若返った老騎士の食道楽~英雄は銀狼と共に自由気ままな旅をする~

おとら@ 書籍発売中

文字の大きさ
41 / 47

明かす

しおりを挟む
待つ間に刺した木を回し、全体が焼けるようにする。

それから待つこと数十分……今まで以上に香ばしい香りがしてきた。

オルトスも気づいたのか、こちらにやってきた

「ウォン!?(できた!?)」

「うむ、もう良いだろう。アリア殿、感謝する。土魔法がなければ、一時間以上かかったわい」

「いえ、これくらいお礼のうちには入りませんよ」

「いやいや、そんなことはない。儂にできることがあれば、何なりと言うといい」

「……はい。では、魔法を解除します」

アリア殿が手をかざすと、土壁が消える。
そして中から、黄金色に輝くコカトリスの丸焼きが姿を現した。

「おおっ!」

「ウォン!!(うまそうなのだ!)」

「良い色ですね」

「まさしく食べ時というやつじゃな。よし、早速切り分けていこう」

まずは胴体左部分をナイフでこそげ取り、アリア殿用の皿に盛る。
次にオルトス用に片足部分を切り落として草の上に置く。

「さあ、食べよう」

「シグルド殿は?」

「ふふふ、無作法を許してくれい——最初はこうすると決めていたのじゃ!」

まだ手をつけてない右側胴体に、豪快にかぶりつく!
すると、スパイスが効いた野性味溢れる肉の味が口の中に広がる。
弾力もある肉をぶっちぎり、咀嚼していく。

「もぐもぐ……カァー! うまい!」

「ウォン!(我もやるのだ!)」

そう言い、足にかぶりつく。

「はぐはぐ……アオーン!(うみゃい!)」

「ああ、実に良い。噛めば噛むほどに肉汁が溢れてくるわい」

「ゴクリ……わ、私も……美味しい」

「それなら良かったわい」

「なんでしょう、こんなシンプルな味付けなのに」

「それは場所や空気や景色、そして自分で苦労して作ったからじゃな」

川のせせらぎ、綺麗な夜景、そして非日常的な空間。
これらが最高の調味料となり、味を何倍にも引き出している。
これだから、野営はやめられないわい。

「なるほど……確かにそうですね。いつもは店で出してもらったり、基本的に野宿はしないので」

「まあ、女性一人ではするものではないな。そう言う意味でも、一人では受けられない依頼じゃったか」

「仰る通りです。探すだけで日が暮れることもあるので、どうしても受けられる依頼に限りがありますから」

すると、オルトスが儂の足に鼻をツンツンする。
振り返ると、口周りがべちゃべちゃになっただらしのない姿に。

「ウォン!(お代わりなのだ!)」

「もう食べたのか!?」

「アオン!( いっぱい食べていいって約束したのだ!)」

「ははっ、そうであったな。よし、では次は胴体部分にするか」

儂が齧った胴体部分を切り取り、それを丸々あげる。
儂とアリア殿はもう片方の足を切り分け、それぞれの皿に盛る。
そして星空の下、ただ静かに食べ進めていくのだった。




不思議な時間だ。

身分も忘れ、ただありのままの姿でいられるような。

確かにシグルド殿の言う通り、非日常的な空間だからかもしれない。

……話してもいいだろうか? この複雑な気持ちを。

「ふぅ……食ったわい」

「部位によって味が違うのも良かったですね」

「うむ、そうじゃな。今度は煮込みとかにしても良いかも知れん」

「その場合は、メリッサ殿にお願いした方が良いかと」

「ほほっ、それはそうじゃな。じゃが、もう一回出会うまで儂がここにいるかどうか」

そうだった、彼は旅人。
そんなに長居をしないで、ここから出て行ってしまう。
……だからこそ、話しても良いかもしれない。

「シグルド殿、少しお話を聞いてくれますか?」

「……儂でよければ」

「感謝します。実は……私はとある貴族家の娘なのです」

すると、シグルド殿は驚くことなく頷く。

「やはり、隠せてはいませんでしたか。それで、何故冒険者をやっているかというと……私は騎士に憧れているのです」

「騎士とな? それは誰かに仕えたりする意味かのう?」

「それも素敵だなと思います。ただ、まだ出会えていないので……ますば民に寄り添える騎士になりたいのです」

尊敬する主人に仕える騎士、それも憧れがないわけじゃない。
ただ自分がそう思える人がいなく、いまいち実感がわかないのだ。

「ほう? しかし貴族であるなら、別に無理な話ではない」

「確かにそうなのですが……私は一人娘なので結婚を迫られているのです。家に入ったら、当然騎士などにはなれません」

「なるほどのう。確かに子育てなどをしながらは難しいのが現実じゃな」

「ええ。幸いにして、両親は好きにしなさいと言ってくれてます。しかし、求婚相手は高位の貴族家……故に簡単には断ることが出来なかったのです」

「ふむふむ……しかし、お主は冒険者をしている」

「私が騎士になりたいと申したところ、相手が条件を言ってきたのです……もしも一年以内に冒険者ランクが鋼級になれば、結婚の話を無しにすると。それどころか、騎士になれるように王都に掛け合うと」

久々に、誰かに話せた。
以前パーティーを組んだ方々にも、近いことを語ったことがある。
しかし、その時の反応は決まって……失笑だった。
女が騎士なんてあり得ないとか、夢を見過ぎとか……果たして、この方は。

「ふむ、そうかそうか。それで頑張っているのじゃな」

「……それだけですか?」

「うん? いや、話のわかる貴族もいるものだなと」

「はい、有り難い話です」

……この人は笑うことなく、ただ自然と受け入れてくれた。

何せ、その貴族の方も無理だとは思っているに違いない。

だから真の意味で、シグルド殿だけが理解してくれたのだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流

犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。 しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。 遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。 彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。 転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。 そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。 人は、娯楽で癒されます。 動物や従魔たちには、何もありません。 私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!

