシーツを斜めによじれば、合わせて6メートルくらいにはなる。天井の高さが三メートルだとしても、例えばシーツの先に重りをつけて、机の上に登って投げれば引っかけるくらい出来るでしょう。シャンデリアからカーテンまでは五メートルほど。引っ張るためにつかめればいいだけですから、紐は六メートルで十分です。そうしてかけたシーツ紐を、椅子を使ってレールの上の方に引っかけて、そうして垂れたシーツの端を体重をかけて引っ張った」
と見事な推理を披露してくれた。
「ふん、けれどそんなことして何になるっていうんだ、それに証拠もないだろ、証拠も!」
「証拠は吹雪が止んで警察が来てさえくれれば見つかるでしょう。多分、レールに湯布院さんの指紋が付いているはず。普通そんなところ触りません。けれどそこから指紋が見つかったら……?」
「せやけど、なんで湯布院さんがそないなことするんねん」
「それは先ほどから言っている通り、寿社長に損害賠償を請求するためですよ。それに、犬尾さんや佐倉さん。あなたたちも共犯なんじゃないんですか?」
「きょ、共犯ですって?」
突如華ちゃんから疑いの矛先を向けられて、声を荒げたのは佐倉さんだった。
「冗談じゃない、なんで私がそんなことするのよ」
「そうや、俺らが自作自演したって証拠でもあるんかいな。ほな佐倉とこは確かに怪しいけども、俺のとこはなんでドリアンなんて落ちてたんや、自作自演でそないなことするもんか」
「私だってそんなことするメリットなんてないわよ。突然暖炉から火が上がったのよ!?」
「じゃあ、いったい誰がこんなことをしたっていうんです」
喚く二人に華ちゃんが睨みを利かせると、
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と佐倉さんは依然として犯人=幽霊説を揺るがない。
話が平行線を行ったり来たりしているだけで、結局犯人は特定できそうにもない。社は人知れずため息をつくしかできなかった。これ、僕は今晩はたして眠れるのだろうか。
そこにまさしく鶴の一声を放ったのは 鶴野さんだった。
「とりあえず、幽霊は置いておくにしても、ここにいる人間の誰かが怪しいことにはかわりないんですよね?」
「だから、湯布院さんが一番怪しいんです!」
おっとりと放たれた鶴野さんの言葉に華ちゃんが反論するものの、
「でも決定的な証拠は、結局吹雪が止まないと得られないんですよね?」
と返されてしまう。でも怪しいことはこの上ない、やはり犯人は湯布院さんだと社が加勢しようとしたところで、
「なら、定番ですけど。みんなで固まっていた方がよろしいのではないでしょうか」
と鶴野さんが提案するではないか。
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