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1話:森の都の外套技師
森の都の外套技師
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「もう、本当にすみませんでした。最近は棺を使う風習も廃れ始めてきて、お客さんが来ると嬉しくなっちゃうみたいで・・・・・・」
後から入ってきた女性が、シドとネオンに頭を下げる。2人はあの後、店の奥にあった棺を模した襖から店の奥にある生活感漂う部屋に入っていた。人が2人並べるくらいの小さなキッチンが奥にあり、腰くらいの高さがある四人掛けのテーブルと木造りの椅子、壁には額縁に入れられた賞状や勲章が幾つも飾られていた。
「ほら、おじいちゃんも謝る! シドさんお尻ぶつけてるのよ?」
「ケツはワシのせいじゃあなかろうに・・・・・・」
「なに?」
女性の名前はリンと言い、ふてくされている老人アジェットの孫娘だった。凛々しく整えられた眉に、大きな瞳、下まつ毛が長く綺麗だった。リンは祖父であるジェットにも遠慮がない。リンに凄まれて、アジェットはシドの顔は見なかったもののしぶしぶ「驚かせて申し訳なんだ」 と言った。リンは軽くため息を吐いてから、改めて自己紹介をする。
「こっちは棺職人のアジェット、私の祖父よ。そして、私がリン。外套職人をしているわ」
「俺はシド、こっちはネオンだ。よろしく」
リンが付けていた作業用の手袋を外して、手を差し出し、シドが握手に応じた。リンは、ネオンを見つめながら、なんだか少し哀しそうな顔をしているようにシドには見えた。ネオンは陶器の湯のみ茶碗で出してもらった、熱々のお茶に苦戦している。
「ルーザから言伝はもらっているの。この子が例のブレイグルなのね」
「・・・・・・ああ、そうだ」
アジェットは音を立てながら茶をすすり「ふん」 と小さく零していた。シドは2人から感じる妙な違和感を感じていた。
「えっと、俺達はルーザに言われてここに来たんだが、正直どうしたら良いのか分からないんだが」
「もう、あの人は本当にいい加減ね。まあ、ルーザのことだから何か考えがあって最低限のことしか喋らなかったのでしょうけれど」
リンのぼやきの前後どちらにもシドは同感だった。特に後者に関して言えば、ヒュージ落下地点へ向かう前にシルビーの回復薬を渡されたことと言い、ルーザの予知とも言えるような先見の明を体感していたのだから尚更だった。
「丁寧に説明したい所なんだけれど、素材の消費期限の都合で私は今から作業に入らなければならないから、後はおじいちゃん宜しくね」
リンはそう言って、外した手袋をまたはめ直して、シドの前後にあった前方の扉の奥へと入っていった。アジェットは、文句を一つも言わなかった。
「まさか、『封物』とやらはリンが? まだ16、7歳くらいだろう?」
「わしは棺しか造れん。あの子は両親の仕事をよく手伝っておったから、外套職人としての腕はそこいらの職人に引けを取らん。それに、『封衣』の作り方は一子相伝、今はあの子しか造ることはできん」
「ふうい?」
アジェットは立ち上がり、壁に飾られている賞状の一角を眺め始める。部屋にある症状には4人の名前が書かれていた。アジェットが愛しそうに、悲しそうに見上げている賞状にはアジェットともリンとも異なる名前が書かれている。
「・・・・・・リンの両親は亡くなったのか?」
「・・・・・・いや、生きておるよ。見るか?」
アジェットはそう言って、シドの後ろにある襖に手をかける。シドはアジェットの言葉に違和感を感じていた。今も生きていて、紹介しようと言うのに「会う」ではなく「見る」と表現したからだ。その真意が、老人なりの言葉選びでも、訛りなどによる表現の違いでもなく、明確な意思によって「見る」という表現を使っているのだと言うことに襖の奥の光景を見てまざまざと突きつけられた。
シドも立ちあがり、アジェットの後ろに移動した。アジェットは「入るよ」と優しい声で言って、襖をゆっくりと開けた。その光景にシドは一瞬、かける言葉を失った。
部屋は家具などが何もない小さな空間で、人が4人寝ころぶことができるかどうかの狭い部屋だった。その部屋の真ん中に敷かれた大きな布団には、2人の男女が静かに眠っていた。2人は様々な管に繋がれており、命を繋ぎとめる為のありとあらゆる手段が尽くされていることが一目で分かった。
「これがリンの両親・・・・・・ケニーとフランじゃよ」
頭に巻かれた包帯、何度も張り替えられたのであろう皮膚を傷つけているガーゼ、あらゆる部位から伸びる管は、薬液や老廃物、血液を循環させている。口元に付けられた装置に、2人の浅く弱い息がかすかに当たり、白い靄を作っては消える。シドの目から見て、どのように2人が延命できているのか分からないほど、ケニーとフランの症状は酷い、ものだった。
「事故か?」
