14 / 63
帰国
しおりを挟むエリザベスは本国に連れ戻された。
王宮へは上がらず、実家に留め置かれた。子のセシルも、一緒にそこで暮らした。
父も母も二人してエリザベスを責めた。勝手な真似をしてとか、皇太子との婚姻を拒むなんてとか言われたが、全部無視した。
産まれた子は乳母が育てるものだが、エリザベスは自分で育てた。会えなかった我が子が腕の中にいる。片時も離れたくなかった。
屋敷からは出られなかったが庭だけは出れた。
毎日、庭に出て、セシルに外の景色を見せた。
この子は赤い色が好きで、そういった花が咲いていたら強く興味を抱いた。エリザベスは庭師に言って赤い花を切ってもらった。部屋に飾ると、セシルはその花を掴んで、嬉しそうに振り回していた。
殿下は、毎週のようにやって来てはセシルの様子を見に来た。
彼が来たときは、いつもセシルを強く抱いて渡さないようにしていた。
その度に俺は父親だぞ、とか言って無理やり抱こうとするものだから、エリザベスは強く拒絶して、ちょっとした喧嘩になった。
仲は険悪。殿下も引かないし、従者はおろおろしている。争う声でセシルが泣き出す。そんな繰り返しだった。
ゆりかごを揺らしてあやしていると、今日も殿下がやって来た。赤子を覗き込んで、エリザベスに顔を向けた。
「そう睨むな。触らなきゃいいんだろ」
「お帰りください」
「家の者の話じゃ、いつもそんなふうに警戒してるらしいじゃないか。疲れないか?」
エリザベスは顔を背けた。
部屋の入り口にはいつものように従者が立っていた。いつまた喧嘩が始まるのかハラハラしているに違いない。心配そうにこちらを伺っていた。
「リズ」
呼ばれても無視した。無視するといつも腕を掴んでくる。そうなる前にエリザベスは腕を組んだ。
すると肩を掴まれた。無理やり歩かされて鏡台の前に座らされる。
「なんですか」
「自分の顔見てみろ。酷い顔してる」
「ちゃんと食事はとってます」
「笑えと言っているんだ」
顔色が悪いのではなく、不機嫌な顔を子供に見せるなと言いたいらしい。
エリザベスは、殿下の前だけこんな顔をしているのだと答えた。
「セシルを見てみろ。お前がそんな顔だから全然笑わなくなった」
「そんなことありません。ちゃんと笑ってます」
「いいや。笑ってないな」
「知らないくせに」
そっぽを向く。ゆりかごの赤子がグズりだす。エリザベスよりも先に殿下が動いて、セシルを抱き上げた。
やめて、と言おうとした。でも、赤ん坊は喜んではしゃいでいる。
殿下は慣れたように抱いて、顔を近づけて何かを囁いている。その嬉しそうな顔は、父親のそれだった。
彼から父親の役目を奪ってしまっていた。今更気づく。エリザベスは立ちつくした。
それからエリザベスは少し考えを改めた。自分が処刑されたのは身籠っている最中だった。
こうして子が産まれて、どうみても殿下と瓜二つの顔をしているのに、これ以上、疑われるわけが無かった。
これは、処刑を免れたと言ってもいいのではないだろうか。
かと言って殿下の今までの所業を無しに出来るわけもなかった。嫌だと言ったのに無理やり床を共にさせられた日を忘れられるわけがない。剣で脅されたこともあった。
何より、エリザベスは彼の言葉に引っかかりがあった。子さえ産めばいいなどと、何故自分でなければならなかったのか。その理由をまだ知らない。
次にやって来たら聞いてみよう。そう思っていた。
117
あなたにおすすめの小説
王命って何ですか? 虐げられ才女は理不尽な我慢をやめることにした
まるまる⭐️
恋愛
【第18回恋愛小説大賞において優秀賞を頂戴致しました。応援頂いた読者の皆様に心よりの感謝を申し上げます。本当にありがとうございました】
その日、貴族裁判所前には多くの貴族達が傍聴券を求め、所狭しと行列を作っていた。
貴族達にとって注目すべき裁判が開かれるからだ。
現国王の妹王女の嫁ぎ先である建国以来の名門侯爵家が、新興貴族である伯爵家から訴えを起こされたこの裁判。
人々の関心を集めないはずがない。
裁判の冒頭、証言台に立った伯爵家長女は涙ながらに訴えた。
「私には婚約者がいました…。
彼を愛していました。でも、私とその方の婚約は破棄され、私は意に沿わぬ男性の元へと嫁ぎ、侯爵夫人となったのです。
そう…。誰も覆す事の出来ない王命と言う理不尽な制度によって…。
ですが、理不尽な制度には理不尽な扱いが待っていました…」
裁判開始早々、王命を理不尽だと公衆の面前で公言した彼女。裁判での証言でなければ不敬罪に問われても可笑しくはない発言だ。
だが、彼女はそんな事は全て承知の上であえてこの言葉を発した。
彼女はこれより少し前、嫁ぎ先の侯爵家から彼女の有責で離縁されている。原因は彼女の不貞行為だ。彼女はそれを否定し、この裁判に於いて自身の無実を証明しようとしているのだ。
次々に積み重ねられていく証言に次第に追い込まれていく侯爵家。明らかになっていく真実を傍聴席の貴族達は息を飲んで見守る。
裁判の最後、彼女は傍聴席に向かって訴えかけた。
「王命って何ですか?」と。
✳︎不定期更新、設定ゆるゆるです。
虐げられてる私のざまあ記録、ご覧になりますか?
