元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

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これにて、ひとまず話し合いは終わりだ。

空気が弛緩して、穏やかな雰囲気になる。

「それで、結局はどうなったのかしら?」

「要は、うちに来て良いってさ」

「お父様?」

「ああ、そういうことだ。セレナ、好きにやると良い」

「ほんと!? お父様、ありがとう!」

そう言い、オラン様に抱きつく。
その姿は子供らしくて、普段とのギャップあって可愛らしく見える。
どうやら、親子関係は悪くないようだ。

「責任は、アレク君が取ってくれるそうだから」

「え、ええ、できる限り」

「そ、そうよねっ! 責任取ってくれないと!」

「はいはい、わかったって」

……なんだ? 交渉は成功したはずなのに、なんだかしっくりこない。
何か、大きな勘違いをしているような……。

「さて……では、そろそろ仕事に戻るとしよう。すまないね、これでも忙しい身なもので」

「いえいえ、お時間をとらせてすみませんでした」

「いや、楽しい時間だったよ。ただ……私の許可はともかく、妻の許可は良いのかな?」

「うっ……母親としては心配ですよね」

あの人に会うのかぁ……いや、好きな方なんだけど。
どうにも、昔から頭が上がらない。
うちの母上とも、仲が良かったし。

「なら、ついでに挨拶していく?」

「そうするか……王城に何度もくるのはめんどいからなぁ」

「はは、君らしいね。私もできるなら、城になどきたくないものだ」

「気が合いますねー。やっぱり、部屋の中でのんびりするのが一番です」

「まったくだ。だからこそ、私は君を……いけない、仕事をしないと。私は先に行くが、好きにするといいよ。アレク君自身がどう思っているのかはわからないけど、この城の中で君の行動を制限できる人は私以外にはいない。だから、いつでも来てくれて構わない」

「……お気持ちは有難く受け取ります」

「うん、それで良いよ」

そして、ゆったりと部屋から出て行った。
相変わらず、掴み所がないというか……狸っぽいよな。
油断していると、いつのまにか化かされそうだ。

「……ふぅ、疲れたわ」

「ん? そうなのか? 随分と仲が良いと思ったが」

「そりゃ、そうよ。私だって、そんなに会えるわけじゃないし。それに、認めてもらえるか緊張してたから……」

「まあ、とりあえず良かったな。という訳で、次の休み辺りに来てくれるか?」

「ええ、もちろん。ただ、その前にお母様にも会っていくわよ」

「……そうなりますよねー」

「ほら、ささっといくわよ!」

ご機嫌になったセレナに手を引かれ、俺も部屋を出ていくのだった。







久しぶりに会ったが……相変わらず、面白い少年だな。

廊下を歩きながら、先程までの会話を思い出して笑いそうになる。

いくら身内とはいえ、私を前にして落ち着いた態度……それなりの気配を出した時も、飄々としていた。

これでも、この国のほとんどの者は恐縮する存在なのだが。

以前あったときは、あんなに堂々とはしていなかった。

……もう、猫を被る必要はないってことかな?

これは、シグルド殿の言ってた通りかもしれない。

「随分とご機嫌ですね?」

「そう見えるかね?」

「ええ、ここ最近では一番ですね」

「そうですか。確かに、久々にのんびり出来ましたね。セレナの可愛らしく、年相応なところも見れましたし」

「私も久々にああいうセレナ様を見れて嬉しくなりましたよ。立場があるとはいえ、子供らしく振る舞える相手は大事ですから」

やはり、セレナはアレク君が好きなようだ。
私自身は知らなかったが、妻からは昔からずっと好きだったとは聞いていたが。
私とて人の親なので、娘には好きな人と結婚してほしいと願うのは当然だ。

「その通りだね。私にとって、シグルド殿や君がいるように」

「恐縮です。それで、どうなさりますか?」

「今は、特に何もしなくて良いかな。あの感じなら、お膳立てさえすれば勝手に事が進みそうだ。下手に横槍を入れると、ろくな結果にならなそうだ。とりあえず、邪魔だけはさせないようにするけどね」

「ええ、それには同意します。私の方でも手を打っておきましょう。それにしても……なんだか雰囲気も変わりましたし……何より、前より強くなりましたね。おそらく、私と勝負しても良い勝負になるくらいに」

「……近衛最強と言われる君とですか? 流石に、それはないのでは?」

「無論、負けることはありませんが……この先はどうですかね。立ち姿や歩き方から変化がありました。一体、彼の身に何かあったのか気になるところです」

彼の人、もとい物事を見る目は確かだ。
つまり、それだけの強さを秘めているということ。
そして、それを今まで隠していたという事実。
それは、昨日のシグルド殿との会話にも繋がる。

『あやつは、どうやら力を隠しておったらしいわい。ったく、儂も耄碌したものよ。よくよく考えてみれば、優しい妻に似た子だというのに。一人息子に気を遣わせて……儂の名前は荷が重かったかのう』

『貴方の名前は強すぎですからね。本人まで優秀となると、争いになりかねませんし。まあ、私としてはアレク君に王位を継いでもらう予定はなかったですし。あれは、セレナの願いを叶えたまでなので』

『儂もその気はなかったが、あの第二王妃とボンクラ王太子がなぁ……あやつらがまともだったら、悩むことはないのだが。どうにかならんのか? なんなら、儂が出て行っても……』

『いや、それには及びません。すみません、私の怠慢ですね。政治にかまけて、子育てを失敗してしまいました。自分のことで精一杯だったとはいえ、お恥ずかしい限りです』

『いや、お主は良くやっとるよ。各種族との和解策や交流……あいつも褒めてくれるはずじゃ。それにどんなアレであろうと、息子が可愛いのは仕方あるまい』

『そうだと良いですが……何より、これ以上貴方に負担はかけられませんからね。すでに大恩があるのですから。私がしっかりしないせいで……』

『気にするでない。儂は、お主の父と約束した。お主が立派に成長するまでは、後ろで支えてやってくれと。それが、亡き友との約束じゃった』

『……ありがとうございます。では、今度は私が貴方の息子の力になりましょう』

『いや、今のあやつなら自分でどうにかしてしまいそうじゃわい。儂等は、けつだけ拭いてやるとしよう』

……そのような会話をしましたね。

とりあえず、今は静かに見守るとしましょうか。
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