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餼羊編
ep22 痛みを受け入れる夕暮れに
しおりを挟む楽斗side
ベッドの上で目覚めた俺は呆然と夕焼けを眺めていた
時間を確認すると既に襲撃から2時間が経っている
忌々しい記憶が何度も何度も脳裏に浮かんでいた
「美九を守れなかった…………」
守れなかったのは決して彼女だけではない
室内の床はズタボロでドアも破壊されてしまった
今日を境に全てが変わってしまった
「くそッ… 痛ぇ…………」
鎖骨にヒビが入っているようで鈍痛が走る
身体には既に包帯やガーゼなどで処置をされていた
多分リータが手当てをしてくれたのだろう
周りには勿論室内にも誰も居ないようで沈黙が続く
(…脳内で今日あったあの悲劇が
何度も何度もリアルに再生されるの止めてくれ…… )
沈黙は奴の事をフラッシュバックさせるだけに堪える
だからと言って今は仲間と居るのも気が進まない
「クソがッ…………… 」
気づいた時には涙が頬を伝っていた
世界がゾンビで溢れかえった"終焉の日"から今まで
どんな状況に陥ったとしても俺は泣かなかった
逆境と対峙しても力強く生きてたつもりだったのに
(何なんだよアイツ…… まじでッッ…!!)
怒りで歯を食いしばりギリギリと音が鳴る
拭ってもすぐに視界が熱い液体で満たされボヤける
下手すると自分は死んでた可能性だってあるのに
全く喜べずに自己嫌悪と悔しさが巣食うのは
(考えたくもないが心のどこかで……心のどこかで
美九はもう助からないと……思ってるからなのか?…)
最初は針で開けた穴のように小さかったその不安は
瞬く間に大きくなりより一層激しく感情を揺らす
「な"んで……… 美九なん"だよッッ…! 」
怒りで震える握り拳を壁に殴りつける
鎖骨から響いてくる痛みなど全く気にならなかった
…とさえ言えない俺は俺が大嫌いだ
(攫われた美九の方が辛い状況にあるのに
俺はこの痛みにすら音を上げてしまうのかよ…… )
右手を当て鎖骨から生じる痛みに耐えるなか
流れる涙を拭うことさえ面倒に思えてきた俺は
「もう… 終わりだ、、 」
「まだ終わりじゃないよ、楽斗…… 」
俺が抱いている感情の全てを表したその言葉は
誰にも吟味されることなく即否定されてしまった
静かだった室内で響いた優しい声に導かれるように
俺は顔を上げ声が聞こえた入口へと目線を移すと
ドア付近には誠士郎とリータが立っていた
「誠…俺……美九を守れなくて…………」
二人の姿を目にしただけで涙がまたこみ上げてくる
言葉が痞えるなかで必死に続けた
「この部屋も…何もかも守れなくてよ………
すまない……すまなかったッ……!! 」
決して二人に許して欲しかった訳ではない
美九を守れなかったことがただただ悔しいのだ
思い出すと彼女への喪失感で押しつぶされそうになる
そんな俺へとゆっくり近づいた誠士郎は
「楽斗…早く駆けつけれなくてごめん……
色々と自分が甘えたせいで背負わせてしまった…
それに俺も弾に敗れたから同罪だよ」
「……俺悔しいんだよ、弾にムカついてくるんだよ…
でも…どんなに考えないようにしても………
怪我は痛むし奴への恐怖が頭から離れないッッ……!
美九と比べると幾分マシなのにだッッ……!! 」
役立たずの癖に泣き喚いている俺は屑だろうか
しかしこの思いを飲み込めるほど俺は強くなかった
誠士郎は震えている俺の手を握ったあとに
「ううん…ソレは間違ってない………
痛みを痛いと感じるのは恥ずべき事ではないよ?
