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三時間目:ミルグラムの服従実験【後編】
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第三実験『アイヒマン実験』開始。
仕切られた部屋では目隠しをされた生徒達が、アイツの手によって選択された役の席へと着く。
そして、白仮面の手によりアイマスクが順次外されていった。僕らのモニターでは遠すぎて誰がどのブースに居るのかがまだ分からない。
このまま誰なのかが分からないままなのか?
それとも、誰と誰が互いを信じ合い、もしくは歪み合いながら実験を進行する様子を見せつけるように、公表するのか。
恐らくは……後者だ。なぜならアイツは楽しんでいるのだから。僕らが目をそらすのを、絶望するのを、嘆くのを、悲しむのを、そして自分に向けられる怒りや軽蔑の念さえをも。
「アイマスクを一旦外し、ペアが誰なのかを確認した後、両者の間のマジックミラーを作動します。
両者はお互いの声のみが確認できる状態で、実験を進行してもらうことになります」 そう告げたアイツの説明と、白仮面の動作に嫌でもモニターの前の僕らは集中した。それが、これからクラスメイト達の大量の死を招くものだと、どこかで理解しながら。
『アイヒマン実験』のペア表
ブース番号 生徒役 ーー 先生役
01. 山崎 賢人 佐伯 佳乃
02. 土井垣 蓮 滝沢 駿介
03. 門井 虎次郎 円山 昌人
04. 小池 大輔 杉本 あきら
05. 三田 泰三 井上 恭弥
06. 遠藤 宏朔 金子 宗谷
07. 眞木 紗由理 寺井 一真
08. 見根津 愛 櫻田 一徹
09. 入江 一葉 守下 花菜
10. 吉水 寧々 赤坂 恵
以上20名10組。
アイマスクが外され、実験の実権者と被験者となる互いのペアの顔を確認した。ほとんどの人はこれから自分の身に起こるであろう恐怖に思考が遮られ、とりとめてのリアクションは起こさなかった。
その中でブース04とブース07の両者の間に反応だけは他と違っていた。
<ブース04>
「アキラ…………!?」
「…………小池っちとかよ」
小池っちは僕と春馬と亮二の四人でいることが多い。昼休みや放課後も一緒で、よく春馬の部活をサボらせようと三人で企んだりもしていた。
そんな僕らだけど休日はそこまで一緒にいることはなく。いや、ほとんど四人で遊んだことはないかな?
春馬は部活で忙しいし、亮二はだいたい撮り貯めた深夜アニメを観ているし、なによりも小池っちが不在なことが多かったからだ。
アキラくんは小池っちの幼なじみだ。考えると寂しいけれど、小池っちにもしも「親友は誰ですか?」 と聞いたら、僕らの中の誰かではなくアキラくんを選ぶ。そういう関係だ。
「アキラ、アキラ!」
小池っちは震える声を振り絞り、ガラス越しに叫ぶ。アキラくんはただ下を向いていた。
<ブース07>
モニター越しでは人が小さすぎて誰が誰だか分からないのだけれど、ブース07にいる生徒役の人物は誰もが分かった。その人はピクリとも動かずに、机に伏していたからだ。
長い髪が顔を覆ってもはらおうともしない何故か?彼女は意識がほとんどないからだ。
「おい、まさかブース07の先生役って」 その佐野くんの声は怒りで震えていた。僕もその声で確信する。
「紗由理?紗由理!?
なんでだよ、なんでオレがお前と実験なんかしなくちゃいけねぇんだよぉおおっ!!」 先生役の人が咆哮した。
そう、ブース07の先生役は寺井くんだったのだ。本当にどこまでも、どこまでもアイツは腐っている。
「それではこれから実験の概要を説明します。
--ブース07、少し騒がしいですよ?説明はきちんと聞きましょう」
恋人が壊され、その身を守ろうとしている寺井くんにわざと眞木さんを当てる。激昂するのも当たり前なのに、それをアイツは面白がっている。
「それでは、これより実験の説明に入りますので、マジックミラーを起動。
生徒役と先生役の二人はお互いの声のみを認識できる様にします」
生徒役と先生役に選ばれた人達は、お互いを視認できなくなり、嫌でもアイツの説明を受ける他なかった。
でも……何故アイツは二度説明をするという無駄をするのだろう。モニター前の僕らはすでに説明を受けている。
ここまでのアイツの傾向からすれば、できるだけ無駄はなくスムーズに実験を進めていく節があった。
きっと、アイツからしたら僕らへの講義ではなく、実験の検証が最重要課題であるからそうしているのだろうけど。
「これから君たちに行ってもらうのは、『連合学習課題による記憶の強化』を実証する為の実験です」
え……さっきの説明と違う。さっきは『閉鎖された空間における権威者への服従』を検証する実験だと言っていたのに。
「これが、アイツの言ってた偽の実験ってことなのか?」 そうだった。友澤くんの言葉で思い出した。
そうだ、アイツは確かに皆には偽の実験を行ってもらうと言っていた。
「なんか覆面捜査みたいだな」
頭の良い人は考えることが複雑なんだなと素直に思ってしまった。提示された実験は、本当の検証したい目的を見る為の模擬的な実験ということだ。
「これから先生役には生徒役に対して連合学習課題の問題を出題してもらいます。
