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第3章 沖縄防衛戦

第20話 四国沖防空戦

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 1945年3月18日。
 アメリカ海軍第58任務部隊は、沖縄攻略の為に日本本土の作戦行動力を奪う為に九州周辺攻撃のための準備を進めていた。
 
「日本本土への攻撃ね」

 空母フランクリン所属の戦闘機隊隊長のジョンソン・マスカー・フランクリン大尉は、甲板の隅で昇ってくる朝日を眺めながら呟いた。

「撃墜スコアを稼ぐにはいい機会だぜ、ジョン」
「それぞれの小隊で賭けをしているだ、あんたはどの小隊に賭ける?」

 別の小隊の隊長で、訓練学校時代からの友人でもあるカルロ・ゼンロー中尉とマック・ローゼン中尉がクッキーの缶に乱雑に詰められた紙幣を持って現れた。

「もちろん俺の小隊に賭ける」
「だよな、流石我らのエース」
「1人の腕じゃどうしようも無い気がするけどな」
「「「ハハハハ!」」」

 しばらく談笑していると警報が響き渡った。
    
『敵機接近!機数1偵察機と思われる。迎撃隊はすぐさま発艦せよ!繰り返す発艦せよ!』

 すぐさま発艦可能な機体が空母から発艦していくのが見えた。

「偵察機か、敵さんもまだ、諦めて無いんだな」
「まぁ、すぐに落とされるだろう?マートで無ければの話だがな」

 2人の声を聞きながら飛んでいる敵機を見ていた。

(あの機体、双発機だな、あの高度だとグラマやコルセアでも追いつけないな)

 そう思いながら様子を見ていた。1時間もしないで迎撃に上がった機体が帰ってきたかので話を聞くと

「見たこともない双発機だった。ベティでもダイナでも無かった。追いつこうにもコルセアの最高速度でも差が縮まるどころか離れて行った」

 それを聞いたパイロットや甲板員たちは、信じられれないと言う顔をしたり、新型機の可能性もあるなど様々な話が出ていた。

(今回の作戦は荒れるな)

 そんな事を思っていると出撃命令が下り、愛機に乗り込んだ。
 この時の予感が最悪の形で現れる事をフランクリン大尉知らなかった。




 その頃、雲雷3号機からの報告を受けた松山飛行場と呉基地では、市街地に防空サイレンが鳴り響き、市民が防空壕に避難の為に走り回っていた。
 呉基地では、生き残りの艦船の乗員が対空砲や機銃用の弾薬を運び込んだり、移動させたりしていた。
 松山基地では、三四三航空隊の機体が出撃のために滑走路でエンジンを回しながら待機していた。偵察機からの敵機の精確な位置を掴めなければ、上空に上がっても燃料が減ってしまい、空戦の時間も短くなってしまう。
 搭乗員たちは、今か今かと出撃を待っていた。

「まだ、敵は見つからないのか?」
「慌てても見つからない物は見つからないですよ」

 戦闘三○一中隊新選組の菅野大尉は、苛立ちを隠そうともせずに愛機のそばでタバコを乱雑に吐き捨てるとそのままブーツで踏み消した。
 それを落ち着かせようと能上大尉は、なだめるような声をかけたが対して変わらなかった。
 近くの椅子にどかっと座ると同時に警報が鳴り、放送が入った。

『雲雷三号機、並びに彩雲一号機から通信、四国沖四百キロに敵編隊およそ三百を視認との連絡あり、全航空隊は直ちに出撃せよ!繰り返す、直ちに出撃せよ!』
「聞いたな!行くぞ!!」

 その声を合図に紫電改に乗りこみ離陸して行った。
 神国海軍の方は、離陸後から三十分後に出撃する。その頃には、剣部隊が空戦が始まっている予想で、剣部隊は補給に戻り、白蛇部隊が残敵を攻撃、別働隊を迎撃する。
 その間に補給を完了させた剣部隊が第二波を警戒する計画で、各電探施設や見張り台からの報告を待っている。



