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餼羊編
ep24 理不尽な命令
しおりを挟む美九side
(ここは……? 何処……………?)
浅い眠りから目覚めた気分だった
窓のスデンドグラスに映る暗闇を呆然と眺めていると
ゾンビに襲撃されたことを思い出し飛び跳ねるが
「ッッ…………!?!? 」
手足には金属性の拘束具が取り付けられており
自由に動かせないまま身体を床へと打ち付けてしまう
その際に腹部がズキズキと痛んだ
(たしか私は…お腹を蹴られてしまって………… )
ボヤケていた記憶が段々とはっきりしてくるなか
私はここが何処なのか確認すべく辺りを見回した
「ここは………礼拝堂?? 」
幼い頃にあった親戚の結婚式で来たことがあった
長い椅子が縦に2列並ぶ間に広い通路が一本あり
入口から私が拘束されている十字架までを繋いでいた
「うっ………眩しい……!」
急に照明が灯り眩しい光が目を刺激する
手が拘束されているため目を細めて耐える他ない
「目ハ覚メタカ………? 」
聞き覚えのある嫌な男声が聞こえ身体が竦む
身体が震えるなか恐る恐る目を開けると
私を攫った張本人が逆光を浴びながら姿を表した
「嫌だッ……!来ないでッッ!!……」
「ココデ 叫ンデモ 意味ハ無イ」
言葉の真意が気になり改めて周りを見回すが
聖母像や十字架など宗教関連のものが確認できるのみ
しかし私は正面に立つ奴に目線を戻した際に
ソレを見つけてしまったのだ
(アレは……? )
奴は左手で何かを引きずってきていた
ソレが"半裸の男性"であると理解するのに
時間は全く要さなかった
(何ッ……!……何をするつもりなの………?? )
私が恐怖に駆られるなか奴は男を軽く放り投げる
足元で転がった男性を盾にするように
または私に見せつけるように奴は彼の背後へ位置取る
彼は無傷なようだが気絶しているのか反応がない
すると奴は礼拝堂に並ぶ椅子からナイフを取り
ジャアゴォオッッ……!!
彼の太腿を抉るように突き刺した
辺りに血液飛び散るなか少しラグを挟んだあとに
「……ッぎゃぁ"あ"あ"ぁッッ………!!」
その激痛で正気に戻った男性は悲鳴を上げる
しかし弾は力を緩めずに太腿を抉り続けていた
その非人道的な光景に私は目を閉じてしまう
(何してるの…………?狂ってるッッ……… )
恐怖で震え歯がカチカチと鳴り目眩がしている
しかし弾による拷問は始まったばかりだった
バギャアッッ………!!
「ぎゃあ"あ"ッ……ぶごぉあッッ……!!」
鈍く痛々しい音が聞こえると同時に目を開けてしまう
恐らく奴によって顔面を殴られたようで
絶叫していた男性がさらに重い悲鳴を上げている
奴の拳から飛んだ返り血が私の顔に付着した
(もうッ……嫌ッッ……!! 帰りたいッ……… )
何故私がこんな目に遭わなければならないのか
その余りの理不尽さに怒りと恐怖が渦巻くなかで
奴は私に向かって確かにこう言った
「選べ 」
その言葉の真意が解らずにただただ沈黙する
厳密にいうと理解したくないため思考を止めた
過呼吸気味になり何度も息を吸おうが苦しい
横目で動向を伺っていると奴はナイフを振り上げ
スパンッッ……!
「がぁあ"あ"あ"ッッ……!!」
左手で男性髪を掴んで固定しナイフで鼻を切断する
日常生活では起こり得ない残虐行為が彼を襲う
本能的な恐怖を煽る悲鳴が響くなかもう一度奴は
「選べ 」
二度目の宣告を受けその狂気に背筋が凍りついた
明らかに奴は私を人殺しに加担させるつもりである
紅く染まった鼻が地面を跳ねるのを傍らに
「も"うッ……止"め"てくださいッッ…………!」
私がそう言うと読んでいたのか
言い終わる前には既にナイフを男性の右耳に当て
躊躇なく慣れた手付きで削ぎ落とした
ブジュアッッ……!!
