63 / 90
62・愛と欲と運命と
しおりを挟む「ええ、魔女。この世界で最後の魔女。アンナちゃんと同様に、好きでなった訳じゃないけれどね」
「魔女は…災厄を呼ぶ…とか、大虐殺をしたって…」
零れそうに揺れるカップを置くと、彼女は震える唇をどうにか動かした。
アレクは聞いたことないのに、聖女様は聞かされたのか。あの忌々しい噂話を。
なにもしてないのになー。そこまで怖がるかー。
「噂では、そう言われてるわねぇ。でも私はやったことないわよ?ただしー、これからは分からない」
「え?それって…どういう意味…」
「ねぇ、アンナちゃん。あなた、あっちの世界に還りたい?」
恐怖の次は、大きな飴を出してあげよう。甘いか辛いかは、あなたの事情によるけれどね。
私も両肘を付いて顎を乗せ、じっと彼女を見つめて問いかけた。
「か、還れるんですか!?あ…でも、殿下も魔術師長も還れないと…言ってました」
飛びついたと思ったら、いきなり冷静に思い出す。
ころころ表情が変わって、可愛いなぁ。
「還る方法を見つけたの。ちょっと物騒なことを終えないとならないのが難点なんだけれど、神様から直でお聞きしました」
「神様…女神様じゃなく?」
「アンナちゃん、女神様に会った?」
「いいえ、会ってません。ただ、聖女は女神様がって聞いたしー」
私と違って聖女召喚だから、もしかしたら幻にでも会ったのかと思ったら違ったか。
「で、どうする?還る?ここに残る?」
「あ、あの、すぐに決めないとだめですか?」
「還れるのはもう少し先になるけれどさ、考えないといけない状況って柵ができちゃったってことよね?フィール王子に求婚された?」
アンナちゃんの顔に、ちらっと朱が走った。隠したつもりが隠せないのが色恋だね。
やはりかぁ。清純な女子高校生なんて、チョロいだろうなぁ。
「ちょっとだけ、それっぽいことを…でも、まだお仕事が残ってるし…」
仕方ない。隠されていることを教えておこうか。
「帰還できないと王子から教えてもらったのね?それ以外は?」
「…それ以外って?」
やはり隠されてるか。フィール王子は王太子だ。このまま行っても結婚は無理。嫁げても他の王族にだよ。だって、子供ができないんだから。
「フィール王子は王太子様よね?」
「はい…もう決まってるって言ってました。だから…」
「あのね、私達召喚者には子供ができないの。これは、グランバトロ王国の勇者だった人に聞いたから確かなことよ。だから、跡継ぎが必要な王太子様とは結婚は無理。他の王族なら分かるけれどね」
またもや顔色が変わった。あーあ、女の子の夢を潰しちゃってごめんねー。
「じゃ…じゃあ、私は騙されてるんですか!?」
「王子が好きなら、その恋心を見透かされて利用されてるんじゃないかな?だって、王子のために頑張って浄化の旅に行ってるんでしょ?」
「そ、そそ…そうですけど…」
「まぁ。もしかしたら本当に結婚してくれるかも知れないし。で、どっち?還る?残る?」
あー、いい加減に苛立って来たわ。こりゃーダメかな?嫌なら嫌でいいの。別に私は無理に連れ帰ろうとは思っていない。ただ、本人がどうしたいかを訊いてるだけだ。
と、その時、ノックと共に女官さんが声をかけて来た。朝食のためのお着換えだな。
「時間切れだわ。じゃ、還らないってことでいいわねっ」
「か!還る!還ります!!」
「ほい。では、これから起こる事と私のことは、知らぬ存ぜぬで通してね。じゃ、また来るわ」
急いで立ち上がってお茶セットをしまって結界を解除し、次の目的の場所に飛ぶ準備に入った。去り際に、ダメ押ししておこう。
「私のことを話したら、還れないと肝に銘じててね?」
扉が開けられた瞬間、私は姿を消した。
あの香ばしい香りを、女官さんは気づくかしら?アンナちゃんが責められなきゃいいけれど。
さあ、次はあの忌々しい召喚陣を破壊しだ!
