【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎

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第二章

第26話:②

その後、それぞれの部屋を案内され、荷物を置いたゼロスたち。
「そういえば、ヘレナさん。この国って、一般人が住んでるような地区はないのか?」

「…あぁ、当然ある。この身分証のバッジがあれば、いつでも関所を通れる。地図も渡しておこう」

「へへ、ありがとう」

「…で、どこへ行くつもりだ…?」

「そりゃぁ、酒場っしょ~」

「…そうか」
ヘレナは、何か別の可能性を考えていた自分を恥じるように、少しだけ安堵した。
「とりあえず、貴方たちに会わせたい奴らがいる」

「…また、お偉い人とかじゃないでしょうね…?」

「おっ!?おおっ!?もしや、皇帝陛下!?」
ルナが目を輝かせる。ヘレナは嘆息交じりに答えた。
「そんなはずないだろう…今回、一緒のチームで動くかもしれない連中だ」

レオが、疑問に思っていたことを質問した。
「…さっきから、『やつら』とか『連中』とか、どのような方々なのですか…?」
ヘレナは、少しだけ暗い顔をしながら、一言だけ答えた。
「…荒くれ者だ…」

軍政地区の中でも特に人が少ない地域に、一際大きな石造りの建物が立っていた。
四人の先頭に立つヘレナは、その建物を前にして、静かに告げた。
「…ここだ」

ゼロスは、建物に掲げられた古びた看板の文字を読み上げた。
「…『アイギス』…?なんのことだ、こりゃ」

「我が国には、冒険者ギルドは無い。代わりにダンジョンの抑制を行っているのが、我ら騎士団と、この帝都ギルド『アイギス』だ。元は騎士の出来損ないが作った組織だが、今では貴族ではない騎士崩れの連中が集う場所でな。力はあるが、粗野な態度が目立つ連中だ」
アリシアは不安そうな顔をするが、ゼロスはいつも通りの呑気な様子だった。
「ま、冒険者と似たようなもんだろ?とりあえず、挨拶しに行こうぜ」

「…」
ヘレナは、その背中に向かって小さく息を吐いた。
ゼロスらが扉を開けると、そこには昼間だというのに薄暗く、酒と汗の匂いが混じり合った、さながら無法者の酒場のような光景が広がっていた。いる者の多くが昼から酒を呑み、荒んだ雰囲気を醸し出している。

ゼロスは、その空気を全く意に介さず、極めて軽快な挨拶をした。
「はい、どーーーーも、ご挨拶にあがりました~。『始まりの雫』でーすっ」

その場違いな声に、酒を飲んでいた男の一人が、ぎろりとゼロスを睨みつけた。
「あぁ?誰だ、てめぇら…後ろにヘレナがいるってことは、なんだ?騎士団の客か?」

「そうだ。オルソンと話がしたい」
ヘレナが冷たく言い放つ。
「…あいにく、うちのボスは暇じゃねぇんだ。後にしな」
男はそう言うと、再び杯を呷った。

「では、レックスを呼べ」

「今度はうちのリーダーってかぁ?おいおい、何様のつもりだ?」

「貴様ら、粛清されたいのか?」
ヘレナの言葉に、男はげらげらと下品に笑った。
「へっ、俺らが居ないとダンジョンのモンスターが溢れかえって、とっくにスタンピードが発生して、この国は滅んでるぜ?」

「…言わせておけば…」
ヘレナが腰のサーベルに手をかけようとしたのを、ゼロスが手で制した。
「まぁまぁ、そう荒れるな、荒れるな。俺らは喧嘩しに来たんじゃない。仕事の話をしに来ただけだ。オルソンって人か、レックスって人は、いつ居るんだ?」

男は、今度はゼロスを値踏みするように見つめた。
「…俺たちは、強い奴としか共闘しねぇ…ボンボン育ちの騎士団の客なんぞと、つるむ気はねぇよ」

ゼロスは、その言葉ににやりと笑った。
「ボンボン育ち、か…だが、マリウスってやつは、なかなか骨があったぜ」
その名を聞いた瞬間、男たちの目の色が変わった。
「ほぉ…あいつを知ってんのか、兄ちゃん…」

