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13話 この中に一人ある結末に導く人がいる

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「……い………………や」





 涼音が小さな声でそうつぶやいた。まあ彼女が「はぁ~~い♡ じゃあ今から公開オナニー始めちゃいまぁ~~~~っす♡♡♡」と言うのはとても信じられない。というか誰であっても嫌がるのは当然だろう。



「え~、スズが自分で夜やるって言ったんじゃん!」



 夏美が不満を漏らす。彼女は俺が目覚めるまで“お題”に挑戦するのは待とうと提案していたらしく、大変空腹らしい。



 誰のせいやと思っとんねん。 …………はい、たぶん6:4で俺が悪いですねすみません。



 ………………あ、ちなみに4の方が俺ね。



「だ……だって……」



 涼音が力なく抗議の声を上げる。



 涼音は正しい人間だ。常に自分に嘘はつかない。自分が正しいと信じることができる人だ。それは人に厳しく、それ以上に自分に厳しく己を律してきたからであろう。



 だからこそ涼音は揺らいでいる。正しくあろうとする理想と、約束を破ろうとしている現実に。



「まあいいじゃん、どうせこの先もこんな感じで続くんだろうし。そんな気にすることないって!」



「だ、だって明らかに私だけ酷すぎるでしょ?」



「どっちにしても“指名”はスズしかいないんだし、するしかないでしょ。」



「大体、なんで私がこんな目に合わなければいけないのよ!」



 正直このまま見守っていれば、この口論は夏美の勝利で終わるだろう。明らかに涼音の立場が弱すぎる。しかも涼音は自分自身にも厳しい。そんな涼音が約束をしたのだ。それを破ることは彼女自身でも許せないだろう。



「そんなの、うちに聞かないでよ。ここに監禁した人に聞いてよ。」



「ちょ、ちょっと~、二人ともおちついて~」



 菫が困りながら二人の間に入ろうとするが夏美と涼音は止まらない。



「そもそも、男って何なのよ! この建物内くまなく探したけど結局私たち以外誰もいないじゃない!」



「それは明日以降に“質問”するってスズが言ったんでしょ?」

 

 正直に言うと俺は涼音の公開オナニープレイとやらを見てみたい。あのプライドの塊のような涼音が、羞恥にまみれながら自慰をするのを想像するとそれだけで最高に興奮する。



「“質問”は必ずするけど、こんな“お題”できるわけないでしょ?」



 だがもしそうなったとしたら涼音は夏美や俺たちを“悪”として認識するかもしれない。自分を無理やり従わせようとした“敵”として。



 まだ俺たちは何も理解していない。誰が監禁したかも、“罰”が何なのかも。それこそ涼音が癇癪かんしゃくを起こし、俺たちに危害を加えないとも限らない。



 俺は今女の体なのだ。力では到底涼音に勝つことはできないだろう。



「出来る出来ないじゃなくてするしかないんだって。もし“お題”に失敗したら二度と挑戦できないかもって話だったでしょ!」



「そ、それはあくまで可能性の話でしょ?」



「その可能性が致命的なんだってば! 大体、スズ以外はもう全員ちゃんとやったんだし、その代わりにスズは夜にするって約束してたじゃん。」



「そ、そうだけどまさかこんな内容だとは思わなくて……」



 涼音のような人は何か思い通りに事が運ばないとき、一人明確な“敵”を作るだろう。それは俺かもしれないし、夏美かもしれない。だがその“敵”は涼音自身もなり得る可能性がある。



「じゃあ何? スズは今後も自分だけ優遇してもらおうっての? ユキもちゃんとしてるのに!」



 よって今すべきことは、涼音に対して彼女自身を責めさせることだ。



 つまり涼音の中で彼女自身を“敵”として、俺を“悲劇のヒロイン”として認識させる。



「由紀さんは菫のを、その……しただけでしょ! 明らかに私よりも簡単な内容じゃない!」



「スズが嫌がるから仕方なくユキがしてあげたんでしょ? 自分から押し付けておいてそれは勝手すぎるんじゃない? それに、なんども言うけど今後“お題”に挑戦できなくなったら脱出以前の問題なんだよ?」



 うまくいけば今後涼音は俺に対して一切歯向かうことができなくなる。



 それができる前提はすでにそろっている。やってみようではないか。



「夏美、ちょっといい?」



「何? ヒナ。」



 俺は夏美の耳元で内緒話をするように耳打ちをする。説得するのは涼音だが、落ち着かせるのは夏美からだ。



 ……お風呂上がりの夏美の髪めっちゃいいにおいするな…………じゃなくて!!



「私昼に『もし“お題”に失敗したら今後二度と挑戦できないかも』って言ったよね。」



「うん、言ってた。だからこうしてスズを説得してるの。」



 夏美は律義に俺の耳元でささやく。



 ……夏美の息がこそばゆくて、思考が全部吹っ飛びそうだからやめてほしい。……いや、助かるけど(二つの意味で)



「結論から言うと“お題”に失敗したからって、二度と再挑戦できないなんてことはまずあり得ないと思う。」



「なんで? そもそもヒナが自分で言ったことでしょ?」



「私昼には気付けなかったんだけど、この“お題”に時間制限なんてないでしょ」



「……うん、そうみたいだね。」



「だから例えば“お題”に挑戦するのは明日でもいいってことでしょ?」



「でもどっちにしろしなきゃなんでしょ? なら今しても同じなんじゃない?」



「今は涼音さんも冷静では無いみたいだけど、明日になれば涼音さんの気も変わるかもしれない。もし今後も涼音さんが“お題”に挑戦するたびにこうなったら大変でしょ? 彼女には自分から“お題”に挑戦してもらうべきだと思うの。」



「まあ……確かに。毎日こんな言い合いしてたら疲れるし。」



「だから夏美はちょっと離れてて、私が涼音を説得してみるから。」



「うん、ありがとヒナ。」



「はい、どういたしまして。夏美」



 よし、それで夏美は納得してくれただろう。夏美は涼音を一瞥いちべつするとゆっくりとベッドの上に腰かけた。







さて、次は涼音だ。

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