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1話 この中に一人男がいる

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「ねえ、貴女いつまで寝ているつもりなの?」



 聞きなれない声だ。母の声とも姉のものとも違う。少し棘のある感情の込もらないような声だ。しかしまだ意識ははっきりしないので答えは決まっている。



「ん~、あと5かげつ~」



「冬眠じゃないんだから」



 あれ?何か違和感がある。俺の声がいつもとは違う、透き通るようで少し高い音だ。嫌な予感とともにだんだんと意識が覚醒していく。



「あ!やっと起きた。何度か起こしたんだけどまったく反応無いからちょっと怖かったよ。お姉さん真面目そうな顔しるのにすごい寝坊助さんだね。うちらかなり騒いじゃったけどよく寝てられたね。その図太さ流石だよ!」



「誰?」



 目の前にいた少女、明るめの茶髪をポニールにまとめており整った顔立ちをしている。おそらく俺と同い年くらいだろう。もちろんこの少女は俺の記憶にはないが、正直タイプだ。



 普通朝起きて知らない人が目の前にいれば恐怖する人がほとんどだろう。しかし決して俺に敵意があるわけではないようだし、何より朝起きて自分のタイプのかわいい子がいればその恐怖も打ち消されるだろう。とりあえず礼儀として俺は目の前の少女の顔から視線を下に移す。



 ……ほう、かなり大きいな。紫色のゆったりとした服はおそらくパジャマだろう。襟元から見える谷間はひどく卑猥に見える。とりあえず記憶に焼き付けてすぐに目線を上げよう。これもまた見る者の礼儀として悟られるわけにはいかない。



「気持ちはわかるけど貴女……見すぎよ。」



 気づかれてしまったようだ。反省。声のした方を向くとそこにもまた俺の知らない女性が立っている。少しいら立ちが見え、おそらくは最初に俺を起こした人だろう。肩にかかるくらいの黒髪のストレート、目は見降ろしていることも相まって少し怖い印象だ。おそらく俺よりも2つか3つくらい年上だろう。口の右下にほくろがあり目の前の少女に負けず劣らずの美人である。胸は……うん、まあ、何というか、俺は嫌いではない。彼女もまた、ゆったちとした水色のボーダーの服はパジャマだろうか。



 というか……さっきから俺のことだよな。お姉さん? 貴女? それにやはり俺の声に違和感がある。まるで“女性のような声”だ。寝起きで声でも裏返ったのだろうか?



「あはは……。スズもそんなに気にしないで、って きゃああ!」



 とそのとき「ガシャアアァァン」という何かをぶつけたような大きな音が聞こえた。恐る恐るその音のした方を見ると



「う~ん、やっぱりこれでも駄目ね~」



 気の抜けたような声。その声の持ち主は一人掛けの椅子を再び「よいしょ」などと言って持ち上げようとしている。



「ちょ‼ 大沢さん! 何をしているの⁉さっき話し合ったよね、何が起こるか分からないからなるべく余計なことはしないようにしようって!」

 

 スズと呼ばれた女性が今の事件の元凶もとい大沢さんとやらに金切り声を上げ詰め寄っていく。



「大沢さんなんて他人行儀ね~、菫すみれでいいわよ~、涼音すずねちゃん。」



 スズもとい涼音は眉間をピクピクと動かし、まるで髪から「ブワッ」と効果音を出し、髪を逆立てているかのように大沢菫と名乗った女性をにらみつけている。怖い。



 改めて大沢菫を観察してみると軽いウェーブのかかった黒髪に、おっとりとしたやさし気な表情。何といっても胸だ。一言でいえば爆乳、しかも腰が引き締まっているためボディーラインは非常に魅惑的である。加えて言うなら着ているものは服とすら呼べないような、言ってしまえばランジェリーだ。しかもかなりセクシーな。どう考えても布面積の足りない青の布地を基調としており、細かな装飾の目立つブラから目を背けることができない。年は涼音よりもさらに3つか4つ年上といったところだろう。



「質問に答えなさい菫!何を考えているの? それに……もしも由紀ゆきさんに当たって怪我でもさせたらどうするの?」



 涼音は後ろにいた少女に目線を向ける。今まで気づかなかったがこの部屋にはまだ人がいたようだ。いろいろ強烈すぎて分からなかった。というか一体ここはどこなんだ? それに彼女たちはいったい誰なんだ? 以前から知り合いだったような……。いや、俺が起きる前に話し合ったとも言っていたし彼女たちも初対面なのか? まあいいか。しかし俺の声だけではなく体もどこかおかしい。



「え? 由紀ちゃん怪我してるの? 大丈夫~?」



「だ、大丈夫です!」



「ほんと~ならよかったわ~」



「そういう問題じゃなくって! ……はぁ」



 由紀と呼ばれた少女は緊張しているのか声が上ずっている。まあ、正直俺も大沢菫のようなタイプの人とまともに話せる自信がない。由紀は俺よりも年下、おそらく中学生だろう。髪は黒髪のショートカットをアップでまとめており、幼い顔立ちがかわいらしい。胸は目の前の少女ほどではないが、少なくとも涼音よりはずっと大きい。服装は何というかほかのメンツと比べると“お可愛い”パジャマである。



 菫さんはいろいろと目の毒なのでもしもヤバくなったら彼女を見て精神統一を図ろうと誓った。



 改めてあたりを見回すとそこはまるでホテルの一室のようなベッドや机、小物がいくつか並んだ簡素で小さな部屋だった。



 俺と目の前にいる少女はその並んだベッドの1つに腰かけている状態だ。というかあまり見つめないでほしい。照れる。4人のうち彼女だけ名前が分からないが、結局誰なのだろう。いまだに答えてもらえていない気がするのだが。まあいいか。



 大きな扉と、その反対側の壁には窓があるが菫たちの反応を見るにおそらく鍵か何かがかかっていて開くことはできないのだろう。部屋の角にはこの小さな部屋には似合わないくらいに大きなテレビが置いてあり違和感がある。また、この部屋にいるのは俺を含めて5人で全部のようだ。



「よし! 寝坊助さんも起きたことだし、改めてもう一回自己紹介と状況説明しようよ! 寝坊助さんも混乱してるみたいだしさ。ほら、スズもスミレも喧嘩してないでさ!」



「涼音ちゃん! 喧嘩しちゃだめよ~」



 目の前にいた少女はベッドの上から飛び降り皆がいる方へ歩いていく。涼音と会話?していた菫は相変わらずのようだ。というか出会って数分しかたっていないはずなのに、相変わらずとはこれ如何に。涼音の方はすでに疲れ切っているようだ。おかわいそうに。俺も4人の集まるところに歩いていく。



「ほら! 寝坊助さん、かましちゃって!」



 名を知らぬ少女は俺を4人の中心に押し出した。確かに寝ていた俺も悪いとは思うが寝坊助さんはちょっとひどいと思う。それに何か4人とも距離が近い気がする。仮にも俺は男だ。服装も相まって、あまりにも無防備すぎやしないだろうか。まあいいか。どうやら自己紹介していないのは俺だけのようだし、とりあえず俺も名乗るか。というか、かますって何だよ。



「えーと、お」

 

 俺が自己紹介を始めようとしたその時「ピーーー」という電子音が部屋中に鳴り響いた。何というタイミングの悪い。どうやら先ほどの異様に大きなテレビモニターのようだ。電子音が鳴りやんだと思ったらモニターにパッと明かりがついた。そしてモニターに無音のまま文字が映し出された。















『この中に一人男がいる』
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