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5・泊まるは素敵なこーきゅーお宿
しおりを挟む城を逃げ出した頃はまだ天中にお日様が輝いていたけど、今はもう日暮れまじかになった。
髪と眼の色を偽装してマントを羽織り、下に着ているスウェット上下が見えないように注意しながら大手通を街の中央へと歩いた。
そこからはもう大変だった。街の中を歩きながら行き交う人達を観察し、最初にみつけた衣類を扱う店へ飛び込んであれこれ買い込んだ。
王都の庶民の服装は、そう多種でも華美でもない。全体的にアースカラーが主体の綿無地で作られたシャツにズボンかワンピースタイプのドレスが基本で、それにベストやジャケット、女性ならエプロンドレスを重ねている。見た目で例を挙げるなら、米西部開拓時代の移住者ファッションに近いかな?
他の高級布地や色味は、きっと貴族や王族が使用してるんだろう。
そんな中、私は店員の胡乱な視線を無視して、男児用上下を数着と濃緑色の厚手のワンピースドレスを一枚と手触り重視で新品中古男女用関係なしを数着購入した。その時に、宿の情報をしっかり入手。
値段や部屋の内装に関してピンキリの宿を紹介してもらい、迷わず高級宿へと走り込んだ。
だって、バスタブとトイレが部屋付きで安全面がしっかりしているのは、高級宿しかないって聞いたから。
宿は、貴族の別邸を改築した素敵な内装で、これは高額を取られるだけある!と納得するしかない快適さだった。従業員に、やっぱり胡乱な目で見られたけど、女一人で食事なしメイド不要の前払いとくれば黙って案内してくれた。おほほほ。
部屋は、寝室と居間の二間続きで、寝室の奥にトイレとバスタブの設置された石造りの部屋。トイレはオマルか!?と戦々恐々としたけど、なんと魔道具による【洗浄】ぼっとん。ただーし、便器は蓋付きの大きな瓶みたいな…座りにくい。バスタブも魔道具で少し高い所からお湯が出る(シャワーじゃなく打たせ湯タイプ)形式で、湯を浴びながらバスタブに溜めて、最後に排水。
魔法があるってありがたいもんだねー。なかったら、本当に昔のフランスみたいに汚物や排水を外に投げ捨て垂れ流しだったよ。
さっぱり汗や汚れを流し、買い求めたワンピースに着替えて、さあ荷物整理を始めましょう。
その前に、魔法で【洗浄】した下着と、買って来た布の手触り重視の衣類を数着ベッド上に並べてスタンバイ。錬金術で衣類を材料に下着を製造した。この世界に無い素材の部分は再現できないらしく、微妙に伸縮性とフィット感が足りないけど、落ちることはないんで問題なし!あちらから身につけて来た下着を見本に作ったからか、細部まで完璧にコピーできた。ブラジャーなんて、完全布製の物だったんで大満足の出来だった。良かったよ!休日仕様の下着チョイスしてて。
それに気を良くして、男性用ズボンを数着出してスウェットを再現。なんと綿ジャージ製で二組。色はズボンと同じだからぱっと見は判らないでしょう。
出来たそれらを丁寧に畳んでインベントリにしまうと、今度こそ魔女の遺産を拝見した。
すぐに使える物は、旅装束らしき上着や外套類と靴各種。長剣や短剣各種とそれらを携帯する小物。
髪や耳元を飾る装飾品を兼ねた魔道具。そして、真っ黒なロングドレスとローブが数着。
あれですよ。私たちがよく知る魔女の衣装だ。丸襟のシンプルなドレスに黒いローブ。これは着て外を歩けないなー。【鑑定】してみたら、凄い物なんですけどね。
そしてお金。すでに買い物や宿の払いに使ったけれど、どうも現在使われている硬貨とは違う、すでに使用できない大昔の硬貨もたくさん混じっているようで、どうしたもんかと考えながら小袋に仕分けしておいた。昔の硬貨のほとんどが金銀で、今の硬貨より含有率が高い。錬金で使うか塊りに変えて売るかしないと使えないだろーなー。まぁ、それを使わないでおけるほどの金銭がございますが。
庶民服を一抱え買っても半銀貨一枚にも満たない。高級宿ですら一泊銀貨四枚(食事付きは五枚ね)で、庶民や商人が泊まる並みの宿なら銀貨一枚でそれなりに良い所に泊まれるらしい。庶民街の買い物のほとんどが、銅貨がメインだった。
―――――インベントリ内の山の様な金貨と晶金貨は、一体どこで使えるのかしら?――――加えて、繊細な細工を施された宝石一杯のアクセサリーなんて、私は死ぬまで使わないだろう。
あれこれと出したり入れたり試したりを繰り返し、どうにか当座の必要品を見つけて整理が終わった。居間に移って、用意されていたお茶を飲んで一息入れ、買い込んで来た屋台の食べ物を食べて夕食代わりにした。宿のディナーも食べてみたいけど、一応は逃亡犯?なので人前にあまり出ないように注意してみたのだ。私の持っているマナーが、こちらのマナーと同じとは限らないし、変に目立って何かのきっかけにならないとも限らないし。妙なフラグを立てるのは、まだ早い!
さて、夜も更けて来た。本日最後のイベントにかかりましょうか。
私は、ドレスそのままの姿でベッドへ横たわると、出したままにしておいた一つのアイテムを手に深呼吸を数回くり返した。頭側のサイドテーブルにランプが一つ。他の灯りは全て消した。これらも魔道具。
ぼんやり灯る光を瞼越しに感じながら、掌中の水晶に魔力を流し込みつつ力一杯握り込んだ。
瞬間。
ああ、また激痛にのたうつのか…。
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