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1章 運命の始まり
1-8 新たなタイムを持って
しおりを挟む「私の名前は…」
情けないが許してくれ。
何度だって祈ろう。神様、頼む。
厳つい名前だけはやめてほしい。
こんなゆるふわ女神がいかにもマッチョマンとかそういう名前みたいなギャップはいらない。
確かに俺はギャップが大好きだ。
可愛いのに運動ができる。
頭がいいのに天然バカ。
とか最高、ご飯3杯食べられる。いや、それ以上かもな。
なんてどうでもいいか。
話を戻すがいかにも厳つい男が名乗りそう名前…
そう、ゴンザレスとか!
あのキッチンにいるマッチョマンとか絶対そうだろ。
「どうも、ゴンザレスです」
とか野太い声で言うでしょ、容易に想像できるって。
だ・か・ら!
頼むゴンザレスだけはやめてくれ。ゴンザレスだけはーーーー
「ーーーです」
「すみませーん、本日開店30年記念でクッキーをお配りしています。どうぞ~!」
声高らかにウェイターはいった。それもメイドさんの声を遮って。
普段の俺なら”可愛い、天使。30年ありがとう”と崇め立てていただろうが、今は別だ。
現世が戦国なら切腹を命じていた。なんて戦国時代なら俺は武士なんかじゃなくて百姓か。
悲しみを噛みしめるように、ウェイターへ礼を言った。
「「…ありがとうございます」」
意図していなかったがメイドさんとハモった、
ここで運を使うのか…余計に気まずい。
そっと重い空気が肩を撫でた。負けじと、声を発するもその声は弱々しい。
「あっ…もう一度お願いします…」
「そ、そうですね…私の、名前は…」
時計の針が刻む音、それがひどく目立って聞こえる。
緊張からゴクリと唾を飲んだ。
そして恥ずかしげもなく、もう一度祈ってしまう。
ゴンザレスはやめてくれ。
頼む…
いやだって、ゆるふわ女神がムキムキ店長とお揃いの名前とか嫌だよ!?
二人揃って
「「どうも、ゴンザレスです」」
なんて言ってるところ思い浮かべたら、笑えないよ!
とか言いたいけど、メイドさん…ごめん。超面白い。
我ながら今世紀最大レベルで笑える。
間も悪く、思わず吹き出しそうになった時のことだ。
ある考えが頭をよぎった。
俺は、名前ごときでメイドさんを評価してしまうのか?
いや、それではメイドさんに失礼だ。
あんな想像しておいて…っていうことはどうか忘れてほしい。
俺は名前で人を選んだりしない。ましてやメイドさん相手には絶対…
ゴンザレスでも、いいから…!
「私の名前は…」
「おいおいニイチャン、綺麗な女連れてるじゃないか。なぁネエチャン、こんな男やめて俺たちと遊ぼうよ」
彼女の声に品のない声が重なった。
顔を上げると、そこにはまさにチンピラというようなアロハシャツに両サイドを短く刈り上げた髪型の二人組がいた。抵抗はおろか、声も出ない。
「…いえ、大丈夫ですので…」
「ほら、行こう。楽しもうよ~」
彼女が抵抗をするとチンピラの長身の方が、メイドさんの腕を掴んだ。
彼女は目を潤ませながら助けを求めるように、俺の方に目をやった。
「や、やめてください…あおたんっ」
「ゴンザr…彼女から離れろ。彼女は俺の大切な人だ。お前らが触れていい相手じゃない!」
自分の口から出たとは思えないほど強気な言葉がスラスラと出てくる。
そう、ゴンザレスという名前まで。
メイドさんは驚いたような顔をしている。そして、チンピラは鋭い目つきで睨んできた。
「てめぇ、舐めた口聞いてんじゃねぇよ。やってやろうじゃねぇか」
チンピラが大きく腕を振り上げた。
そして今に至る。
どうしよう。どうすれば…
視線を宙に這わせて頭を過去最速で回転させる。だが、焦っていい案が何も出てこない。
バシッ…
「…ウッ」
鈍い音と共に地面にうずくまった。
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