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1話:森の都の外套技師
1つ目の『封物』
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それから三日三晩、リンは作業室にこもりきりで姿を現すことはなかった。初日以降、アジェットも封衣のことやリンの過去について口を開くことはなく、シドとネオンはただリンの作業が終わるのを待つことになった。
シドはケニーとフランの様子を診たり、時折街に出ては何かをしていた。ネオンは意外と人懐っこいようで、アジェットの作業をじっと見たり、アジェットがリンの食事を用意すると作業室の前に運んだりしていた。
「……なんか、懐いてるな」
アジェットの家に滞在しながら、リンの作業を待つ3日目の晩。シドが街から戻ってくると、アジェットの作業を見つめるネオンが迎えてくれた。
「おっと、もうこんな時間か。ネオンや、今日はもう仕舞いじゃい」
ネオンは、相変わらず何か喋るわけでもないが、瞳は雄弁でキラキラと輝やいていた。そんな様子を見たシドが、ふっと笑いネオンの頭をぽんと優しく叩いた。ネオンはまた不思議そうな顔をしながら、シドに優しく叩かれた頭の何かを確認するかのように、自分の手で撫でている。
アジェットが片付けをしている間もネオンはじっとその様子を見ていた。シドはケニーとフランの様子を診てから3人分のお茶を煎れた。
「ぷあー!ふふふ、ふふふ、完成したわ」
しばらく茶を啜っていると、リンが作業室の襖をばんと開けて3日ぶりに出てきた。シドは目を見開き、アジェットはまた寂しそうな顔をしていた。
「疲れた、喉乾いた、肩凝った、お腹空いた、疲れたぁー。あ、おじいちゃんお茶ちょうだい」
一息で今の感想を言ったリンが、アジェットの啜っていたお茶をごくごくと音をたてながら飲み干す。
「あんた……それ」
「やだなぁ、シドさんまでそんな顔しないでくださいよ。ちゃんと、説明しますから」
その時、初めてリンが弱々しい表情を見せた。作業室から出てきたリンの髪はショートボブほどに短くなっていたのだ。勿論、作業室に篭っている間に美容室に行って髪の毛をカットしたはずなどなく、何か理由があって自分で切ってしまったとしか考えられなかった。
「ネオンちゃんこっち来て」
アジェットの隣に座ったリンは、優しい声でそう言ってネオンに手招きをした。ネオンはシドのことを見ることもなく、リンの傍に移動をした。リンが微笑むとネオンは柔らかな感触に包まれ、黒い布が視界の端で踊るように舞った。
「それが封衣なのか?」
「そうよ、可愛いでしょ?」
リンがネオンに作った封衣は、フードの付いたロングワンピースになっており、元々ネオンが着ていた服と大きくは違わないデザインになっていた。
「パンプスのリボンが可愛かったから、胸元に大きいリボンも付けてみたの。どう、ネオンちゃん?」
ネオンは襟元を少し引っ張って、リンの言うリボンをまじまじと見つめている。感想を聞くことはできなかったが、シドもリンもネオンの瞳を見て嬉しそうに微笑んだ。
「おじいちゃんからも説明があったかと思うけれど、封衣はブレイグルの力を閉じ込める為の拘束具の一種として生まれた技術よ。その性質上、元々は帯状だったり袋状の投擲が可能な形状をしていたのだけれど、ブレイグルの人権問題とかもあって段々と衣服の様な形へと変化していったわけね」
「抑えると言ってもどの程度の力があるんだ?」
「そうね、ネオンちゃんの様な特別力の強いブレイグルに対して完全に効果を保障できるわではないけれど、少なくともブレイグル単身での能力使用に関してはほぼ100%抑えることができると思うわ」
シドはまじまじと封衣を見ながら、あの日の黒涙の力を思い出し、顔をしかめる。その様子に気付いたリンが言葉を加えた。
