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あの子が欲しい
あの子が欲しい-7
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「ルリは、自分の身に何か危険が迫ることをあらかじめわかっていたんだ」
「危険だって?」
丸藤さんの言葉に、白石父が唾を飛ばす。
「なんやって、あん子がそぎゃんこつ。いや、こん詩にあん子が何ば残したっていうったい」
「簡単すぎてつまらないくらいだ。この詩の頭文字。それを追って読むだけだ」
そう言われ、僕と白石父はメモを凝視する。頭文字を読めって。
「なおたすけてあのことわ」
なんだこれ。けれど、嫌でも知っている単語がそこに含まれている。
「……なおって、わたしのこと?」
訝しがりながら僕は問う。いや、尚、とか猶、とかって意味かもしれないけど。
「他に誰がいる」
けれど僕の希望を打ち砕くように、探偵は自信満々に断言した。
「じゃあ、これはわたしに向けたメッセージ、ってこと?」
「そうなるな」
なんでまた、僕なんかに。そう思いながら、僕は言葉を綴る。
「けど、あのことわ、っていうのは?」
「あのこと、あるいは、あのこと『私』」
「あのこと?」
どのことだろう。僕は首をかしげるばかりだ。
「『あの子』と、なんじゃないか」
丸藤さんが顎に手を添えて呟いた。けれどそう言われてもピンとこなかった。
あの子って、誰のことだ?
「俺を頼らなかったということは、ナオ、君だけが何か知っている情報を指しているんだと考えられる」
そんなことを言われたって、僕だって彼女とそこまで親しいわけじゃない。初めて昨日一緒に遊んだくらいだ。
僕の眉は困りに困ってくっついてしまいそうだった。
「じゃあ、昨日の出来事の中に、何かヒントがあるのかもしれない」
昨日?僕たちは何を話した?
彼女に依頼された事件の話と、偶然会った彼氏の話。
あとは目の前の探偵にまつわることぐらい。
ケンちゃんはあの子、と言うには違和感があるし。
記憶を探りながら、僕は口を開く。
「ケンちゃんの弟が猫に餌をあげるから、その買い物に来たんだって、ケンが」
あの子、と言われて該当しそうなのは、彼氏の弟のことぐらいだった。
「直央、そのケンちゃんに聞いてみろ。弟も姿を消していないか」
探偵に促され、僕はポチポチとスマホを打った。けれど大切な弟がいなくなったのなら、優しい兄はもっと狼狽えていそうだけれど。
少なくとも彼女を家に連れ込めたら苦労しない、なんて愚痴る余裕はないはずだ。
ピコン。
『弟?ふつーに今日も塾行っとったけど』
僕の読みは当たったらしい。なんでそんなこと、と言わんばかりの吹き出しが僕のスマホに浮かんでいる。
「今日も塾、行ってるって」
「その子も高校生なのか?」
「いや、来年から中学生だって」
確かそんなことを話していた気がする。受験勉強で忙しいみたいです、と僕は付け加えた。
それを聞いて、そいつはえらいなあ、と白石父が感心している。
「ってことはそん兄さんも頭がよかやろうな」
やっぱり瑠璃は見る目がある、と父親は得意げだが、僕には正直ケンちゃんはそんな風には見えなかった。
いや、その実僕なんかより成績もいいのかもだけど、少なくとも真面目に勉強を頑張ってる、と言う感じでもなさそうだ。
「ばってんあん子が、こぎゃん暗号ば仕込むやなんて」
信じられない、とばかりに父が息を吐く。
「ほんなこつあん子が残したんか?」
「少なくともナオの名が入っているあたり、そうだと思うが」
探偵の言葉に僕もこくこくとうなずいた。
第三者がわざわざ僕の名前を仕込むとも思えない。彼女に友達はもっといるはずだ。
それが、先日初めて遊んだばかりの僕を名指しする意味が分からない。
「一体、どけ行っちまったんや、あん子は」
