竜殺しの料理人~最強のおっさんは、少女と共にスローライフを送る~

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おっさん、異世界転移する

おっさん、女騎士を助ける

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 その後、ソラの朧気な記憶を頼りに歩きつつ、魔法について聞いてみる。

「そういや、今更だが……この世界には魔法があるのか? なんか、首輪を壊すときに言っていたような……」

「あ、あります。魔法は獣人以外の生物が使えて、何もないとこから火を放ったり水を出したりできるんです」

「なるほど。ということは、俺にも使える?」

「た、多分……でも、わたしは使えないから教えられません……」

「あぁー、落ち込まなくていいから。ひとまず、火は自分でつけられるし、水は川の水を煮沸したものがあるし」

 ポシェットの中に入っていたペットボトルに、飲み水を確保しておいた。
 ただ量には限りがあるので、早い所何処かにつければ良いが……。
 もしくは、人に会いたいところだ。

 草原を抜け、見渡しの良い場所に出る。

「あっ! 街道です!」

「おっ、確かに道が整備されてるな」

「あっちが多分村があった方だから……こっちです——あっ」

 駆け出そうとして、ふらついたソラを受け止める。

「平気か? 疲れたのかもしれないな」

「へ、平気です! まだまだ歩けますから……」

 その目は怯えていて、なにかを恐れている。
 多分、置いていかれるとても思っているのだろう。
 ……こればっかりは、本人の問題だな。

「いや、ここまでくれば平気だ。あとは、俺に任せろ」

「ふえっ!? あ、あの……」

 その軽い身体を、片手で抱き上げる。

「抱っこは嫌か?」

「い、いえ……」

 やはり、甘えるのが下手らしい。
 いや、そもそも甘え方を知らないのか。

「なら良い。それじゃ、しっかり捕まってろよ。出来れば、日が暮れる前に人を発見したいからな……そういや、時間とか全然わからん」

「えっと……あの時は朝だったから、今はお昼前くらい?」

「なるほど、それならどうにかなる可能性もあるな。ここからは走っていくから、何かあれば教えてくれ」

「は、はい!」

 俺の服を掴み、身体を預けるのを確認し……走り出す!

「わぁ!?」

「うおっ!?」

 自分が思った以上の速度が出た!
 体感的に、自転車の全力疾走くらい出ている。

「そ、そうだった、身体能力が上がってるんだった。すまん! 平気か!?」

「は、はい! ……なんか、少しそわそわします?」

 表情を見る限り、どうやら怖いという感じではなく……楽しそうといった感じだ。

「それは多分……楽しいってやつかもしれん。嫌な気分はしないか?」

「楽しい……嫌な気分はしないです……これが楽しいなんだ……ふわふわします」

「それなら良かったよ。んじゃ、引き続きよろしく」

「はいっ!」

 確認を取った俺は、再び街道を走っていくのだった。





 そのまま走ること、数時間くらい?経ち……流石に身体の異常に驚く。

「お父さん……すごいです」

「いや、俺も驚いてる。まさか、ほとんど疲れないとは」

 自転車を漕ぐくらいの速さで走ってるとはいえ、数時間休憩なしだ。
 これも、ドラゴンを倒した効果ということか。

「わ、わたし、歩きますよ?」

「いや、まだまだ平気だよ……ん? 何か音がするな」

「……ほんとだ、わたしにも聞こえます……あっちの方からです」

 そのまま、音のする方へと向かっていくと……人々が何かに襲われている。
 赤い皮膚に覆われ、筋肉隆々の肉体、頭には一本のツノが生えて、般若のお面のような顔をしている。
 俺の知ってるイメージからいうと、鬼という生き物がしっくりする生物だ。

「くっ!? なんでこんなところにオーガが!」

「クレア! 下がってください!」

「ゴァァァァ!」

「く、こんなところで……! いや、私がやる! ミレーユこそ下がっていろ!」

「いけません!」

 黒いローブを着た若い女性と、鎧を着た若い女性が一人いる。
 どうやら戦いに苦戦しており、俺たちの存在には気づいていないようだ。

「ま、魔物です……!」

「魔物? ……なるほど、確かに」

「ど、どうしますか? あれって、強そうです……」

 確かに見た目は怖いし、強そうではあるが……なんだ? 特に恐怖心は感じない。
 あまりに非日常的で、感覚がおかしくなっているのか?

「しかし、見捨てるのもアレだな。それに、情報が欲しい」

「た、助けるんですか?」

「……ああ、そうしよう。不思議と負ける気はしない。これも、ドラゴンを倒したからかもしれない」

「わ、わたしは足手纏いになるので、ここで隠れてます」

「ああ、それが良い。では、行ってくる」

 ソラを木の陰に隠して、俺は襲われている人の元に駆けていく。
 そのまま、女性を襲おうとした鬼の前に立ちはだかる。

「ゴァ!?」

「でかいな」

「な、何者だ!?」

「下がっていてください。その人、まだ生きてますよね?」

 その側には、ローブを着た女性が倒れている。
   どうやら、先ほどの攻撃から女騎士さんを庇ったようだ。 
 
「し、しかし、相手はオーガだぞ?」

「多分、平気です。さあ、早く」

「わ、わかった! 助太刀感謝する! だがせめてこれを!」

「ありがとうございます」

 二メートルを超える相手を睨みつつ、女性から剣を受け取り……改めて、自分が怯えていないことを実感する。
 いくら喧嘩慣れしてるとはいえ、普通なら逃げ出す場面だ。

「ゴァァァァ!」

「……引き下がってはくれなそうだ」

「ゴァ!」

 振り下ろされる拳を、半身をずらして躱す。
 そのまま素早く脇を斬り、相手の後ろに回り込む。

「どうした? 俺はこっちだぞ?」

「ゴァ? ……ァァァァ!」

 どうやら、怒りが完全に俺に向いたようだ。
 これで、安心して戦える。

「ゴァァァ!!」

「よっと」

 次々と振り下ろされる拳を、余裕を持って躱していく。
 ……やはり、見えてるな。
 さて、剣道はずっとやってきたので剣の扱い大体わかる。
 あとは、俺が剣を……相手を斬れるか。

「ゴ……ゴガァァァァァ!」

「ブチギレか……覚悟を決めるか」

 不思議と恐怖や忌避感はない。
 ならば、あとは斬るという覚悟だけだ。
 剣を上段に構え、相手を待ち……。

「ゴァァァ!」

「セァ!」

 相手の拳が振り下ろされるより早く剣を振り抜く!

「ゴア? ……ガ、ガ、ガ……」

 すると、オーガは真っ二つになり……地に伏せた。

   そして、なにやら宝石となる。

 少し気持ち悪さは感じるが、やはり特に忌避感はない。

   死体が残らないからだろうか?

 うーん……俺の身体はともかく、精神はどうなってしまったのだろうか?



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