若返った老騎士の食道楽~英雄は銀狼と共に自由気ままな旅をする~

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トロール討伐

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アリア殿の階級は銅級で、それは中堅下位を意味する。

下級妖魔であるゴブリンやオークなら、手こずることはない。

じゃが、トロールとなると……少しきつそうじゃな。

「グベェ!」

「くっ!?」

その巨体から振り下ろされる棒は、地面を陥没させる。
土は舞い、風圧により、アリア殿は中々近づけない。
危なっかしいので、今すぐにでも手を貸したいが……ひとまず、口だけで我慢する。

「アリア殿、目を閉じるでない! 振り下ろされる速さは大したことはないはずじゃ!」

「は、はい!」

「しっかりと見極めて懐に入るんじゃ!」

「わかりました!」

アリア殿が一度引き、トロールとの距離を置く。
剣を水平に構え、待ちの姿勢になる。
トロールも何かを感じたのか、棒を持ったまま突っ立つ。

「グヘェ……」

「くるなら来い……」

……いかんな、時間をかけ過ぎたか。
アリア殿は気づいていないが、辺りから慣れ親しんだ気配がする。

「オルトスよ」

「ウォン(任せるのだ)」

「すまぬな」

それだけで意思疎通が出来、オルトスが森の中に消える。
おそらくゴブリンやオークが近づいているが、オルトスならば問題あるまい。
オルトスに任せ、儂は目の前の戦闘に集中する。
それから数分が経ち……トロールの方が痺れを切らした。

「……グヘェ!」

「見えた——くらえっ!」

剣を構えたまま、棍棒を半歩ずらすことで躱し、懐に入って腹を切りつけた。
動き自体も悪くなく、トロールの腹から血が流れだす。

「グヘェェェ!?」

「とどめを……!」

好機と見たのか、アリア殿がトロールから離れずに攻撃を加えようとする。
しかし儂のから見れば……まだトロールの傷は浅い。

「待つんじゃ!」

「グバァァァァ!」

「きゃぁぁ!?」

儂の制止も虚しく、アリア殿が暴れ狂ったトロールの棍棒により吹き飛ばされる。
剣は折れ、無様に地面を転がっていく。

「うぅ……」

「これまでじゃな……助太刀いたす!」

儂はトロールとアリア殿の間に立ち、剣を構えて気を惹きつける。
しかしトロールは憤怒の表情で、後ろにいるアリア殿を睨みつけていた。

「グバァァァァ……!」

「ふんっ、よだれを垂らしおって。じゃが、儂を倒さん限りは手を出せんぞ?」

「グバァァァァ!」

「遅い」

棍棒が振り下ろされるより先に一歩前に出て懐に入り——居合を放った。

「しぃ!」

「グヘェ!?」

「相変わらず分厚い身体じゃのう」

儂はすぐに退き、上段の構えを取る。
トロールは我に帰ったのか、儂を睨みつけた。
これで、儂に意識が向いただろう。

「アリア殿、起き上がれるか?」

「は、はい……すみませんでした」

「反省は後にしよう。少し離れて見てるといい……戦い方を伝授しようかの」

「わ、わかりました」

アリア殿が離れるのを横目で確認し、改めてトロールと向き合う。

「さて、やるとするかのう」

「グバァァァァ……!」

「そうじゃ、お主の相手は儂じゃよ」

指てくいくいと挑発くると、わかりやすく突っ込んできた。
そして、馬鹿の一つ覚えのように棍棒を振り下ろしてくるが……既に見切っている。
儂は
こうすれば死角に入り、相手は自分の左腕が邪魔で動作が遅れる。

「遅い」

「グヘェ!?」

棍棒を持つ腕を斬りつけ、さっと後ろに下がる。
そして抜刀の構えを示す。

「さあ、来るが良い」

「グヘェ!」

そこからは同じ行動を繰り返す。
避けては斬り、すぐに下がる。
それを続けていくと……次第にトロールの動きが鈍くなっていく。

「どうした? そんな攻撃では儂は仕留められんぞ?」

「グググ……ガァァァァァァァア!」

「完全に理性を失ったか……ならば」

儂は上段の構えを取り、トロールを待ち構える。
そして……大ぶりの一撃を避け後ろに回り込む。

「グヘェ?」

「どこを見ている——斬馬一刀!」

「ァァァァァ!?」

儂が放った上段斬りは、トロールを真っ二つにした。
儂はすぐに距離を取り、死んだのを確認する。

「ふむ、死んだか」

「か、身体が真っ二つならそれはそうかと……」

「いや、妖魔の中には身体が半分になっても生きてる者もいるのでな」

「そうなのですね。あの、まずはありがとうございました。息巻いたのに、結局助けて頂いて……」

「それは気にせんで良い。ただ、戦い自体の反省はすべきじゃな」

「はい、わかりました……そういえば」

すると、アリア殿が不思議そうに首を傾げた。
儂はトロールの処理をしつつ、話を聞くことに。

「どうかしたかのう?」

「あの時、私は好機だと思ったのに……」

「確かに好機ではあった。しかし、同時に一番危険でもある。手負いの生き物というのは、どんな生物であれ最後の抵抗を見せる。そして攻める側にも油断が生じる時でもある」

「……そうですね、私は攻め時かと思って焦ってしまいました」

ふむ、きちんと反省ができるなら平気じゃな。
場合によるが、人の意見に耳を傾けられない者は成長しない。
仮に才能だけで上り詰めても、何処かでつまづくことがある。

「時と場合によるが、あの時に至っては悪手じゃな。トロールの腹の傷は見た目より浅く、逆に奴は怒り狂っていた」

「なるほど、奴の腹は見た目通り脂肪が硬いということですね」

「うむ、その通りじゃ。儂みたいに一撃に力がある者なら押し切れるが、お主のように手数で勝負タイプは向いておらん」

「それでは……もしかして、あの戦い方は私のために?」

正直言って、儂ならトロールごときに苦戦はせん。
最初の一太刀で仕留めることも可能だった。
しかし、敢えてアリア殿に見せることにした。

「うむ、一応はな」

「何故、私にそこまで?  貴方には何の見返りもないのに」

「難しいのう……ただ、昔の知り合いに似ておるのだ。その子は結局訳あって剣の道に進めなかったが、お主はまだ間に合うかと」

そうか、今気づいた。
儂は未練だったのだ……あのまま平和であったらユリア様に正当な剣を教え、その成長を見たかったのだ。
それをアリア殿に重ねたのだろう。

「その、その子は今は何を……?」

「ステキな女性になって結婚して子供もおるよ」

「そうなのですね……結婚」

「どうかしたのう?」

「い、いえ! それよりすみません! 私も手伝います!」

何やら慌てた様子で、儂の隣にやってくる。

また一つ気になることができたが、儂は聞くことなく作業をするのだった。

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