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53・王女様のおな~り~
しおりを挟むパフスリーブの袖と胸元に小さな巻き薔薇のコサージュ、白いパニエで広がったピンクのドレスは、痩せたリリアを愛らしくふっくらして見せた。薔薇のコサージュには小粒の魔晶石が仕込まれていて、防御付与しておいた。
彼女を抱いた私とリュースが【空間門】を潜って大魔境大陸へと戻ると、謎のドアの前には好奇心と向学心に満ち溢れた緑の妖精族たちが、わんさと集まって観察していた。
「うわっ」
予想していなかった事態に、私は思わず驚きの声を上げ、その声と見知らぬ人々の集団に怯えたリリアがしがみ付いて胸に顔を埋めた。
「この子は大人の集団に怯えます。申し訳ありませんが、少し離れて下さいませんか?」
リュースが打って変わって厳しい声で注意を告げた。お兄ちゃんカッコいい―!
彼の警告と見るからに怯えを見せたリリアに、妖精族たちは慌ててささーっと身を隠して消えた。
え?と、私たちの方が唖然としたよ。離れてとは言ったけれど、消えろとまでは言ったつもりはないのに。でも、わざわざ訂正することもないので、そのまま広場へと向かった。
その代わりにエンデが姿を現し、顔を背けたきりのリリアの側へ飛んで来ると、小声でリリアを慰めていた。初めて見る小さな妖精に興味を引かれてか、リリアが少しだけ顔を向けた。お家君?とかエンデだよーとお話をしている。
「お待たせしました」
「おお…その娘が…」
「リリア、こちらはご領主のグリア様。ご挨拶して?」
少しだけ相手に顔を向けやすい様に抱き直し、リリアにお願いした。頷く彼女をそっと下へ下ろすと、私のマントの端を握ったまま恐々とグリア氏を見上げ、肩が上がるほどの大きな深呼吸の後に、上手にカーテシーをしてみせた。
「はじめまして。リリアリスティリアです。ほんじつは、おまねきありがとうございますっ」
どこからともなく「おお~!」と感嘆の声が上がった。その中に、リュースも含まれているのに内心笑ったけれど、私も感心したのは一緒だ。
「ようこそいらした。私はグリアデュディディティオだ。グリアと呼んでくれ。お会いできて、とても嬉しいぞ」
グリア氏が立膝で美貌のお顔を笑み崩して挨拶を返し、小さな手をそっと取ると額を押し付け離した。キスじゃなく、額って敬愛とか親愛??それとも妖精族特有の挨拶?
先ほどまで怯えていたリリアが、今度は恥ずかしそうに俯いて私のマントに顔を隠した。
やっぱり女の子だわよねぇ。綺麗なおじ様に跪かれて礼をされるって、淑女には嬉し恥ずかしだ。
「ははは、とても愛らしい淑女だ。王もさぞかし喜ぶだろう。では、案内しよう」
「よろしくお願いします」
リュースと二人で、ほっと息を吐いた。
さて、ここからが大詰めだわ。
加護持ちだから血縁であることは、間違いなく認めてもらえるだろう。でも、それだけで半人半妖の子を受け入れてもらえるかどうかは、話しは別だ。少し違っただけで、差別なんてありありだしねぇ。
それが身に染みているリュースは一安心はしたが、この先の問題に対しては楽観視していない様子で、私の横に立ちながらも笑顔は見せていなかった。
リュースの肩を一つ叩き、リリスを抱き上げるとグリア氏の後を追った。
謎の下草が脇へ避けてできた道を、滑るように進むグリア氏。その二つが気になって、失礼にならない程度に観察しまくっている内に、王の居城と言われた場所へ着いた。
居城――――城と言われれば、ぱっと思い浮かぶのは巨大な建造物ですが、私たちの目の前に現れたのは、巨大な樹だった。一体、樹齢何年なんだろうかと、途方もない年数が頭に浮かんだ。
エンデの本体ですら大きいと思っていたけれど、悪いが比べものにならない巨大さだった。樹と言っていいのかしら…と思ってしまうその城は、白樺の様な白い樹皮に覆われ、首を思い切り逸らして見上げなければならない高さに太い枝とガラス細工の様な緑色の透明な葉を茂らせていた。その葉を通して落ちる木漏れ日の素晴らしいこと!乱反射した光がキラキラと輝き、眩しい位だった。
私たちを引き連れたグリア氏はふいに足を止め、振り返った。
「この樹が王の本体だ。そして、同時に城でもある。上に見える張り出した数多の枝に、城の施設が設けられておる。では、参ろうか」
グリア氏の説明にあんぐりと上を見上げていた私たちは、慌てて口を閉じて従った。
段々と近づく幹。幹なはず。でも、壁にしか見えない。白樺の樹皮を貼り付けた外壁にしか。そして、そこには扉も門も見つけられない。なのに、グリア氏は幹に向かってどんどん歩いて――――。
幹の中へ消えた。
「あ…」
横から戸惑いの声が漏れ聞こえたけれど、私は黙って突き進んだ。ええい!とばかりに幹に向けて足を出したら、そこはなんの抵抗もなく踏み越えられた。
なんなのかしら…私の使う【空間門】や【空間移動】の陣とも違う。なら、隠しているのかと思ったけれど、【偽装】や【迷彩】とも全く違う。
なんと言うか、幹の表面自体に妙にくすぐったく感じる力が、帯状に螺旋を描いて上へと流れていた。それは魔力とは違う力で、この世界へ来て初めて触れたモノだった。
リュースも感じたのだろう。その感触に息を呑んで唖然としていた。
「…どうやらお気づきのようだ。妖力は初めてかな?」
「ええ…妖力、ですか…私たちの持つ魔力とは違い、とても心地よく新鮮な感触の力ですわ…」
「なんだろう…体に触れると弾ける様な、少しくすぐったく感じました」
「ほほう、そこまで感じられるとは面白い。リリアリスティリア嬢も微笑んでおいでだ」
忘れていた!リリアは!?と顔を見ると、彼女は笑顔を浮かべながら自分の両手を広げて、何かを掬い上げていた。
そして、その小さい掌の中に、みるみるうちに微小な光が弾けながら輝く光球が現れた。
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