その際不正解の場合には強化子として電気ショックを受けてもらいます。不正解をする毎に強化子は強くされていきます」
ここまでの説明を終えて、各モニターに写る白仮面が一斉に先生役の元に歩み寄っていく。
「この前の声もだったけど、気味悪いくらいに白仮面達の動きって一緒だよな…………」
「ええ、まるで同じ映像を再生されているみたいにね」 そう声に出してお互いに確認をする。委員長と中澤さんの分析は確かにそうだと思わされてしまう。
「ここからは、先生役のみに通達します。
これから先生役にも擬似的な罰として、生徒役が受ける罰のごく弱いものを体感して頂きます。
ちなみに今回体感して頂く電圧は45ボルトです」
つまり、これは今から自分が相手に与える罰を身をもって知っておけということだろう。
「それでは合図で電気を送りますよ」
擬似的とはいえ電気ショックなんてくらいたくはない。そんな僕らの気持ちをアイツはまるでわかっているかの様だ。
「今回はおまけで見学の君たちも一緒に45ボルトを体感してね」
「は?……………………痛っ!」
「きゃ!!」
「うおっ!?」
特に痺れたりとか支障はないけど、普通にピリッと痛かった。
「ちょっ、マジなんでオレらまで」
「びっくりした……」
僕たち見学者にまで電気ショックを与えたのは完全にアイツの趣味だろう。少しイラッとした。けど、間違える度にこれをされるとなるとなかなかに…………
「これは罰における電気ショック30段階中の下から3番目の強さになります。
つまり、こうした罰による不快感を避けるために人の記憶力は強くなるのか?ということですね」
今アイツが説明をしているこの実験は偽の実験なのに、確かにそんな現象が起こるのではないかと思ってしまう。嫌だから必死で記憶するってことは、普通にあり得そうだ。
後は問題なのはどんな問題が出されるのかと、僕らにも内緒にされている先生役のみの特権についてだ。
「では、再び皆さんへのアナウンスです。
これより、連合学習課題の例題をお出しします」
「今から二つの単語の組み合わせを三つ提示します。皆さんそれを記憶してください」
二つの単語の組み合わせ?とにかく、覚えれば良いのだろう。
「では。
風ーゼッカ
雨ーメッア
雲ーモック」
これらを覚える?とにかく繰り返してみよう。風、ゼッカ。雨、メッア。雲、モック。風、ゼッカ。雨、メッア。雲…………
僕はひたすら頭の中で繰り返した。横では春馬がなにかを考えている様だった。考えながら記憶できるものなのか?
そして30秒が経過した。
「それでは『雲』の組み合わせとして正しい物は次の内どれでしょうか?
①ノック
②モック
③メック
④トック」
ん?雲、雲、雲……雨、メッア。雲……あっ、分かった答えは。
「答えは②番のモックです。ちゃんと覚えていましたか?
今回は二つの単語にある関連性があり、気づいた人には容易過ぎたかもしれませんね」
「関連性?なんのことだろう?」 田口くんの素直な感想に、委員長が丁寧に答える。
「それぞれの単語の組み合わせで、最初の単語を反対にして真ん中に「っ」を入れたものが二つ目の単語になっていたよ」
雨の反対はメア。メアの真ん中に「っ」 を入れるから雨の組み合わせはメッア!本当だ。
雲も同じくモクがモック。風もゼカがゼッカか。よくそんなことをあの一瞬で思い付くものだな。
「おお!」
「本当だ!すげぇな委員長」
皆が委員長を称える中、いつもなら一緒に称賛していそうな春馬は特別な反応をしていない。あれ?そういえば春馬も課題を提示された時に何か考えていたな。
もしかして、春馬は気付いていたのかもしれないな。今は、僕にアイツの仲間の疑いがかけられていて、そんな小さな話題すら春馬と話すことができない。それが、何よりも悲しい。
「先生役はその課題の提示と、罰を与える機器の操作をしていただきます。
生徒役は①~④番の中から正解と思うものを、手元にあるボタンを押して答えてください。説明は以上です」
あの問題に答えて、間違えたら電気ショック。一見すると偽の実験の方が本当の検証の様に思えてしまう。この実験が服従と何の関係があるのだろうか?
「それでは、『アイヒマン実験開始』を開始してください」
ーーーー閉鎖された空間において人間はどこまでも残酷になれる。
<第一問>
カマキリー緑
チョウチョー白
カブトムシー黒
カマキリとの組み合わせで正しい物は?
①白
②赤
③緑
④紫
第一問、9名正解(回答なしによる不正解扱い一人)により電気ショックを受けた生徒1人。
<ブース01>
「李奈、よかった。頑張ってね」
「う、うん」
北条さんと佐伯さんはそこまで仲が良い印象はないけれど、良きクラスメイトと言った感じだろう。佐伯さんの言葉に偽りはないと思うけれど、北條さんの反応はどこかそっけない様にも感じられた。
<ブース07>
寺井くんの機器に乗せられた手が震えていた。眞木さんは回答ができる状態ではない。悪趣味なことに回答なしは不正解扱いとなるようだ。
アイツは気絶による脳波の測定不能ですら、実験に参加する価値無しとして死罰を与えるような人間だ。当たり前と言えば当たり前の判断か…………
眞木さんは意識が朦朧としているとはいえ、大好きな人から罰を受けなければならない。意識がなくて良かったと思ってしまうのは僕が当事者ではないからなのだろうか?
