【完】王妃の座を愛人に奪われたので娼婦になって出直します

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一章(エレオノール視点)

復讐を誓った日

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 侍女のミリアの静止を振り切って、継母の部屋に入る。エレオノールの姿を見て、継母は忌々しげに顔を歪めた。

「まだいたの?」
「お母さま」
「お前に母と呼ばれる筋合いは無い!自分で出ていかないなら追い出すよ!」
「紹介状を書いていただきたいのです」

 怪訝な顔を見せる継母に、エレオノールは裾を少しつまんで会釈した。

「娼舘の紹介状を書いていただきたいのです」
「ショウカン?」

 何を言っているのか分からないと、継母はまだ理解していなかった。だからエレオノールは説明を付け足した。

「ココット様はおっしゃいました。陛下を誘惑する術でも学べと。ココット様は娼婦の出。ですから私も娼婦となり勉強しようかと」
「あんた、娼婦が何なのか知ってて言ってんのかい?」

 的外れな問いをエレオノールは無視する。

「私が娼婦になれば、この家を守ることになるかと」
「なにが守れるって言うんだよ。伯爵令嬢が娼婦だなんてとんだお笑い者だよ」
「王妃を降ろされた時点で笑い者です。私を貴族名簿から抹消すれば、この家との縁は切れます。陛下は私に対して大層憎しみを持っておられました。そんな私が娼婦に身を落としたとなれば、陛下も幾分かは気が晴れましょう。この家の処分も軽くなるかと」
「あんたが娼婦なんか出来るわけがない」
「心配してくださるのですか?」
「まさか!」

 継母は乱暴に棚から書き物の道具を取り出してテーブルに置くと、インクの蓋を開けた。

「書いてやるさ。不肖の娘ですが身が清らかなのは保障しますとね。処女なら初めは高く買ってもらえるよ。後は知らないけどね」
「ありがとうございます」

 慣れた手つきで書き上げた紹介状を封筒に挟みいれると、継母はエレオノールに手渡すことなく床に落とした。
 紹介状を拾い上げようと、継母の目の前でしゃがみ込んだ瞬間、頭を押さえつけられる。エレオノールは床に手をついた。

「時々イオリネにでも様子を見に行かせるからね。その澄ました顔がどうなっていくのか楽しみだよ」

 馬鹿に聞こえる高笑いに、エレオノールもうつむきながら密かに笑みを浮かべる。
 虐げられて育ったエレオノール。向けられるのは負の感情ばかり。だからエレオノールも負の感情を募らせてきた。
 心優しい使用人達は、教会へと促してくれた。エレオノールを想ってのことで、その気遣いは嬉しい。
 だけれど教会に入ってしまっては、それでもう終わり。一生を神に仕えて過ごすだけの人生は、やろうと思えばいつでも出来る。

 陰気な女。分かっている。ココットや継母のように馬鹿になってしまえば、いくらでもエレオノールも笑えただろう。ああはどうしてもなりたくなかった。一線を越えたくなかった。
 捨て置かれ続け、最後に捨てられた女にも、矜持がある。ないがしろにされ続けた女にも、一矢報いたい気になる。

 どうせもう何も無いのだ。なにもしないよりは何かをしてみたかった。
 ここから復讐を始める。この日を決して忘れない。継母に頭を押さえつけられながら、エレオノールは紹介状を握りしめた。


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