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prologue:積まれた書籍とタバコケース
命のやり取り
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残されたシドもアレックスの動揺した姿に、騎士団にとってですら不測の事態が起きていることを察していた。それが、大きな地震とも異なる強い揺れとが繋がっているとすれば、あの気がかりな少女の身がまたも危険にされされているのかもしれず、たまらずシドは枯れ木の森に入っていく。
「気持ち悪いな」
そう独り言が口を出るくらいに、その森は異様な姿に困惑の奥にある不快をも感じる。びっしりと生える木は明らかに死んでいるのだが、不可思議なことに水気を一切含まないそれの根元から針のように尖る枝の先まで力強く伸びていた。木の生える間隔も狭く、元々ここにあったものだとしてもお互いの成長を邪魔してしまいそうな程で所々の根が餌場を主張するかのように交錯していた。
奥に入っていくほどに、空気すら冷たく生気を失っているようでシドは身震いをする。これでもかと乱立する木々で、太陽が無くなったかと錯覚してしまいそうになるほど辺りは暗くなっていた。雲がかる夜の様な、恐怖すら感じるモノクロの世界で足を動かし続けるのは容易なことではなかった。急ぎながらも両手を前に突き出し、暗がりに紛れる木にぶつからないようにする。時折、警戒していても、見えていない木の根が飛び出た部分にシドは足を取られていた。
いつ迷ってしまっても不思議ではない場所で、シドには少女の元へと辿り着く確信があった。それは、シドの意識からはもうなくなってしまっていたのだが、薄い紫色の灯りが点滅するあの感覚が向かう先から感じていたからだった。少し先に森を抜けるという確信に足が動かされ進んでいると、何か硬度の高い物質がぶつかり合う時の様な短い耳鳴りに似た音が聞こえてくるようになっていた。
それから数メートルばかり進んだ時、シドは何かに躓いて大きくバランンスを崩す。それは明らかに木の根とは異なるもので、それなりの重さを足先に感じるものの、簡単につま先が沈んでいく柔らかい何かだった。
「これ、さっきの男か・・・・・・」
シドは足元に転がる何かが、森に入って行ったアレックスの部下の一人であることに気付く。思い切り蹴られたのに何の反応も無く、声すら上げない違和感は女の首元の脈を確認し確信に至った。すでに、男はこと切れており暗さに紛れシドが見ることは無かったが、女の身体は上下2つに割られ、辺り一帯の木々や地面に刻まれた亀裂は自然にできたものでは無かった。
「くそ、いったい何に巻き込まれているんだ俺は」
シドはすぐにその場を立ち去り、より一層音が強くなる方角へと進んでいく。どんどん音は強く大きくなり、反響音も次第に認識できるほどになっていく。そこまで来ると、シドは大きな異変に気付く。明けない靄に覆われ太陽光すら遮られるこの地で、森の先が明るくなっていた。もう随分と見ていなかった強烈な光に照らし出された枯れ木は、絵画のようにはっきりと陰影のコントラストを現している。「何が起きているんだ?」 そう言いながら、シドは無意識に笑っていた。
そして、森を抜けた先の光景にシドはただ無言で立ち尽くした。
目の前には天をも貫かんとするそれぞれ直径2メートルを越えようかという炎の柱が幾つも立ち上り、火炎旋風の様な一際大きな柱に2つの人影が目にもとまらぬ速度で動いていた。純白のローブがばたばたと揺れ、炎によって赤みがかる光に照らされたその手には身長の2倍はあろうかという長槍。その槍の穂に当たる部分には、恐ろしく静かな炎が纏わりついていた。一方のシルエットに目を凝らすと、大木ですら一刀のうちに割って裂いてしまいそうな大剣を豪快に振るいながら、跳躍する大男が声をあげながら笑っている。
躊躇なく薙ぐように振るわれる凶刃。人に向けて躊躇なく突かれる槍と、そこから大男を飲み込むべく吐き出される火炎。剣と槍が激しくぶつかり合うと、甲高い音が響き渡ると同時にせせり立つ炎の柱が衝撃波で揺らぐ。両者は傷だらけになりながらも、何度も何度もお互いを激しく求め合う様に引きあっては、大きく弾けて、また刃をぶつけ合う。