「おい、あの約束は本当なんだろうな?」 その寺井くんの震える声にも白仮面は何も応えない。
寺井くんのカタカタと震える、手の振動に合わせて電気ショックのボタンが音をたてていた。
「…………くそっ、紗由理ごめん」 そう言って寺井くんは15ボルトの電気ショックのスイッチを押した。ミラー越しには見えていないが寺井くんは顔を背ける。
もちろん眞木さんに反応はない。
<第二問>
コーラー泡
ジュースー実
アイスー氷
ジュースとの組み合わせで正しい物は?
①実
②種
③花
④葉っぱ
第二問、9名正解(回答なしによる不正解扱い一人)により電気ショックを受けた生徒1人。
<ブース02>
「思ったより楽勝だな。なんか覚えやすいもんばっかだし」 生徒役の土井垣くんが先生役の滝沢くんに向かいそう言った。
「蓮あまり油断するなよ?
アイツらがそんな問題ばかり出し続けるわけないよ」
「まぁ、オレの記憶力見とけって」
しかし、この時の滝沢くんの懸念は的中するのだ。そう、アイツがこんな簡単な課題でほとんどの人が正解していることに満足するはずがない。
<ブース07>
眞木さんの意識はまだ戻らないまま。力なく机に顔を埋めている。
「くそっ、紗由理。耐えてくれ…………」
歯を食い縛りながら寺井くんは先程よりも15ボルト強い30ボルトの電気ショックを、恋人に流した。
それは最も弱い電流を流すよりも、わすわかではあるが確かに少ない時間でボタンが押された。それが何を意味しているのかを気付く者などいなかったのだけれど。
<第三問>
ヨーロッパーたまご
アジアーこめ
アフリカーカカオ
ヨーロッパとの組み合わせとして正しい物は?
①たまご
②サラダ
③カカオ
④むぎ
第三問、9名正解(回答なしによる不正解扱い一人)により電気ショックを受けた生徒1人。
<ブース03>
「円山くん、おめでとう!」 門井くんが声を高くしてそう言った。門井くんは八方美人と言うか、卑屈な部分が
人よりも目立ちやすく、その声は先生役の円山くんにこびへつらうかのような口調だった。
「…………うっせぇよ。偽善者が」 そう聞こえないように吐き捨てた。一方の円山くんは、あまり人との関わりが得意なタイプではない。
隣にも聞こえない小さな呟きが、無機質なコンクリートの壁に吸い込まれて消えた。
<ブース07>
「45ボルト…………さっき体感した強さ。
まだ、何もない。だから、大丈夫だ。大丈夫、待ってろ紗由理」
隣にいた白仮面だけが寺井くんの呼吸が乱れていることに気がついていた。寺井くんは白仮面の視線を横から浴びながら、45ボルトに装置を操作していく。
そして寺井くんはゆっくりと45ボルトの電気ショックのボタンを押した。
「くそっ…………紗由理ぃ」
眞木さんはにはまだ反応がない。
そして、風向きが変わり始めたのは第四問目からだった。
<第四問>
クナイーコロンビア
マキビシーニュージーランド
エンマクースコットランド
それまである程度の関連性が見られた組み合わせから、関連性がなくなった。それによって記憶することの難易度が急激に上がった。そして、いきなりの難易度の上昇に気の緩んでいた数人がアイツの毒牙にかかる。
マキビシとの組み合わせとして正しい物は?
①ニュージーランド
②スコットランド
③アイルランド
④グリーンランド
<ブース06>
「え?ちょっと待ってよ?なんで急にこんな難しくなるんだよ!?」 金子くんの言い分も最もだけれど、今は文句を言っても何の役にも立たない。
四つの選択肢から正解の1つを導きだす他に電気ショックから逃れることはできないのだから。
「アイルランドとグリーンランドは出てきてないから、答えは①か②の二択。
どっち…………?」
金子くんは悩みに悩んだ末、②を選択した。
第四問、6名正解(回答なしによる不正解扱い一人)により電気ショックを受けた生徒4人。
この第四問を境にして、出題される課題の難易度が急激に引き上げられていくことになった。
連合学習において、1つ目の単語と2つ目の単語に意味がある場合は記憶しやすく、また関連性が高いほどに記憶は定着しやすい。
逆に意味のない単語ほど記憶しづらく、提示された単語の組み合わせの関連性が薄くなるほどに記憶の定着は難しくなる。
ーーこれは、罰による強化子によって正当率が有意に上がるものではない。だからどれだけ強い電気ショックを受けたとしても、その罰から逃げたいと願っても、記憶力が優位に上がることなどない。
…………ひどく理不尽な実験だ。
<ブース08>
「見根津いくぞ?」 櫻田くんは見根津さんの心の準備の為に声をかけていた。
見根津さんは嫌がる。
「やめて一徹くん。嫌」
「大丈夫、まだ全然痛くないから」
「いや……いや!」
そして櫻田くんが15ボルトのボタンを押した。
「きゃっ!」
「な!大丈夫だったろ?」
「う、うん。そうだね…………」
<ブース07>
「さっきの45ボルトでも痛みはあった。60ボルトって…………どうなんだ?痛いのか痛いよな?
