負け犬デスティニー

ユズリハ

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1章 運命の始まり

1-7 ツクシの発芽は突然に

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「てめぇ、舐めた口聞いてんじゃねぇよ。やってやろうじゃねぇか」

チンピラが腕を振り上げる。
後ろにはメイドさん。
俺はただのへっぽこ男子高校生。

勝ち目は、ない。

どうしよう。
何故こうなってしまったのだろうか。

それは、思い返すこと40分前ーーーー


「料理も頼んだことだしお話ししましょう!」
「そうですね」

なんて無邪気に言うので、反射的に冷めた声で答えてしまった。
メイドさんが悲しそうな顔をする。

静寂が流れる。
ざわざわとあちこちで話し声が聞こえる。
こんなにも人がいたことを初めて認識した。

気まずさを誤魔化すように、コーヒーを口に含んだ。
苦い味が喉を通る。

刹那、沈黙は破られる。
口を開いたのは彼女だった。

「…話したく、ないですか?」
「いやいやいや、そんなことは決してなくて!」

慌てて否定の言葉を口に出す。たちまち彼女は笑みを浮かべる。
気のせいだろうか、少し頬が赤く染まって見えた。

「ふふ…ならよかったです。
あっ、私に何か聞きたいこととかありますか?」

「聞きたいこと…ですか」

「そうですよ~
今ならお姉さんが何でも聞いて差し上げましょう!」

聞きたいこと…

俺のことどう思ってますか?
なんて聞けるわけない…よな。

頭に”ウサギ”の顔が浮かぶ。
そういえば、アイツって何者なんだろうか。

メイドさんなら何か知っているかもしれない。
ここから帰る方法、それだってわかるかもしれないな。

勇気を振り絞り、口を開く。

「…あのっ」

声帯のストッパーが外れて突っ走り、裏返った。しかもちょっととかそういうレベルではない。
や、やってしまった…

「なんですか?」

眉ひとつ動くことなく、笑顔を保っている。
素晴らしいスルースキルだ。大人の優しさを感じる。

それがまた痛いが…

「ウサギって…」

満を持して、言葉にしたその時だ。
繊維のごとくか細い声は遮られる。

「お待たせしました。こちら”美しい店長が徹夜明けテンションアゲアゲで作ったヨ!貴方のための超絶美味しいエッグタルト~店長の愛を添えて~” でございます」

女子高生のアルバイトだろうか、若々しい声が店内に響く。

そして彼女が料理名を読み上げた時、キッチンから肩の張った岩石のような体の男がフライパン片手にこちらに向かってウインクをした。

ここで俺の想像は朽ち果てた。

さようなら、俺の脳内美女。
ありがとう、マッチョマン。

「…ありがとうございます」
「こちら”苺のパンケーキでございます」

続いて運ばれてきたんのはメイドさんが頼んだパンケーキだった。
たっぷりのホイップクリームと鮮やかな苺のコントラストが食欲を誘う。
まさにフォトジェニックな、思わずカメラを構えたくなるビジュアルであった。

「ありがとうございます!
わぁ~美味しそう。食べちゃいましょう~」
「そうですね」

「「いただきます」」

可愛らしく形作られたエッグタルトをスプーンですくった。
たちまち甘味と卵のまろやかさが口いっぱいに広がる。
あんな変わった名前から想像つかないほど美味しい。

目の前のメイドさんも幸せそうにパンケーキを頬張っている。

「おいしい~!そういえば、さっき何か言ってましたよね?」

「あ…なんでもないです。
それよりメイドさんこっち食べたいですよね?」

あのウサギのことは今は忘れよう。
俺だってデートを楽しんだっていいはずだ。
「こんな幸せな時間がいつまでも続けばいい」
なんて考えるほど思考はエッグタルトにように甘くなっていた。

しかし、幸せな時間は長くは続かない。

「…あの」
「はい…?」

メイドさんの顔が強張っている。
続けてメイドさんは言った。

「メイドさん、メイドさんって…いつまでそうやって呼ぶおつもりですか?」

「え…?」

予想外の言葉だった。

思えば俺はメイドさんのこと何も知らない。
名前も年齢も趣味とか好きなこととか…何も。

少し話すようになって、顔見知りになって、
それだけで浮かれてたんだ。情けない。

彼女がどんな顔をしているのか、と
考えると怖くてテーブルに視線を落とした。

「私にそんなに興味ないですか…?」

耳に届く声は寂しそうで、考えるよりも先に言葉が出てきた。

「興味ありまくりですよ!
あっ…すみません。気持ち悪いですよね…」

「いえっ!」

そう返事をした後、彼女は少し間を空けてこう言った。

「じゃあ改めて、私に何か聞きたいことはありますか?」
「えっと!まずメイドさんのお名前を聞いてもいいですか⁉︎」

思わず前のめりで声に出してしまった。
メイドさんも若干引いているような…
いや、気のせいだろう。そう思いたい。

「私の名前は…」
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