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「……寿社長の言ってることが本当なら、萌音ちゃんは優しくて、かわいそうな事故の被害者なんだよね?」
「ああ。でもあの幽霊、最初は見た目以外は怖くないって思ったんだけど、時々こう……良くない感じが凄いするんだ」
それは怨念だとか負のオーラに近いのだが、そもそもこの世に残っている幽霊なんて負のオーラにまみれているのがデフォルトだ。
ならば萌音の幽霊だってそうであっておかしくないのだけれど、そのオーラが弱い時と異様に強いときとがあって、まるで別人(と幽霊に言うのが正しいかはわからないが)のような印象さえ受けるのである。
「今のが良くないバージョン?」
「うん、なんか混乱してるみたいだった」
「事件のこととか思い出してるのかな」
死んだ後も昔のこと覚えていられるかなぁとつぶやきつつ、華ちゃんは拾った写真を熱心に眺めていた。幼い女の子の姿や、壊れる前の鏡張りの天井の他に、事故後のぐちゃぐちゃなホールや天井の姿もそこには映っていた。
「やっぱり幽霊の証言じゃ当てにならないよな」
「でもさ、さっきバチバチって音がして天井が落ちてきたって言ってたじゃない?」
「あ、ああ」
「事件当夜、停電があったって言ってたじゃない」
確か佐倉さんもそう言ってたし、と華ちゃんが拾った写真のなかから一枚見せてくれた。
「ほらこれ。ホール近くの電柱が倒れてる。電線も切れてるみたい。これのせいで停電したんだろうね」
傾いた電柱と、垂れた電線。ホールから一番近い、正面から見て左側にある電柱がぐちゃぐちゃになっている。小さくて良くわからないけれど、電柱近くの雪の上にはいろいろなものが落ちていた。電柱の部品なのだろうか、銀色の棒状のものや、衝撃に巻き込まれた木の枝などが散乱している。
「そりゃそうだろ、今回だって強風で煽られた木の枝が電線に当たってショートしたんだ。まったく、社長ももうちょっとそこんとこ考えて欲しかったよな、電線を地下に通すとかさ」
「この停電と事件、なにか関係ないかな」
わざわざお父さんが残した写真だもん、と華ちゃんは一心にそれを見つめている。
「でも結城刑事以外の警察は写真に残すものではないって判断したから、捜査資料に残ってないんだろ?電柱の写真。なら関係ないんじゃないかな。ただの偶然だろ」
「そうかなぁ」
あっさりと社が返すも、けれど華ちゃんはなんだか引っ掛かっているようでしきりに首を傾げている。
「それより、アルバム回収しに来たのに。こんなに散らかしやがって萌音のやつ」
文句を言いながら社は散らばった写真を回収する。そこへ掛けられる声があった。
「なに散らかして遊んでるんだ」
「うわっ」
急に声を掛けられ、社はせっかく集めた写真をばらまいてしまった。
「修さん?」
「人がまた一人亡くなったってのに、ずいぶん呑気なもんだな」
父親が亡くなったのだ。その気持ちは分からなくはない。けれど腕を組み扉の先に仁王立ちする姿は、その姿とあいまってヤクザじみていて怖い。
「別に、遊んでたんじゃなくて。そのこれは萌音がやったんです、急に騒ぎ出して散々散らかして消えたんだ」
「まだ萌音の幽霊が出るだとかそんなこと言ってるのか」
「でも本当なんです。私には見えないけど、社くんには見えるんです。それに急に風が吹いてきたのは私も感じました。もう髪の毛ぐちゃぐちゃ」
「……そうか、萌音がいたのか」
なぜ自分の言う事は信じないのに、華ちゃんの言う事は素直に信じるのだろう。
「萌音が言ってましたよ、『骨を埋めよ、そして更なる繁栄を』。その言葉の後に、バチバチって音がして天井が落ちてきたって。これ、合ってますか?修さん。あなたもその場にいたんでしょ?」
「なぜその言葉を知っている?」
「だから、萌音が言ってたんです」
「……ふん、そんな恰好までしだしたってことは、本当に本物だったんだな、お前」
サングラスの奥から全身を舐めまわすように見られた気がして社は気持ちが悪くなる。僕だって好きでこんな格好をしてるんじゃないんだ、これは不可抗力なんだ!