なぁ、止めさせてくれよ」 寺井くんは震えながらに白仮面にそう言った。
白仮面は一言答える。
「あなたに続けて頂かなければ困るのです」
その体温の欠片すら感じられない言葉に、寺井くんはびくっと身体を強ばらせた。
「…………でも、でも」
寺井くんの動揺にも、白仮面は何も言わずに寺井くんを見つめ続けるだけだった。
「…………紗由理、うあ」
4回目の電気ショック、電圧は60ボルト。体感した45ボルトよりも強い痛みにはなるが人間の身体に異常は表れない電圧だ。
実は先生役には、電圧の強さによる『被験者の反応予測』がある明快な方法で知らされていた。
しかし、それの真偽も分からないことなので、不安はどんどん募るだけだったろう。寺井くんは、目をつむりながら60ボルトの電気ショックを眞木さんに浴びせた。
この時、意識のなかった眞木さんの指が、電気ショックの後に数回動いたことを寺井くんは知るよしもない。
<第五問>
テキサスーヨークシャーテリア
ロンドンーロップイヤー
ミュンヘンースフィンクス
ミュンヘンとの組み合わせとして正しい物は?
①ペルシャ
②アビシニアン
③スフィンクス
④サイベリアン
第五問、3名正解(回答なしによる不正解扱い一人)により電気ショックを受けた生徒7人。
<第六問>
石川五右衛門ー伊藤博文
石川啄木ー井伊直弼
石川年足ー飯塚雅弓
石川五右衛門との組み合わせとして正しい物は?
①大隈重信
②伊藤博文
③松方正義
④清浦奎吾
第六問、4名正解(回答なしによる不正解扱い一人)により電気ショックを受けた生徒6人。
「段々とこの問題の難しさが分かってきたぞ」 そう言った委員長はまだ分析を続けていたようだ。
「組み合わせの関連性が高いと覚えやすいが、例え組み合わせに関連性があっても、1つ目の単語や2つ目の単語に類似性が高いと混乱して覚えにくくなる」
「へ?……えっと、つまりどういうこと?」 僕らを代表したかのような亮二の質問に委員長は第六問を例にして答える。
「第六問の1つ目の単語は全てに「石川」 が付くっていう類似性が高いものだ。
どれにも石川がついているからと簡単のようにも思えるけれど、どの石川なのかを覚えるのは難しいだろ?」
「確かに歴史の問題でもどの徳川将軍だよ!?とかなるもんな」
「そう。そして皆も気付いたと思うけれど選択肢にも類似性があった。
……それは「歴代日本首相」!という類似性だ」
れ、歴代日本首相…………?いや、存じ上げませんでしたが。委員長の誇らしげな顔に僕らは温かい視線を送るしかできなかった。
つまりだ。例え1つ目の名前ともう1つの単語について覚えていても、答えの時に歴代日本首相の名前を並べられてしまうと更に混乱する。
この連合学習の怖さは関連性・類似性・有意性、様々な領域の組み合わせによって難易度が変化することなんだな。
って、仕組みが分かってもどうにも僕にはがむしゃらに記憶していくしか無さそうに思えてしまうのだけれど。
この実験の肝となる部分の1つとして、先生役の機器には電圧の強さによる被験者の反応が記されていることがある。
以下がその相対表になる。(Wikipedia『アイヒマン実験』より抜粋)
75ボルトになると、不快感をつぶやく。
120ボルトになると、大声で苦痛を訴える。
135ボルトになると、うめき声をあげる。
150ボルトになると、絶叫する。
180ボルトになると、「痛くてたまらない」と叫ぶ。
270ボルトになると、苦悶の金切声を上げる。
300ボルトになると、壁を叩いて実験中止を求める。
315ボルトになると、壁を叩いて実験を降りると叫ぶ。
330ボルトになると、無反応になる。
この時、アイヒマン実験ではこの表に準じたリアクションを協力者である生徒役が演技によってしていた。それによって本来の被験者である先生役が生徒役が本当に電気ショックを受けているのだと信じこむ為だった。
しかし、今回のケンショウでは実際に電気ショックを流している。よって、そんなことは知らない中学生でも、この表に準じるような反応を示す可能性は少なくなかった。ともすれば、本当に痛みを感じるので表よりも大きな反応さえも期待される。
しかし、この実際に電気ショックを受け続けるということには、あるリスクが伴っていることもアイツは熟知していた。そのリスクも含めてアイツの目的の1つなのだろう。
実は電圧の高低によって人間の致死率というのはさほど変わらないのである。
実際に感電した時に生死を決定付けるのは電圧ではなく電流だからだ。電圧を高くすれば電流も勿論高くなるが、普通の状態なら例え400ボルトの電圧であれ、45ボルトの電圧であれ人間の身体に異常をきたすほどの電流は身体の組織にある電気抵抗によって小さくなり致死に至ることはまずない。
電化製品による感電死があるなかで、時おり落雷に直撃した人が軽い怪我で住むことがある理由の1つとしても、この電圧と電流そして電気抵抗の関係があげられる。
しかし、一方で。
例え45ボルトであっても手に汗をかいたりして濡れていると電気抵抗が極端に下がり、理論上は0.1アンペアの致死電流が身体を、駆け抜けることもありえるという。
この実験の電気ショックによって9名の生徒が死に至るが、その命運を分けたのは電気ショックを流す部位の皮膚表面が汗や涙によって濡れていたのか否かであった。
仕切られた部屋では目隠しをされた生徒達が、アイツの手によって選択された役の席へと着く。
そして、白仮面の手によりアイマスクが順次外されていった。僕らのモニターでは遠すぎて誰がどのブースに居るのかがまだ分からない。
このまま誰なのかが分からないままなのか?
