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鈴鐘の血3
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「新聞紙はもともと隠すつもりだったが、早くに見つかってしまった?」
「ええ、お二人が馬虎さんが亡くなったのに気づいた時、犯人はトイレにいたんじゃないでしょうか。犯人には証拠を隠滅する時間が必要だった。けれどまさかホールから人が出てきて、しかも馬虎さんのお部屋に行くなんて思ってみなかったのでしょう。だから隠滅しきれずに残ってしまった」
「なるほど。てことは、あの新聞が重大な証拠ってことか?」
「そうなるかも」
鶴野さんの推理、というより状況の確認に目を輝かせたのは華ちゃんだった。
「きっとあれには犯人の指紋が残ってます、吹雪が止んで警察を呼べれば、犯人はすぐ捕まります!」
「でも吹雪が止んでからじゃ遅いんじゃないのか」
その華ちゃんの出鼻をくじいたのは修だった。
「まだ誰か殺すつもりなのかもしれない、現に包丁がもう一本なくなってるんだ。また誰か殺されてからじゃ遅いだろ」
「それはそうですけど」
「そういえば四十八願さん、あの新聞はこのホテルで取ってるものなんですか?」
気になって社は聞いた。社長からは経済新聞を毎日欠かさず読むようお小言をもらっている。あの社長なら、新聞くらい置きそうだが。
「いえ、こちらではそういったものは置かない方向で、とのことでしたので……」
そう四十八願さんが、ちらりと社長の方を見ながら返した。意外だ。
「まあの、普通ホテルなら置いてるだろうがの、せっかくこんな非現実的な場所に泊まってもらうんじゃ。ここは日常から離れてもらった方が楽しめるじゃろ?」
それにニュースなどスマホでも見れるしの、と寿社長なりの配慮があるらしい。
「じゃああの新聞は……あ」
そこで華ちゃんがなにかを思い出したらしい。
「湯布院さんの部屋に、新聞置いてありましたよね?」
そういえば、シャンデリアが落ちてきたとき、粉々のガラス片の下に置いてあった気がする。
「それがなんだって言うんだ、新聞くらい読むだろ」
「あら真面目だこと。そんなのわざわざ持ってきてるの?」
「お前だって持ってきてたじゃないか!」
「私が持ってきたのはただの情報誌よ、そんな堅苦しいのなんて読むわけないじゃない」
「新聞、なんてやつだったっけ」
血にまみれていたが、タイトルを拾うぐらいにはでかでかと書かれていた。
「ええと、株式新聞ってやつだったと思うけど」
「そんなの読むの、湯布院さんぐらいじゃないの。FXやるなら株に詳しくないと」
「そんなの何かの偶然だ、それか、誰かが俺を嵌めようと、俺の部屋から盗んだんだろ!」
「盗んだって」
「シャンデリアが落ちてめちゃくちゃになってから、あの部屋の鍵は掛けていないんだ。荷物だって会議室に運んだし、貴重品は常に身に着けているからな。誰にだって盗めるだろ。そう、お前にだって」
「そんなことしませんってば」
「それに仮に俺が犯人だとしてもだ、そんな、すぐに持ち主のわかるようなものを現場に残しておくもんか」
「でも鶴野さんの言うとおり、証拠の新聞をトイレに流すつもりだったら?それなら別に持ち主がわかろうがわかるまいが関係ないでしょ」
ずい、と華ちゃんが詰め寄る。それに押されてか、湯布院が後ずさり、後ろに置かれた椅子につまずいた。
「ふん、殺されかけた挙句に、今度は殺人犯に疑われるだなんてあんまりだ。こんなところ来るんじゃなかった」
盛大に愚痴を吐きながら、そのまま湯布院が椅子に腰掛ける。
「大体十年前だって俺は来たくなかったんだ」
「そう言えばなんだってお前さんが鈴鐘家に呼ばれたんじゃ?」
「寿さんとこと同じですよ、仕事がらみでね」
「あら、そうなの?お金の無心をしに来たって私は聞いてたけど」
目を細めて湯布院さんを見やるのは佐倉さんだった。「なんでも金雄氏を相手に、お金を借りようって目論んでたそうじゃない。今回だって結局、寿さんにお金を貸してほしくて来てるんでしょ」
「なんだと、それはお前たちだって同じだろ」
「違うわよ、私はインテリア関連で寿さんにお世話になってるし、誰が融資の話なんて持ちかけるもんですか」
「ふん、金が欲しいのは事実だ、けどそれでなんで俺があの使用人を殺すんだ」
皆から責め立てられ開き直ったのだろうか。椅子から勢いよく立ち上がると、湯布院さんが怒鳴りまじりの声で反論してきた。
「アイツと俺の間に何があったっていうんだ。なんで俺が鈴鐘家の元使用人を殺すんだ。え、理由を言ってみろよ」
