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カウントダウン5
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「ワシは茉緒君の様子を見に行ってくるよ。真珠の間には鶴野君と佐倉君もおるだろうしの、そうすることを伝えてくる」
「そう言えば、修はどうしたんですか?」
父親が死んでいるのだ。さぞかし辛い心境だろうに、と思って社が聞けば、
「本来ならば息子の修君が茉緒君に付き添ってやった方がいいんじゃろうがの、いくら母親だからって濡れた衣服の着替えを手伝ってもらうのもなんだっていうんで、修君には部屋で待機してもらっておるよ。ああ、一応四十八願君に付いてもらっているから大丈夫じゃろ」
とぬかりはないようだった。
「じゃあ華ちゃん、僕たちも移動の準備を……」
「その前に、誠一さんの部屋を調べられないかな」
「誠一さんの部屋を?」
「そ。万一、誠一さんが何者かによっておびき出されたって言うなら、犯人は誠一さんの部屋を訪れているはずよ。もしかしたら何か痕跡があるかも」
「そんなの残していくかなぁ」
「見てみないとわからないじゃない」
「でも、鍵がかかってるんじゃないの?」
「誠一さんのガウンのポケットには鍵なんて入ってなかったの」
「犯人が持って行ったんじゃないの?」
「そんな証拠になるようなもの持って行かないと思うんだけど。それより、犯人に呼び出されて、慌てて鍵も締めずに部屋を飛び出したのかもしれないじゃない」
社長と別れ、半ば華ちゃんに引きずられて紅玉の間を訪れると、まさかの華ちゃんの推理が当たっていたようで部屋には鍵がかかっていなかった。
「え?どうして?」
「ほらやっぱり。誠一さんは慌てて部屋を飛び出たのよ」
「でもなんで?」
「それは、あのパンフレットに何が書かれてるかわかれば一発で解決したのかもだけど」
あいにくそれの読解には時間がかかりそうだった。
意気揚々と華ちゃんと社が紅玉の間を開くと、そこではパチパチと暖炉の火が爆ぜていた。火も消さずに部屋を出ている。不用心この上ない。
「やっぱり、相当急いでたみたいだね。問題は、誰に呼び出されたか、だけど」
そう呟いて一通り部屋の中を見回すものの、
「結局手がかりはなしかぁ」
残念そうに華ちゃんがため息をつく。そしてそこで気が抜けたのか、一つ大きなあくびをした。ガサゴソと半纏のポケットからスマホを取り出し画面を覗き込むと、
「うわ、もう一時じゃん」とさらにもう一度あくびをした。
「とりあえず、これ以上何も起こらないように集まるってのは正解かもね。最初からそうしてれば、誠一さんだって死なずに済んだのかもしれないし」
けれどそれだけで回避できたようなことなのだろうか。社のなかの不安はどんどん膨れていくばかりだった。馬虎さんに次いで誠一さんまで。果たして殺戮の手は、皆で集まるという自衛だけで阻止できるものなのだろうか。あるいは、その手は自分や華ちゃんにだって伸びるかもしれないのに、とそこまで考えて社はふと気が付いた。
今のところ被害に遭っているのは、十年前の登場人物だけだ。
「そう言えば、この城のアルバム、結局ぜんぜん見れてないよね」
「ああ、確かに」
一度中身を見ようと持ち出したものの、萌音の出現に驚いてそのまま放り投げちゃったんだっけ。社は思い出す。それから数時間のうちに、二人も人が亡くなってしまった。
そう言えば萌音はあれからどうしたんだろう。馬虎さんの死を教えてくれた彼女。あれはどういうつもりだったんだろう。
「やっぱり、今回の事件は十年前の事件のせいで起こったんじゃないかな。亡くなった二人とも、過去の事件の関係者だし」
「まあ、皆十年前に顔を合わせてるし、そこで何かあったから、今こうして再会して、なにか昔の恨みとかが爆発したのかもしれないけど」
だとしたら寿社長はとんでもないことをしてくれたものだ。社長がそんなことを企てなければ、皆昔のことなど忘れて穏やかに生きていられたのかもしれないのに。
「茉緒さんはああ言ってたけど、やっぱり儀式ってのが怪しいと思う」
それは社も同感だった。警察にまで言わなかったのだ。茉緒さんが説明してくれたのがすべてではない気がする。
