万年ネタ切れ作家、勇利愛華の邪推録

さいだー

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モンブランの悪魔9

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 SideY





 腰越祭を楽しもうと、あちらこちらを回っていた矢先、汐音に呼び出されてやってきた1-Cクラスはかなり空気が悪かった。
 
 扉を少し開いた瞬間に察知してすぐに閉めようと思ったのだけれど、必死な立花くんによってこじ開けられた。

「待ってたぜ。愛華」


「……どういう状況なわけ?」


 入りたくないなかったのだけど、入らないわけにはいかなかった。

 汐音に呼び出された瞬間から嫌な予感はしていたのだけれど、私が想像していた以上かもしれないわね。


「ちょっと面倒な事になってよ。この前みたいにちゃちゃっと解決しちゃってくれよ!」


「はあ?はあ……」


 思わずため息が漏れた。何故かと言えば察してしまったからだ。
 立花くんの言う、『この前』というのはおそらく、あじさいの件か五頭竜の件。

 つまり、なにか問題が発生して、それを私に解決してほしいという事。

 汐音が笑顔で教室の真ん中に来るように手招きをする。

 汐音を中心とするようにお揃いのクラスTシャツに身を包んだ生徒達が座っている中央だ。

 行きたくないな。嫌嫌教室の中央へ歩いていく途中、窓際のカーテンの所で腑抜けた顔で目も虚ろな杉浦君の姿も見えたけれど、そちらはあまり見ないようにして汐音の横に立った。

「みんな。聞いて、彼女は色んな事件を解決してきた名探偵なの。彼女にかかればこんな問題チョチョイのちょいだよ!」

 迷探偵の間違いなではないだろうか。
 今まではたまたま運良く解決できただけ。
 今回、なにがあったのかは知らないけれど、あまり過度な期待はさせないでもらいたいわね。

 というか、まだ受けるなんて一言も言ってないのだけどね。

「チョチョイのちょいってそんな言葉最近聞かないわよ?」

 私の突っ込みを無視するように、汐音は話を進める。

「彼女はこう見えて、作家でもあるのです。『ハツコイノオト』って小説はみんな知っているかな?」

 なぜが汐音は得意げだった。

 少し教室内がざわつく。

「『ハツコイノオト』ってあの『ハツコイノオト』か」

「知らないの?ここの卒業生だって有名な話じゃん」

「えっ本当に!?後でサイン貰わなくちゃ」

 汐音は周囲の反応に満足したのか何度か頷いた後で咳払いをしてから口を開いた。

「御存知のようね。そんな先生が来てくれたからもう安心!」


 教室中で、「それだったら任せてもいいかもな」
 とか「ぜひお願いしようよ」とか肯定的な空気が流れる。

 最初教室に入った時の空気が嘘みたいに。弛緩した、緊張感の無くなった空気に変わる。

 しかし━━━━一人の男子生徒が立ち上がると口を開いた。

「おいおい。みんな騙されんなよ。こいつらが連れてきた奴だぞ?そんな簡単に信用して良いのかよ?俺は反対だね。全部そこのおっさんに責任取ってもらえばそれでいいだろ」

 勝ち気な雰囲気の男子生徒は立花くんを指差しそう言った。

 なんとなく雰囲気でわかっていたけど、問題を起こしたのは立花くんなのね。

 まったく……懲りない人ね。

「だから、俺は何もやってないって。モンブランをすり替えちゃいないし、模型も隠しちゃいない」

 必死な様子で抗議する立花くん。

 なるほどね。こんな感じで話し合いは平行線を辿っていた。
 そういうことね。

 なんとなく理解はした。

「とりあえず……なにがあったのか説明をしてくれるかしら」

「そんな必要はない!責任を全部取ってくれればそれでいいんだ!」

 勝ち気な男子生徒は立花くんに歩み寄り、キスしてしまうじゃないかってくらいの距離まで顔を詰める。

 たじたじな様子で立花くんは後退りをする。

「ちょっと待ちなさい。日本では疑われた場合、弁護をしてもらう権利があるのよ。詳しくなにがあったのかは知らないけれど、ひとまず立花君から離れなさい」

 言って勝ち気な男子生徒を立花くんから引き離す。

「……別にあんたがそいつの弁護をするのは構わないけど、後悔するのはあんただと思うぜ」

 立花くんはバカでどうしようもないけれど、嘘だけはつかない。それを私はよく知っている。きっと何かの間違いがあって疑われているだけ。

「後悔したのならそれば、それで構わないわ。まずは詳しい話を聞かせて」



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