シドはただそのやり取りに目を奪われていた。恐怖はもう微塵ほども感じてはいなかった。普通に暮らして居れば目撃することなど無かったであろう光景に感想を吐露することすら憚られ立ち尽くしたのは、ただその命のやり取りに魅了されていたからだった。
いつまでも続くかに思えた命のやり取りはすぐに終わりを迎えることになる。
「がははは! どうやらこれまでの様だな、『不敗の兵器』を我が君に届けられぬのは残念だが、貴様との闘い実に楽しかった。
さあ、最後だ。気張れ『底鳴剣』!!」
男は嬉しそうに燥ぎ叫ぶと、大剣の刀身の面を相手に向ける特殊な構えをした。銘を呼ばれた剣は激しく震えだし、聞き取ることのできない重低音を吐き出し、大地を振るわせている。その揺れにシドは硬直するのを感じた。
「全く闘いに愉悦を感じるなど理解に苦しみますね。速やかに確実に処分する、『穂弐火』!!」
闘いに対する態度を問う槍使いがそう言うと、立ち上る幾つもの炎柱が大きく揺らぎ、天に昇っていた可視炎の先が旋回しながら細く寄り集り、槍の穂先に向かって意志を持ったかのように集束をした。何千倍もの体積を有していた炎を飲み尽くした、穂先は狂炎と化し、温度が高まり赤から青藍へと色を変えた。それまで炎柱から放たれる光が逆光となって、シドは使い手の顔を認識することが出来ていなかったが、その炎の収束した先にいる人物がアレックスであることに気付く。口角を吊り上げ目を見開くその顔は、言葉に反しており、シドは全身に鳥肌がたった。
「緋槍奥義ーー『鳳仙火』!!」
アレックスが槍の間合いの倍はあろう距離で力強い演舞の一節の様に、空に向かって槍を突く。真っすぐに向けられた切っ先から出る青い炎が、思わず目を閉じてしまう程の強烈な白光を見せたかと思うと、次の瞬間には大男を大剣ごと飲み込む爆炎が吞み込んでいた。男は全身を業火に焼かれながら、大剣を自身を飲み込んだ炎から逃がす様に遠くへと放り投げた。男の手から大剣が離れた瞬間、辺りをも震わせていた地鳴りが止み、炎の侵食を拒んでいた音波が無くなったことで一息にして服も肌も区別なく炎が燃え広がっていった。
「我が君と我ら『スティグマ』に栄光あれ・・・・・・」
皮膚も肉も骨すらも灰と化して、炎熱の起こす気流に乗って跡形もなく大男は消え去った。アレックスが槍の穂先をすっと降ろすと、まるでそこには炎など無かったかのように音も立てずに爆炎が消える。もらい火を受けた枯れ木の燃えるわずかな灯りだけを残して、その舞台を照らしていた強い明かりが消えたのだった。
「気持ち悪いな」
そう独り言が口を出るくらいに、その森は異様な姿に困惑の奥にある不快をも感じる。びっしりと生える木は明らかに死んでいるのだが、不可思議なことに水気を一切含まないそれの根元から針のように尖る枝の先まで力強く伸びていた。木の生える間隔も狭く、元々ここにあったものだとしてもお互いの成長を邪魔してしまいそうな程で所々の根が餌場を主張するかのように交錯していた。
奥に入っていくほどに、空気すら冷たく生気を失っているようでシドは身震いをする。これでもかと乱立する木々で、太陽が無くなったかと錯覚してしまいそうになるほど辺りは暗くなっていた。雲がかる夜の様な、恐怖すら感じるモノクロの世界で足を動かし続けるのは容易なことではなかった。急ぎながらも両手を前に突き出し、暗がりに紛れる木にぶつからないようにする。時折、警戒していても、見えていない木の根が飛び出た部分にシドは足を取られていた。
いつ迷ってしまっても不思議ではない場所で、シドには少女の元へと辿り着く確信があった。それは、シドの意識からはもうなくなってしまっていたのだが、薄い紫色の灯りが点滅するあの感覚が向かう先から感じていたからだった。少し先に森を抜けるという確信に足が動かされ進んでいると、何か硬度の高い物質がぶつかり合う時の様な短い耳鳴りに似た音が聞こえてくるようになっていた。
それから数メートルばかり進んだ時、シドは何かに躓いて大きくバランンスを崩す。それは明らかに木の根とは異なるもので、それなりの重さを足先に感じるものの、簡単につま先が沈んでいく柔らかい何かだった。
「これ、さっきの男か・・・・・・」
シドは足元に転がる何かが、森に入って行ったアレックスの部下の一人であることに気付く。思い切り蹴られたのに何の反応も無く、声すら上げない違和感は女の首元の脈を確認し確信に至った。すでに、男はこと切れており暗さに紛れシドが見ることは無かったが、女の身体は上下2つに割られ、辺り一帯の木々や地面に刻まれた亀裂は自然にできたものでは無かった。