「多分これから先、単独行動もしづらくなると思うから。今のうちにアルバムを回収しておこう」
「手がかりが何かあればいいんだけど」
「そう言えば、修はどうしたんですか?」
父親が死んでいるのだ。さぞかし辛い心境だろうに、と思って社が聞けば、
「本来ならば息子の修君が茉緒君に付き添ってやった方がいいんじゃろうがの、いくら母親だからって濡れた衣服の着替えを手伝ってもらうのもなんだっていうんで、修君には部屋で待機してもらっておるよ。ああ、一応四十八願君に付いてもらっているから大丈夫じゃろ」
とぬかりはないようだった。
「じゃあ華ちゃん、僕たちも移動の準備を……」
「その前に、誠一さんの部屋を調べられないかな」
「誠一さんの部屋を?」
「そ。万一、誠一さんが何者かによっておびき出されたって言うなら、犯人は誠一さんの部屋を訪れているはずよ。もしかしたら何か痕跡があるかも」
「そんなの残していくかなぁ」
「見てみないとわからないじゃない」
「でも、鍵がかかってるんじゃないの?」
「誠一さんのガウンのポケットには鍵なんて入ってなかったの」
「犯人が持って行ったんじゃないの?」
「そんな証拠になるようなもの持って行かないと思うんだけど。それより、犯人に呼び出されて、慌てて鍵も締めずに部屋を飛び出したのかもしれないじゃない」
社長と別れ、半ば華ちゃんに引きずられて紅玉の間を訪れると、まさかの華ちゃんの推理が当たっていたようで部屋には鍵がかかっていなかった。
「え?どうして?」
「ほらやっぱり。誠一さんは慌てて部屋を飛び出たのよ」
「でもなんで?」
「それは、あのパンフレットに何が書かれてるかわかれば一発で解決したのかもだけど」
あいにくそれの読解には時間がかかりそうだった。
意気揚々と華ちゃんと社が紅玉の間を開くと、そこではパチパチと暖炉の火が爆ぜていた。火も消さずに部屋を出ている。不用心この上ない。
「やっぱり、相当急いでたみたいだね。問題は、誰に呼び出されたか、だけど」
そう呟いて一通り部屋の中を見回すものの、
「結局手がかりはなしかぁ」
残念そうに華ちゃんがため息をつく。そしてそこで気が抜けたのか、一つ大きなあくびをした。ガサゴソと半纏のポケットからスマホを取り出し画面を覗き込むと、
「うわ、もう一時じゃん」とさらにもう一度あくびをした。
「とりあえず、これ以上何も起こらないように集まるってのは正解かもね。最初からそうしてれば、誠一さんだって死なずに済んだのかもしれないし」
けれどそれだけで回避できたようなことなのだろうか。社のなかの不安はどんどん膨れていくばかりだった。馬虎さんに次いで誠一さんまで。果たして殺戮の手は、皆で集まるという自衛だけで阻止できるものなのだろうか。あるいは、その手は自分や華ちゃんにだって伸びるかもしれないのに、とそこまで考えて社はふと気が付いた。
今のところ被害に遭っているのは、十年前の登場人物だけだ。
「そう言えば、この城のアルバム、結局ぜんぜん見れてないよね」
「ああ、確かに」
一度中身を見ようと持ち出したものの、萌音の出現に驚いてそのまま放り投げちゃったんだっけ。社は思い出す。それから数時間のうちに、二人も人が亡くなってしまった。
そう言えば萌音はあれからどうしたんだろう。馬虎さんの死を教えてくれた彼女。あれはどういうつもりだったんだろう。
「やっぱり、今回の事件は十年前の事件のせいで起こったんじゃないかな。亡くなった二人とも、過去の事件の関係者だし」
「まあ、皆十年前に顔を合わせてるし、そこで何かあったから、今こうして再会して、なにか昔の恨みとかが爆発したのかもしれないけど」
だとしたら寿社長はとんでもないことをしてくれたものだ。社長がそんなことを企てなければ、皆昔のことなど忘れて穏やかに生きていられたのかもしれないのに。
「茉緒さんはああ言ってたけど、やっぱり儀式ってのが怪しいと思う」
それは社も同感だった。警察にまで言わなかったのだ。茉緒さんが説明してくれたのがすべてではない気がする。
「多分これから先、単独行動もしづらくなると思うから。今のうちにアルバムを回収しておこう」
「手がかりが何かあればいいんだけど」
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