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ちょっとした話
しおりを挟むアーサーにとって、戴冠式はそれほど重要では無かったらしい。ただ立っていればいいだけの式が終わると、新王への挨拶だけして、早々に部屋に引っ込んでしまった。ただ後ろに付き従っていただけのエリザベスは、部屋に入ってからアーサーに声をかけた。
「いいのですか?あんな態度を取って」
「ロベルト叔父上とは昔からあんなだ」
「違います。貴方と話したい貴族たちを軒並み断ってしまって、失礼ではないですか?」
ああそれか、とアーサーは軍服を脱ぎ始める。従者が持ってきた替えの服をテーブルに置くように指示していた。
「時間の無駄だ。必要ない」
「非難されますよ」
「それより自転車乗ろう。君も着替えろ」
「今から?戴冠式が終わったとはいえ、まだ外はお祭り騒ぎですよ。私たちも参加しませんと」
「気にする必要ない。この部屋で十分練習出来る」
「私と踊りたくないのですか?」
ピタリとアーサーは脱ぐ手を止める。軍衣を羽織り直して腕を組んだ。
「…どうしようかな」
「アーサー」
「自転車は、整備士がいないから持ち帰れない。この国に滞在する明日までの間に楽しみたい。布地も選びたいし、他にやりたいこともある。君と踊るのは魅力的だが、自転車に乗る時間が減ってしまうと思うと、悩ましいな」
早口で言われ、エリザベスは、でも、と反論しようとする。その前にアーサーが続けた。
「やはり駄目だ。自転車が乗れるようになると楽しいぞ。こっちに付き合ってくれ」
「アーサー…」
「気にするな。リズ、君も着替えてくれ」
少なからずエリザベスは戴冠式に気を張っていた。国の代表として列席する以上は、下手な真似は出来ない。それが、戴冠式にだけ出席して後は欠席など、エリザベスには到底納得出来なかった。事前に何も言われていなかったのも、腹が立った。
「アーサー、私たちはラジュリー王国を代表してここに来ているのですよ。自転車など優先されては困ります」
「大丈夫。父上からは戴冠式に出ろとだけ言われている。責は果たした。全く問題ない」
「アーサー皇太子殿下!公務が優先です!」
憤慨すると、アーサーもさすがに話を聞いてくれる気になった。聡明なのに、どうしてかこう子供じみた真似をしてくる。
どうしてか──?
はっとする。そうだ。どうしてそんな真似をするのか。彼は聡明だ。そして、前の記憶も持ち合わせている。
「──この国の崩壊が近いから、必要ないと?」
挨拶は必要ないと言った。それは、その者たちの死が近いからだ。だから戴冠式出席という最低限の公務だけをこなした。あれだけ前の記憶の話をしてきたのにその考えに至らなかったなんて。自分の愚鈍さが嫌になる。
エリザベスの指摘は的を射ていたようだ。アーサーは直ぐに従者を下がらせた。
「少し不自然過ぎたな。やはり挨拶くらいはしておくべきだったか」
「隠し事はお止めください。私を喜ばせたいとお思いなら、なおさら」
「良い体験、良い話だけを聞かせてやりたいと思う俺の気持ちも汲んでくれ」
「一人で抱え込まないでくたさい、と言っているんです」
エリザベスは近づく。軍衣を羽織っただけのアーサーに、袖を通させ金ボタンを留めていく。
「教えてください。このダッカン国は、何年の命なのですか?」
アーサーは髪をかき上げる。乱れた金の髪から、青の瞳が覗く。
「──五年ともたない」
密やかな声だった。二人だけなのに、更にエリザベスにだけ聞こえるように、静かに聞かせる。
「新王一家は国外逃亡。ここにいる連中も逃亡か、処刑だ。民衆の国になったダッカンは、内輪揉めを始めトップが次々、処刑され、収拾がつかなくなる」
「なんとか出来ないのですか?」
「周辺国、我が国もだが、圧力をかけたし、交渉もした。だが交渉した相手が次の日には処刑されてるような国じゃ誰も手が負えない。かと言って民衆は統治する王を望まない。お手上げだった」
アーサーほどの人がそう断言するのだ。本当にどうすることも出来ないのだろう。
「…分かりました。でも、やはり公務はしたいんです」
「分かった。ほとんど、父上への当てつけのつもりだったしな。意地を張るのはやめよう」
「陛下から何か言われていたのですか?」
「俺が不様だから聞かないでくれ。リズと踊るのは楽しい。戻るか」
「自転車はまた今度」
ああ、とアーサーは頷く。残念そうな顔に罪悪感はあったが、いくら滅ぶからという理由で公務をおろそかには出来ない。アーサーと腕を組んで部屋を後にした。
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