それとも、誰と誰が互いを信じ合い、もしくは歪み合いながら実験を進行する様子を見せつけるように、公表するのか。
恐らくは……後者だ。なぜならアイツは楽しんでいるのだから。僕らが目をそらすのを、絶望するのを、嘆くのを、悲しむのを、そして自分に向けられる怒りや軽蔑の念さえをも。
「アイマスクを一旦外し、ペアが誰なのかを確認した後、両者の間のマジックミラーを作動します。
両者はお互いの声のみが確認できる状態で、実験を進行してもらうことになります」 そう告げたアイツの説明と、白仮面の動作に嫌でもモニターの前の僕らは集中した。それが、これからクラスメイト達の大量の死を招くものだと、どこかで理解しながら。
『アイヒマン実験』のペア表
ブース番号 生徒役 ーー 先生役
01. 山崎 賢人 佐伯 佳乃
02. 土井垣 蓮 滝沢 駿介
03. 門井 虎次郎 円山 昌人
04. 小池 大輔 杉本 あきら
05. 三田 泰三 井上 恭弥
06. 遠藤 宏朔 金子 宗谷
07. 眞木 紗由理 寺井 一真
08. 見根津 愛 櫻田 一徹
09. 入江 一葉 守下 花菜
10. 吉水 寧々 赤坂 恵
以上20名10組。
アイマスクが外され、実験の実権者と被験者となる互いのペアの顔を確認した。ほとんどの人はこれから自分の身に起こるであろう恐怖に思考が遮られ、とりとめてのリアクションは起こさなかった。
その中でブース04とブース07の両者の間に反応だけは他と違っていた。
<ブース04>
「アキラ…………!?」
「…………小池っちとかよ」
小池っちは僕と春馬と亮二の四人でいることが多い。昼休みや放課後も一緒で、よく春馬の部活をサボらせようと三人で企んだりもしていた。
そんな僕らだけど休日はそこまで一緒にいることはなく。いや、ほとんど四人で遊んだことはないかな?
春馬は部活で忙しいし、亮二はだいたい撮り貯めた深夜アニメを観ているし、なによりも小池っちが不在なことが多かったからだ。
アキラくんは小池っちの幼なじみだ。考えると寂しいけれど、小池っちにもしも「親友は誰ですか?」 と聞いたら、僕らの中の誰かではなくアキラくんを選ぶ。そういう関係だ。
「アキラ、アキラ!」
小池っちは震える声を振り絞り、ガラス越しに叫ぶ。アキラくんはただ下を向いていた。
<ブース07>
モニター越しでは人が小さすぎて誰が誰だか分からないのだけれど、ブース07にいる生徒役の人物は誰もが分かった。その人はピクリとも動かずに、机に伏していたからだ。
長い髪が顔を覆ってもはらおうともしない何故か?彼女は意識がほとんどないからだ。
「おい、まさかブース07の先生役って」 その佐野くんの声は怒りで震えていた。僕もその声で確信する。
「紗由理?紗由理!?
なんでだよ、なんでオレがお前と実験なんかしなくちゃいけねぇんだよぉおおっ!!」 先生役の人が咆哮した。
そう、ブース07の先生役は寺井くんだったのだ。本当にどこまでも、どこまでもアイツは腐っている。
「それではこれから実験の概要を説明します。
--ブース07、少し騒がしいですよ?説明はきちんと聞きましょう」
恋人が壊され、その身を守ろうとしている寺井くんにわざと眞木さんを当てる。激昂するのも当たり前なのに、それをアイツは面白がっている。
「それでは、これより実験の説明に入りますので、マジックミラーを起動。
生徒役と先生役の二人はお互いの声のみを認識できる様にします」
生徒役と先生役に選ばれた人達は、お互いを視認できなくなり、嫌でもアイツの説明を受ける他なかった。
でも……何故アイツは二度説明をするという無駄をするのだろう。モニター前の僕らはすでに説明を受けている。
ここまでのアイツの傾向からすれば、できるだけ無駄はなくスムーズに実験を進めていく節があった。
きっと、アイツからしたら僕らへの講義ではなく、実験の検証が最重要課題であるからそうしているのだろうけど。
「これから君たちに行ってもらうのは、『連合学習課題による記憶の強化』を実証する為の実験です」
え……さっきの説明と違う。さっきは『閉鎖された空間における権威者への服従』を検証する実験だと言っていたのに。
「これが、アイツの言ってた偽の実験ってことなのか?」 そうだった。友澤くんの言葉で思い出した。
そうだ、アイツは確かに皆には偽の実験を行ってもらうと言っていた。
「なんか覆面捜査みたいだな」
頭の良い人は考えることが複雑なんだなと素直に思ってしまった。提示された実験は、本当の検証したい目的を見る為の模擬的な実験ということだ。
「これから先生役には生徒役に対して連合学習課題の問題を出題してもらいます。
その際不正解の場合には強化子として電気ショックを受けてもらいます。不正解をする毎に強化子は強くされていきます」
ここまでの説明を終えて、各モニターに写る白仮面が一斉に先生役の元に歩み寄っていく。
「この前の声もだったけど、気味悪いくらいに白仮面達の動きって一緒だよな…………」