 米軍の攻撃隊は、四国を尻目に真っ直ぐに呉基地を目指して進行していた。
 SBC1ヘルダイバーとTBFアベンジャーを中心にF6FヘルキャットとF4Uコルセアが複数の編隊に分かれて警戒していた。一部のヘルキャットはロケット弾と爆弾を搭載し、対地攻撃任務を任されていた。

「しっかし前に偵察に出ていた爆撃機の話だと攻撃されると思ったら横に並んで飛んで敬礼してきたらしい」
「それが新型か?」
「ああ、1万を飛んでいた筈なのにあっとゆう間に上ってきた」
「かなりの上昇力だな」
「外見がヘルキャットに似ていたって言ってか」

 その話が気になり何となく太陽の方向に視線を向けると別の編隊が目に入った。

(別の編隊か、しかし、あんな位置を飛行する予定なんてあったか?)

 疑問に思っていると雲の影に編隊が一瞬入った。その際に目に入ったのは、星のマークではなく、赤い丸だった。

「っ!?2時方向敵編隊!23000フィートの高さにいる」

 慌てて無線に向かって叫んだ。

 四国沖にて日本海軍三四三航空隊とアメリカ第58任務部隊との空戦が始まった。
 予め彩雲や雲雷からの情報で先回りをして上空で待機していた。
 敵編隊を目視で確認した剣部隊は上空から太陽を背に一気に急降下して先頭の編隊に襲いかかった。
 流石の防御力を誇るアメリカ製のヘルキャットやコルセアでも奇襲を受けた上に20ミリ機関砲の直撃を受けては、いくら打たれ強い機体でもどうにもならなかった。
 更に降下速度を利用して上昇し、状況の理解出来ていない後続に降下速度を利用して下から20ミリ弾を叩き込んで次々と撃墜していく。

「クソ!ジャップめ!」

 護衛戦闘機隊を率いるF4Uコルセアのパイロットが悪態をつく。
 その機体の両翼に8発のロケット弾を抱えていた。

「畜生!ゼロじゃない!?新型か」
「追いつけない!やたら速い!」

 爆弾を捨てて迎撃に向おうとするが相手の機動性と速度が速く、まるで歯が立たなかった。
 そして目の前の機体に意識が行っていたところを後方から別の紫電改が彼の乗る機体に20ミリ弾を多数撃ち込み、機体を空中分解させる。
 攻撃機隊の彼らは必死に逃げ惑うしかなかった。
 一方、アメリカ軍もただ逃げ回っているわけではなかった。
 彼らも必死で応戦していたのだ。
 しかし、今までの様にサッチ・ウェーブ(2機2組でA組が追われているのを下から交差するように動きでB組が動き、敵がそのままA組を追うとB軍の正面になる様に動く戦法)仕掛けたがそもそも相手も同じサッチ・ウェーブをする上に機体性能もパイロットの腕も違う。
 ベテランのパイロットは気が付きすぐに回避行動をするが僚機である経験の浅い、あるいは新人のパイロットでは、そうは行かない。

「クソ!何なんだコイツら!!」
「今までのやつらと動きが違う!」
「後ろに付かれた助けてくれ!!」
 
 空戦は一方的と言っていいほどの状態だった。アメリカ軍も反撃して何機かの日本軍機を墜としているがそれ以上に自分たちの機体が落ちている。
 数十分間にも及ぶ空戦でアメリカ軍は護衛機の半数以上が撃墜、または、被弾しバラバラに母艦への進路を取っていた。

「サミー、大丈夫か?」
「はい、機体は何とか飛べます。ですが最初の被弾でロケット弾と爆弾が投棄出来ません」
「こちらロブ、ヨーが1枚飛んでバランスが悪いですが、何とか飛行出来てる状態です」
「自分は、計器がやられました。無線は奇跡的に繋がりますが、あとどれぐらい飛べるのやら」