自他の痛みを知るからこそ、人間なんだ」
「……どういう意味だ?…」
「本来自身を中心に考えるのが生物だけど……
美九を思いやる楽斗は"人間の在るべき姿"だと思うよ
先程の話も痛覚とかそういう話じゃなくて………」
「痛みや苦しみに耐えつつ前進しようとする強さは
ゾンビである弾が持ち得ないものだと思う………
だから…無下にするのではなく大切にして欲しい」
「………………」
痛みを痛いと感じるのは恥ずべきことではない……
彼のその言葉は張り詰めていた俺の気を静めた
従来思いもしなかったその考えに胸が震えたのだ
明らかに人の痛みを知っている者の言葉だった
さらに誠士郎はベッドに浅く座りながら
「楽斗は弾が怖いって言ってたけど……
実は自分も怖いんだ」
「マジ………??」
「うん……マジマジ」
彼の予想外の発言に咄嗟に声が出てしまう
勇敢に奴へと挑んでいた誠でもそう思うのかと
少し彼のその様子に意外に思えてしまう
呆気に取られる俺を見つめつつ誠士郎は続けて
「確かに先程は弾に敗れてしまったけど……
次は怖くても平気だと思うよ、自分」
「どうしてだ?……」
「一緒に戦ってくれるだろ?楽斗…
先程は合流できずに各個撃破されたからね
今度は"自分達の力"で挑んでみたいんだ」
無邪気な笑顔に抓まれそうになったが
前向きな様子でそう語る誠士郎の手は少し震えていた
やはり彼だって俺と同じように心苦しいのだろう
(…そんな笑顔で求められたら、断れねぇよ………
お前だって美九が攫われて辛いのにな…誠士郎)
涙も止まったしやるべき事も理解した
恥ずべきこともないし友が見せた弱さも受け入れた
最後に残った奴への恐怖も乗り越えてやる
「ああッ…!願ったり叶ったりだぜ誠ッ……!!
俺達が協力すれば敵無しだッ!………」
こうして俺は誠士郎による共闘の提案に乗る
ソレは悲観的な雰囲気から一転した瞬間であった
誠士郎はベッドから立ち上がったあとに
「美九を救いに行こう 」
そう言って彼は俺に右手を差し伸べた
しかし疑問があった俺は
「でもよ…弾に美九が連れ去られてから
既に2時間が空いているんだよな?
奴に接近する手がかりとかはあるのか……??」
「リータから聞いたんだけど
猶予は2日あると弾は言い残していたらしいね 」
誠士郎はリータに目配せしながらそう答える
ソレを合図とするかのように
「あの……… 」
そう言いだしたのはリータだった
入口からコチラへ駆け寄ったあとに続けて
「私はお二人が戦われている際に
何も出来なくて立っているだけでしたッ………」
両手に包帯が何重にも巻かれている彼女は
申し訳なさそうに声を上げて頭を下げる
「本当に本当に…ごめんなさい………
ミクさんの捜索は私独りだけでも構いません…
何か協力させてくださいッ……!!」
温厚なリータが珍しく取り乱した様子だったが
怪我人に戦え、とは誰も言うはずないため困惑する
生真面目なリータを横目に誠は少し挑発気味に
「両手を骨折しているリータがそう言ってるのに
楽斗が来ないとかあり得ないよね? 」
そう言って急かすように
俺の顔の前で差し伸べていた右手を軽く左右に振る
ようは"早く掴め"ってことだ
「わかったよ… 誠……… 」
そう応えてその右手を掴みゆっくりと立ち上がる
骨折に効くのかよくわからない鎮痛剤を飲み
計画を練るため最低限の準備が整った所で俺は
「策はあるんだよな? 」
「一応……弾を倒す構図は見えてるんだけど
実行するには独りだと到底無理……だから頼るよ」
「上等だッ…絶対に美九を助けるぞッッ……! 」
俺がその号令をかける頃には
3人の士気は既に上がり全力で活路を模索していた
~ ep22完 ~
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