「・・・・・・懸念があるとするならば、封衣の抑止力に対してではなく、突発的な事態にあった時にネオンちゃんが自分の意思では能力を行使できない。という部分ね」
リンの癖だろうか、首から回した右手が空を切る。少しはっとした表情を見せて目を見開き、何かを堪えるようにしながら目を細めていた。ネオンは封衣を十分に観察することができたようで、じっとリンのことを見つめている。
「ふふ、綺麗な瞳。封衣に必要な材料は一般的な外套を作る時の材料の他に、ヒュージの影響を受けた突然変異体の細胞を必要とするの。私が最初に持っていた紙袋には、イービルフラワーの芽、無葉花の花弁、世界樹の維管束が入っていて、そしてこれが最も大事なもので、職人の数年分の細胞を使っているの」
「それで・・・・・・」
「特別力の強い子でも2年分くらいなんだけど、ネオンちゃんを見た瞬間の見立てでは5年分以上は必要になると思ったから、8年間かな?伸ばし続けておいた分を使ったわ」
「・・・・・・辛かったろう」
「そんな・・・・・・」
「そんなことはない」と否定しようとしたリンだったが、最後まで言葉は出てこなかった。リンは変わらず感じる視線に微笑んで、ネオンの頬を優しく撫でる。
「封衣はその特殊な材質によって、一般的な衣服よりも遥かに丈夫にできている。特に、その持ち主となるブレイグルの能力に対しては恐らく比肩するものが無いほど、だけどあくまでも衣服に違いはないから、外部からの力にはとても脆い。だから」
「ああ、任せろ」
シドの迷いのない言葉にリンは安心したように目を瞑った。
「くはー!大仕事が終わってお腹空いたぁー、おじいちゃん何か出前でも取ろうよ」
「出前? いやまあ、リンが良いのならワシはそれでもええが、もう少しまともな物を摂ったらどうじゃ?」
「それ作るの私でしょ?いやよ、今から包丁持つのなんてー」
リンの緊張の糸が解かれ、封衣についての説明は終わったのだとシドは理解した。そして、2人の口論に対する自信満々の解決策を提示する。
「あー慰労の意味を込めて俺がレストランで御馳走するよ。おすすめの大衆食堂があるんだ」
シドはケニーとフランの様子を診たり、時折街に出ては何かをしていた。ネオンは意外と人懐っこいようで、アジェットの作業をじっと見たり、アジェットがリンの食事を用意すると作業室の前に運んだりしていた。
「……なんか、懐いてるな」
アジェットの家に滞在しながら、リンの作業を待つ3日目の晩。シドが街から戻ってくると、アジェットの作業を見つめるネオンが迎えてくれた。
「おっと、もうこんな時間か。ネオンや、今日はもう仕舞いじゃい」
ネオンは、相変わらず何か喋るわけでもないが、瞳は雄弁でキラキラと輝やいていた。そんな様子を見たシドが、ふっと笑いネオンの頭をぽんと優しく叩いた。ネオンはまた不思議そうな顔をしながら、シドに優しく叩かれた頭の何かを確認するかのように、自分の手で撫でている。
アジェットが片付けをしている間もネオンはじっとその様子を見ていた。シドはケニーとフランの様子を診てから3人分のお茶を煎れた。
「ぷあー!ふふふ、ふふふ、完成したわ」
しばらく茶を啜っていると、リンが作業室の襖をばんと開けて3日ぶりに出てきた。シドは目を見開き、アジェットはまた寂しそうな顔をしていた。
「疲れた、喉乾いた、肩凝った、お腹空いた、疲れたぁー。あ、おじいちゃんお茶ちょうだい」
一息で今の感想を言ったリンが、アジェットの啜っていたお茶をごくごくと音をたてながら飲み干す。
「あんた……それ」
「やだなぁ、シドさんまでそんな顔しないでくださいよ。ちゃんと、説明しますから」
その時、初めてリンが弱々しい表情を見せた。作業室から出てきたリンの髪はショートボブほどに短くなっていたのだ。勿論、作業室に篭っている間に美容室に行って髪の毛をカットしたはずなどなく、何か理由があって自分で切ってしまったとしか考えられなかった。