「ええ、まるで同じ映像を再生されているみたいにね」 そう声に出してお互いに確認をする。委員長と中澤さんの分析は確かにそうだと思わされてしまう。
「ここからは、先生役のみに通達します。
これから先生役にも擬似的な罰として、生徒役が受ける罰のごく弱いものを体感して頂きます。
ちなみに今回体感して頂く電圧は45ボルトです」
つまり、これは今から自分が相手に与える罰を身をもって知っておけということだろう。
「それでは合図で電気を送りますよ」
擬似的とはいえ電気ショックなんてくらいたくはない。そんな僕らの気持ちをアイツはまるでわかっているかの様だ。
「今回はおまけで見学の君たちも一緒に45ボルトを体感してね」
「は?……………………痛っ!」
「きゃ!!」
「うおっ!?」
特に痺れたりとか支障はないけど、普通にピリッと痛かった。
「ちょっ、マジなんでオレらまで」
「びっくりした……」
僕たち見学者にまで電気ショックを与えたのは完全にアイツの趣味だろう。少しイラッとした。けど、間違える度にこれをされるとなるとなかなかに…………
「これは罰における電気ショック30段階中の下から3番目の強さになります。
つまり、こうした罰による不快感を避けるために人の記憶力は強くなるのか?ということですね」
今アイツが説明をしているこの実験は偽の実験なのに、確かにそんな現象が起こるのではないかと思ってしまう。嫌だから必死で記憶するってことは、普通にあり得そうだ。
後は問題なのはどんな問題が出されるのかと、僕らにも内緒にされている先生役のみの特権についてだ。
「では、再び皆さんへのアナウンスです。
これより、連合学習課題の例題をお出しします」
「今から二つの単語の組み合わせを三つ提示します。皆さんそれを記憶してください」
二つの単語の組み合わせ?とにかく、覚えれば良いのだろう。
「では。
風ーゼッカ
雨ーメッア
雲ーモック」
これらを覚える?とにかく繰り返してみよう。風、ゼッカ。雨、メッア。雲、モック。風、ゼッカ。雨、メッア。雲…………
僕はひたすら頭の中で繰り返した。横では春馬がなにかを考えている様だった。考えながら記憶できるものなのか?
そして30秒が経過した。
「それでは『雲』の組み合わせとして正しい物は次の内どれでしょうか?
①ノック
②モック
③メック
④トック」
ん?雲、雲、雲……雨、メッア。雲……あっ、分かった答えは。
「答えは②番のモックです。ちゃんと覚えていましたか?
今回は二つの単語にある関連性があり、気づいた人には容易過ぎたかもしれませんね」
「関連性?なんのことだろう?」 田口くんの素直な感想に、委員長が丁寧に答える。
「それぞれの単語の組み合わせで、最初の単語を反対にして真ん中に「っ」を入れたものが二つ目の単語になっていたよ」
雨の反対はメア。メアの真ん中に「っ」 を入れるから雨の組み合わせはメッア!本当だ。
雲も同じくモクがモック。風もゼカがゼッカか。よくそんなことをあの一瞬で思い付くものだな。
「おお!」
「本当だ!すげぇな委員長」
皆が委員長を称える中、いつもなら一緒に称賛していそうな春馬は特別な反応をしていない。あれ?そういえば春馬も課題を提示された時に何か考えていたな。
もしかして、春馬は気付いていたのかもしれないな。今は、僕にアイツの仲間の疑いがかけられていて、そんな小さな話題すら春馬と話すことができない。それが、何よりも悲しい。
「先生役はその課題の提示と、罰を与える機器の操作をしていただきます。
生徒役は①~④番の中から正解と思うものを、手元にあるボタンを押して答えてください。説明は以上です」
あの問題に答えて、間違えたら電気ショック。一見すると偽の実験の方が本当の検証の様に思えてしまう。この実験が服従と何の関係があるのだろうか?
「それでは、『アイヒマン実験開始』を開始してください」
ーーーー閉鎖された空間において人間はどこまでも残酷になれる。
<第一問>
カマキリー緑
チョウチョー白
カブトムシー黒
カマキリとの組み合わせで正しい物は?
①白
②赤
③緑
④紫
第一問、9名正解(回答なしによる不正解扱い一人)により電気ショックを受けた生徒1人。
<ブース01>
「李奈、よかった。頑張ってね」
「う、うん」
北条さんと佐伯さんはそこまで仲が良い印象はないけれど、良きクラスメイトと言った感じだろう。佐伯さんの言葉に偽りはないと思うけれど、北條さんの反応はどこかそっけない様にも感じられた。
<ブース07>
寺井くんの機器に乗せられた手が震えていた。眞木さんは回答ができる状態ではない。悪趣味なことに回答なしは不正解扱いとなるようだ。
アイツは気絶による脳波の測定不能ですら、実験に参加する価値無しとして死罰を与えるような人間だ。当たり前と言えば当たり前の判断か…………
眞木さんは意識が朦朧としているとはいえ、大好きな人から罰を受けなければならない。意識がなくて良かったと思ってしまうのは僕が当事者ではないからなのだろうか?