「それは……」
怒鳴られ、勢いを失ったのは華ちゃんだ。言われてみれば、およそあの二人に関係性があるとは思えない。
「ええ、お二人が馬虎さんが亡くなったのに気づいた時、犯人はトイレにいたんじゃないでしょうか。犯人には証拠を隠滅する時間が必要だった。けれどまさかホールから人が出てきて、しかも馬虎さんのお部屋に行くなんて思ってみなかったのでしょう。だから隠滅しきれずに残ってしまった」
「なるほど。てことは、あの新聞が重大な証拠ってことか?」
「そうなるかも」
鶴野さんの推理、というより状況の確認に目を輝かせたのは華ちゃんだった。
「きっとあれには犯人の指紋が残ってます、吹雪が止んで警察を呼べれば、犯人はすぐ捕まります!」
「でも吹雪が止んでからじゃ遅いんじゃないのか」
その華ちゃんの出鼻をくじいたのは修だった。
「まだ誰か殺すつもりなのかもしれない、現に包丁がもう一本なくなってるんだ。また誰か殺されてからじゃ遅いだろ」
「それはそうですけど」
「そういえば四十八願さん、あの新聞はこのホテルで取ってるものなんですか?」
気になって社は聞いた。社長からは経済新聞を毎日欠かさず読むようお小言をもらっている。あの社長なら、新聞くらい置きそうだが。
「いえ、こちらではそういったものは置かない方向で、とのことでしたので……」
そう四十八願さんが、ちらりと社長の方を見ながら返した。意外だ。
「まあの、普通ホテルなら置いてるだろうがの、せっかくこんな非現実的な場所に泊まってもらうんじゃ。ここは日常から離れてもらった方が楽しめるじゃろ?」
それにニュースなどスマホでも見れるしの、と寿社長なりの配慮があるらしい。
「じゃああの新聞は……あ」
そこで華ちゃんがなにかを思い出したらしい。
「湯布院さんの部屋に、新聞置いてありましたよね?」
そういえば、シャンデリアが落ちてきたとき、粉々のガラス片の下に置いてあった気がする。
「それがなんだって言うんだ、新聞くらい読むだろ」
「あら真面目だこと。そんなのわざわざ持ってきてるの?」
「お前だって持ってきてたじゃないか!」
「私が持ってきたのはただの情報誌よ、そんな堅苦しいのなんて読むわけないじゃない」
「新聞、なんてやつだったっけ」
血にまみれていたが、タイトルを拾うぐらいにはでかでかと書かれていた。
「ええと、株式新聞ってやつだったと思うけど」
「そんなの読むの、湯布院さんぐらいじゃないの。FXやるなら株に詳しくないと」
「そんなの何かの偶然だ、それか、誰かが俺を嵌めようと、俺の部屋から盗んだんだろ!」
「盗んだって」
「シャンデリアが落ちてめちゃくちゃになってから、あの部屋の鍵は掛けていないんだ。荷物だって会議室に運んだし、貴重品は常に身に着けているからな。誰にだって盗めるだろ。そう、お前にだって」
「そんなことしませんってば」
「それに仮に俺が犯人だとしてもだ、そんな、すぐに持ち主のわかるようなものを現場に残しておくもんか」
「でも鶴野さんの言うとおり、証拠の新聞をトイレに流すつもりだったら?それなら別に持ち主がわかろうがわかるまいが関係ないでしょ」
ずい、と華ちゃんが詰め寄る。それに押されてか、湯布院が後ずさり、後ろに置かれた椅子につまずいた。
「ふん、殺されかけた挙句に、今度は殺人犯に疑われるだなんてあんまりだ。こんなところ来るんじゃなかった」
盛大に愚痴を吐きながら、そのまま湯布院が椅子に腰掛ける。
「大体十年前だって俺は来たくなかったんだ」
「そう言えばなんだってお前さんが鈴鐘家に呼ばれたんじゃ?」
「寿さんとこと同じですよ、仕事がらみでね」
「あら、そうなの?お金の無心をしに来たって私は聞いてたけど」
目を細めて湯布院さんを見やるのは佐倉さんだった。「なんでも金雄氏を相手に、お金を借りようって目論んでたそうじゃない。今回だって結局、寿さんにお金を貸してほしくて来てるんでしょ」
「なんだと、それはお前たちだって同じだろ」
「違うわよ、私はインテリア関連で寿さんにお世話になってるし、誰が融資の話なんて持ちかけるもんですか」
「ふん、金が欲しいのは事実だ、けどそれでなんで俺があの使用人を殺すんだ」
皆から責め立てられ開き直ったのだろうか。椅子から勢いよく立ち上がると、湯布院さんが怒鳴りまじりの声で反論してきた。
「アイツと俺の間に何があったっていうんだ。なんで俺が鈴鐘家の元使用人を殺すんだ。え、理由を言ってみろよ」
「それは……」
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