お手上げとばかりに、父親は自分の額に手をやった。
「あん子は誰のせいで、こぎゃんこつになっちまったんや?」
そうして彼は、目線を手元へと戻した。彼女の残したメッセージ。
「瑠璃も瑠璃や、まるで自分が帰ってこれんごつなるって、わかっとったんごたるなかか」
そうだ、父親の言う通りだ。白石さんは自分に何か起こることがわかっていて、これを残していった。僕たちに、助けを求めるために。
ということは、やっぱり何か事件に巻き込まれたんだ。
事件。僕の頭から血の気が引く。彼女は大丈夫なんだろうか。
あの子と私を助けて。
あの子。それは……誰だ?いや、そもそも。
「なにも、人間とは限らないんじゃ」
ふと思いついて僕は口を開いた。
何か、他の弱い存在。そういうものを、人間は子ども扱いしがちだ。
それを守ろうとして。
「その、弟さんが構ってた猫に、何かあったのかも」
僕の言葉に、うーんと白石父がうなった。
「まさかとは思うんだが」
あまり自信がなさげに、彼は遠くのかわいい石像を眺めた。
ハムスターや、犬猫の石像。
「最近、ペット用の墓石が妙に売れるんだよな」
ペットブームの恩恵を受けただけだと思っていたんだけど、と彼は言う。
「でも今になって思うと、外に遊びに行ってた愛猫が体調崩してそのまま死んじまったりだとか、野良猫を可愛がってたんだけどやっぱり急に死んじまったとか、そんなのが多いんだよな」
それって。
「もしかして、その動物たちは……殺された?」
「今思うとそうなんかもしれんな」
と白石父は呟く。
「そんおかげで売り上げが上がって、だなんて。因果な商売ばい、石屋も」
自嘲気味に彼は笑った。
「でもそうなると、瑠璃さんは、その悪い奴をこらしめようとして」
それで、そいつに捕まってしまったんじゃないか。
僕の中で、どんどん悪い方向に事件は進展していく。
どうしよう、早く助けないと。でも、犯人は誰なんだ?
僕は慌てて丸藤さんを見た。
見たことのないような険しい顔つきで、彼は僕を見返してきた。
「安易に手持ちの情報だけで組み立てるには危険だが……」
けれどこれなら、ルリが俺ではなく直央を頼った理由が説明できる、と彼は呟く。
「そのケンちゃんに聞いてくれ。弟は、どこで野良猫に餌をあげていたのかを」
「危険だって?」
丸藤さんの言葉に、白石父が唾を飛ばす。
「なんやって、あん子がそぎゃんこつ。いや、こん詩にあん子が何ば残したっていうったい」
「簡単すぎてつまらないくらいだ。この詩の頭文字。それを追って読むだけだ」
そう言われ、僕と白石父はメモを凝視する。頭文字を読めって。
「なおたすけてあのことわ」
なんだこれ。けれど、嫌でも知っている単語がそこに含まれている。
「……なおって、わたしのこと?」
訝しがりながら僕は問う。いや、尚、とか猶、とかって意味かもしれないけど。
「他に誰がいる」
けれど僕の希望を打ち砕くように、探偵は自信満々に断言した。
「じゃあ、これはわたしに向けたメッセージ、ってこと?」
「そうなるな」
なんでまた、僕なんかに。そう思いながら、僕は言葉を綴る。
「けど、あのことわ、っていうのは?」
「あのこと、あるいは、あのこと『私』」
「あのこと?」
どのことだろう。僕は首をかしげるばかりだ。
「『あの子』と、なんじゃないか」
丸藤さんが顎に手を添えて呟いた。けれどそう言われてもピンとこなかった。
あの子って、誰のことだ?
「俺を頼らなかったということは、ナオ、君だけが何か知っている情報を指しているんだと考えられる」
そんなことを言われたって、僕だって彼女とそこまで親しいわけじゃない。初めて昨日一緒に遊んだくらいだ。
僕の眉は困りに困ってくっついてしまいそうだった。
「じゃあ、昨日の出来事の中に、何かヒントがあるのかもしれない」
昨日?僕たちは何を話した?
