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人食い8
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「でも、なんで茉緒さんが、湯布院さんを」
「さんざん強請られてて参ってたみたいね。それに馬虎を殺したのは湯布院だと信じてたみたい。だから次は自分も殺されるんじゃないかって思ってビクビクしてたみたいよ。まあ、まさか殺すなんて私も思っても見なかったけれど」
では、茉緒さんがレストラン地下の厨房から包丁を一本盗んだのか。そして金を払うふりをして、部屋にこもった湯布院のもとを訪れる。湯布院は扉の蝶番を外しバリケードを崩し、茉緒を部屋に招き入れた。そこで茉緒が湯布院を殺害し、廊下に出たところを佐倉に見つかった。そして、我に返った茉緒は佐倉に泣きついた……。男子トイレで茉緒さんが手を洗ったのは、恐らく佐倉の指示だったのだろう。犯人は男だと思わせるために。
二人で協力すれば、そこまで時間もかからない。そして一度湯布院が部屋から出ていないよう工作をしたのち、みなが寝静まった頃を見計らって二人で湯布院が自殺をしたかのよう見せかける工作をした。作業を二回に分ければ、それほど時間もかからない。
「でも誠一が死んだときのあの茉緒の顔!まさか夫が殺されるだなんて夢にも思わなかったでしょうね」
高らかに笑う佐倉を見て、社はあの時の状況を思い出していた。あの時茉緒さんは言っていた、『この人は何もしていないのに、だって犯人は……』と。だって犯人は、私が殺したのに。その言葉が続くはずだったのではないか。
「おかげで私は、憎き鈴鐘家の最後の一人をこれから殺すことが出来る。ふふ、私がピンピンしてるなんて驚いたでしょ?けど、おかげで一本凶器が足りなくなって困ったわ。まさか茉緒が使っちゃうだなんて思わないじゃない」
「じゃあ、その包丁は……」
鶴野さんがおずおずと切り出した。佐倉さんの手に光る、既に血を浴びた包丁。
「仕方がないから、馬虎に刺したのを引き抜いてきたの。私だってなにも元々、人を殺すためにここに来たんじゃなかったんだもの」
佐倉さんが言った通り、あらかじめ細かく計画を立てて行った殺人ではなかったのだ。それもそうだ、そもそも吹雪で運よく閉じ込められるとも限らないのだから。けれど佐倉さんは言っていた、天も味方したのだと。そこで外界との連絡手段を絶って、鈴鐘家を皆殺しにしようとした――。
「それにしても湯布院のやつ。犬尾を殺さないようドリアンまで一生懸命仕込んじゃって。小心者のくせに余計なことするからいけないのよ。そう、知ってる?あの人、十年前も意地汚く地下の厨房にもぐりこんで、やっぱりドリアン盗んだのよ。その時に見てしまったみたい、鈴鐘家の儀式を」
「湯布院さんが、ギシキを目撃してた?」
「じゃなきゃこんな細かく知ってるはずがないもの。儀式が始まる前、湯布院は城内を物色してまわっていた。さらには厨房にまでもぐりこんで、いろいろ漁っていたみたい。けれど儀式が始まってしまい出るに出られず厨房に身を潜めていた。そこで、彼は儀式の全貌を盗み聞いてしまう。人を食べる儀式を!」
不自然な場所にあるホール下の厨房。狭いわりに、人ひとり横になれるような調理台が置かれ……。ああ、あの厨房は、ヒトを調理するために設置されたのか。
「けれどそこで天井が落ちてきてホールは大混乱、その混乱に乗じて逃げ出したが、慌ててたから盗んだドリアンを落としてしまった」
「だから、事件直後のホールの前にドリアンが落ちてたのね」
「そ。わざわざ犬尾を助けるのにドリアンを使ったのは、鈴鐘家の人間に『儀式の詳細を俺は見た』ってアピールするためだったみたいよ。結局、誰も強請れなかったみたいだけど」
「けど、夜食で食べるにはドリアンはちょっと臭うけど」