リオール
恋愛
両親に虐げられ
姉に虐げられ
妹に虐げられ
そして婚約者にも虐げられ
公爵家が次女、ミレナは何をされてもいつも微笑んでいた。
虐げられてるのに、ひたすら耐えて笑みを絶やさない。
それをいいことに、彼女に近しい者は彼女を虐げ続けていた。
けれど彼らは知らない、誰も知らない。
彼女の笑顔の裏に隠された、彼女が抱える闇を──
そして今日も、彼女はひっそりと。
ざまあするのです。
そんな彼女の虐げざまあ記録……お読みになりますか?
=====
シリアスダークかと思わせて、そうではありません。虐げシーンはダークですが、ざまあシーンは……まあハチャメチャです。軽いのから重いのまで、スッキリ(?)ざまあ。
細かいことはあまり気にせずお読み下さい。
多分ハッピーエンド。
多分主人公だけはハッピーエンド。
あとは……
【完結】私は駄目な姉なので、可愛い妹に全てあげることにします
リオール
恋愛
私には妹が一人いる。
みんなに可愛いとチヤホヤされる妹が。
それに対して私は顔も性格も地味。暗いと陰で笑われている駄目な姉だ。
妹はそんな私の物を、あれもこれもと欲しがってくる。
いいよ、私の物でいいのならあげる、全部あげる。
──ついでにアレもあげるわね。
=====
※ギャグはありません
※全6話
(完結)私より妹を優先する夫
青空一夏
恋愛
私はキャロル・トゥー。トゥー伯爵との間に3歳の娘がいる。私達は愛し合っていたし、子煩悩の夫とはずっと幸せが続く、そう思っていた。
ところが、夫の妹が離婚して同じく3歳の息子を連れて出戻ってきてから夫は変わってしまった。
ショートショートですが、途中タグの追加や変更がある場合があります。
婚約破棄は別にいいですけど、優秀な姉と無能な妹なんて噂、本気で信じてるんですか?
リオール
恋愛
侯爵家の執務を汗水流してこなしていた私──バルバラ。
だがある日突然、婚約者に婚約破棄を告げられ、父に次期当主は姉だと宣言され。出て行けと言われるのだった。
世間では姉が優秀、妹は駄目だと思われてるようですが、だから何?
せいぜい束の間の贅沢を楽しめばいいです。
貴方達が遊んでる間に、私は──侯爵家、乗っ取らせていただきます!
=====
いつもの勢いで書いた小説です。
前作とは逆に妹が主人公。優秀では無いけど努力する人。
妹、頑張ります!
※全41話完結。短編としておきながら読みの甘さが露呈…
幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ
猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。
そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。
たった一つボタンを掛け違えてしまったために、
最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。
主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?
(完結)可愛いだけの妹がすべてを奪っていく時、最期の雨が降る(全5話)
青空一夏
恋愛
可愛いだけの妹が、全てを奪っていく時、私はその全てを余すところなく奪わせた。
妹よ・・・貴女は知らない・・・最期の雨が貴女に降ることを・・・
暗い、シリアスなお話です。ざまぁありですが、ヒロインがするわけではありません。残酷と感じるかどうかは人によるので、わかりませんが、残酷描写シーンはありません。最期はハッピーエンドで、ほのぼのと終わります。
全5話
もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない
もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。
……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる