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決死の覚悟2
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「ロウエあまり動かないでよ」
「見えないんだから大丈夫だよ」
左手はマリエスと手は繋いだまま、右手では草むらで拾った良い感じの木の棒を振り回していた。
これは素振りと呼べるようなものでは決してなく、暇を持て余したただの手遊びなのだけど、なんとなく止める気にはなれなかった。
「というか、見えてないのに僕が動いている事がわかるんだね」
素直に感心しながら棒を振り続けると、マリエスは呆れたように一つため息をつき。
「ビュンビュン音がしてるよ……だから誰にだってわかっちゃうよ。それに、屈折のハンイも変わるから、ロウエがどんな動きをしているのか全部わかっちゃうんだから」
「へー。そうなんだ。だったらやめる」
マリエスに僕の動きを把握されるのは構わないけど、白銀にこちらの居場所を察知されるのは困る。すぐに木の棒を投げ捨てると、僕の体から離れ
た事で唐突に湧き出たように木の棒がポトリ地面に現れる。
何度見ても不思議な光景だ。
「ろ、ロウエ……」
聞き取るのもやっとの小さな声。聞き取る事に集中していなければ声なのか吐息なのか判断がつかないであろう押し殺した声。
たけど、僕は気がつくことができた。
その直前に、マリエスが僕の手を強く握ったからだ。
異変に気がついた僕も、マリエスの手を強く握り返した。前方から放たれる威圧感に体が強張ってしまったからだ。
「は、白銀……」
自ら望んでおびき出した白銀の獣。その姿が張り倒された木々の向こうから迫ってくる。
鼻をひくつかせ、何かを探しているような素振りを見る限り、生肉の臭いに誘われてきたのは間違いないだろう。
一歩、また一歩と白銀がこちらに迫るたびに緊張感が増していく。
白銀が一歩進む度に、マリエスが僕の手を握る強さが増していく。
僕はつい全日、白銀に襲われた事を思い出し、背筋に薄ら寒い物を覚える。
ヒグマのようなフォルムに逆だった白銀の毛。
何でも張り倒してしまうであろう極太の前足。
目の前にしてみると、倒せるビジョンが全く浮かばない。
それはもちろん、策がない場合だが。
僕たちの緊張を知る由もない白銀の獣は、一歩、また一歩と着実に肉に向かって進んでくる。
そして、僕たちから見て十メートル程の距離の所で肉を見つけると、鼻を近づけ強い関心を見せる。
臭いを嗅いでいるだけかと思っていたら、人間のように地面に座り、極太の両前足を器用に使いこなして肉を持ち上げると口元へ運んだ。
よし!あとは眠り薬が効いてくさえすれば、非力な僕たちにでも止めを刺すことは容易なはずだ。
ガフガフと言いながらとても上品とは言えない咀嚼をしたあと、白銀の獣は肉を飲み込んだ。
「えっ……!?なに!?」
次の瞬間、白銀の獣の体から眩い光が放たれる。
とてもではないが、直視していられない程の光。
暗闇で唐突に懐中電灯の光を顔に当てられたような不快感。
僕は白銀の獣から目をそらした。
姿は見えないが、きっとマリエスもそうしているはずだ。
目をそらし、まぶたを閉じていても前方から光が放たれている事が理解できる程で、その光の放出は体感で数分にも及んだ。
完全に光が収まったと判断して、白銀の獣が居た方向に視線を戻すと、再度驚愕する。
そこに白銀の獣の姿はなく、そのかわりに白がくすんだようなグレー色の毛皮の生物が横たわっていた。
風貌も白銀の獣とは異なり、細い腕に重力に逆らうことなく地面に向かい生えている毛。
かろうじて顔は白銀の獣に似ているような気がするが……
「あれ……白銀は?」
マリエスも同じ感想を抱いたようで、小声でそんな事を言っていた。
警戒を解かないまま、周囲を見回してみるが、僕とマリエス、そして、目の前で転がっている薄汚い獣以外に姿はない。