「おい、あの約束は本当なんだろうな?」 その寺井くんの震える声にも白仮面は何も応えない。
寺井くんのカタカタと震える、手の振動に合わせて電気ショックのボタンが音をたてていた。
「…………くそっ、紗由理ごめん」 そう言って寺井くんは15ボルトの電気ショックのスイッチを押した。ミラー越しには見えていないが寺井くんは顔を背ける。
もちろん眞木さんに反応はない。
<第二問>
コーラー泡
ジュースー実
アイスー氷
ジュースとの組み合わせで正しい物は?
①実
②種
③花
④葉っぱ
第二問、9名正解(回答なしによる不正解扱い一人)により電気ショックを受けた生徒1人。
<ブース02>
「思ったより楽勝だな。なんか覚えやすいもんばっかだし」 生徒役の土井垣くんが先生役の滝沢くんに向かいそう言った。
「蓮あまり油断するなよ?
アイツらがそんな問題ばかり出し続けるわけないよ」
「まぁ、オレの記憶力見とけって」
しかし、この時の滝沢くんの懸念は的中するのだ。そう、アイツがこんな簡単な課題でほとんどの人が正解していることに満足するはずがない。
<ブース07>
眞木さんの意識はまだ戻らないまま。力なく机に顔を埋めている。
「くそっ、紗由理。耐えてくれ…………」
歯を食い縛りながら寺井くんは先程よりも15ボルト強い30ボルトの電気ショックを、恋人に流した。
それは最も弱い電流を流すよりも、わすわかではあるが確かに少ない時間でボタンが押された。それが何を意味しているのかを気付く者などいなかったのだけれど。
<第三問>
ヨーロッパーたまご
アジアーこめ
アフリカーカカオ
ヨーロッパとの組み合わせとして正しい物は?
①たまご
②サラダ
③カカオ
④むぎ
第三問、9名正解(回答なしによる不正解扱い一人)により電気ショックを受けた生徒1人。
<ブース03>
「円山くん、おめでとう!」 門井くんが声を高くしてそう言った。門井くんは八方美人と言うか、卑屈な部分が
人よりも目立ちやすく、その声は先生役の円山くんにこびへつらうかのような口調だった。
「…………うっせぇよ。偽善者が」 そう聞こえないように吐き捨てた。一方の円山くんは、あまり人との関わりが得意なタイプではない。
隣にも聞こえない小さな呟きが、無機質なコンクリートの壁に吸い込まれて消えた。
<ブース07>
「45ボルト…………さっき体感した強さ。
まだ、何もない。だから、大丈夫だ。大丈夫、待ってろ紗由理」
隣にいた白仮面だけが寺井くんの呼吸が乱れていることに気がついていた。寺井くんは白仮面の視線を横から浴びながら、45ボルトに装置を操作していく。
そして寺井くんはゆっくりと45ボルトの電気ショックのボタンを押した。
「くそっ…………紗由理ぃ」
眞木さんはにはまだ反応がない。
そして、風向きが変わり始めたのは第四問目からだった。
<第四問>
クナイーコロンビア
マキビシーニュージーランド
エンマクースコットランド
それまである程度の関連性が見られた組み合わせから、関連性がなくなった。それによって記憶することの難易度が急激に上がった。そして、いきなりの難易度の上昇に気の緩んでいた数人がアイツの毒牙にかかる。
マキビシとの組み合わせとして正しい物は?
①ニュージーランド
②スコットランド
③アイルランド
④グリーンランド
<ブース06>
「え?ちょっと待ってよ?なんで急にこんな難しくなるんだよ!?」 金子くんの言い分も最もだけれど、今は文句を言っても何の役にも立たない。
四つの選択肢から正解の1つを導きだす他に電気ショックから逃れることはできないのだから。
「アイルランドとグリーンランドは出てきてないから、答えは①か②の二択。
どっち…………?」
金子くんは悩みに悩んだ末、②を選択した。
第四問、6名正解(回答なしによる不正解扱い一人)により電気ショックを受けた生徒4人。
この第四問を境にして、出題される課題の難易度が急激に引き上げられていくことになった。
連合学習において、1つ目の単語と2つ目の単語に意味がある場合は記憶しやすく、また関連性が高いほどに記憶は定着しやすい。
逆に意味のない単語ほど記憶しづらく、提示された単語の組み合わせの関連性が薄くなるほどに記憶の定着は難しくなる。
ーーこれは、罰による強化子によって正当率が有意に上がるものではない。だからどれだけ強い電気ショックを受けたとしても、その罰から逃げたいと願っても、記憶力が優位に上がることなどない。
…………ひどく理不尽な実験だ。
<ブース08>
「見根津いくぞ?」 櫻田くんは見根津さんの心の準備の為に声をかけていた。
見根津さんは嫌がる。
「やめて一徹くん。嫌」
「大丈夫、まだ全然痛くないから」
「いや……いや!」
そして櫻田くんが15ボルトのボタンを押した。
「きゃっ!」
「な!大丈夫だったろ?」
「う、うん。そうだね…………」
<ブース07>
「さっきの45ボルトでも痛みはあった。60ボルトって…………どうなんだ?痛いのか痛いよな?
