PARADOX=世界の真相を巡る旅に始まり終焉へと帰結する、数多の矛盾と真実で紡がれる物語

小鉢 龍(こばち りゅう)

文字の大きさ
40 / 46
1話:森の都の外套技師

1つ目の『封物』

しおりを挟む
    それから三日三晩、リンは作業室にこもりきりで姿を現すことはなかった。初日以降、アジェットも封衣のことやリンの過去について口を開くことはなく、シドとネオンはただリンの作業が終わるのを待つことになった。

     シドはケニーとフランの様子を診たり、時折街に出ては何かをしていた。ネオンは意外と人懐っこいようで、アジェットの作業をじっと見たり、アジェットがリンの食事を用意すると作業室の前に運んだりしていた。

「……なんか、懐いてるな」

    アジェットの家に滞在しながら、リンの作業を待つ3日目の晩。シドが街から戻ってくると、アジェットの作業を見つめるネオンが迎えてくれた。

「おっと、もうこんな時間か。ネオンや、今日はもう仕舞いじゃい」

    ネオンは、相変わらず何か喋るわけでもないが、瞳は雄弁でキラキラと輝やいていた。そんな様子を見たシドが、ふっと笑いネオンの頭をぽんと優しく叩いた。ネオンはまた不思議そうな顔をしながら、シドに優しく叩かれた頭の何かを確認するかのように、自分の手で撫でている。

    アジェットが片付けをしている間もネオンはじっとその様子を見ていた。シドはケニーとフランの様子を診てから3人分のお茶を煎れた。

「ぷあー!ふふふ、ふふふ、完成したわ」

    しばらく茶を啜っていると、リンが作業室の襖をばんと開けて3日ぶりに出てきた。シドは目を見開き、アジェットはまた寂しそうな顔をしていた。

「疲れた、喉乾いた、肩凝った、お腹空いた、疲れたぁー。あ、おじいちゃんお茶ちょうだい」

     一息で今の感想を言ったリンが、アジェットの啜っていたお茶をごくごくと音をたてながら飲み干す。

「あんた……それ」
「やだなぁ、シドさんまでそんな顔しないでくださいよ。ちゃんと、説明しますから」

    その時、初めてリンが弱々しい表情を見せた。作業室から出てきたリンの髪はショートボブほどに短くなっていたのだ。勿論、作業室に篭っている間に美容室に行って髪の毛をカットしたはずなどなく、何か理由があって自分で切ってしまったとしか考えられなかった。

「ネオンちゃんこっち来て」

    アジェットの隣に座ったリンは、優しい声でそう言ってネオンに手招きをした。ネオンはシドのことを見ることもなく、リンの傍に移動をした。リンが微笑むとネオンは柔らかな感触に包まれ、黒い布が視界の端で踊るように舞った。

「それが封衣なのか?」
「そうよ、可愛いでしょ?」

 リンがネオンに作った封衣は、フードの付いたロングワンピースになっており、元々ネオンが着ていた服と大きくは違わないデザインになっていた。

「パンプスのリボンが可愛かったから、胸元に大きいリボンも付けてみたの。どう、ネオンちゃん?」

 ネオンは襟元を少し引っ張って、リンの言うリボンをまじまじと見つめている。感想を聞くことはできなかったが、シドもリンもネオンの瞳を見て嬉しそうに微笑んだ。

「おじいちゃんからも説明があったかと思うけれど、封衣はブレイグルの力を閉じ込める為の拘束具の一種として生まれた技術よ。その性質上、元々は帯状だったり袋状の投擲が可能な形状をしていたのだけれど、ブレイグルの人権問題とかもあって段々と衣服の様な形へと変化していったわけね」
「抑えると言ってもどの程度の力があるんだ?」
「そうね、ネオンちゃんの様な特別力の強いブレイグルに対して完全に効果を保障できるわではないけれど、少なくともブレイグル単身での能力使用に関してはほぼ100%抑えることができると思うわ」

 シドはまじまじと封衣を見ながら、あの日の黒涙の力を思い出し、顔をしかめる。その様子に気付いたリンが言葉を加えた。

「・・・・・・懸念があるとするならば、封衣の抑止力に対してではなく、突発的な事態にあった時にネオンちゃんが自分の意思では能力を行使できない。という部分ね」

 リンの癖だろうか、首から回した右手が空を切る。少しはっとした表情を見せて目を見開き、何かを堪えるようにしながら目を細めていた。ネオンは封衣を十分に観察することができたようで、じっとリンのことを見つめている。

「ふふ、綺麗な瞳。封衣に必要な材料は一般的な外套を作る時の材料の他に、ヒュージの影響を受けた突然変異体の細胞を必要とするの。私が最初に持っていた紙袋には、イービルフラワーの芽、無葉花の花弁、世界樹の維管束が入っていて、そしてこれが最も大事なもので、を使っているの」
「それで・・・・・・」
「特別力の強い子でも2年分くらいなんだけど、ネオンちゃんを見た瞬間の見立てでは5年分以上は必要になると思ったから、8年間かな?伸ばし続けておいた分を使ったわ」
「・・・・・・辛かったろう」
「そんな・・・・・・」

 「そんなことはない」と否定しようとしたリンだったが、最後まで言葉は出てこなかった。リンは変わらず感じる視線に微笑んで、ネオンの頬を優しく撫でる。

「封衣はその特殊な材質によって、一般的な衣服よりも遥かに丈夫にできている。特に、その持ち主となるブレイグルの能力に対しては恐らく比肩するものが無いほど、だけどあくまでも衣服に違いはないから、外部からの力にはとても脆い。だから」
「ああ、任せろ」

 シドの迷いのない言葉にリンは安心したように目を瞑った。

「くはー!大仕事が終わってお腹空いたぁー、おじいちゃん何か出前でも取ろうよ」
「出前? いやまあ、リンが良いのならワシはそれでもええが、もう少しまともな物を摂ったらどうじゃ?」
「それ作るの私でしょ?いやよ、今から包丁持つのなんてー」

 リンの緊張の糸が解かれ、封衣についての説明は終わったのだとシドは理解した。そして、2人の口論に対する自信満々の解決策を提示する。

「あー慰労の意味を込めて俺がレストランで御馳走するよ。おすすめの大衆食堂があるんだ」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー

黒木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。 その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。 人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。 異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

処理中です...