そこからしばらく周囲の観察をし続けたが、白銀の獣が再度現れる事も無ければ、薄汚い獣が目を覚ますこともなかった。
「見えないんだから大丈夫だよ」
左手はマリエスと手は繋いだまま、右手では草むらで拾った良い感じの木の棒を振り回していた。
これは素振りと呼べるようなものでは決してなく、暇を持て余したただの手遊びなのだけど、なんとなく止める気にはなれなかった。
「というか、見えてないのに僕が動いている事がわかるんだね」
素直に感心しながら棒を振り続けると、マリエスは呆れたように一つため息をつき。
「ビュンビュン音がしてるよ……だから誰にだってわかっちゃうよ。それに、屈折のハンイも変わるから、ロウエがどんな動きをしているのか全部わかっちゃうんだから」
「へー。そうなんだ。だったらやめる」
マリエスに僕の動きを把握されるのは構わないけど、白銀にこちらの居場所を察知されるのは困る。すぐに木の棒を投げ捨てると、僕の体から離れ
た事で唐突に湧き出たように木の棒がポトリ地面に現れる。
何度見ても不思議な光景だ。
「ろ、ロウエ……」
聞き取るのもやっとの小さな声。聞き取る事に集中していなければ声なのか吐息なのか判断がつかないであろう押し殺した声。
たけど、僕は気がつくことができた。
その直前に、マリエスが僕の手を強く握ったからだ。
異変に気がついた僕も、マリエスの手を強く握り返した。前方から放たれる威圧感に体が強張ってしまったからだ。
「は、白銀……」
自ら望んでおびき出した白銀の獣。その姿が張り倒された木々の向こうから迫ってくる。
鼻をひくつかせ、何かを探しているような素振りを見る限り、生肉の臭いに誘われてきたのは間違いないだろう。
一歩、また一歩と白銀がこちらに迫るたびに緊張感が増していく。
白銀が一歩進む度に、マリエスが僕の手を握る強さが増していく。
僕はつい全日、白銀に襲われた事を思い出し、背筋に薄ら寒い物を覚える。
ヒグマのようなフォルムに逆だった白銀の毛。
何でも張り倒してしまうであろう極太の前足。
目の前にしてみると、倒せるビジョンが全く浮かばない。
それはもちろん、策がない場合だが。
僕たちの緊張を知る由もない白銀の獣は、一歩、また一歩と着実に肉に向かって進んでくる。
そして、僕たちから見て十メートル程の距離の所で肉を見つけると、鼻を近づけ強い関心を見せる。
臭いを嗅いでいるだけかと思っていたら、人間のように地面に座り、極太の両前足を器用に使いこなして肉を持ち上げると口元へ運んだ。
よし!あとは眠り薬が効いてくさえすれば、非力な僕たちにでも止めを刺すことは容易なはずだ。
ガフガフと言いながらとても上品とは言えない咀嚼をしたあと、白銀の獣は肉を飲み込んだ。
「えっ……!?なに!?」
次の瞬間、白銀の獣の体から眩い光が放たれる。
とてもではないが、直視していられない程の光。
暗闇で唐突に懐中電灯の光を顔に当てられたような不快感。
僕は白銀の獣から目をそらした。
姿は見えないが、きっとマリエスもそうしているはずだ。
目をそらし、まぶたを閉じていても前方から光が放たれている事が理解できる程で、その光の放出は体感で数分にも及んだ。
完全に光が収まったと判断して、白銀の獣が居た方向に視線を戻すと、再度驚愕する。
そこに白銀の獣の姿はなく、そのかわりに白がくすんだようなグレー色の毛皮の生物が横たわっていた。
風貌も白銀の獣とは異なり、細い腕に重力に逆らうことなく地面に向かい生えている毛。
かろうじて顔は白銀の獣に似ているような気がするが……
「あれ……白銀は?」
マリエスも同じ感想を抱いたようで、小声でそんな事を言っていた。
警戒を解かないまま、周囲を見回してみるが、僕とマリエス、そして、目の前で転がっている薄汚い獣以外に姿はない。
そこからしばらく周囲の観察をし続けたが、白銀の獣が再度現れる事も無ければ、薄汚い獣が目を覚ますこともなかった。
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