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本編
日々の終り
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その日、青年と男は中庭にいた。青年に連れて来られて、彼が育てている植物にじょうろで水をやっているのを見ていた。庭師は別にいるようだが、この花壇だけ青年が手入れをしているようだ。
「クロもお水あげてみる? はい! 貸してあげる」
「俺はいい」
「そっか……」
しょんぼりする青年を横目に、男は周囲を見渡した。
館の周りは森に囲まれている。森の中には川も流れ込んでいて、小さな湖もあるらしい。おそらく自分はその辺りで発見されたのだろう。
「湖があるなら釣りにでもいくか」
「えっ!? クロが僕のこと誘ってくれた!」
「そんなに喜ぶな」
この館がどの辺りにあるのか、青年に聞いてもずっと要領を得なかったので、そのうちに調べようと思っていた上での発言でもあったが、青年はひどく喜んだ。
「だって君から僕に、一緒に何かしたいって初めてじゃない?」
この植物たち同様に奇形の魚が釣れるかも知れないとふと思い付き、男は少し気が重くなった。
この現象は異界と繋がる青年や大量の魔物が一ヶ所にがいることの影響なのか、全然関係ない別の理由なのか。人も影響を受けているのだろうか。
もしこのまま世界が異界の魔物たちに覆われてしまったら、もしかしてそれが普通になってしまうのか……。
「あ、そうだ!」
いきなり青年が声を上げた。
「どうした」
「あのね、もうすぐ旦那様が帰ってくるんだよ! 連絡があったんだ♡」
「そうか」
「久しぶりに会えると思うと嬉しいな♡」
青年は幸せそうにはにかんでいる。
「……良かったな」
「うん!」
彼の伴侶がどんな奴かは全く分からない。青年の話から聞く話を総合するに、かなりの実力を持つ魔術師らしいと察せられた。
果たして解逅したとして、『魔王』と異称されるような相手に自分がかなうのか。その男が戻って来る前が青年を殺す最後のチャンスだろう。
「じゃあ、湖に行くのは旦那様が帰って来てからの方がいいかなあ? いつも大体の日程だけで何日にいつ帰るか教えてくれないから……」
「いや、行こう」
「んー……、うんそうだね! きっとそんなにすぐには帰って来ないし、行くっ!」
青年は男の思惑など全く気付く様子もなく、はしゃいでいる。
「ピクニックなんて何年も行ってないから楽しみだなあ!♡ お弁当作るね!」
男は初めて、この館に来てからの日々を惜しいと思った。
青年は張り切って、準備があるからと湖に行くのは数日後に決まった。
その間男の心は何も感じていなかった。いや、自分の心が、感じないようにしているのだと思った。
青年を憎み続けるのはとっくに不可能だった。この青年に対する感情が何であるかは分からないが、確かに自分は彼に愛おしさを感じている。
はっきりと気付いてしまった。
だが、異形の魔物たちに溢れる世界を救える、人の手に取り戻せる可能性の鍵が、今の自分の手にある。
それを放り出したとしたら、己の心による呵責に耐えられる自信がなかった。
「今日はクロと一緒に寝ていい?」
そう言って青年は男の寝台に入って来た。
「今日は……」
「ううん、何もしなくていいから。楽しみで眠れそうにないから、クロと話しながら眠りたいだけ」
男は仕方なく寝台に受け入れた。
青年は隣に横たわった。
「君は不思議な人だよね」
「……?」
「こんな変な僕を助けてくれて優しくしてくれて……」
「お前だって俺を助けた」
「うん」
「というか変だって自覚があったんだな」
「ひどいっ」
「もう寝よう。明日早いから」
やがて寝息が聞こえてきて、男も目を閉じた。
(明日になったら……全部終わる……)
「クロもお水あげてみる? はい! 貸してあげる」
「俺はいい」
「そっか……」
しょんぼりする青年を横目に、男は周囲を見渡した。
館の周りは森に囲まれている。森の中には川も流れ込んでいて、小さな湖もあるらしい。おそらく自分はその辺りで発見されたのだろう。
「湖があるなら釣りにでもいくか」
「えっ!? クロが僕のこと誘ってくれた!」
「そんなに喜ぶな」
この館がどの辺りにあるのか、青年に聞いてもずっと要領を得なかったので、そのうちに調べようと思っていた上での発言でもあったが、青年はひどく喜んだ。
「だって君から僕に、一緒に何かしたいって初めてじゃない?」
この植物たち同様に奇形の魚が釣れるかも知れないとふと思い付き、男は少し気が重くなった。
この現象は異界と繋がる青年や大量の魔物が一ヶ所にがいることの影響なのか、全然関係ない別の理由なのか。人も影響を受けているのだろうか。
もしこのまま世界が異界の魔物たちに覆われてしまったら、もしかしてそれが普通になってしまうのか……。
「あ、そうだ!」
いきなり青年が声を上げた。
「どうした」
「あのね、もうすぐ旦那様が帰ってくるんだよ! 連絡があったんだ♡」
「そうか」
「久しぶりに会えると思うと嬉しいな♡」
青年は幸せそうにはにかんでいる。
「……良かったな」
「うん!」
彼の伴侶がどんな奴かは全く分からない。青年の話から聞く話を総合するに、かなりの実力を持つ魔術師らしいと察せられた。
果たして解逅したとして、『魔王』と異称されるような相手に自分がかなうのか。その男が戻って来る前が青年を殺す最後のチャンスだろう。
「じゃあ、湖に行くのは旦那様が帰って来てからの方がいいかなあ? いつも大体の日程だけで何日にいつ帰るか教えてくれないから……」
「いや、行こう」
「んー……、うんそうだね! きっとそんなにすぐには帰って来ないし、行くっ!」
青年は男の思惑など全く気付く様子もなく、はしゃいでいる。
「ピクニックなんて何年も行ってないから楽しみだなあ!♡ お弁当作るね!」
男は初めて、この館に来てからの日々を惜しいと思った。
青年は張り切って、準備があるからと湖に行くのは数日後に決まった。
その間男の心は何も感じていなかった。いや、自分の心が、感じないようにしているのだと思った。
青年を憎み続けるのはとっくに不可能だった。この青年に対する感情が何であるかは分からないが、確かに自分は彼に愛おしさを感じている。
はっきりと気付いてしまった。
だが、異形の魔物たちに溢れる世界を救える、人の手に取り戻せる可能性の鍵が、今の自分の手にある。
それを放り出したとしたら、己の心による呵責に耐えられる自信がなかった。
「今日はクロと一緒に寝ていい?」
そう言って青年は男の寝台に入って来た。
「今日は……」
「ううん、何もしなくていいから。楽しみで眠れそうにないから、クロと話しながら眠りたいだけ」
男は仕方なく寝台に受け入れた。
青年は隣に横たわった。
「君は不思議な人だよね」
「……?」
「こんな変な僕を助けてくれて優しくしてくれて……」
「お前だって俺を助けた」
「うん」
「というか変だって自覚があったんだな」
「ひどいっ」
「もう寝よう。明日早いから」
やがて寝息が聞こえてきて、男も目を閉じた。
(明日になったら……全部終わる……)
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