この称号、削除しますよ!?いいですね!!

布浦 りぃん

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31・聖人、それは…

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 パレスト神聖王国は、旧パレスト王国が周辺の小国と組んだ属国連合に攻め込まれ、王都陥落直前に逆転勝ちした後、生き残った第二王子が王を廃位して戴冠し、新たにパレスト神聖王国として建国した。
 なぜ、今まで続いた絶対君主制の王国が、いきなり宗教国家に鞍替えしたのか。

「第二王子のリガルド様が熱心な女神ファシエル様の信者で、王を頭に頂くのではなく女神様を頂点とした国を創ろうと。さすれば人同士の争いもなくなり、女神様の教えの下で国民は心豊かに過ごせるだろうと申しまして」

 私は、うんうんと大げさに頷きながら、向かいに座る白いローマンカラーのシャツにアルバの様な裾の長いガウンを纏った大司祭が、滔々と語る建国の歴史に耳を傾けていた。

「思い切ったものですねぇ。でも素晴らしい…」
「女神様のお力が、リガルド様をお助け下さったのです」
「具体的にはなにかあったのですか?大逆転の勝利とは…天からの奇跡とか?」

 私が真剣な顔で突っ込むと、大司教はにっこりと微笑んだ。

「はい。王国の危機に瀕し、リガルド様の命を懸けた祈りに女神様がお応えくださり、聖人様がご降臨くださいました。そして、天の御力を示して敵を退けお救い下さったのです」

 はい、出ました。聖人様が。
 滅んだ別の国が召喚したのかと思っていたが、旧パレスト王国の第二王子が行ったんだね。陥落寸前の王国のために、イチかバチかで聖人を召喚してみたのねー。

「聖人様は、その時だけご降臨なさったのですか?」
「いえいえ。勝利の後、新たな国を樹立なさった際の戴冠の儀で、リガルド様の頭上に戴冠なさりもしましたし、国作りの助言もなさいました。聖人様は《神の代弁者》でしたから」
「神の…?女神様では?」
「女神様が神様に願い、聖人様を遣わせて下さったのですよ。本来、女神様が遣わすのは聖女様ですから、戦いに勝ち、国を復興するためには聖人様でなければ…と思って下さったのかも知れません」
「なるほどー…」

 強い。この大司祭はずっと降臨とか遣わすと口にしている。召喚とは絶対に言わない。聖職者だからかな?大陸中に、聖女も勇者も召喚されて来るってことは公になっているのに、だ。
 だから、試してみたわよ。

「聖人様も、聖女様や勇者様と同じく召喚の儀でいらっしゃったのですよね?」
「……ご降臨なさったのです」

 うう~む。手強い。顔色一つ変わらないよ。

「今も聖人様はいらっしゃるのですか?」
「彼の方はすでに天にお帰りになり、それ以降はご降臨なさいません。…なさるとしたら、またこの国に災いが訪れた時でしょう。今は建国からずっと幸いの地ですし」

 むむっ!天に還ったか!それは、亡くなったのか帰還術で帰ったのか、どっちなのさ!

「最後にお聞きしたいのは、女神様を祀っているこの国ではなく、なぜ別の国で聖女様の召喚がなされているのでしょうか?」
「ああ、それはですね、彼の国がとても魔が溜まりやすい土地を領土にしておるため、女神様のご配慮なのですよ。我が国は、別に女神様の慈愛を独占するつもりではありません。どの国であれ、教会のある所が我が女神様のお国ですから」

 宗教関係者相手は分が悪いなぁ。なにしろ他者に語ることが商売だから、言葉選びにも本人にも隙が無い。知識として欲しい回答が、宗教の教えとして返って来るのが…なんともまどろっこしい。
 しかし、これで表と裏があると分かった。ええ、家探しさせて頂きますよ?
 ただ、帝国と違って宗教国だからか、なんだか城の中には魔法使いが多い気配がする。ことに光属性が多いから、重要な場所に固い結界が張り巡らされているだろうことは、すでに予知している。
 でも、森羅万象の魔女としてチートを大盤振る舞いさせて頂くわね。

