反逆の英雄譚~愛する幼馴染が処刑されそうだったので国を捨てることにした~

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三章

ハクの強さ

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  ナイルが来た日から一夜明けた。

 あの後は、結局夜まで一緒に過ごしてしまった。

 さすがに泊まることはせず、後日改めて挨拶に来ると言い、自分の宿へ帰って行った。

 そんな俺達は気を取り直して、今日こそ冒険者ギルドへ向かう。

「ふえっくし! な、なんだ?」

「どうしたの?」

「グルルー?」

 突然くしゃみをした俺に、二人が怪訝な顔を見せる。
 風邪なども引いてないし、朝から俺は元気だった。

「いや、急に寒気が……」

「え?こんなに暖かいのに?  ふふ、どこかでエリゼが見てたりね?」

「勘弁してくれ……今でこそ負けはしないが、トラウマに近いんだよ」

「アレ凄かったわよね……よく死ななかったわ」

「俺もそう思う。今考えるとやりすぎだよな。まあ、強くなれたから結果的には助かったけど」

 そのまま会話をしながら、冒険者ギルドの中に入る。
 もちろん、ハクも一緒なので……騒ぎになった。

「おい! アレ! 魔の森の王者だぞ!?  テイムできた奴がいたのか!?」

「あれをテイムできたのは、確か……王弟殿下である、あの方以来じゃないか!?」

 「やれやれ……流石に目立つか。まあ、それならそれでいいか」

 カグヤには、ハクがついているという牽制になる。
 それにしても、相当強い魔物なのか。
 確かに、俺でも多少本気を出す必要があった。
 完全な大人になれば、カグヤを任せられるかもな。