「転売するつもりやったんやないか?あれ、なんや高いんやろ」
確かに金に飢えている湯布院さんなら、それくらいやりそうだ。部屋にあったブラックオパールのマスターキーも、そのときの混乱に乗じて盗み出したのだろう。
「それに、湯布院は私も儀式について知っていることを感づいていた。十年前の事件も私がやったんじゃないかって疑ってたみたい」
「十年前の事件も、佐倉さんが?」
「そう。その男が言った通り。けれどあの時はまさか鈴鐘家がここまでだとは思っていなかった。けれど八重がここで殺されたのは間違いない。警察も本腰をいれて調べてくれなかったわ。ただの失踪だと思われて。けれどそんなはずがない、私は八重の足取りを追った。そうするとどうやってもこの城で途絶えるの。ああ、彼はここで殺されたんだ、鈴鐘家の人間によって亡き者にされたのだと」
「だから一族全部根絶やしにしようって?あんまりじゃないか」
「そのときは私もそう思ったわ。けれどそうするほかなかった。でも今となってはそうした自分を褒めてやりたいくらいだわ。まさか、人を殺すに飽き足らず、その肉を食うだなんて。しかも八重は身代わりに食われたのよ!その事実を湯布院の資料から知って愕然としたわ。そして、私にはまだ殺すべき人間がいることを知った」
「それが……馬虎さん?」
「ええ。本来八重ではなく、あの時食われているべきだった人間と、それを良しとした鈴鐘家の人間全員よ」
「でも、なんで馬虎さんは食われていなかったの?」
いくら家を一度出、名を変えたとしても馬虎さんは分家の息子には違いない。本来なら彼は、美緒に食われていなければならなかったはずだ。
「私の恋人は、あの男の代わりに殺され、その身を切り裂かれ食われた。本来分家の息子を食わなければならない美緒が、あろうことか食うべき対象の分家の息子と恋仲に落ちてしまったばかりに」
「なんだって?」
「じゃあ、杏里、お前と萌音は……」
そこまで沈黙していた杏里が口を開いた。
「さんざん強請られてて参ってたみたいね。それに馬虎を殺したのは湯布院だと信じてたみたい。だから次は自分も殺されるんじゃないかって思ってビクビクしてたみたいよ。まあ、まさか殺すなんて私も思っても見なかったけれど」
では、茉緒さんがレストラン地下の厨房から包丁を一本盗んだのか。そして金を払うふりをして、部屋にこもった湯布院のもとを訪れる。湯布院は扉の蝶番を外しバリケードを崩し、茉緒を部屋に招き入れた。そこで茉緒が湯布院を殺害し、廊下に出たところを佐倉に見つかった。そして、我に返った茉緒は佐倉に泣きついた……。男子トイレで茉緒さんが手を洗ったのは、恐らく佐倉の指示だったのだろう。犯人は男だと思わせるために。
二人で協力すれば、そこまで時間もかからない。そして一度湯布院が部屋から出ていないよう工作をしたのち、みなが寝静まった頃を見計らって二人で湯布院が自殺をしたかのよう見せかける工作をした。作業を二回に分ければ、それほど時間もかからない。
「でも誠一が死んだときのあの茉緒の顔!まさか夫が殺されるだなんて夢にも思わなかったでしょうね」
高らかに笑う佐倉を見て、社はあの時の状況を思い出していた。あの時茉緒さんは言っていた、『この人は何もしていないのに、だって犯人は……』と。だって犯人は、私が殺したのに。その言葉が続くはずだったのではないか。
「おかげで私は、憎き鈴鐘家の最後の一人をこれから殺すことが出来る。ふふ、私がピンピンしてるなんて驚いたでしょ?けど、おかげで一本凶器が足りなくなって困ったわ。まさか茉緒が使っちゃうだなんて思わないじゃない」
「じゃあ、その包丁は……」
鶴野さんがおずおずと切り出した。佐倉さんの手に光る、既に血を浴びた包丁。
「仕方がないから、馬虎に刺したのを引き抜いてきたの。私だってなにも元々、人を殺すためにここに来たんじゃなかったんだもの」
