反逆の英雄譚~愛する幼馴染が処刑されそうだったので国を捨てることにした~

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二章

最悪の再会

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俺はその光景が目に入った瞬間、頭を回転させる。

喚いても状況は変わらない、現実を受け入れろ。

 「考えろ」
 
洗脳?  いや、麻薬を使えば可能だが時間がかかる。

「裏切り……いや、その可能性は低い」

そうであるならば、タイミングがおかしすぎる。
 
「残るは脅されている……?」

となると人質……?
確か、アイツの大事な人は妹か。

「よし……一応、そういう想定で動くことにしよう」

 もちろん、万が一裏切りの場合は……ナイルだろうと容赦はしない。

「その前に……貴様らを片す」

 後ろから狙ってきた奴に、魔力を込めた裏拳をかます。

「ギギ!?」
 
 横目で確認すると、顔面が陥没してピクピクしている。
   それを見て、ナイルの顔がひきつった。

「さすが隊長です……まるで、後ろに目でもついてるみたいですね」

「クロウ……ごめんなさい!」

「カグヤ、お前が謝ることなど何もない。むしろ、すまない……俺の油断が招いた結果だ。さて、ナイル……どういうつもりだ? 答え次第では——お前でも許さん」

「とりあえず……失礼しますね!」

 ナイルはナイフをしまい、カグヤに手刀を叩き込んだ。
   ガクヤは気を失い、ぐったりしてしまう。

「カグヤ! ナイルゥゥゥ!」

「大丈夫ですよ、気を失っただけですから。さて、頃合いですかね……」

 その瞬間、鳥のような甲高い鳴き声が響き渡る……!

「ピルルルルゥゥゥ!」

「チィ!?  耳が……!」

「すみませんが……とりあえず、逃げるとします。ここに書いてあるところに来てくださいね!」

 するとナイフが放たれ、俺の目の前に転がる。

「逃すと思うか?」

「いえ、普通なら無理ですが……」

 その瞬間、あちこちで唸り声がする。

「グガァァァ!」

「ギギャャャ!」

「ゲゲェェェ!」

刺客達が首を搔きむしり、苦しそうに悶えていた。
どう見ても、常軌を逸脱していた。

「なんだ!? 何をした!?」

「今、そいつらは狂人薬を飲みました。隊長でも、簡単にはいきませんよ?」

 「アレを飲んだのか!」

 狂人薬は、一時的に全ての身体能力が上がる丸薬のことだ。
 ただ後遺症が残るため、使うには最悪死を覚悟しなくてはいけない。
   戦場でどうしても勝てない時や、死ぬ間際に飲んだりする。

「では、隊長……失礼します」

 ナイルは言葉を言い終わったあとに、黙って口を僅かに動かした。
   そして僅かに右手を動かす。
   それは俺達が、軍時代に奇襲を仕掛ける時のやり方だった……敵に気づかれないために。

「もしや、そういうことか……?」

 そしてナイルは、馬を呼び走り去る……見上げると、
  ……とりあえず、カグヤがすぐに害されることはないようだ。
  どうやら、俺をおびき寄せたいようだからな。
  俺は意識を切り替え、目の前の狂人達と向き合う。

「グガァァァ!!」

「悪いが、すぐに終わらせる。俺は今——機嫌が悪い!」

 魔力を限界まで高め、身体中の血を巡らせ体全体へ!
   すると、俺の周りから溢れた魔力が可視化される。

「……これが本来の身体強化魔法だ」

 これは俺が普段使っている魔力による身体強化とは違う。
 身体を強化するだけでなく、体の限界を引き出す強化技だ。
 この状態は魔力をかなり消費するが効果は絶大だ。

「まあ、お前達が飲んだ丸薬を薬なしでしたようなものだ」

 ただ使い手のエリゼ曰く、これを使える人間は限られるそうだ。
 強靭な精神力と、頑強な肉体の持ち主でないといけないらしい。
 でないと正気を失い血管が破れ、身体中から血と魔力が溢れて暴発すると。

「キシャァァァァ!」

「ケケェェェェ!」

 右側から、二人同時に剣を振り下ろしてくる。
   その姿は先程より遅く見えた。

「はっ!」

 水平にアスカロンを振り、二人同時に剣ごと身体を斬りとばす。
 これで、二体の物言わぬ死体の出来上がりだ。

「ァァァァァ!」

「ヒヒィィィ!」

 左側から、今度は二体が縦に並んで迫ってくる。
 一人を盾にして、もう一人で仕留めるといったところか。

「だが……それでも甘い」

 自ら接近し、アロンダイトを上段から思い切り振り下ろす。
   
「ペキャ!?」

「ブベェ!?」

 相手の攻撃が届くより先に、俺の剣が二人を押し潰した。
  斬るではなく、叩き潰すことに特化したアロンダイトならではの戦い方だ。

「残るは六人か」

 騒ぎを聞きつけて、次々と人がやってきている。
 時間もない……次の一撃で、終わりにするとしよう。

「すぅ……」

 息を吸い込み、全身の魔力を二本の剣に込め、両腕をバッテンの形にして剣を構える。
   危険を察知したのか、六人が一斉に襲いかかる。

「好都合だ——消えろ」

 周りに被害が出ないように、敵をひきつけてから剣を振り抜く!
 そして、六人の刺客達の手足や胴体が千切れ飛ぶ。   
   いくら此奴らでも、これではどうしようもない。
   すると、ゼトさんが駆けつける。
    
「おい!?  どうなっている!?」

「ゼトさん、申し訳ありません。少々、騒ぎを起こしてしまいました。ただ、今は後でお願いします」

「……わかった、幸い市民は死んでいないようだ。こちらで、後処理はしておこう」

「感謝します。では、失礼します」

 俺は逸る心を抑え、ナイフの柄に巻かれた紙を見る。

「ここより北西に建物あり、そこに目印は置いておく。そこにくるがいい……楽しい余興を始めようだと?」

 誰だか知らないが許さん……何より白分自身が許せない。

 カグヤ、待っていてくれ——必ず助けにいく!
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