竜殺しの料理人~最強のおっさんは、少女と共にスローライフを送る~

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おっさん、異世界転移する

おっさん、魚を捕まえる

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 ひとまず道があるので、音を辿りつつ、そちらに向かう。

 周りには草原や森が広がっており、本当に大自然って感じだ。

 空気も美味いし、心地よい風も良い。

「というか……ほんと、ここはどこだ?」

「ふぇっ? ……そういえば、おじさんは何処からきたんですか?」

「いや、これがわからん。説明して理解してもらえるかはわからないが、突然穴に落ちて……気がついたら、ここにいたってわけだ」

「そ、そうなんですね。えっと……捨てられてた絵本で見たような気がします。こことは違う異世界から、ときおり人が現れるって。その人は、神に選ばれし者だって」

「神に選ばれし? ……別に誰にも会ってないしな。神のお告げとやらも聞いてないし」

「ごめんなさい、それ以上はわからないです……」

「別に謝ることはないさ。教えてくれてありがとな」

「えへへ……はいっ」

 ほんと、わけがわからない。
 ドラゴンがいたし、耳と尻尾のある女の子もいる。
 ……いや、考えるのは後でいいか。





 そして移動を開始して、十分くらい経つと……。

「よし、見えてきたか」

「あっ! 川です!」

 目の前には大きな川が流れている。
 あとは、生き物がいるかどうか……。

「ん? ……いやいや、そんなわけあるか」

「どうしたんですか?」

「いや、この距離から……川の中にいる魚が見えた気がした」

 今、一瞬……望遠鏡のように、画面がズームしたような気がする。
 そして、十メートル以上離れている川の中が見えたような……。

「そうなんですか?」

「いや、気のせいかもしれない。とりあえず、ここを動くなよ。川の近くっていうのは、獣が来やすい場所でもある」

「は、はい」

 川辺までいき、そこに少女を降ろす。
 ここなら見晴らしの良いので、何かくればすぐに駆けつけることができる。
 そのまま、静かに川に近づくと……視線の先には優雅に泳いでいる魚が見えた。

「さて、見つけたのは良いが……どうやって獲る?」

 近くには見渡す限り小石や枯れ木、遠くには草むらがある。
 釣りに使えそうなものもないし、そんなに時間はかけてられない。

「……昔、ボーイスカウトでニジマスの掴み獲りをしたな」

 その時は岩で囲った生け簀だから、苦労しつつも獲れた。
 しかし、野生で泳いでる魚は別だろう。

「まあ、とりあえずやってみるか」

 なるべく気配を消しつつ、魚から離れた川の中に入り……待つ。
 魚を捕まえるコツは、捕まえるという意思を見せないこと。
 意を見せると、動物は本能でそれを感じ取る。
 剣道で習っていた瞑想を思い出し、その場でじっと待つ。






 ……いまっ!

 視界の端に入ってきた魚を、右手ですくい上げるように対岸へ飛ばす!

「よし! できた!」

「わぁ……! すごいです!」

「いや、自分でもびっくりだよ。とりあえず、もう少し捕まえてみるから待ってなさい」

「は、はい」

 その後、魚が近づいてくるのを待って……合計で4匹の魚を得ることに成功した。
 なので、一度川から上がることにする。
 
「す、すごいです!」

「ありがとう……いや、こんなに上手くいくとは」

「こう、シュパッで感じで……目に追えなかったです」

「なに? ……ああ、身体能力が上がってるんだったな」

 何も力だけが強くなるってことではないらしい。
 目の良さや反射神経も上がってるということか。

「そ、そうだと思います。ごめんなさい、全然役に立たなくて……」

「まあ、それは後で考えるとして……」

 その時、キュルルーという可愛らしいことが聞こえる。

「……ご、ごめんなさい!」

「……ははっ!」

「ふえ!? な、なんで笑うんですか!?」

「いや、すまんすまん。良いことだ、腹が減るということは生きている証拠だからな」

「……生きてる証拠……わたし、生きてて良いのかな?」

 ……軽々しく応えて良い内容ではないな。
 だが、これもまた……運命というやつなのかもしれない。
 俺も昔、人に聞いたことがあるからだ。

「ああ、もちろんだ。生きてちゃいけない人などいない……無論、悪いことをすれば別だが」

「わ、わたし! 何も悪いことしてないです!」

「なら良いんじゃないか? まあ……とりあえず、飯にするか」

「わ、わたしも良いんですか?」

「ん? ああ、もちろん」

「で、でも、何もしてないのに……」

 ふむ、自己肯定感が低いな。
 多分、そういう生活を余儀なく送っていたのだろう。

「いや、そんなことないさ。川の場所も教えてくれたし、その他にも教えてくれた」

「でも、そんなことは誰でも知ってます……」

「だとしても、俺に教えてくれたのは君だ。それに、目の前でお腹を空かせた子供がいるのに、それを放って自分だけ食べられるほど落ちぶれちゃいない」

「……」

 少女は、まるで何を言われたかわからないような表情をする。
 ……それだけでわかる。
 この子が、どんな扱いを受けてきたのか。

「だから安心していい。この魚は、きちんと分けるから」

「……本当ですか? あ、あとで嘘とか言いませんか……?」

「ああ、本当だ」

「……グスッ……あ、ありがとうございますぅ」

 俺はゆっくり近づき、その頭に手を置く。

 そして、しばらくの間……少女が泣き止むまで待つのだった。






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