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迫る社に、やれやれと言ったように修が両手を広げた。
「知ってるか?この城のモチーフになったベルベル城は、最初こそマヨルカ王の居城として作られたんだが、その後十八世紀から二十世紀にかけて刑務所として使われていたんだ」
「刑務所?」
「ああ。この城が建てられたのは明治時代。十九世紀だ。つまり当時の鈴鐘家の当主は、刑務所を真似てこれを作ったってことになる」
「それはつまり、鈴鐘家の娘を閉じ込めておくための刑務所を作った、ってことなのか」
「そういうことだ」
だが娘を閉じ込めるためだけに、わざわざ刑務所を真似てこんなものを作るだろうか。そもそもなぜ娘をこの城に捉えておかなければならないのか。それだけじゃないはずだ。怪しい、とばかりに社が食いつくと、
「鈴鐘家のしきたりと天井が落ちてきたのは直接関係がない。それよりもあれが事故でないなら、誰がどうやったのかを解明するほうが先だ。でないとお前の首が文字通り飛ぶんだろ?」
とはぐらかされてしまった。
「で、これだけ散らかしてなにか手がかりはあったのか?」
「これ。これが事故直後の写真みたいなんですけど」
華ちゃんが壊れる前の天井の写真と、事故後の写真とを修に差し出した。比較してみると、案外鏡張りの天井の上、とんがり帽子の部分には空間があるようだった。
「この、事故直後の写真はどこから?」
「アルバムの中に、。私の父が刑事なんですけど、一部を社長に渡してたみたいなんです」
「刑事?ああ、お嬢さんも刑事なんだったっけ?」
「ええ。手帳忘れちゃったんで信じてもらえないかもですけど」
「あの時の刑事か、もしかして、結城刑事のお嬢さん?」
「そうです!よく覚えてましたね」
「まあ、しつこかったからな」
すみません、と華ちゃんは修に小声で謝ると、
「ホールの上の方って、他の部分より出っ張ってるんですね」
と話をはぐらかした。
寿社長が作ったホテルのパンフレットの表紙には城の外観写真が載っている。同じく散らばったそれと見比べ、社は理解した。
「ここ、とんがってる屋根の部分に空洞があるんだね」
帽子の部分が、客室のあるパイナップル型の建物部分より一段とびぬけている。
「でもこんなにスペースがあるなら、わざわざ鏡で天井張らなくても、今みたいにシャンデリア吊るす方がきれいな気もするけれど」
そう言って暗いホール内を見上げる。非常灯しか付いていないのでうっすらとしかシャンデリアは見えない。
「あとあの辺。今はこれ何も見えないけど、屋根に小さな窓が付いてるんですね。換気用かな」
そう言えば、シャンデリアに隠れてエアコンが設置されていて、さらにその上に小さな窓が何個か並んでいたような気がする。昼間に見たホールの景色を社は思い起こした。
「でもここ、なんだかこの窓壊れてる気がするんです」
事故直後の城外観の写真を社と修に見せながら華ちゃんが言及した。
「ほら、ここ。落下のショックで割れたのかな」
よく見ればとんがり帽子にもうけられた窓が割れているような気もしたが、疲れと眠気で霞む社の目では判別できなかった。
「うーん、誰かが意図的に天井を壊すなんてねぇ。ホール内から天井を銃で撃てば落ちてきそうだけど」
けれどそんなことしたらホール内にいる犯人の身も危ない。それに、現場には拳銃などなかったという。
「じゃあ、手りゅう弾を天井に放り投げたとか」
「誰がどこで手に入れてくるのよ、手りゅう弾なんて」
まあそれもそうだろう。そもそもそんな自殺行為をする意味も分からない。
「やっぱりそう簡単にはわからなくて」
はあ、と華ちゃんがため息をついた。けれどそれ以上に深く息を吐いたのは社だった。
「どうしよう、解明できないとほんとに僕殺されちゃうかも」
「萌音にそんな人を呪い殺すようなことをされてたまるか。お前も諦めている暇があったら考えろ。もしあれを人為的に落とすなら、なにか強い衝撃を天井に与える必要がある」
「だから考えたじゃないか。拳銃で撃ったらって。結局だめだったけど」
「じゃあ、これは?事故当夜、電柱が倒れてほら、電線が切れちゃってる。このせいで停電したみたいなんですけど」
華ちゃんが先ほど社に見せたのと同じ写真を修に差し出した。傾いた電柱と垂れた電線。雪の上に落ちた銀色の棒に木の枝。
だからそれは関係ないだろ、と社が口を開こうとしたところで、修が「ああ、わかった」とこともなげに言うではないか。
「わかったって、何を?」
「どうやって天井を落としたかの方法だよ」