 パレスト側が用意してくれた部屋は、なんと城内ではなく別棟になる修道女たちの宿舎だった。アレクと外交官・書記官は貴賓になるためか城内に部屋を設けられたが、護衛騎士は修道士と助祭の宿舎だった。
 外からの侵入になるなーと悩みはしたけれど、アレクに会いに行って時間を作ろうかと。帝国の時同様に蜘蛛を放ってあるので、城内で迷うこともないしね。
 部屋へ戻ると、リアンがそわそわしながら待っていた。話しを聞くと、修道女の方々がお世話係を申し出てくれるので、どうしたらいいかと迷っていたようだ。私はそれを了解し、リアンには自由行動を勧めた。付き添いを申し出てくれた修道女たちが、リアンを囲って楽し気に外出の予定を話している。私は笑いながらそれを見送り、アレクの部屋へと向かった。
 
 部屋へ案内されると、アレクは小綺麗な居間でぐったりとだらしなく伸びていた。

「どうしたの?」
「綺麗な女がいない…」
「あほか。ここは城と言う名の教会だよ?着飾った淑女が、そこら辺を闊歩してる訳ないじゃない」

 私の非難にアレクは舌打ちすると、今度は私に意味ありげな視線を向けた。

「商会まで付き合って。中流街なら綺麗なおねぇさんがいると思うわよ?」
「おう!護衛はまかせろっ!」

 いきなり張り切り出したアレクに外出の報告を任せて、護衛騎士一人を引き連れて城を出た。彼にも自由行動OKと話してあるが、職務に忠実な彼はアレクから離れない。それでも私が商会へ入って行くのを見届けると、アレクと共に高級な飲食店街へ消えて行った。

「―――――これにサインを。こちらは確かに代金を頂きました。必ず先方にお渡しします」
「よろしくお願いします」

 にこにこ笑顔の番頭さんに荷を渡して代金を受け取る。こちらへ出向くついでに任されたと伝えてあるために、生産者に関する話題は出さない。徹底した教育ですなー。うん。
 お茶を頂きながら、私はこの王都の話しをし、何気なさを装って借り家はないかと尋ねてみた。すると店の裏手奥に、商会が持っている空き家があると案内してくれた。仮の倉庫兼宿泊施設のつもりで店舗と共に買い上げたが、手前が空き地になり大きな倉庫と従業員寮を作ったことで必要なくなったという話だった。

「是非、貸してください!借り賃はいかほどに?」
「ああ、タダでお貸します。なんたって輸送を承って下さってるのですから。お好きにお使いくださいとお伝えください」

 良かった!コーヒーの輸送人が寝泊まりする部屋って理由を出して!これで、リュースも気楽に顔を出せるわ。
 平屋の小さな家は、何もない部屋二間と水回りで、思いのほか綺麗に保たれていた。鍵を預かり、上手く行った嬉しさに土産や買い物の財布の口も緩んだ。その夜は、城側の晩餐を受けて楽しく食事を終えて部屋に戻り、夜中に借り家へ転移して、空間門の設置と一時帰宅をした。
 寝入っていたリュースを起こして鍵を渡し、転移門の設置を知らせた。まだかまだかと待っていたらしいリュースは、安堵の笑顔を私に向けた。

「王都内だけなら行動できるから、好きな時に使って。ただし、門の外はまだだからね?待てない場合は、自己責任で!」

 私もリュースも大陸共通の身分証明の札を持っている。出入りまで確認できるような魔道具はまだ発明されていないから、証明と犯罪歴の確認魔道具に触れるだけですむ。だからと言って油断は禁物だ。リュースは【偽装】魔道具を随時身につけて行動するため、誰に看破されるか分からない。光属性の魔法使いがたくさんいる上に、大陸一の差別国家だ。

 ことに《魔族》に関しては――――――。

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