負け犬デスティニー

ユズリハ

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1章 運命の始まり

1-6 夢想の月下美人とエッグタルト

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天と地、それがあるのならばここはなんと形容できるだろう。
目の前には、ふわりと微笑む女神がいる。

俺は死んだようだ、なんて不実か。

「あの…なんでここに居るんですか?
というか、ここはどこですか…」

「うーん、秘密です?
ここはいわゆるギルドみたいなところですよ」

見渡すと、辺りは冒険者たちが旅の支度を一通りできるようなお店で埋め尽くされていた。
俺はこの世界で冒険でもするのだろうか?

もしそうなら…可愛い妹属性、いやツンデレな妹属性と冒険なんてできたりしてしまうのではないか、と妄想に花が咲く。
全ては現状把握すら容易にできない未知の領域にあること、どう考えてもそのせいだ。

「あおたん、こっちです~」

少し先でメイドさんが手を振っていた。
その姿に今はチャンスという名の”デート”であるということが頭をよぎる。

慌てて返事をして、駆け足で後を追う。

「はぁはぁ…っ
意外と足速いんですね…」

「ふふ…さぁショッピングの始まりですよ!」

白と深い赤色のレンガ仕立ての建物。
メイドさんに続いて、木製の扉に手をかけるが見た目以上に重い。
期待と不安を込めて、力一杯扉を引くと

そこは、コーヒーの匂いが香るカフェだった。

「腹が減っては戦はできぬ、ですよ。
さぁたくさん食べちゃいましょう!」

そういうと百面相の如く、メニューとにらめっこをしている彼女を横目にメニュー表を眺める。
無難に人気1位のパンケーキとコーヒーにしようと思った時、顔に熱い視線を感じた。

「あの…これ頼んでくれませんか?」

恥ずかしそうに彼女はあるメニューを指差す。
視線を落とすと、

”美しい店長が徹夜明けテンションアゲアゲで作ったヨ!
貴方のための超絶美味しいエッグタルト~店長の愛を添えて~” 

という文字を彼女の綺麗な指で指していた。

こんな名前ではあるが、
何故かフリルについたエプロンを身につける美人が頭に浮かんだ。
俺は女性に飢えているのだろうか。いや違う、これは男子高校生にとっては一般的な妄想だ。

「この長くて嘘くさいエッグタルトですか?」

「…嘘くさいなんてないじゃないですよ~
美味しそうじゃないですかぁ」

メニュー表を見つめ、少しムッとしないがら嘆くように放った。
怒ってても可愛いのは反則だろう。
だが一つ疑問があった。

「…なんで俺が頼むんですか?」

あれだけ食べたいと言っていたのに、俺が頼むというのは何か意図があるはずだ。
すると瞬間的に彼女は言った。

「それはちょっと信じられないから頼みにくいんですよっ」

素晴らしい矛盾だ。
“矛盾”という言葉の意味を行動で示せという問いなら
100点、模範解答だろう。

「さっきと言ってること違k…まぁ、いいですよ、頼みます」
「ありがとうございます!!」

はい、この笑顔反則ですどうも。

あんだけ頼まれた上に天然ボケなんて頼むしかないだろう!

だが、勘違いしないでくれ。
決して俺が美女に弱いわけではない。いや、ない…と思う。

とにかくだ。

こんな可愛らしい笑顔が見れたんだし、
どんなにエッグタルトが不味くたって構わないと思えた。

淡い期待と共に水を一口飲む。
懐かしい味が舌先に意味ありげに広がった。

夏の匂いがする。

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