「は?」
「知ってるか?この城のモチーフになったベルベル城は、最初こそマヨルカ王の居城として作られたんだが、その後十八世紀から二十世紀にかけて刑務所として使われていたんだ」
「刑務所?」
「ああ。この城が建てられたのは明治時代。十九世紀だ。つまり当時の鈴鐘家の当主は、刑務所を真似てこれを作ったってことになる」
「それはつまり、鈴鐘家の娘を閉じ込めておくための刑務所を作った、ってことなのか」
「そういうことだ」
だが娘を閉じ込めるためだけに、わざわざ刑務所を真似てこんなものを作るだろうか。そもそもなぜ娘をこの城に捉えておかなければならないのか。それだけじゃないはずだ。怪しい、とばかりに社が食いつくと、
「鈴鐘家のしきたりと天井が落ちてきたのは直接関係がない。それよりもあれが事故でないなら、誰がどうやったのかを解明するほうが先だ。でないとお前の首が文字通り飛ぶんだろ?」
とはぐらかされてしまった。
「で、これだけ散らかしてなにか手がかりはあったのか?」
「これ。これが事故直後の写真みたいなんですけど」
華ちゃんが壊れる前の天井の写真と、事故後の写真とを修に差し出した。比較してみると、案外鏡張りの天井の上、とんがり帽子の部分には空間があるようだった。
「この、事故直後の写真はどこから?」
「アルバムの中に、。私の父が刑事なんですけど、一部を社長に渡してたみたいなんです」
「刑事?ああ、お嬢さんも刑事なんだったっけ?」
「ええ。手帳忘れちゃったんで信じてもらえないかもですけど」
「あの時の刑事か、もしかして、結城刑事のお嬢さん?」
「そうです!よく覚えてましたね」
「まあ、しつこかったからな」
すみません、と華ちゃんは修に小声で謝ると、
「ホールの上の方って、他の部分より出っ張ってるんですね」
と話をはぐらかした。
寿社長が作ったホテルのパンフレットの表紙には城の外観写真が載っている。同じく散らばったそれと見比べ、社は理解した。
「ここ、とんがってる屋根の部分に空洞があるんだね」
帽子の部分が、客室のあるパイナップル型の建物部分より一段とびぬけている。
「でもこんなにスペースがあるなら、わざわざ鏡で天井張らなくても、今みたいにシャンデリア吊るす方がきれいな気もするけれど」
そう言って暗いホール内を見上げる。非常灯しか付いていないのでうっすらとしかシャンデリアは見えない。
「あとあの辺。今はこれ何も見えないけど、屋根に小さな窓が付いてるんですね。換気用かな」
そう言えば、シャンデリアに隠れてエアコンが設置されていて、さらにその上に小さな窓が何個か並んでいたような気がする。昼間に見たホールの景色を社は思い起こした。
「でもここ、なんだかこの窓壊れてる気がするんです」
事故直後の城外観の写真を社と修に見せながら華ちゃんが言及した。
「ほら、ここ。落下のショックで割れたのかな」
よく見ればとんがり帽子にもうけられた窓が割れているような気もしたが、疲れと眠気で霞む社の目では判別できなかった。
「うーん、誰かが意図的に天井を壊すなんてねぇ。ホール内から天井を銃で撃てば落ちてきそうだけど」
けれどそんなことしたらホール内にいる犯人の身も危ない。それに、現場には拳銃などなかったという。
「じゃあ、手りゅう弾を天井に放り投げたとか」
「誰がどこで手に入れてくるのよ、手りゅう弾なんて」
まあそれもそうだろう。そもそもそんな自殺行為をする意味も分からない。
「やっぱりそう簡単にはわからなくて」
はあ、と華ちゃんがため息をついた。けれどそれ以上に深く息を吐いたのは社だった。
「どうしよう、解明できないとほんとに僕殺されちゃうかも」
「萌音にそんな人を呪い殺すようなことをされてたまるか。お前も諦めている暇があったら考えろ。もしあれを人為的に落とすなら、なにか強い衝撃を天井に与える必要がある」
「だから考えたじゃないか。拳銃で撃ったらって。結局だめだったけど」
「じゃあ、これは?事故当夜、電柱が倒れてほら、電線が切れちゃってる。このせいで停電したみたいなんですけど」
華ちゃんが先ほど社に見せたのと同じ写真を修に差し出した。傾いた電柱と垂れた電線。雪の上に落ちた銀色の棒に木の枝。
だからそれは関係ないだろ、と社が口を開こうとしたところで、修が「ああ、わかった」とこともなげに言うではないか。
「わかったって、何を?」
「どうやって天井を落としたかの方法だよ」
「は?」
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