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餼羊編
ep13 パレットは色を落とし白に戻る
しおりを挟む「手に入った情報はそれらで全部?…」
「うん、一応」
一通り話を聞き終えた東真は何処か怯えていた
メアリーとの遭遇から二日が経とうとしている
その間自分はずっと眠っていたらしいが
リータと深手を負った楽斗もまだ目を覚ましていない
ひと足早く起きた自分は彼に話していたのだ
勿論、手に入れた傀儡者についての情報を
「とりあえずメモは取ったけど……
にわかには信じがたい話だね」
「わかるよ、自分もそうだった」
ペンを指で回しながら話す東真に相槌を打ちながら
自分は味のしない携帯食料を噛じっていると
何処か腑に落ちない顔をした東真が
「誠士郎はその傀儡者である
メアリーに挑んで負けたんだよね?」
「うん、彼女によって気絶させられた……
ソレだけは確実に覚えてる」
「それなのに、目を覚ますと彼女は倒れてた……
そうだったんでしょ?」
「自分の記憶が正しければそうなるね…………」
「なら…誰がその強いメアリーを倒したの?」
自分は東真にそう聞かれて沈黙してしまう
彼はその様子を見たあとまた口を開き
「巨大ゾンビを倒したあとに
俺と美九とリータは先に学校に戻ったけど
その後、リータが駆けていったんだよ」
「あ、、、」
そうだった、確かにそうだったのだ
倒れているメアリーの側には傷付いたリータの姿が…
今更ながらその事に気づいた自分が恥ずかしい
自分自身に呆れる自分を傍らに東真は
「ってことは…リータが倒した……のかな?」
「……………………………」
そう疑問を投げかけるが自分は沈黙してしまう
正直、リータが何か言ってた気がするのだが
如何せん当時の記憶が曖昧なのである
ただ一つだけ言えることとして
「メアリーの強さは桁違いだった……
自分の無力さを本当に思い知ることとなったよ」
「らしくないなぁ、誠士郎…
まぁ、誠士郎にそこまで言わせるほどの強者に
あの温厚なリータが挑んで気絶させたなんて……
少し考えにくいんだよな」
眉間に皺を寄せながら東真はノートを閉じ
長考しているのかしばらく沈黙したあと口を開く
「そう思わないかい、誠士郎?
そもそもリータが戦う所すら見たことないし
あの華奢な身体ではどうしようもない気がする
しかし…リータには何かあると思うんだ」
「…………………」
東真はいつになくリータに関して食い気味だった
記憶も身寄りもない彼女を怪しむ気持ちはわかるが
それでも余り良い気分にはなれなかった
話題を逸らすためにも自分は
「………次回から傀儡者との戦闘は避けるべきだね
全員で生き残ることが何よりも優先すべきだし
同じ轍は踏まないように頑張るよ 」
「了解したよ、誠士郎」
その後少し外の空気が吸いたくなり保健室を出る
正面玄関から校庭へと向かうと美九が居た
自分に気づいたのかこちらに駆け寄ってくる
丸二日寝ていたのはかなり彼女を堪えさせたらしく
「誠ちゃん…!長い長い眠りだったね……
今はもう平気?…………」
「うん、心配かけてしまってごめん……
美九のおかげだよ、本当に」
ううん、私なんて…そう静かに美九は言ったが
負傷した自分と楽斗、リータの手当てをしたのは
他でもない彼女なのだ
「楽斗とリータはまだ起きないけど…
あの二人もきっと大丈夫だよ、だから………… 」
糸が切れたように自分の言葉は途切れてしまう
何故美九が校庭に来ていたのかを理解したからだ
彼女は独りで泣きにきていたのだ
皆が居る前で涙しては心配させるから
自分より疲れているであろう皆を気遣いたいから
優しい彼女だからこその"その選択"に自分は
「美九、あのね…………」
「私"……泣いてなんかないから………」
予想外な彼女の発言に軽く驚かされるが
彼女のその様子が何処か微笑ましく
「うん、知ってる知ってる」
「楽斗が………… 」
「………?」
「誠ちゃんが少し前に冷蔵庫に保管していた
チョコ食べたのは…?」
「いや……それは知らなかったよ!
何故か見つからない理由が今やっとわかったよ!」
余程可笑しかったのか美九はお腹を押さえ笑っている
自分はその様子を見て少し安心した
その後、他愛のない話を続けたあとに自分は
「やはり、楽斗の負傷が一番酷かった?」
「ううん 」
「え………!?」
彼女の即答に今度は本当に驚かされた
しかし冗談を言っているようには見えなかったため
彼女の返答を待つことにすると
「楽斗の身体中には痣と切り傷があったの……
大きな打撲はあったけどでも骨折はしてなかった」
「誠ちゃん、名前を教えてほしいよ
誰がこんな残酷なことをしたの?…………」
楽斗の現状を知れてとりあえず安心したが
美九のこの発言には2つほど疑問が生じている
1つ目として
一番酷い怪我を負ったのは楽斗ではないなら…
誰が一番酷い負傷をし危険な状態にあるのか
2つ目として美九の話によると
比較的軽症な楽斗の話をしている際に彼女は
何故、"残酷"という言葉を用いたのか
母親の喪失から立ち直りつつある彼女が
この世界で初めてその言葉を声に出したのだ
その真意には一体何が隠されているのだろうか
「黒ドレスを身に纏った銀色の髪の少女…
名前はメアリー」
「…………………」
名前を言っただけでも嫌な記憶が蘇ってくる
ご機嫌な口調で遊び半分に楽斗を痛めつけた反面
少女は妙に頭の回転も速く戦闘慣れしていた
その名前を聞いて沈黙する美九に自分は
「楽斗より深手を負っている人がいるの?」
「うん、リータちゃん……」
「え、リータが…?」
何かと今日は皆リータに言及することが多いようだ
自分がリータの名を復唱した際に
美九の表情が明らかに歪んだことがわかった
そして次の瞬間、自分は絶句してしまう
「リータちゃんは両腕が骨折していたの………
そして頬骨にもヒビが入ってしまっているみたい」
最も深手を負っていたのは他でもないリータだった
しかし何故彼女が負傷したのかわからない
謎が謎を呼ぶ事態に自分はただただ沈黙していると
こちらを覗き込むように見つめながら美九は
「楽斗は痛めつけられたの……?」
「うん、でも打撲で済んで良かった……
アイツ鎖骨を折られたーとか本気で言ってたからさ」
「……楽斗のことだし治っちゃったのかな?」
「美九、流石にソレは再生能力高すぎると思うよ
明らかに人間レベルじゃないから」
「そうだよね」
美九はそう応えて苦笑していた
実は一瞬だけ彼女は震えているように見えたが
気のせいだと声を掛けなかったことを後悔している
~~~~~~~~~~~
美九side
私を気遣おうとしていたのだろう
直ぐに誠ちゃんは保健室へと戻ってしまった
2日で骨折が治るなんて
ソレは人間レベルの再生能力ではあり得ない
当たり前の言葉が頭のなかを何度も反芻する
未だに私の身体は微かに震えているのだ
あの時から震えが止まらない
リータちゃんの両腕の包帯を取り替えた時からだ
誠ちゃん達が帰ってきてすぐにした応急処置から
たったの4時間ほどしか経っていなかったのに
リータちゃんは既に無傷だった
処置時の彼女の両腕は確実に砕かれており
色白な肌を染めるように大きな痣や傷が出来ていた
しかし数時間後、包帯を取り替えた際には
細い身体からは傷が完全に消え雪のように白かった
~ ep13完 ~
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