彼女に依頼された事件の話と、偶然会った彼氏の話。
あとは目の前の探偵にまつわることぐらい。
ケンちゃんはあの子、と言うには違和感があるし。
記憶を探りながら、僕は口を開く。
「ケンちゃんの弟が猫に餌をあげるから、その買い物に来たんだって、ケンが」
あの子、と言われて該当しそうなのは、彼氏の弟のことぐらいだった。
「直央、そのケンちゃんに聞いてみろ。弟も姿を消していないか」
探偵に促され、僕はポチポチとスマホを打った。けれど大切な弟がいなくなったのなら、優しい兄はもっと狼狽えていそうだけれど。
少なくとも彼女を家に連れ込めたら苦労しない、なんて愚痴る余裕はないはずだ。
ピコン。
『弟?ふつーに今日も塾行っとったけど』
僕の読みは当たったらしい。なんでそんなこと、と言わんばかりの吹き出しが僕のスマホに浮かんでいる。
「今日も塾、行ってるって」
「その子も高校生なのか?」
「いや、来年から中学生だって」
確かそんなことを話していた気がする。受験勉強で忙しいみたいです、と僕は付け加えた。
それを聞いて、そいつはえらいなあ、と白石父が感心している。
「ってことはそん兄さんも頭がよかやろうな」
やっぱり瑠璃は見る目がある、と父親は得意げだが、僕には正直ケンちゃんはそんな風には見えなかった。
いや、その実僕なんかより成績もいいのかもだけど、少なくとも真面目に勉強を頑張ってる、と言う感じでもなさそうだ。
「ばってんあん子が、こぎゃん暗号ば仕込むやなんて」
信じられない、とばかりに父が息を吐く。
「ほんなこつあん子が残したんか?」
「少なくともナオの名が入っているあたり、そうだと思うが」
探偵の言葉に僕もこくこくとうなずいた。
第三者がわざわざ僕の名前を仕込むとも思えない。彼女に友達はもっといるはずだ。
それが、先日初めて遊んだばかりの僕を名指しする意味が分からない。
「一体、どけ行っちまったんや、あん子は」
お手上げとばかりに、父親は自分の額に手をやった。
「あん子は誰のせいで、こぎゃんこつになっちまったんや?」
そうして彼は、目線を手元へと戻した。彼女の残したメッセージ。
「瑠璃も瑠璃や、まるで自分が帰ってこれんごつなるって、わかっとったんごたるなかか」
そうだ、父親の言う通りだ。白石さんは自分に何か起こることがわかっていて、これを残していった。僕たちに、助けを求めるために。
ということは、やっぱり何か事件に巻き込まれたんだ。
事件。僕の頭から血の気が引く。彼女は大丈夫なんだろうか。
あの子と私を助けて。
あの子。それは……誰だ?いや、そもそも。
「なにも、人間とは限らないんじゃ」
ふと思いついて僕は口を開いた。
何か、他の弱い存在。そういうものを、人間は子ども扱いしがちだ。
それを守ろうとして。
「その、弟さんが構ってた猫に、何かあったのかも」
僕の言葉に、うーんと白石父がうなった。
「まさかとは思うんだが」
あまり自信がなさげに、彼は遠くのかわいい石像を眺めた。
ハムスターや、犬猫の石像。
「最近、ペット用の墓石が妙に売れるんだよな」
ペットブームの恩恵を受けただけだと思っていたんだけど、と彼は言う。
「でも今になって思うと、外に遊びに行ってた愛猫が体調崩してそのまま死んじまったりだとか、野良猫を可愛がってたんだけどやっぱり急に死んじまったとか、そんなのが多いんだよな」
それって。
「もしかして、その動物たちは……殺された?」
「今思うとそうなんかもしれんな」
と白石父は呟く。
「そんおかげで売り上げが上がって、だなんて。因果な商売ばい、石屋も」
自嘲気味に彼は笑った。
「でもそうなると、瑠璃さんは、その悪い奴をこらしめようとして」
それで、そいつに捕まってしまったんじゃないか。
僕の中で、どんどん悪い方向に事件は進展していく。
どうしよう、早く助けないと。でも、犯人は誰なんだ?
僕は慌てて丸藤さんを見た。
見たことのないような険しい顔つきで、彼は僕を見返してきた。
「安易に手持ちの情報だけで組み立てるには危険だが……」
けれどこれなら、ルリが俺ではなく直央を頼った理由が説明できる、と彼は呟く。
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