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61・深紅の光と聖女との再会
しおりを挟む妖精大陸に辿り着いたのは、深夜に近い時間だった。
私の帰還に気づいたエンデが迎えに出て来たけれど、私は言葉少なに《許しの輪》の返還を頼んだ。指から抜き取ろうとすると輪は自動で元の大きさに戻り、それをエンデの手に乗せた。
エンデも、帰って来た私の雰囲気が尋常じゃないのをさりげなく悟ってくれて、いつも通りの笑顔で受けくれた。
そのまま【空間門】を潜り、そっと家に戻った。
ルードの姿もリリアたちの気配もない静まりかえった居間で、インベントリから預かった物を取り出した。束の間それを見つめ、それをぎゅっと握ってリュースの部屋へと向かった。
明日の朝でもよかったんだけれど、私の物じゃない種を一晩中持っているのに神経が耐えられなかった。早く渡さなきゃ!とそればかりが頭を駆け巡って落ち着かない。
「リュー…ただいま。起きてる?」
ノックと一緒に声をかけ、少しだけ身を引いて待った。すぐに勢いよくドアが開き、真顔のリュースが私の顔をじっと見た。
「おかえり。何かあった?」
「はい、これ。お土産。古の神様からリューにって」
種を摘まんで差し出すと、リュースは反射的に手を出して受け取った。
深紅の光を放つ、美しい宝石の種。
「なに?これ……」
「さぁ?神様がリューに渡せば分かるって。とりあえず、それを握って眠ってみて?」
「神様って……神様がいたの!?大陸に?」
「うん…それは後日話すわ。とにかく疲れちゃって……急いでそれだけは渡したかったの」
「あ、ごめん。なんだか分からないけど、言われた通りにしてみるよ」
「こちらこそ遅くにごめんね。じゃ、おやすみ」
手を上げて踵を返す。
リュースも、私がいつもの私じゃないことに気づいている。それはそうだ。行った場所が、楽しい観光地じゃないことを知っているんだから。ただ、無事な姿で帰って来たことだけを確認して、とりあえずは安心しただろう。背後で、そっとドアの閉った音がした。
翌日、私は朝を待って家を出た。エンデの本体に小声で話しかけ、伝言だけ頼んだ。古の神からの依頼を遂行してくると。そして、【転移】で移動した。
行き先は、この世界に召喚された時以来まったく近づかなかった、あのロンベルド王国だ。飛んだ先は、あの懐かしい初飛行で不時着した林の中。
まだ覚えてるものねーと、缶コーヒーを飲んだ木の根元を眺めた。あの時は、まだ魔女の叡智を受け取っていなかったから、記憶も曖昧で転移できるか心配だったけれど、ポイントへぴったり到着した自分の記憶を脳内で褒めちぎった。
さて、聖女様だ。
この国から逃げ出して以来、私にとって忌避する地になっている。そして、聖女に対して全く興味がなかったせいで、アンナちゃんの状況を噂すら調べようと思わなかった。アレクを見てれば、国家ぐるみで大事にされてるだろうと予想がつくし、私が心配してあげる様なことはないだろうと。
そんな私が何をしに、こんな早朝から腹の立つ国へ来たかと言うと、もちろん召喚陣を破壊することが主だけれど、次いで、アンナちゃんに帰還の意思があるかどうかを確認するために来た。
あるなら多少の協力をお願いし、無いなら盛大に召喚陣をぶっ壊して以降は近づかないことにしようと思っている。同じ釜じゃなく同じ召喚陣を潜らされた仲だし、それくらいの譲歩はいいかな?と。それも結局は、自分の中に憂いを残したくないってだけだ。それを薄情と言うなら、そうなんですと答えるだけだわ。
とんっと地面を蹴って【飛翔】し、フードを目深にかぶってマントの【迷彩】を展開しながら王城へと近づいた。敷地内のあちこちに立つ守備兵を【地図】の上でマーキングして回り、城の最高部にある主塔の屋根に着地。ぐるりと見渡し、二カ所を目指して諜報蜘蛛を放った。
この城はお堀に囲まれていて、城のある敷地内に入るには中央の石橋を渡るのみで、裏と左右の城壁に緊急用の木造の跳ね橋が上げられている。だから、パレストの城のように全体を包む結界はない。
侵入が簡単で、魔女としてはありがたい。
「お、アンナちゃんがいた…」
蜘蛛の行く先が【地図】に更新されて、アンナちゃんのお部屋発見の合図代わりに黄色の丸印が点灯した。
おお、私が逃げ出した時に使った中庭に面した部屋だわ。【地図】を見ながら飛び上がり、その部屋の窓へと近づいた。
いたいた。女官さんに声をかけられ、たった今お目覚めだったようです。ちなみに、貴族のご婦人やご令嬢は、もっと遅いお目覚めですよー。なので、この世界の貴族女性は、一日二食だ。その代りに間食が多いらしいけれどね。城詰めの旦那さんたちは、どーなんだろー。
「おはよー」
女官さんが退室したタイミングで、アンナちゃんのお部屋へ【転移】し、朝の挨拶。
ええ、恐怖に固まってますよ?彼女。だから、すぐに私たちの周りを結界で囲んだ。防音だから、悲鳴は漏れない。
「お久しぶり。アズよ!」
マントのフードを取って顔を出し、【偽装】を解除した。
まだ部屋着で朝の一杯を楽しんでいたらしいアンナちゃんは、手を口元に添えたまま私を凝視ししていた。
「ア…アズさん、無事…だったんですかぁ!?だって、殿下が…」
「ええ、無事です。あれは、逃亡のための自作自演の誘拐劇だったのよ。そこ、座ってもいい?」
私だと納得しても、何をしに来たか分からない相手に警戒心は解かないよね。ちょっと怯えながら、小さなテーブルの向かいを勧めてくれた。
インベントリから、陶器のカップと入れたてのコーヒーポットを取り出した。香りで「あ、コーヒー」と呟いた彼女に、「飲む?」と訊くと、少しの躊躇の後に頷いた。【消去】で飲みかけのお茶を消し、空いたカップへ注いであげる。もちろん、ミルクと砂糖も出しておいたわよ。
「本当に、コーヒーだぁ…美味しい…」
「良かったわ、元気そうで。浄化の旅は進んでるの?」
「…まだ、半分くらいです…。一昨日帰って来て、明日までお休みなんです」
両手でカップを包み込み、お行儀悪く肘をついてコーヒーを啜っている。それがなんだか、あちらの世界のファストフードで、女高校生の彼女とお茶してるみたいな雰囲気で微笑ましくなる。試験疲れの女の子に一杯のコーヒーを奢ってあげるお姉さん?うふふふ。
「そう。頑張っているのねぇ。えらいえらい!」
「それより!アズさん、今何をしてるんですか!?なんか傭兵みたいな装備で、難しい魔法も簡単に使って…わたしより凄いですよっ」
「私?そーねぇ…今は魔女…あ、今じゃないな。ここへ召喚された時から、魔女をやってるの」
にっこり笑って、正体を明かしてみた。
急激に顔色を失くしたアンナちゃんは、小さく震えだした。
「まー――――魔女って!!」
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