「ゔぁ"あ"あ"あ"ッッ……………」
吐血しながら彼は悲鳴を上げ身体を揺らしている
既に収拾がつかなくなってしまい私は嗚咽を繰り返す
それでも奴は私に三度目の宣告を述べた
「選べ 」
無慈悲にも男性への拷問は続行する
この有無を言わせぬ状況で男性が弱々しい声を上げた
「心臓……………」
ソレは本当に端的でわかりやすい言葉だった
しかしその言葉に従ったら私は人を殺してしまう
そのジレンマに迷い苛まれていると
ジャガア"ッッ……!
「………………………… 」
奴はナイフを雑に振り上げて左耳を切断する
男性は血の泡を吐きながら気絶した
両耳と鼻を削がれた男性に元の面影などは既に消え
その痛々しい外見は私に罪の意識を抱かせる
「選べ 」
これ以上彼を苦しませる訳にはいかない
震える身体を抑えこんで私は覚悟を決めた
「…………心臓ッ…!」
「ガハハッ……ガッハッハァッッ……!!」
私の選択を聞き取った後に奴は大声で嘲笑った
礼拝堂内に嫌な声が響くなか私は思い知ることとなる
ナイフを逆手に持った後奴は大きく振り上げて
ジャグァッ……!
「……いぎゃぁ"あ"あ"あ"ッッ……!!」
心臓ではなく腹部に突き刺した
壮絶な痛みで正気を取り戻した男性は断末魔をあげる
呆気にとられる私を傍らに奴は再度ナイフを振り上げ
ジャグッ…ジャガァ…ジャグォッ……!!
まるで男性があげる金切り声を楽しむかのように
何度も何度も何度も何度も突き刺した
心臓辺りを除いた上半身を虱潰しに刺し続ける
上半身が紅い蜂の巣のように見えてきた所で
ドグジャアッッ……!!
奴は心臓を潰すように胸部にナイフを突き立てた
血まみれの男性は最期に囁くような声で
「お前の……せいで………」
私を睨みつけながら亡くなった
血と内臓の臭いに刺激されたからか吐き気が催す
精神的にもう我慢の限界だった
「次ハ オ前ダ 」
「えッッ………!?!?」
そう言った奴は男性の死体を片手で軽々と放り投げる
私の足元にソレが転がり込み目を合わせてしまい
気味悪く感じたので目をそらし萎縮するなか
奴が自身の腹部を抉りながら近づいてきている
「嫌"ッ…!来ないでッッ……!!」
私の拒絶で止まるはずもなく奴は迫っていた
腕を突っ込んでいる腹部から体液がボトボト滴るなか
釘のような金属を取り出し私に見せつけた
奴の緑色の体液がべットリ付着しているソレを握り
「嫌ッ……嫌"ぁ"あ"あ"あ"あ"ッッ……!!」
ズブリッ…………!!
二の腕にソレが深く刺さり激痛が走る
拘束された身体を揺らしながら私は悲鳴を上げるが
奴は構わずに太い腕に力を込めてソレを掻き回す
ズブッッ…ズブズブズブッ…………!!
「ぃ痛"ぁあああ"あ"ッッ……… !! 」
二の腕から焼けるような痛みが生じる
悲鳴と比例するように痛みに苛烈さが増していく
泣き叫ぶなか奴がレンチを振り上げるのを目にし
死を悟り目を閉じてしまう
ドギャアッッ………!!
鈍器を叩きつけるような轟音が確かに聞こえたのに
不思議と身体に殴られた衝撃はなかった
もう何かが何だかわからないまま目を開ける
(奴が……後ろを向いている………??)
明らかに奴は驚いている様子だった
巨体で視界が阻まれてなかなか奥の様子が見えない
どうにか状況を把握しようと身体を捻るなか
「美九… 遅れてごめん………… 」
誠ちゃんの優しい声が礼拝堂を包むように響いた
声を聞いた途端に安堵し身体から力が抜けていく
私は未だに震えている身体で祈るのみだった
「また会えて嬉しいよ… 糞野郎…………
リベンジ戦だッッ…!! 」
私がよく知る少年は
荒れた声でそう怒鳴り大型ナイフを構える
私の命運を懸けた戦いが始まった
~ ep24完 ~
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