【転移】で着いた先は、あの大扉の前。幸い警備兵も巡回兵もいない。必要がなけりゃ、こんな場所まで固い警備はおかないだろう。
大扉から少しだけ距離を置いて、ぽつぽつと設置された魔道具の灯りに照らされた鉄製の大扉をを睨む。
「行け!【暴風の鉾】」
仁王立ちで拳を前方へ突き出す。すると突如吹き上がった強風が、槍のように先を尖らせて錐揉み状に大扉へと突っ込んで行った。凄まじい轟音を響かせ、大扉は壁から外れて吹っ飛ぶ。厚い鉄の扉が一塊の鉄球になって、正面にあった召喚用の石舞台の側面に衝突して止まった。
ぱらぱらと石壁の破片と埃が舞う中を進み、真っ暗な召喚の間へ入る。
「【反射障壁】――――逆巻け!【煉獄の蛇王】」
破壊されて大穴の開いた出入り口に後ろ手で障壁を張り、部屋の中に灯りと迎撃要員として業火でできた蛇を天井に待機させた。
ごうごうと燃え盛る火炎を靡かせた大蛇が、高い天井付近で渦を巻く。発される高熱で、天井の石がわずかに溶け出すのが見えた。
マントとフードをかぶった完全防備の上に結界を張った私には、何の害にもならないけどね~。
城中に響いただろう破壊の音と振動に、衛兵たちが細い石廊下になだれ込んで来た。障壁に立ちはだかれて、大声で怒鳴り散らしながら必死で攻撃してくる。
剣は同じ力で持ち主の手を痛め、攻撃魔法には同じ魔法が返される。薄暗く細い石廊下は、今や大混乱だった。
「来たれ!千の暴虐 万の加虐 我に与えよ!【巨獣の鉄槌】」
あの石舞台を睨みつけながら、詠唱する。
私の魔力に反応して、舞台に刻まれた召喚陣から防御の方陣が浮き上がり出した。この陣もろとも舞台を破壊できるのは、最上級魔法しかなかった。天井や壁が落ちないように炎の蛇に指示しておく。
指先を舞台に向けて、思い切り魔力を篭めた。
それは、見えない巨人がハンマーを振り下ろしたような衝撃だった。稲光を放ちながら、舞台の中央が陥没し、次の瞬間に轟音とともに石舞台の角が四散した。
フードを深くかぶって防御していた顔を上げ、粉塵舞う空間を【看破】で眺める。
召喚陣は完全に破壊され、再構築できないほど粉々になっていた。天井も壁も、多少傷はついたが、崩れるほどの被害はなかった。
天井で待機していた炎の蛇が、鎌首を伸ばして兵士達を威嚇していた。その間に、陥没した舞台跡に、ぼんやりと浮かぶ異質な力の流れへ足早に近づいた。
「あ、これね?」
掌を近づけ、吸い取るイメージで自分の魔力を使って引き寄せた。その力は、何の抵抗も感じることなく私の中へと流れ込んで来た。暖かく清らかで無垢な力。
「大蛇よ、障壁に突っ込んで共に消えなさい。怪我人を出すんじゃないわよ?【転移】」
姿が消える寸前、業火の渦が障壁へと向かって行った。
10
あなたにおすすめの小説
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
聖女の紋章 転生?少女は女神の加護と前世の知識で無双する わたしは聖女ではありません。公爵令嬢です!
幸之丞
ファンタジー
2023/11/22~11/23 女性向けホットランキング1位
2023/11/24 10:00 ファンタジーランキング1位 ありがとうございます。
「うわ~ 私を捨てないでー!」
声を出して私を捨てようとする父さんに叫ぼうとしました・・・
でも私は意識がはっきりしているけれど、体はまだ、生れて1週間くらいしか経っていないので
「ばぶ ばぶうう ばぶ だああ」
くらいにしか聞こえていないのね?
と思っていたけど ササッと 捨てられてしまいました~
誰か拾って~
私は、陽菜。数ヶ月前まで、日本で女子高生をしていました。
将来の為に良い大学に入学しようと塾にいっています。
塾の帰り道、車の事故に巻き込まれて、気づいてみたら何故か新しいお母さんのお腹の中。隣には姉妹もいる。そう双子なの。
私達が生まれたその後、私は魔力が少ないから、伯爵の娘として恥ずかしいとかで、捨てられた・・・
↑ここ冒頭
けれども、公爵家に拾われた。ああ 良かった・・・
そしてこれから私は捨てられないように、前世の記憶を使って知識チートで家族のため、公爵領にする人のために領地を豊かにします。
「この子ちょっとおかしいこと言ってるぞ」 と言われても、必殺 「女神様のお告げです。昨夜夢にでてきました」で大丈夫。
だって私には、愛と豊穣の女神様に愛されている証、聖女の紋章があるのです。
この物語は、魔法と剣の世界で主人公のエルーシアは魔法チートと知識チートで領地を豊かにするためにスライムや古竜と仲良くなって、お力をちょっと借りたりもします。
果たして、エルーシアは捨てられた本当の理由を知ることが出来るのか?
さあ! 物語が始まります。
失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~
紅月シン
ファンタジー
聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。
いや嘘だ。
本当は不満でいっぱいだった。
食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。
だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。
しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。
そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。
二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。
だが彼女は知らなかった。
三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。
知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。
※完結しました。
※小説家になろう様にも投稿しています
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる