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1964.10.8 小石川 1
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意を決して、重厚な門扉の脇のインターフォンを押す。自分の家だって似たようなものではあるが、歴史を感じさせる建物に単身乗り込むには勇気が要った。
やっぱりあの方は、三井家の方だったんだわ。真理亜は納得した。じゃなきゃこんなお屋敷、住めるはずないもの。
しばらくして真理亜の前に現れたのは、腰の曲がった老婆だった。使用人なのだろうか。彼女は一瞬真理亜の目を見るとびっくりしたような表情を浮かべたが、すぐにそれは不思議そうな表情へと変わった。。
下水を抜けて来たものだから、臭っている気がして仕方がない。現に扉の先の老女は気づいたのか、不思議そうに鼻を引くつかせている。詮索されても面倒だ。急に思い出したかのように、真理亜は丁寧にお辞儀する。
「突然お邪魔してしまい申し訳ございません。わたくし、遠野真理亜と申します。三井小百合様にご用があってお邪魔しました」
「ああ、お電話下さった方ですね。それじゃあとにかく上がって下さいな。どうぞこちらへ」
促されて真理亜は屋敷へ上がった。さぞかし広い応接間にでも案内されるかと思いきや、老婆が連れてきたのは小さな小部屋。真理亜の部屋よりも狭そうだ。キョロキョロと真理亜が辺りを見回していると、優しく声を掛けられた。
「こんにちは、真理亜さん」
「あっ、この度は申し訳ありません、急にうかがってしまって」
「それは構わないのだけど、ここに来る前にどこか大冒険してきたのね」
指摘されて、真理亜は冷や汗をかく。やっぱりこんな格好でお家に伺うなんて、失礼だったわ。
「とりあえず、お風呂に入ったほうがよさそうね。ツネ、彼女を連れていってあげて」
「え、でも、そんな」
シャワーでも浴びて身を清めたいのは事実だったけれど、人様の、しかもほぼ初対面の方にそんなことをしてもらうのは気が引ける。けれど抵抗むなしくツネと呼ばれた老婆にに風呂場に放り込まれ、真理亜は生き返った気がした。
「これ、良かったら着て頂戴。こんなおばちゃんが着てる服なんて、若い女の子は嫌かもしれないけれど」
「そんなことありません、すみません、何からなにまでお世話になってしまって……」
風呂から出て、すっかりさっぱりした真理亜はシンプルなTシャツにラクダ色のズボンを身にまとう。
「一度履いたっきりなのよ。いつもは着物を着ていたから、なんだか慣れなくって」
そう言う小百合は、今は着物ではなくYシャツにスカート姿だ。その彼女が口を開いた。
「それで、どうしたの?」
当然の問いに、真理亜は身を強張らせる。そうだ、肝心の目的を遂げなければ。
「あの、大月さんの居場所をご存じありませんか?」
「栄二君の?」小百合が首を傾げる。
「その、先日から菅野さんの姿が見えなくて。職場にもいらしていないそうなんです。それで、もしかしたら大月さんと一緒にいらっしゃるんじゃないかと思って……」
ツネが頭をひねった。「栄二と英紀がかい?まあ、小さいころからの友達なんだ、一緒に居てもおかしくはないけどね」
「大月さんの連絡先を調べることが出来なくて。それで、浅草でお会いした時に一緒にいらした、小百合先生なら何かご存知かと思って」
「先生?」
素っ頓狂な声を上げたのはツネだった。
「小百合お嬢様は確かに孤児院の寮母をされてましたがね、けれど何か教えたりしていたわけじゃありませんよ」
「孤児院?」
やっぱりあの方は、三井家の方だったんだわ。真理亜は納得した。じゃなきゃこんなお屋敷、住めるはずないもの。
しばらくして真理亜の前に現れたのは、腰の曲がった老婆だった。使用人なのだろうか。彼女は一瞬真理亜の目を見るとびっくりしたような表情を浮かべたが、すぐにそれは不思議そうな表情へと変わった。。
下水を抜けて来たものだから、臭っている気がして仕方がない。現に扉の先の老女は気づいたのか、不思議そうに鼻を引くつかせている。詮索されても面倒だ。急に思い出したかのように、真理亜は丁寧にお辞儀する。
「突然お邪魔してしまい申し訳ございません。わたくし、遠野真理亜と申します。三井小百合様にご用があってお邪魔しました」
「ああ、お電話下さった方ですね。それじゃあとにかく上がって下さいな。どうぞこちらへ」
促されて真理亜は屋敷へ上がった。さぞかし広い応接間にでも案内されるかと思いきや、老婆が連れてきたのは小さな小部屋。真理亜の部屋よりも狭そうだ。キョロキョロと真理亜が辺りを見回していると、優しく声を掛けられた。
「こんにちは、真理亜さん」
「あっ、この度は申し訳ありません、急にうかがってしまって」
「それは構わないのだけど、ここに来る前にどこか大冒険してきたのね」
指摘されて、真理亜は冷や汗をかく。やっぱりこんな格好でお家に伺うなんて、失礼だったわ。
「とりあえず、お風呂に入ったほうがよさそうね。ツネ、彼女を連れていってあげて」
「え、でも、そんな」
シャワーでも浴びて身を清めたいのは事実だったけれど、人様の、しかもほぼ初対面の方にそんなことをしてもらうのは気が引ける。けれど抵抗むなしくツネと呼ばれた老婆にに風呂場に放り込まれ、真理亜は生き返った気がした。
「これ、良かったら着て頂戴。こんなおばちゃんが着てる服なんて、若い女の子は嫌かもしれないけれど」
「そんなことありません、すみません、何からなにまでお世話になってしまって……」
風呂から出て、すっかりさっぱりした真理亜はシンプルなTシャツにラクダ色のズボンを身にまとう。
「一度履いたっきりなのよ。いつもは着物を着ていたから、なんだか慣れなくって」
そう言う小百合は、今は着物ではなくYシャツにスカート姿だ。その彼女が口を開いた。
「それで、どうしたの?」
当然の問いに、真理亜は身を強張らせる。そうだ、肝心の目的を遂げなければ。
「あの、大月さんの居場所をご存じありませんか?」
「栄二君の?」小百合が首を傾げる。
「その、先日から菅野さんの姿が見えなくて。職場にもいらしていないそうなんです。それで、もしかしたら大月さんと一緒にいらっしゃるんじゃないかと思って……」
ツネが頭をひねった。「栄二と英紀がかい?まあ、小さいころからの友達なんだ、一緒に居てもおかしくはないけどね」
「大月さんの連絡先を調べることが出来なくて。それで、浅草でお会いした時に一緒にいらした、小百合先生なら何かご存知かと思って」
「先生?」
素っ頓狂な声を上げたのはツネだった。
「小百合お嬢様は確かに孤児院の寮母をされてましたがね、けれど何か教えたりしていたわけじゃありませんよ」
「孤児院?」
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