「ネオンちゃんこっち来て」
アジェットの隣に座ったリンは、優しい声でそう言ってネオンに手招きをした。ネオンはシドのことを見ることもなく、リンの傍に移動をした。リンが微笑むとネオンは柔らかな感触に包まれ、黒い布が視界の端で踊るように舞った。
「それが封衣なのか?」
「そうよ、可愛いでしょ?」
リンがネオンに作った封衣は、フードの付いたロングワンピースになっており、元々ネオンが着ていた服と大きくは違わないデザインになっていた。
「パンプスのリボンが可愛かったから、胸元に大きいリボンも付けてみたの。どう、ネオンちゃん?」
ネオンは襟元を少し引っ張って、リンの言うリボンをまじまじと見つめている。感想を聞くことはできなかったが、シドもリンもネオンの瞳を見て嬉しそうに微笑んだ。
「おじいちゃんからも説明があったかと思うけれど、封衣はブレイグルの力を閉じ込める為の拘束具の一種として生まれた技術よ。その性質上、元々は帯状だったり袋状の投擲が可能な形状をしていたのだけれど、ブレイグルの人権問題とかもあって段々と衣服の様な形へと変化していったわけね」
「抑えると言ってもどの程度の力があるんだ?」
「そうね、ネオンちゃんの様な特別力の強いブレイグルに対して完全に効果を保障できるわではないけれど、少なくともブレイグル単身での能力使用に関してはほぼ100%抑えることができると思うわ」
シドはまじまじと封衣を見ながら、あの日の黒涙の力を思い出し、顔をしかめる。その様子に気付いたリンが言葉を加えた。
「・・・・・・懸念があるとするならば、封衣の抑止力に対してではなく、突発的な事態にあった時にネオンちゃんが自分の意思では能力を行使できない。という部分ね」
リンの癖だろうか、首から回した右手が空を切る。少しはっとした表情を見せて目を見開き、何かを堪えるようにしながら目を細めていた。ネオンは封衣を十分に観察することができたようで、じっとリンのことを見つめている。
「ふふ、綺麗な瞳。封衣に必要な材料は一般的な外套を作る時の材料の他に、ヒュージの影響を受けた突然変異体の細胞を必要とするの。私が最初に持っていた紙袋には、イービルフラワーの芽、無葉花の花弁、世界樹の維管束が入っていて、そしてこれが最も大事なもので、職人の数年分の細胞を使っているの」
「それで・・・・・・」
「特別力の強い子でも2年分くらいなんだけど、ネオンちゃんを見た瞬間の見立てでは5年分以上は必要になると思ったから、8年間かな?伸ばし続けておいた分を使ったわ」
「・・・・・・辛かったろう」
「そんな・・・・・・」
「そんなことはない」と否定しようとしたリンだったが、最後まで言葉は出てこなかった。リンは変わらず感じる視線に微笑んで、ネオンの頬を優しく撫でる。
「封衣はその特殊な材質によって、一般的な衣服よりも遥かに丈夫にできている。特に、その持ち主となるブレイグルの能力に対しては恐らく比肩するものが無いほど、だけどあくまでも衣服に違いはないから、外部からの力にはとても脆い。だから」
「ああ、任せろ」
シドの迷いのない言葉にリンは安心したように目を瞑った。
「くはー!大仕事が終わってお腹空いたぁー、おじいちゃん何か出前でも取ろうよ」
「出前? いやまあ、リンが良いのならワシはそれでもええが、もう少しまともな物を摂ったらどうじゃ?」
「それ作るの私でしょ?いやよ、今から包丁持つのなんてー」
リンの緊張の糸が解かれ、封衣についての説明は終わったのだとシドは理解した。そして、2人の口論に対する自信満々の解決策を提示する。
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