 イェーガー大尉は、自分の小隊の生き残りを集め、母艦へ帰投していた。自身の愛機も被弾し、左翼には大穴が空き、昇降舵も1枚折れていた。
 それでも何とか飛行しているのは、彼の技術によるものだ。

「あの新型、話に聞いていたゼロとも全く違う性能でした」
「ああ、俺自身もゼロとは何度もやり合ったが、旋回性能は、ゼロより低いが火力と速度、防御力は遥かに奴らのほうが上だ」
「よく生き残れましたね」
「運が良かったんだよ。運が」

 彼らは、追撃が無いことをラッキーと思い戦場から離れた。


 護衛機が敵の相手をしている内に攻撃機は、数機の被害を出しながらも呉港を視界に収めていた。雷撃隊と爆撃隊に別れようとした瞬間、先頭を飛行していた編隊長のヘルダイバーがバラバラになった。
 そのまま、後続のアベンジャーやヘルダイバーも複数がバラバラになって墜ちた。それと同時に編隊の合間を青い機体と緑の機体が通り過ぎていた。
 そう、彼らは神国海軍の白蛇部隊の攻撃を受けた。

「ち、ちくしょう!!何なんだあの機体の!?」
「速すぎる!?」
「日本の新型機だ!」

 パイロット達は、迎撃に上がっていた剣部隊を抜けたので後は、基地周辺の対空砲や艦船に気を付ければいいだけだと思い完全に油断していた。
 下方に機銃のあるアベンジャーは、下から上がってくる陣風に銃撃するが威嚇程度もならず、再び攻撃をうけ、数を減らす。
 流石に20ミリ6門に13ミリ4門の攻撃を躱そうと旋回しても動きの鈍い攻撃機では、胴体は外れても翼に数発の20ミリ弾を受ければあっさり折れて墜ちていく。

「各機編隊を密にしろ!編隊を密にしろ!!」
「後ろに付かれた!」
「死にたくねぇよ!?助けてくれ!!」

 動力銃座があるアベンジャーとはいえ、B17やB29の様に多数の機銃があるわけでも無いため、編隊を密にしても当たりどころが悪くない限り、墜ちる事のない陣風にとっては良い的でしかない。
 その後、僅か十数分の空戦で、200機近くいた攻撃隊は全滅した。生き残り、母艦へと帰還出来たのは、早々に魚雷や爆弾を投棄して引き換えした数機ののみだった。
 生き残りの証言からこの空戦をアメリカ軍のパイロットは、悪魔の領域に足を踏み込んだと話し、同じ様に帰還してきた護衛隊も化け物地味た部隊と闘った、と話した。
 この事は噂となり、パイロットや艦隊兵士から九州から四国、中国地方のことをヘルズ・エリアと呼び、恐れられた。特に稲妻のマークの付いた緑の機体と青い機体を見たら逃げろと言われる程危険視された。
 日本、神国側も少ないが被害を受けたがアメリカ軍に比べればマシだった。
 撃墜され脱出したアメリカ軍パイロットは、民間人に殺される前に憲兵や警察、陸軍が捕虜にして丁寧に扱った。民間人と衝突しそうになった際には、土下座までして説得した兵士もいたそうで、それを見たアメリカ軍のパイロットは後に、捕虜から帰国するまでの事を本にして出版した。
 最後のページにはこのような事が書かれていた。

「見ず知らずの私を助ける為に彼らは、頭を下げて必死に説得してくれた。彼らが居なければ、私は民間人になぶり殺しにされていただろう。それだけの事をアメリカ軍はしてきたのだから。彼らの行動は、彼らからしたら当たり前だったのかも知れない。しかし、私からしたら真の心のある人間にしか出来ない事だ。私に出来るのは、このことを風化させないことだけだ」

 硫黄島の話しと合わさって、黄色人種を差別してきたアメリカ人達は、この事が浸透するに連れて考えを改めていく。アメリカでは有名な話だが日本では、ほとんど語られることの無い実話。無名の兵士が起こした奇跡とアメリカでは言われている。
 2人が再開出来たのは、終戦から50年後だった。




 












    
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