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6 王太子殿下の事情
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やがて半刻ほど経ったろうか。
サイラス様が護衛騎士を伴って帰ってきた。
騎士はいつもの様にそのまま扉の外で待機させる。
「ごめんね、エストラージュ侯爵令嬢。遅くなりました。殿下のご様子はいかがですか?」
「大丈夫です。落ち着かれています。今お眠りですが、もう少ししたら起きていただいて、もう一度お薬を飲んでいただきます。それで一晩眠られればほぼ回復されるはずです。」
「良かった。本当にありがとうございます。一時はどうしようかと思いました。」
心からホッとした表情で公子がお礼を言って下さる。
臣下として当然の事なのに。
それにしても、、、
「どういったご事情と経緯かをお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「うーん、そうですね。がっつり巻き込んじゃいましたしね。エストラージュ侯爵令嬢は信頼できるお方ですし、殿下のお許しを頂いてからご説明させて頂けますか?」
「もちろんです。、、、それと、よろしければアリアとお呼び下さい。毎回“エストラージュ侯爵令嬢”は長すぎますでしょう?」
「やぁ、そう言ってもらえると有り難いです!もう舌噛みそうで!じゃあ僕もサイラスとお呼び下さいね!」
と良い笑顔で仰った。
サイラス様は、冷静沈着かつ容赦の無い方という噂だったのだけど、随分イメージが違うわぁ。
「、、、じゃぁ僕もアリアって呼ぶ。」
少し掠れた声がして、サイラス様と共に声の主を見ると、王太子殿下が目を覚まされていた。
「殿下!お気が付かれましたか⁈」
「ご気分は?吐き気等ございませんか?」
慌てて詰め寄る。
殿下はふぅ、と息を吐いて、
「大丈夫だ。全身が怠いくらいかな?喉が渇いた。水をくれないか?」
「こちらに。」
起き上がられるのをサイラス様が手伝うと、お渡ししたグラスの水を一気に飲み干された。
その様子を見ていたら、さっきの光景が頭をよぎった。
緊急時とはいえ、私ったらこの方に口移しで薬を飲ませちゃったのね。
頬が赤くなるのを必死に我慢する。
「アリア、君が助けてくれたんだね。」
「御免なさい!あれは不可抗力で!」
「、、、うん?」
「いえその!」
「、、、サイラス、何があった?」
「王家の解毒剤が効かなかったので、アリアに調薬してもらったんです。殿下の許可なく投薬しました。事後承諾で申し訳ありません。」
「ああ、それはもちろんだ。おかげで助かった。改めてありがとうアリア。」
にこりと笑って仰って下さった。
実は飲ませ方に問題があったんだけど、そこはスルーという事ですね、サイラス様。
ありがとうございます。
「、、、で、サイラス、お前はアリア“嬢”と呼ぶように。」
「?」
「はい、失礼致しました!」
「???」
「さてアリア、事情を説明させてくれるかい?」
「、、、お聞きしてよろしいのですか?」
「僕は君を信頼しているからね。」
「光栄です。」
そして聞かされた王太子殿下の状況。
弟の第二王子を推す側妃様のご実家のアズロ公爵派の者達から何度も命を狙われている事。
父である国王陛下はアズロ公爵達を信用していて当てにならない事。
殿下が心から信用できるのはごく少数の方だけなのだと。
「、、、王太子様っていうお仕事も大変ですね、、、。」
心から同情して言った言葉なのに、お二人は顔を見合わせて噴き出された。
「王太子を仕事と言われたのは初めてだよ。」
「た、確かに割に合わない職業かもですね!命がけだし!」
馬鹿にされてるのかしら?
