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布浦 りぃん

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50・発声できない名の彼、帰郷

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 早朝に旅立った私たちは、何度か海獣やワイバーンにつけ狙われたけれど、海嵐に会うことなく三日目の朝には無事に《大魔境大陸》の浜辺に着いた。
 お家君の案内で小さな湾に入り、そこに広がる小さな砂浜に船を下ろした。そこは、とても静かな湾で、辺りを見回すと原生林が広がっていた。船を安全な場所に隠して結界を張っておき、全員で砂浜へと足を向けた。

「ここは、人族が辿り着いた痕跡は見当たらないわね…」

 綺麗な砂を踏むと、キュっと可愛い音がする。後ろで、リュースが「陸だ…陸地だ…」と呟きながら、音のする砂を楽しみつつ足踏みをしていた。

「人族は来たことないだろうね。ここは、潮が引かない限り船では入れないんだ。引いても小さな船だけ。外は岩礁が広がっていて、大きい船は近寄れないしね」
「へー。あ、あそこが繋がっちゃってるのね」

 私が指を指した辺りは、この湾の両方の岬部分にあたり、よく見ると橋が架かったように繋がっている。架橋になる部分に小舟が通れるくらいの穴が開いていて、そこから海水が流れ込んで来て浜を作ったみたい。

「昔はもっと小さく狭かったんだ…あそこもまだ岩山だったしね…」

 懐かし気に見回すお家君の身振り手振りに心和ませつつ、出発の準備をする。

「さて、探索に入りますか!」

 私の掛け声と同時に、原生林へ入るための装備を付け始める。私はいつもの戦闘態勢。リュースは、私が贈った同様の防御魔法を付与した防具とマントに、魔女の遺産の細身の片手剣。腕には【シールド】が展開する籠手と【全耐性】付与の腕輪。彼は一端の魔法剣士になったけれど、やはり戦い慣れがないために咄嗟の判断が遅れるだろうと、自動で展開する盾と耐性を持たせた。
 前人未到と思われる場所へ突入するんだし、何があるか分からないしね。

 がさがさと丈の高い下草を漕ぎながら、お家君の言うままに足を進めた。私の展開している【索敵】に小物が何匹か引っかかるけれど、こちらに向かって来ない限りは無視をした。目に痛いほどの鮮やかな緑の森は、鳥の声も虫の音もない静かな空間だった。
 浜に着く直前に、空から探索した方がと提案してけれど、お家君が樹が生い茂っていて分からないと言うので仕方なく地を歩いてる。でもー、めんどい!歩き辛い!!

「あ…」

『誰…誰…誰…誰…』

 先を行くリュースの肩に乗ったお家君が、声を漏らした次の瞬間、どこからともなく輪唱の様な声の重なりが響き渡った。
 耐性付与や結界を張っておいて良かった~。これをもろに耳にしていたら、鼓膜をやられ、三半規管の狂いで立っていられなかっただろう。魔力に似た少し違う力が、相当な量で私たちに向かってぶつけられて来た。音とその振動による攻撃だ。

「僕だよー!・・-・-・--だよー!」

 森の奥へ向かって。お家君が声を張り上げた。
 たぶん名を名乗ってるんだろうけれど、私の【全言語翻訳】では訳せない。と言うか、名前だからかな?

「・・-・-・--と名乗る者よ!なぜ人族と共にいる?」

 やはりお家君の名前だ。が…耳に届くソレを発音できる気がしない。

「僕を助けてくれた方の知り合いだ。今は僕の仲間だよー」

 お家君が懸命に話しかけると、太い幹を持つ木々の間から褐色の肌の者達が次々と姿を現した。面白いのは、この雑草生い茂る中をかさりとも音をさせずに移動している。どうなってるの?と、危機的状況も忘れて、ひたすら考えてしまった。

「おお!本当に・・-・-・--だ…。今までどこで何をしていた!」

 ぞろぞろと出現した中から一人が私の側へ近づいて来ると、私たちの存在そっちのけで小さなお家君を凝視しながら話しかけて来た。
 たぶん…男性なのだろう銀髪の短い髪と緑の瞳に美麗な容貌。そして、リュース以上に細い肢体は中性的だった。

「--・・-・・-!懐かしい!久しぶりー。僕は地崩れで嵐に巻き込まれて女神の大陸まで飛ばされたんだ。そこで根付いて生きて来れたんだよ」
「そうだったのか…あの地崩れで倒れ埋まったかと思っていたんだが、遠く飛ばされて生きていたのか。良かった。して、こちらは仲間だと?」

 リュースは私の横で身構えながら、油断のない視線を他の者たちに投げていた。

「こんにちは。私は魔女のアズ。彼と共に大陸の北の端にある大樹海に住んでます。よろしく」
『魔女…魔女…魔女…魔女』

 名乗った途端、また一斉に精神攻撃と音の衝撃波を喰らった。咄嗟にリュースを含めて【障壁】を張る。反撃すればいいんだけれど、それを始めたら戦いに来たことになっちゃう。

「止めてよ!彼女は皆に攻撃を仕掛けたりしないよ!皆が耳にしただろう魔女とは違うんだ!」

 え?…おいおい!ちょっと待って!大陸からの人族は上陸していないんだよね?なんで、魔女の悪い噂を知ってるのよ…。
 
「魔女とは、災厄を呼び殺戮をと聞いているが…」
「それは人族の勝手な噂だよ。本来の魔女は女神様の遣いだよ。ただアズは…」

 そこで紹介をやめないでっ。確かに私は女神様の現身じゃないけれど、そこで口ごもられたら私はもっと不審人物になるじゃないか!お家君!!

「私は、異世界から聖女と共に召喚されたの。召喚途中で勝手に魔女に作り変えられて、この世界に来て彼と会ったの。この子は、私の弟子でリュース。貴方たちに危害を加えるつもりは全くないわ」

「なんと!異界人かっ。あの女神はなんと愚かな!」
「まあ、それでも僕を救ってくれた方だから、ここは耐えて」
「申し訳ない。ようこそ女神の大陸からの客人。ここでは話もできない。こちらへ―――――」

 相手が踵を返した途端、嫌になるほど邪魔だった下草がざざざと音を立てて豪快に両端へ移動した。海が割れて―――じゃなく、下草が割れて広い道ができた。私もリュースも、言葉もなく目を丸くして驚いた。

 うわーー!どうなってんの!?これ。
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