「凄い人気ね!」

「グルルー!」

 ハクは得意げな表情で、まんざらでもない様子。
 パスからも『僕凄いんだよ!』という気持ちが伝わってきた。

「はいはい、凄いな。ほら、さっさと依頼を受けよう」

「そうね。あんまり目立つのもよくないもの」

「さて……今日はとりあえず、この間倒せなかったファイアウルフか」

    俺達は掲示板をそれぞれ眺める。
 期限は迫っているので、倒せないと依頼そのものが失敗になる。

「私は薬草系と……ん?  これは何かしら?」

「どれどれ……へぇ、こういう仕事もあるのか」

 そこには、治療院にて光魔法の使い手募集と書いてある。
 怪我した人や、冒険者を治療する場所のようだ。

「ふーん……私、やってみたいかも」

「いいんじゃないか?  光魔法の特訓にもなるし、お金も稼げて一石二鳥だし」

「そうよね……よーし! やってみるわ!」

 その後、俺も適当に依頼を見繕い、受付で受理される。
 すぐにギルドを出て、都市の出口まで行ったら一度立ち止まる。

「さて……ハク」

「グル?」

「これから狩りにいく。そこで、お前の力を見せてもらおう」

「グルッ!」

『任せて!』という気持ちが伝わってきた。
 やる気は十分、後は実戦あるのみか。

「えっと、馬でいくの?  ハクはどうしたら……」

「そうだな……早速、ハクの力を見せてもらおう。ハク、まずは体力や速さを知りたい。カグヤを乗せて走れるか?」

「グルルー」

 ハクが頷き、カグヤの手をペロペロと舐める。

「にゃにゃ!? くすぐったいわよー!」

「グルルー!」

「乗れってこと?  わかったわ……よいしょっと……うわぁ、気持ちいい」

 寝そべるようにハクに乗ったカグヤは、ふわふわの毛に埋もれて幸せそうだ。
 この感じなら、あぶみも必要ないな。
 もし必要なら、後で考えればいい。

「ハク、俺が走るからついてこい。  ただし、カグヤを落とすなよ?」

「グル!」  

 脚に魔力を送り、魔の森へ向けて駆け出す。
    その後を、ハクが追いかけてくる。
  
「キャー!  ハク!  速いわ!」

「ほう?  見た目に反して速いな。これなら馬はいらなそうだ。あれも餌台や維持費が馬鹿にならない。後で、専門店に売りに行こう」

 俺も一から鍛錬したかったし、丁度いい機会だ。 
   そして一時間ほどで、魔の森に到着する。
   俺はというと、丁度身体が温まってきたところだ。

「フゥ……体力も魔力も、一から鍛錬だな。やはり、サボってたツケか」

「グルルー?」

「おっ、体力あるな。全く疲れていないか」

 どうやら、体力は合格のようだ。
 すると、カグヤが俺に手を差し出す。

「ハク!  少し周り見てて!  ク、クロウ!」

「ん?  手を出してどうした?」

「私の手を握りなさい!」

「あ、ああ……」

 よくわからないが、とりあえずカグヤの手を握る。
 すると、何か温かいものが流れてくる……これはアレか!

「ど、どう……? ちゃんとできてる?」

「ああ、流れ込んてくる……魔力譲渡だな?」

「そうよ。昨日、クロウに魔力の感じを教えてもらったから。そのおかげで、光魔法のエナジートランスファーを使えるかなと思ったのよ。今までは、コツがわからなかったけどね」

 魔力譲渡の魔法だが、扱い方は魔力そのものを相手に渡すことだ。
 原理的には、俺の魔力放出に近いものがある。
 なので、応用できたのだろう。

「なるほど……これは助かるな。カグヤ、俺のために考えてくれたんだな?」

「う、うん、これで役に立てるかなって」

「ありがとう、カグヤ。これで、遠慮なく戦える……何より、その気持ちが嬉しい」

「そ、そのかわり、ちゃんと守ってよね!?」

「もちろんだ。なあ、ハク?」

「グルッ!」
   
 その後、森の中へ進んでいくが……非常にやりやすい。

 ハクがカグヤを見てくれているから、俺は警戒に専念できる。

「あっ! これも! あっ! あれも!」

「グルルー」

 カグヤが興奮してあちこち行っても、ハクがぴったりとついていく。
     そんな中、俺の後ろから何かが近づいてくる。

「ガルル……!」

「ゲルル……!」

「……来たか」

 赤い皮膚の狼……ファイアウルフに相違ない。

「ハク!」

「グルッ!」

「にゃ!? どこに頭を突っ込んでのよ~!?」

 ハクがカグヤの股下に顔を潜らせ、そのまま背中に乗せる。
    これで、目の前の敵に集中できる。

 「いや待て……別に、俺が倒さなくてもいいのか」

 俺の契約魔獣ということは、ハクが倒しても俺が倒したということだ。
    俺はファイアウルフを牽制しつつ、ハクの下まで下がる。
 そしてカグヤの手を取り、一旦下ろす。

「ハク、お前が倒せ。お前の力を見せてくれ」

「グルルー!」

 俺の言葉の意味を理解し、ファイアウルフ三匹とハクが対峙する。
 俺とカグヤは、少し離れて様子を見ることにした。
 痺れを切らしたのか、相手の方が動き出す。

「「「ガァァ!」」」

 三匹一斉に、火の玉を吐き出した。

「グルァー!」

「ガウッ!?」

 しかし、その全てをハクの水のブレスがかき消す。
    後出し尚且つ、ハクの方が威力があるということだ。

「グルッ!」

「ガァ!?」

 しかもその隙を突き、一瞬で距離を詰めて鋭い爪で一匹を切り裂いた。
    一撃で半身を切り裂かれ、一匹が絶命する。

「ガウッ!?」

「ギャウ!?」

 格上と気づいたのか、二匹が逃げようとする。
 四足歩行の魔物は総じて賢いというが、相手が悪かったな。
 ハクが木を利用して、三角飛びの要領で敵の逃げ道を塞ぐ。

「グルァ!」

「おっ、やるな」

「うん! すごいわ!」

 そして逃げ道を塞がれた二匹が、ダメ元でハクに襲いかかる。
   ハクはその二匹を、強靭なアゴで噛み砕く。
    そして、断末魔をあげる暇もなく……二匹が絶命する。

「グルァァァァァ!」

 「……これが、森の王者と呼ばれる所以か」

 今のように木々を利用し、更には登ることもできるだろう。

 うむ……これは、想像以上に頼りになりそうだ。
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