「で?今回もそのアズロ公爵派の仕業ですか?犯人は捕まったんです?」
「ごめんごめん、アリア、機嫌を直してね?馬鹿にしたわけじゃないよ。言い得て妙だと感心したんだ。」
「辞めたくても辞められないお仕事ですよね。」
「お前だってそうだろ?」
「まぁ、そういう意味では貴族はみんなそうですよね。アリア嬢もでしょう?」
「そうですね。物心つく前からエストラージュとしての医療知識を叩き込まれましたものね。選択肢はありませんでしたわ。」
「その上にあの婚約者だものね?」
「全くです。本当に貧乏くじを引きましたわ。」
クスクスとお二人がまた笑われる。
ちょっとムッとして質問で返す。
「そういえばお二方はどうして婚約者がおられませんの?」
「そうきたか。ふふふ、サイラスはね、初恋を拗らせててね~。」
「殿下⁈」
「その上重度のシスコンだから嫁の来手が無いんだよね~!」
「殿下!」
「あらまぁ、それはまたご愁傷様です。」
「真面目に受け取るのやめて!傷つくから!殿下だって似たようなものでしょ⁈人間不信で婚約者決めらんないんじゃん!」
「仕方ないだろ?誰が敵か分からないんだぞ。早々身近に置けんわ。それに、、、。」
「お相手の方も危険に晒されますものね?」
「アリア、、、。」
「殿下はお優しいのですね。」
そう言うと、ふいっと目を逸らされた。
ご自分のせいで危険な目に合わせたくないと言うことね。
守り切る自信がない、、、つまりご自分の事で手一杯と言うこと。
一体どれだけ過酷な立ち位置におられるのか、、、。
「それで、今回はどういった状況でしたの?」
「実はね、サイラスとここに来た時に、扉を守っているはずの護衛騎士がいなくてね、室内から物音がしたものだから、侵入者がいるものと思って、僕がドアを開けてサイラスが突入しようとしたら取っ手に毒が仕込まれてたんだよ。焦っていたからヘマをした。」
「まぁ。で、室内に賊は?」
「居ませんでした。いたのはコイツです。」
「蛇⁈」
籠に入った蛇を見る。
うん、もう死んでる。これは、、、。
「一応毒蛇ですね。即効性の毒ではありませんが。」
「さすがエストラージュ。蛇の死骸を見ても平気か。」
「すみませんね、令嬢らしくなくて?」
「違うよ、素直に感心してるんだよ。」
「そうです!アリア嬢!本当に頼り甲斐がありますね!」
「、、、サイラス様、それ年下の女の子に対する褒め言葉ではありませんわよ。」
「えええ~?」
ギロリと横目で睨んでやる。
すると、クスクスと殿下が笑われた。
「王太子殿下も、、、」
「アレク」
「え?」
「僕もアレクって呼んで。サイラスだけ名前で呼ぶのは狡い。」
、、、何を言ってるんだ、この方は?
しかも真面目な顔して、、、。
可愛いにも程がないか⁈
サイラス様が護衛騎士を伴って帰ってきた。
騎士はいつもの様にそのまま扉の外で待機させる。
「ごめんね、エストラージュ侯爵令嬢。遅くなりました。殿下のご様子はいかがですか?」
「大丈夫です。落ち着かれています。今お眠りですが、もう少ししたら起きていただいて、もう一度お薬を飲んでいただきます。それで一晩眠られればほぼ回復されるはずです。」
「良かった。本当にありがとうございます。一時はどうしようかと思いました。」
心からホッとした表情で公子がお礼を言って下さる。
臣下として当然の事なのに。
それにしても、、、
「どういったご事情と経緯かをお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「うーん、そうですね。がっつり巻き込んじゃいましたしね。エストラージュ侯爵令嬢は信頼できるお方ですし、殿下のお許しを頂いてからご説明させて頂けますか?」
「もちろんです。、、、それと、よろしければアリアとお呼び下さい。毎回“エストラージュ侯爵令嬢”は長すぎますでしょう?」
「やぁ、そう言ってもらえると有り難いです!もう舌噛みそうで!じゃあ僕もサイラスとお呼び下さいね!」
と良い笑顔で仰った。
サイラス様は、冷静沈着かつ容赦の無い方という噂だったのだけど、随分イメージが違うわぁ。
「、、、じゃぁ僕もアリアって呼ぶ。」
少し掠れた声がして、サイラス様と共に声の主を見ると、王太子殿下が目を覚まされていた。
「殿下!お気が付かれましたか⁈」
「ご気分は?吐き気等ございませんか?」
慌てて詰め寄る。
殿下はふぅ、と息を吐いて、
「大丈夫だ。全身が怠いくらいかな?喉が渇いた。水をくれないか?」
「こちらに。」