「事故とも言えるが、人災とも言える・・・・・・」
アジェットはゆっくりとゆっくりと襖を閉めた。そして、無言でまた元居た席に戻っていく。それに少し遅れてシドも席に戻る。
「フランはリンの前の外套職人で、ケニーは医者じゃった。2人はある紛争地帯に夫婦で訪れて人々と、そしてブレイグルのケアをする有志の団体に所属しておった」
「紛争地域・・・・・・そうか、それは確かに人災とも言えるな」
「2人はある日、治療をしていたブレイグルに襲われ重傷を負った。どうして、そのブレイグルが二人を襲ったのかは定かではない、発見した仲間によれば二人の全身はズタズタに切り裂かれ、一命をとりとめたのは奇跡としか言えないと」
その話を聞いたシドは、ネオンの黒涙に貫かれ、シルビーによって奇跡的に救われたアレックスのこと思い出していた。
「・・・・・・封衣とは何なんだ? この件、恐らくブレイグルに関した物でなければ、今日会った人間にこんな話をしたはりはしないだろう」
アジェットはネオンのことを見つめる。ネオンもその視線に気づいたのか、顔を上げてアジェットのことを見つめ返していた。
「封衣はその名の通り、ブレイグルの力を封じる為の檻じゃ。特にブレイグル本人も意図せず暴走してしまう力から人々を守る為の手段じゃ」
「・・・・・・守るのは人々だけか?」
「ふん、変なところで勘の良いガキじゃな。お前の思っている通り、ブレイグルの力を恐れる人々の迫害からブレイグルを守る為の物でもある。檻とは、リスクを封じ込める手段であると同時に、折に入れる生物の尊厳を守る為の物でもあるのじゃからな」
シドがネオンを見ると、ネオンもシドを見た。旅の道中で、シドは決してネオンの手を離さなかったが、それはルーザにネオンも守れと言われたからではなく、どこかでネオンが暴走をした時に止めることや自分が黒涙の刃に触れる恐怖から手を離すことが出来なかっただけだった。
「リンはブレイグルを憎んでいるのか?」
シドの言葉にアジェットは顔を強張らせながら答える。
「ワシは愛息子とフランをあんな姿にしたブレイグルを恨んでおる、これは隠しようも無ければ、誤魔化しようもない想いじゃ。リンも当時は相当に混乱し、毎日の様に2人の側で泣きつづけ、今でもワシに隠れて泣いておるが・・・・・・恨んではおらんよ。あの子は、人々もブレイグルも平等に愛し、平等に救っていた両親を誇りに思っておるからの」
シドは、アジェットの話を聞いて、ネオンを見つめる時の悲しげな視線の意味が少しわかった気がした。
「さて、しばらくリンは出てこんし、ワシも作業があるからの、まあゆっくりしてくれ」
そう言って、シドとネオンを残してアジェットは、棺の並ぶ店内へと消えていった。
後から入ってきた女性が、シドとネオンに頭を下げる。2人はあの後、店の奥にあった棺を模した襖から店の奥にある生活感漂う部屋に入っていた。人が2人並べるくらいの小さなキッチンが奥にあり、腰くらいの高さがある四人掛けのテーブルと木造りの椅子、壁には額縁に入れられた賞状や勲章が幾つも飾られていた。
「ほら、おじいちゃんも謝る! シドさんお尻ぶつけてるのよ?」
「ケツはワシのせいじゃあなかろうに・・・・・・」
「なに?」
女性の名前はリンと言い、ふてくされている老人アジェットの孫娘だった。凛々しく整えられた眉に、大きな瞳、下まつ毛が長く綺麗だった。リンは祖父であるジェットにも遠慮がない。リンに凄まれて、アジェットはシドの顔は見なかったもののしぶしぶ「驚かせて申し訳なんだ」 と言った。リンは軽くため息を吐いてから、改めて自己紹介をする。
「こっちは棺職人のアジェット、私の祖父よ。そして、私がリン。外套職人をしているわ」
「俺はシド、こっちはネオンだ。よろしく」
リンが付けていた作業用の手袋を外して、手を差し出し、シドが握手に応じた。リンは、ネオンを見つめながら、なんだか少し哀しそうな顔をしているようにシドには見えた。ネオンは陶器の湯のみ茶碗で出してもらった、熱々のお茶に苦戦している。
「ルーザから言伝はもらっているの。この子が例のブレイグルなのね」
「・・・・・・ああ、そうだ」
アジェットは音を立てながら茶をすすり「ふん」 と小さく零していた。シドは2人から感じる妙な違和感を感じていた。
「えっと、俺達はルーザに言われてここに来たんだが、正直どうしたら良いのか分からないんだが」
「もう、あの人は本当にいい加減ね。まあ、ルーザのことだから何か考えがあって最低限のことしか喋らなかったのでしょうけれど」
リンのぼやきの前後どちらにもシドは同感だった。特に後者に関して言えば、ヒュージ落下地点へ向かう前にシルビーの回復薬を渡されたことと言い、ルーザの予知とも言えるような先見の明を体感していたのだから尚更だった。
「丁寧に説明したい所なんだけれど、素材の消費期限の都合で私は今から作業に入らなければならないから、後はおじいちゃん宜しくね」