なぁ、止めさせてくれよ」 寺井くんは震えながらに白仮面にそう言った。
白仮面は一言答える。
「あなたに続けて頂かなければ困るのです」
その体温の欠片すら感じられない言葉に、寺井くんはびくっと身体を強ばらせた。
「…………でも、でも」
寺井くんの動揺にも、白仮面は何も言わずに寺井くんを見つめ続けるだけだった。
「…………紗由理、うあ」
4回目の電気ショック、電圧は60ボルト。体感した45ボルトよりも強い痛みにはなるが人間の身体に異常は表れない電圧だ。
実は先生役には、電圧の強さによる『被験者の反応予測』がある明快な方法で知らされていた。
しかし、それの真偽も分からないことなので、不安はどんどん募るだけだったろう。寺井くんは、目をつむりながら60ボルトの電気ショックを眞木さんに浴びせた。
この時、意識のなかった眞木さんの指が、電気ショックの後に数回動いたことを寺井くんは知るよしもない。
<第五問>
テキサスーヨークシャーテリア
ロンドンーロップイヤー
ミュンヘンースフィンクス
ミュンヘンとの組み合わせとして正しい物は?
①ペルシャ
②アビシニアン
③スフィンクス
④サイベリアン
第五問、3名正解(回答なしによる不正解扱い一人)により電気ショックを受けた生徒7人。
<第六問>
石川五右衛門ー伊藤博文
石川啄木ー井伊直弼
石川年足ー飯塚雅弓
石川五右衛門との組み合わせとして正しい物は?
①大隈重信
②伊藤博文
③松方正義
④清浦奎吾
第六問、4名正解(回答なしによる不正解扱い一人)により電気ショックを受けた生徒6人。
「段々とこの問題の難しさが分かってきたぞ」 そう言った委員長はまだ分析を続けていたようだ。
「組み合わせの関連性が高いと覚えやすいが、例え組み合わせに関連性があっても、1つ目の単語や2つ目の単語に類似性が高いと混乱して覚えにくくなる」
「へ?……えっと、つまりどういうこと?」 僕らを代表したかのような亮二の質問に委員長は第六問を例にして答える。
「第六問の1つ目の単語は全てに「石川」 が付くっていう類似性が高いものだ。
どれにも石川がついているからと簡単のようにも思えるけれど、どの石川なのかを覚えるのは難しいだろ?」
「確かに歴史の問題でもどの徳川将軍だよ!?とかなるもんな」
「そう。そして皆も気付いたと思うけれど選択肢にも類似性があった。
……それは「歴代日本首相」!という類似性だ」
れ、歴代日本首相…………?いや、存じ上げませんでしたが。委員長の誇らしげな顔に僕らは温かい視線を送るしかできなかった。
つまりだ。例え1つ目の名前ともう1つの単語について覚えていても、答えの時に歴代日本首相の名前を並べられてしまうと更に混乱する。
この連合学習の怖さは関連性・類似性・有意性、様々な領域の組み合わせによって難易度が変化することなんだな。
って、仕組みが分かってもどうにも僕にはがむしゃらに記憶していくしか無さそうに思えてしまうのだけれど。
この実験の肝となる部分の1つとして、先生役の機器には電圧の強さによる被験者の反応が記されていることがある。
以下がその相対表になる。(Wikipedia『アイヒマン実験』より抜粋)
75ボルトになると、不快感をつぶやく。
120ボルトになると、大声で苦痛を訴える。
135ボルトになると、うめき声をあげる。
150ボルトになると、絶叫する。
180ボルトになると、「痛くてたまらない」と叫ぶ。
270ボルトになると、苦悶の金切声を上げる。
300ボルトになると、壁を叩いて実験中止を求める。
315ボルトになると、壁を叩いて実験を降りると叫ぶ。
330ボルトになると、無反応になる。
この時、アイヒマン実験ではこの表に準じたリアクションを協力者である生徒役が演技によってしていた。それによって本来の被験者である先生役が生徒役が本当に電気ショックを受けているのだと信じこむ為だった。
しかし、今回のケンショウでは実際に電気ショックを流している。よって、そんなことは知らない中学生でも、この表に準じるような反応を示す可能性は少なくなかった。ともすれば、本当に痛みを感じるので表よりも大きな反応さえも期待される。
しかし、この実際に電気ショックを受け続けるということには、あるリスクが伴っていることもアイツは熟知していた。そのリスクも含めてアイツの目的の1つなのだろう。
実は電圧の高低によって人間の致死率というのはさほど変わらないのである。
実際に感電した時に生死を決定付けるのは電圧ではなく電流だからだ。電圧を高くすれば電流も勿論高くなるが、普通の状態なら例え400ボルトの電圧であれ、45ボルトの電圧であれ人間の身体に異常をきたすほどの電流は身体の組織にある電気抵抗によって小さくなり致死に至ることはまずない。
電化製品による感電死があるなかで、時おり落雷に直撃した人が軽い怪我で住むことがある理由の1つとしても、この電圧と電流そして電気抵抗の関係があげられる。
しかし、一方で。
例え45ボルトであっても手に汗をかいたりして濡れていると電気抵抗が極端に下がり、理論上は0.1アンペアの致死電流が身体を、駆け抜けることもありえるという。
この実験の電気ショックによって9名の生徒が死に至るが、その命運を分けたのは電気ショックを流す部位の皮膚表面が汗や涙によって濡れていたのか否かであった。
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