起き上がられるのをサイラス様が手伝うと、お渡ししたグラスの水を一気に飲み干された。
その様子を見ていたら、さっきの光景が頭をよぎった。
緊急時とはいえ、私ったらこの方に口移しで薬を飲ませちゃったのね。
頬が赤くなるのを必死に我慢する。
「アリア、君が助けてくれたんだね。」
「御免なさい!あれは不可抗力で!」
「、、、うん?」
「いえその!」
「、、、サイラス、何があった?」
「王家の解毒剤が効かなかったので、アリアに調薬してもらったんです。殿下の許可なく投薬しました。事後承諾で申し訳ありません。」
「ああ、それはもちろんだ。おかげで助かった。改めてありがとうアリア。」
にこりと笑って仰って下さった。
実は飲ませ方に問題があったんだけど、そこはスルーという事ですね、サイラス様。
ありがとうございます。
「、、、で、サイラス、お前はアリア“嬢”と呼ぶように。」
「?」
「はい、失礼致しました!」
「???」
「さてアリア、事情を説明させてくれるかい?」
「、、、お聞きしてよろしいのですか?」
「僕は君を信頼しているからね。」
「光栄です。」
そして聞かされた王太子殿下の状況。
弟の第二王子を推す側妃様のご実家のアズロ公爵派の者達から何度も命を狙われている事。
父である国王陛下はアズロ公爵達を信用していて当てにならない事。
殿下が心から信用できるのはごく少数の方だけなのだと。
「、、、王太子様っていうお仕事も大変ですね、、、。」
心から同情して言った言葉なのに、お二人は顔を見合わせて噴き出された。
「王太子を仕事と言われたのは初めてだよ。」
「た、確かに割に合わない職業かもですね!命がけだし!」
馬鹿にされてるのかしら?
「で?今回もそのアズロ公爵派の仕業ですか?犯人は捕まったんです?」
「ごめんごめん、アリア、機嫌を直してね?馬鹿にしたわけじゃないよ。言い得て妙だと感心したんだ。」
「辞めたくても辞められないお仕事ですよね。」
「お前だってそうだろ?」
「まぁ、そういう意味では貴族はみんなそうですよね。アリア嬢もでしょう?」
「そうですね。物心つく前からエストラージュとしての医療知識を叩き込まれましたものね。選択肢はありませんでしたわ。」
「その上にあの婚約者だものね?」
「全くです。本当に貧乏くじを引きましたわ。」
クスクスとお二人がまた笑われる。
ちょっとムッとして質問で返す。
「そういえばお二方はどうして婚約者がおられませんの?」
「そうきたか。ふふふ、サイラスはね、初恋を拗らせててね~。」
「殿下⁈」
「その上重度のシスコンだから嫁の来手が無いんだよね~!」
「殿下!」
「あらまぁ、それはまたご愁傷様です。」
「真面目に受け取るのやめて!傷つくから!殿下だって似たようなものでしょ⁈人間不信で婚約者決めらんないんじゃん!」
「仕方ないだろ?誰が敵か分からないんだぞ。早々身近に置けんわ。それに、、、。」
「お相手の方も危険に晒されますものね?」
「アリア、、、。」
「殿下はお優しいのですね。」
そう言うと、ふいっと目を逸らされた。
ご自分のせいで危険な目に合わせたくないと言うことね。
守り切る自信がない、、、つまりご自分の事で手一杯と言うこと。
一体どれだけ過酷な立ち位置におられるのか、、、。
「それで、今回はどういった状況でしたの?」
「実はね、サイラスとここに来た時に、扉を守っているはずの護衛騎士がいなくてね、室内から物音がしたものだから、侵入者がいるものと思って、僕がドアを開けてサイラスが突入しようとしたら取っ手に毒が仕込まれてたんだよ。焦っていたからヘマをした。」
「まぁ。で、室内に賊は?」
「居ませんでした。いたのはコイツです。」
「蛇⁈」
籠に入った蛇を見る。
うん、もう死んでる。これは、、、。
「一応毒蛇ですね。即効性の毒ではありませんが。」
「さすがエストラージュ。蛇の死骸を見ても平気か。」
「すみませんね、令嬢らしくなくて?」
「違うよ、素直に感心してるんだよ。」
「そうです!アリア嬢!本当に頼り甲斐がありますね!」
「、、、サイラス様、それ年下の女の子に対する褒め言葉ではありませんわよ。」
「えええ~?」
ギロリと横目で睨んでやる。
すると、クスクスと殿下が笑われた。
「王太子殿下も、、、」
「アレク」
「え?」
「僕もアレクって呼んで。サイラスだけ名前で呼ぶのは狡い。」
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