「それより、骨を埋めるってどういうことなんですか?すごく不穏な感じしかしないんですけど」
「鈴鐘家の娘は一生この城に囚われて死んでいくのさ。ここで一族の繁栄を祈る。それが跡継ぎの娘の役割だ。死ぬまでな」
「嘘だ、何か知ってるんだろ?」
「ああ。でもあの幽霊、最初は見た目以外は怖くないって思ったんだけど、時々こう……良くない感じが凄いするんだ」
それは怨念だとか負のオーラに近いのだが、そもそもこの世に残っている幽霊なんて負のオーラにまみれているのがデフォルトだ。
ならば萌音の幽霊だってそうであっておかしくないのだけれど、そのオーラが弱い時と異様に強いときとがあって、まるで別人(と幽霊に言うのが正しいかはわからないが)のような印象さえ受けるのである。
「今のが良くないバージョン?」
「うん、なんか混乱してるみたいだった」
「事件のこととか思い出してるのかな」
死んだ後も昔のこと覚えていられるかなぁとつぶやきつつ、華ちゃんは拾った写真を熱心に眺めていた。幼い女の子の姿や、壊れる前の鏡張りの天井の他に、事故後のぐちゃぐちゃなホールや天井の姿もそこには映っていた。
「やっぱり幽霊の証言じゃ当てにならないよな」
「でもさ、さっきバチバチって音がして天井が落ちてきたって言ってたじゃない?」
「あ、ああ」
「事件当夜、停電があったって言ってたじゃない」
確か佐倉さんもそう言ってたし、と華ちゃんが拾った写真のなかから一枚見せてくれた。
「ほらこれ。ホール近くの電柱が倒れてる。電線も切れてるみたい。これのせいで停電したんだろうね」
傾いた電柱と、垂れた電線。ホールから一番近い、正面から見て左側にある電柱がぐちゃぐちゃになっている。小さくて良くわからないけれど、電柱近くの雪の上にはいろいろなものが落ちていた。電柱の部品なのだろうか、銀色の棒状のものや、衝撃に巻き込まれた木の枝などが散乱している。
「そりゃそうだろ、今回だって強風で煽られた木の枝が電線に当たってショートしたんだ。まったく、社長ももうちょっとそこんとこ考えて欲しかったよな、電線を地下に通すとかさ」
「この停電と事件、なにか関係ないかな」
わざわざお父さんが残した写真だもん、と華ちゃんは一心にそれを見つめている。
「でも結城刑事以外の警察は写真に残すものではないって判断したから、捜査資料に残ってないんだろ?電柱の写真。なら関係ないんじゃないかな。ただの偶然だろ」
「そうかなぁ」
あっさりと社が返すも、けれど華ちゃんはなんだか引っ掛かっているようでしきりに首を傾げている。
「それより、アルバム回収しに来たのに。こんなに散らかしやがって萌音のやつ」
文句を言いながら社は散らばった写真を回収する。そこへ掛けられる声があった。
「なに散らかして遊んでるんだ」
「うわっ」
急に声を掛けられ、社はせっかく集めた写真をばらまいてしまった。
「修さん?」
「人がまた一人亡くなったってのに、ずいぶん呑気なもんだな」
父親が亡くなったのだ。その気持ちは分からなくはない。けれど腕を組み扉の先に仁王立ちする姿は、その姿とあいまってヤクザじみていて怖い。
「別に、遊んでたんじゃなくて。そのこれは萌音がやったんです、急に騒ぎ出して散々散らかして消えたんだ」
「まだ萌音の幽霊が出るだとかそんなこと言ってるのか」
「でも本当なんです。私には見えないけど、社くんには見えるんです。それに急に風が吹いてきたのは私も感じました。もう髪の毛ぐちゃぐちゃ」
「……そうか、萌音がいたのか」
なぜ自分の言う事は信じないのに、華ちゃんの言う事は素直に信じるのだろう。
「萌音が言ってましたよ、『骨を埋めよ、そして更なる繁栄を』。その言葉の後に、バチバチって音がして天井が落ちてきたって。これ、合ってますか?修さん。あなたもその場にいたんでしょ?」
「なぜその言葉を知っている?」
「だから、萌音が言ってたんです」
「……ふん、そんな恰好までしだしたってことは、本当に本物だったんだな、お前」
サングラスの奥から全身を舐めまわすように見られた気がして社は気持ちが悪くなる。僕だって好きでこんな格好をしてるんじゃないんだ、これは不可抗力なんだ!
「それより、骨を埋めるってどういうことなんですか?すごく不穏な感じしかしないんですけど」
「鈴鐘家の娘は一生この城に囚われて死んでいくのさ。ここで一族の繁栄を祈る。それが跡継ぎの娘の役割だ。死ぬまでな」
「嘘だ、何か知ってるんだろ?」
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