聖獣使い唯一の末裔である私は追放されたので、命の恩人の牧場に尽力します。~お願いですから帰ってきてください?はて?~

雪丸
恋愛
【あらすじ】 聖獣使い唯一の末裔としてキルベキア王国に従事していた主人公”アメリア・オルコット”は、聖獣に関する重大な事実を黙っていた裏切り者として国外追放と婚約破棄を言い渡された。 追放されたアメリアは、キルベキア王国と隣の大国ラルヴァクナ王国の間にある森を彷徨い、一度は死を覚悟した。 そんな中、ブランディという牧場経営者一家に拾われ、人の温かさに触れて、彼らのために尽力することを心の底から誓う。 「もう恋愛はいいや。私はブランディ牧場に骨を埋めるって決めたんだ。」 「羊もふもふ!猫吸いうはうは!楽しい!楽しい!」 「え?この国の王子なんて聞いてないです…。」 命の恩人の牧場に尽力すると決めた、アメリアの第二の人生の行く末はいかに? ◇◇◇ 小説家になろう、カクヨムでも連載しています。 カクヨムにて先行公開中(敬称略)

【状態異常無効】の俺、呪われた秘境に捨てられたけど、毒沼はただの温泉だし、呪いの果実は極上の美味でした

夏見ナイ
ファンタジー
支援術師ルインは【状態異常無効】という地味なスキルしか持たないことから、パーティを追放され、生きては帰れない『魔瘴の森』に捨てられてしまう。 しかし、彼にとってそこは楽園だった!致死性の毒沼は極上の温泉に、呪いの果実は栄養満点の美味に。唯一無二のスキルで死の土地を快適な拠点に変え、自由気ままなスローライフを満喫する。 やがて呪いで石化したエルフの少女を救い、もふもふの神獣を仲間に加え、彼の楽園はさらに賑やかになっていく。 一方、ルインを捨てた元パーティは崩壊寸前で……。 これは、追放された青年が、意図せず世界を救う拠点を作り上げてしまう、勘違い無自覚スローライフ・ファンタジー!

元・神獣の世話係 ~神獣さえいればいいと解雇されたけど、心優しいもふもふ神獣は私についてくるようです!~

草乃葉オウル ◆ 書籍発売中
ファンタジー
黒き狼の神獣ガルーと契約を交わし、魔人との戦争を勝利に導いた勇者が天寿をまっとうした。 勇者の養女セフィラは悲しみに暮れつつも、婚約者である王国の王子と幸せに生きていくことを誓う。 だが、王子にとってセフィラは勇者に取り入るための道具でしかなかった。 勇者亡き今、王子はセフィラとの婚約を破棄し、新たな神獣の契約者となって力による国民の支配を目論む。 しかし、ガルーと契約を交わしていたのは最初から勇者ではなくセフィラだったのだ! 真実を知って今さら媚びてくる王子に別れを告げ、セフィラはガルーの背に乗ってお城を飛び出す。 これは少女と世話焼き神獣の癒しとグルメに満ちた気ままな旅の物語!

【完結】聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~

綾雅(りょうが)今年は7冊!
ファンタジー
 婚約破棄、爵位剥奪、国外追放? 最高の褒美ですね。幸せになります!  ――いま、何ておっしゃったの? よく聞こえませんでしたわ。 「ずいぶんと巫山戯たお言葉ですこと! ご自分の立場を弁えて発言なさった方がよろしくてよ」  すみません、本音と建て前を間違えましたわ。国王夫妻と我が家族が不在の夜会で、婚約者の第一王子は高らかに私を糾弾しました。両手に花ならぬ虫を這わせてご機嫌のようですが、下の緩い殿方は嫌われますわよ。  婚約破棄、爵位剥奪、国外追放。すべて揃いました。実家の公爵家の領地に戻った私を出迎えたのは、溺愛する家族が興す新しい国でした。領地改め国土を繁栄させながら、スローライフを楽しみますね。  最高のご褒美でしたわ、ありがとうございます。私、もふもふした聖獣達と幸せになります! ……余計な心配ですけれど、そちらの国は傾いていますね。しっかりなさいませ。 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ ※2022/05/10  「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過 ※2022/02/14  エブリスタ、ファンタジー 1位 ※2022/02/13  小説家になろう ハイファンタジー日間59位 ※2022/02/12  完結 ※2021/10/18  エブリスタ、ファンタジー 1位 ※2021/10/19  アルファポリス、HOT 4位 ※2021/10/21  小説家になろう ハイファンタジー日間 17位

親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが日常に溶け込んだ世界――。 平凡な会社員の風間は、身に覚えのない情報流出の責任を押しつけられ、会社をクビにされてしまう。さらに、親友だと思っていた男に婚約者を奪われ、婚約も破棄。すべてが嫌になった風間は自暴自棄のまま山へ向かい、そこで人々に見捨てられた“放置ダンジョン”を見つける。 どこか自分と重なるものを感じた風間は、そのダンジョンに住み着くことを決意。ところが奥には、愛らしいモンスターたちがひっそり暮らしていた――。思いがけず彼らに懐かれた風間は、さまざまなモンスターと共にダンジョンでのスローライフを満喫していくことになる。

聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~

夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力! 絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。 最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り! 追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?

処理中です...