佐倉さんが言った通り、あらかじめ細かく計画を立てて行った殺人ではなかったのだ。それもそうだ、そもそも吹雪で運よく閉じ込められるとも限らないのだから。けれど佐倉さんは言っていた、天も味方したのだと。そこで外界との連絡手段を絶って、鈴鐘家を皆殺しにしようとした――。
「それにしても湯布院のやつ。犬尾を殺さないようドリアンまで一生懸命仕込んじゃって。小心者のくせに余計なことするからいけないのよ。そう、知ってる?あの人、十年前も意地汚く地下の厨房にもぐりこんで、やっぱりドリアン盗んだのよ。その時に見てしまったみたい、鈴鐘家の儀式を」
「湯布院さんが、ギシキを目撃してた?」
「じゃなきゃこんな細かく知ってるはずがないもの。儀式が始まる前、湯布院は城内を物色してまわっていた。さらには厨房にまでもぐりこんで、いろいろ漁っていたみたい。けれど儀式が始まってしまい出るに出られず厨房に身を潜めていた。そこで、彼は儀式の全貌を盗み聞いてしまう。人を食べる儀式を!」
不自然な場所にあるホール下の厨房。狭いわりに、人ひとり横になれるような調理台が置かれ……。ああ、あの厨房は、ヒトを調理するために設置されたのか。
「けれどそこで天井が落ちてきてホールは大混乱、その混乱に乗じて逃げ出したが、慌ててたから盗んだドリアンを落としてしまった」
「だから、事件直後のホールの前にドリアンが落ちてたのね」
「そ。わざわざ犬尾を助けるのにドリアンを使ったのは、鈴鐘家の人間に『儀式の詳細を俺は見た』ってアピールするためだったみたいよ。結局、誰も強請れなかったみたいだけど」
「けど、夜食で食べるにはドリアンはちょっと臭うけど」
「転売するつもりやったんやないか?あれ、なんや高いんやろ」
確かに金に飢えている湯布院さんなら、それくらいやりそうだ。部屋にあったブラックオパールのマスターキーも、そのときの混乱に乗じて盗み出したのだろう。
「それに、湯布院は私も儀式について知っていることを感づいていた。十年前の事件も私がやったんじゃないかって疑ってたみたい」
「十年前の事件も、佐倉さんが?」
「そう。その男が言った通り。けれどあの時はまさか鈴鐘家がここまでだとは思っていなかった。けれど八重がここで殺されたのは間違いない。警察も本腰をいれて調べてくれなかったわ。ただの失踪だと思われて。けれどそんなはずがない、私は八重の足取りを追った。そうするとどうやってもこの城で途絶えるの。ああ、彼はここで殺されたんだ、鈴鐘家の人間によって亡き者にされたのだと」
「だから一族全部根絶やしにしようって?あんまりじゃないか」
「そのときは私もそう思ったわ。けれどそうするほかなかった。でも今となってはそうした自分を褒めてやりたいくらいだわ。まさか、人を殺すに飽き足らず、その肉を食うだなんて。しかも八重は身代わりに食われたのよ!その事実を湯布院の資料から知って愕然としたわ。そして、私にはまだ殺すべき人間がいることを知った」
「それが……馬虎さん?」
「ええ。本来八重ではなく、あの時食われているべきだった人間と、それを良しとした鈴鐘家の人間全員よ」
「でも、なんで馬虎さんは食われていなかったの?」
いくら家を一度出、名を変えたとしても馬虎さんは分家の息子には違いない。本来なら彼は、美緒に食われていなければならなかったはずだ。
「私の恋人は、あの男の代わりに殺され、その身を切り裂かれ食われた。本来分家の息子を食わなければならない美緒が、あろうことか食うべき対象の分家の息子と恋仲に落ちてしまったばかりに」
「なんだって?」
「じゃあ、杏里、お前と萌音は……」
そこまで沈黙していた杏里が口を開いた。
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