リンはそう言って、外した手袋をまたはめ直して、シドの前後にあった前方の扉の奥へと入っていった。アジェットは、文句を一つも言わなかった。
「まさか、『封物』とやらはリンが? まだ16、7歳くらいだろう?」
「わしは棺しか造れん。あの子は両親の仕事をよく手伝っておったから、外套職人としての腕はそこいらの職人に引けを取らん。それに、『封衣』の作り方は一子相伝、今はあの子しか造ることはできん」
「ふうい?」
アジェットは立ち上がり、壁に飾られている賞状の一角を眺め始める。部屋にある症状には4人の名前が書かれていた。アジェットが愛しそうに、悲しそうに見上げている賞状にはアジェットともリンとも異なる名前が書かれている。
「・・・・・・リンの両親は亡くなったのか?」
「・・・・・・いや、生きておるよ。見るか?」
アジェットはそう言って、シドの後ろにある襖に手をかける。シドはアジェットの言葉に違和感を感じていた。今も生きていて、紹介しようと言うのに「会う」ではなく「見る」と表現したからだ。その真意が、老人なりの言葉選びでも、訛りなどによる表現の違いでもなく、明確な意思によって「見る」という表現を使っているのだと言うことに襖の奥の光景を見てまざまざと突きつけられた。
シドも立ちあがり、アジェットの後ろに移動した。アジェットは「入るよ」と優しい声で言って、襖をゆっくりと開けた。その光景にシドは一瞬、かける言葉を失った。
部屋は家具などが何もない小さな空間で、人が4人寝ころぶことができるかどうかの狭い部屋だった。その部屋の真ん中に敷かれた大きな布団には、2人の男女が静かに眠っていた。2人は様々な管に繋がれており、命を繋ぎとめる為のありとあらゆる手段が尽くされていることが一目で分かった。
「これがリンの両親・・・・・・ケニーとフランじゃよ」
頭に巻かれた包帯、何度も張り替えられたのであろう皮膚を傷つけているガーゼ、あらゆる部位から伸びる管は、薬液や老廃物、血液を循環させている。口元に付けられた装置に、2人の浅く弱い息がかすかに当たり、白い靄を作っては消える。シドの目から見て、どのように2人が延命できているのか分からないほど、ケニーとフランの症状は酷い、ものだった。
「事故か?」
「事故とも言えるが、人災とも言える・・・・・・」
アジェットはゆっくりとゆっくりと襖を閉めた。そして、無言でまた元居た席に戻っていく。それに少し遅れてシドも席に戻る。
「フランはリンの前の外套職人で、ケニーは医者じゃった。2人はある紛争地帯に夫婦で訪れて人々と、そしてブレイグルのケアをする有志の団体に所属しておった」
「紛争地域・・・・・・そうか、それは確かに人災とも言えるな」
「2人はある日、治療をしていたブレイグルに襲われ重傷を負った。どうして、そのブレイグルが二人を襲ったのかは定かではない、発見した仲間によれば二人の全身はズタズタに切り裂かれ、一命をとりとめたのは奇跡としか言えないと」
その話を聞いたシドは、ネオンの黒涙に貫かれ、シルビーによって奇跡的に救われたアレックスのこと思い出していた。
「・・・・・・封衣とは何なんだ? この件、恐らくブレイグルに関した物でなければ、今日会った人間にこんな話をしたはりはしないだろう」
アジェットはネオンのことを見つめる。ネオンもその視線に気づいたのか、顔を上げてアジェットのことを見つめ返していた。
「封衣はその名の通り、ブレイグルの力を封じる為の檻じゃ。特にブレイグル本人も意図せず暴走してしまう力から人々を守る為の手段じゃ」
「・・・・・・守るのは人々だけか?」
「ふん、変なところで勘の良いガキじゃな。お前の思っている通り、ブレイグルの力を恐れる人々の迫害からブレイグルを守る為の物でもある。檻とは、リスクを封じ込める手段であると同時に、折に入れる生物の尊厳を守る為の物でもあるのじゃからな」
シドがネオンを見ると、ネオンもシドを見た。旅の道中で、シドは決してネオンの手を離さなかったが、それはルーザにネオンも守れと言われたからではなく、どこかでネオンが暴走をした時に止めることや自分が黒涙の刃に触れる恐怖から手を離すことが出来なかっただけだった。
「リンはブレイグルを憎んでいるのか?」
シドの言葉にアジェットは顔を強張らせながら答える。
「ワシは愛息子とフランをあんな姿にしたブレイグルを恨んでおる、これは隠しようも無ければ、誤魔化しようもない想いじゃ。リンも当時は相当に混乱し、毎日の様に2人の側で泣きつづけ、今でもワシに隠れて泣いておるが・・・・・・恨んではおらんよ。あの子は、人々もブレイグルも平等に愛し、平等に救っていた両親を誇りに思っておるからの」
シドは、アジェットの話を聞いて、ネオンを見つめる時の悲しげな視線の意味が少しわかった気がした。
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