「くそ、いったい何に巻き込まれているんだ俺は」
シドはすぐにその場を立ち去り、より一層音が強くなる方角へと進んでいく。どんどん音は強く大きくなり、反響音も次第に認識できるほどになっていく。そこまで来ると、シドは大きな異変に気付く。明けない靄に覆われ太陽光すら遮られるこの地で、森の先が明るくなっていた。もう随分と見ていなかった強烈な光に照らし出された枯れ木は、絵画のようにはっきりと陰影のコントラストを現している。「何が起きているんだ?」 そう言いながら、シドは無意識に笑っていた。
そして、森を抜けた先の光景にシドはただ無言で立ち尽くした。
目の前には天をも貫かんとするそれぞれ直径2メートルを越えようかという炎の柱が幾つも立ち上り、火炎旋風の様な一際大きな柱に2つの人影が目にもとまらぬ速度で動いていた。純白のローブがばたばたと揺れ、炎によって赤みがかる光に照らされたその手には身長の2倍はあろうかという長槍。その槍の穂に当たる部分には、恐ろしく静かな炎が纏わりついていた。一方のシルエットに目を凝らすと、大木ですら一刀のうちに割って裂いてしまいそうな大剣を豪快に振るいながら、跳躍する大男が声をあげながら笑っている。
躊躇なく薙ぐように振るわれる凶刃。人に向けて躊躇なく突かれる槍と、そこから大男を飲み込むべく吐き出される火炎。剣と槍が激しくぶつかり合うと、甲高い音が響き渡ると同時にせせり立つ炎の柱が衝撃波で揺らぐ。両者は傷だらけになりながらも、何度も何度もお互いを激しく求め合う様に引きあっては、大きく弾けて、また刃をぶつけ合う。
シドはただそのやり取りに目を奪われていた。恐怖はもう微塵ほども感じてはいなかった。普通に暮らして居れば目撃することなど無かったであろう光景に感想を吐露することすら憚られ立ち尽くしたのは、ただその命のやり取りに魅了されていたからだった。
いつまでも続くかに思えた命のやり取りはすぐに終わりを迎えることになる。
「がははは! どうやらこれまでの様だな、『不敗の兵器』を我が君に届けられぬのは残念だが、貴様との闘い実に楽しかった。
さあ、最後だ。気張れ『底鳴剣』!!」
男は嬉しそうに燥ぎ叫ぶと、大剣の刀身の面を相手に向ける特殊な構えをした。銘を呼ばれた剣は激しく震えだし、聞き取ることのできない重低音を吐き出し、大地を振るわせている。その揺れにシドは硬直するのを感じた。
「全く闘いに愉悦を感じるなど理解に苦しみますね。速やかに確実に処分する、『穂弐火』!!」
闘いに対する態度を問う槍使いがそう言うと、立ち上る幾つもの炎柱が大きく揺らぎ、天に昇っていた可視炎の先が旋回しながら細く寄り集り、槍の穂先に向かって意志を持ったかのように集束をした。何千倍もの体積を有していた炎を飲み尽くした、穂先は狂炎と化し、温度が高まり赤から青藍へと色を変えた。それまで炎柱から放たれる光が逆光となって、シドは使い手の顔を認識することが出来ていなかったが、その炎の収束した先にいる人物がアレックスであることに気付く。口角を吊り上げ目を見開くその顔は、言葉に反しており、シドは全身に鳥肌がたった。
「緋槍奥義ーー『鳳仙火』!!」
アレックスが槍の間合いの倍はあろう距離で力強い演舞の一節の様に、空に向かって槍を突く。真っすぐに向けられた切っ先から出る青い炎が、思わず目を閉じてしまう程の強烈な白光を見せたかと思うと、次の瞬間には大男を大剣ごと飲み込む爆炎が吞み込んでいた。男は全身を業火に焼かれながら、大剣を自身を飲み込んだ炎から逃がす様に遠くへと放り投げた。男の手から大剣が離れた瞬間、辺りをも震わせていた地鳴りが止み、炎の侵食を拒んでいた音波が無くなったことで一息にして服も肌も区別なく炎が燃え広がっていった。
「我が君と我ら『スティグマ』に栄光あれ・・・・・・」
皮膚も肉も骨すらも灰と化して、炎熱の起こす気流に乗って跡形もなく大男は消え去った。アレックスが槍の穂先をすっと降ろすと、まるでそこには炎など無かったかのように音も立てずに爆炎が消える。もらい火を受けた枯れ木の燃えるわずかな灯りだけを残して、その舞台を照らしていた強い明かりが消えたのだった。
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