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理由

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 殿下がしばらくやって来ない。
 聞けば、隣国で起こった革命で大わらわだという。 
 エリザベスが滞在していた隣国とは違う国、ダッカン国での出来事だった。

 何でも、皇帝一家が乗る馬車に爆弾が投げ込まれ、暗殺される事件があったという。
 それがきっかけとなり民衆が蜂起し、今の貴族体制を倒そうという暴動が起きているという。
 子の世話で手一杯で、親ともまともに話していなかったエリザベスは全く知らなかった。

「革命だと、その国の者たちは言っているそうです」

 朝食を運んでくれた使用人がそう言った。彼女は支度を終えるとさっさと部屋を下がった。
 
 エリザベスはここ数日の新聞を取り寄せた。
 一番古い日付から見ていくと、爆弾による暗殺事件から、犯人の逮捕、処刑。皇帝の弟が即位したものの、民衆の不満が爆発し、王宮へ押しかけたという記事。民衆の議会への参加、貴族たちの反発。軍隊が民衆に発砲。見れば見るほど悪い方向へと向かいつつあった。たった一ヶ月の出来事だ。

 他所の国の話だが、一番の問題は、民衆が王権を打倒しうる存在だと、自覚させてしまうことだろう。

 エリザベスはこの事件を知っていた。前の時も同じことが起こっていた。時期も同じ。ちょうど夏の今頃だったと記憶している。
 結末は知らない。その前に処刑されていたから。
 すっかりこの出来事を忘れていたのは、セシルを産んでいたから。
 前の時よりも一年早く身籠り、出産した。眼の前のことに必死で、それどころじゃ無かった。

 明日は我が身かもしれないが、憂えても仕方がない。気にはなるが大きな波には逆らえないものだ。殿下がやって来ない理由が知れただけで十分。エリザベスは新聞を折りたたんだ。




 殿下が突然やって来ると、こんなことを言った。

「王宮に行くぞ」

 直ぐに支度しろとも言う。エリザベスは動かなかった。

「行くわけ無いでしょう」
「お前のせいで大変なんだ。さっさと来い」
「私はセシルを産みましたが、別に貴方の妻になったわけじゃありませんよ」
「俺の温情でここに住まわせてやってるんだ。少しは俺を助けろ」

 尊大な態度ですこと。エリザベスはベッドで眠っているセシルを見やった。

「私ごときがお助け出来るとは思えません。他の方を頼ってください」
「ぐだぐだうるさいな」
「あ…きゃ…!」

 殿下はエリザベスを抱き上げた。有無を言わせず部屋を出て屋敷を出て馬車に投げ込まれる。したたかに腰を打ち付ける。殿下も乗り込んできて、扉を閉められる。
 馬車が走り出して、揺れる車内でエリザベスは殿下に怒りを向けた。

「セシルを置いていけません!私を降ろして!」
「母君がいるだろう。いつまでも一人占めしてないで、孫の世話をさせてやれ」
「なんなんですか貴方は。私に何をしろというのですか」
「俺の妻だと紹介する」
「お断りです」
「別の女を紹介されて困っている。お前を連れていけば母上も納得するだろう」
「良かったじゃありませんか。他のお方を迎えてください」
「セシルを庶子にするつもりか」

 エリザベスは黙った。庶子の身分ほど悲しいものはない。愛しい我が子に、後ろ指を指される人生を歩ませたくはない。 
 しかしこの件に関しては疑問もあった。

「どうして、私の子でなければいけなかったんですか」
「セシルに会うためだ」
「…?分かりません。どういう…」
、お前は私の妻となりセシルを産んだ。

 沈黙が落ちる。エリザベスは、その言葉を反芻はんすうした。それから口元に手を当てた。

「まさか──」
「お前と同じ、時をさかのぼった者だ」

 殿下は足を組んで笑みを浮かべた。

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