「あぁ。ついさっき、訓練場でやりあってきたところだ」

「…興味が出てきたね。で、どうだった?勝ったのか?」
ヘレナが横から答えた。
「私が止めた。本気の殺し合いになりそうだったのでな」

その言葉に、男は興奮した顔でゼロスに詰め寄った。
「ほぉぉぉぉ!!いいねぇ、兄ちゃん!ジョブはなんだ!?戦士か?パラディンか?その斧を見る限り、狂戦士か?どっちみち、俄然興味が出てきたぜ」

ゼロスはへらりと笑って答える。
「残念、荷物持ちでした」
その途端、男たちの熱気が、すっと冷めた。
「…てめぇ、嘘はよくねぇな。一般ジョブのクソが、騎士団の部隊長に敵うはずがねえだろ」

「いや~、よく言われるわ~」
全く気にしていない様子のゼロス。
「…そもそもよぉ、お連れも弱っちそうなんだよなぁ。弱っちぃやつらが弱っちそうなリーダーを頼るなんざ、相当困ってんだろうなぁ………なぁ、姉ちゃん?」
男のねっとりとした視線が、アリシアに向けられる。
「そんな頼りない兄ちゃんについてないで、こっちに来いよ。いい生活させてやるぜ…」

「お断り致します」
アリシアは、毅然とした態度で言い放った。
「あんだぁ?もしかして、兄ちゃんに弱みでも握られてんのかぁ?」

「…別に私は、弱みを握られていても、ゼロスさんの傍を離れる気はございません」

「…熱いねぇ…後ろの男と女は、どんな気持ちでその兄ちゃんについてんだよ」
ルナとレオに視線が移る。
「…別にあんたに関係ないでしょ」

「同じく」
ゼロスは、この不毛なやり取りに、やれやれと息をついた。
「…はぁ…話にならんな。ヘレナ、こいつらとは共闘できねぇよ。マリウスたちと話をつける形でもいいか?」

「…あぁ。薄っすらと希望を抱いてはみたが、無駄だったな。帰ろう」

「…はぁ…姉ちゃんどもに護られて、恥ずかしくねぇのかよ。そこは俺らと勝負するとこなんじゃないかな?ゼ・ロ・ス・く・ん」
ゼロスは、心底呆れたように言った。
「…わりぃが、俺は無駄な相手と喋るのは苦手なんだ」

「はっ!この腰抜けがっ!」
そう構成員が言い放った、その時だった。
アリシアが、静かに、しかし氷のように冷たい声で言った。
「…訂正なさい」

「…は?」

「ゼロスさんを侮辱した事を、今すぐ訂正なさい。でないと…」

「でないと、なんだよ?まったく、ゼロス兄ちゃんは情けないでちゅね~、女に護られて」
アリシアは、告げた。
『虚空に漂うマナよ、集い、形を成せ!!』
彼女の周囲の空気が、微かに淀み、魔素が集まっていく。弱々しく、微弱な魔素の震え。

「アリシアさん、よせ!」
ゼロスは止めたが、構成員はさらに煽る。
「…こんな弱っちい女に護られてるとか、どんだけ恥ずかしい男なんだよ、ゼロスぅぅぅぅ」

『我が意思に従い、矢となりて放たれん!!』
アリシアが二節目を唱えた瞬間、場の空気が一変した。
彼女の周囲の虚空が歪み、異様で、禍々しく、狂気じみた紋様の魔法陣が七つ、赫々と現れる。
「この女っ!!」
明らかに危険な雰囲気を醸し出す魔法陣を見て、ギルド内にいた構成員たちが一斉に警戒態勢に入り、武器を構えた。

「わー、わー!やめようぜ!アリシアさん、本気の殺し合いになるぞ!?」

「…今回だけは、私は私の感情に従います」
アリシアはそう答えると、魔術を止める気配を見せない。

「…マジでやる気か?この女…」
アリシアは手のひらを前にし、最後通告をするように言った。
「…さぁ、謝罪を…」
その圧倒的な威圧感に気圧される構成員だったが、引くに引けない意地が勝った。
「ふざけんなっ!おい、この女をぶっ殺…」

構成員の言葉は、続かなかった。
『…火の追跡者(チェイサー)、放て』
突如、アリシアの後ろから簡易詠唱で放たれた炎の矢が、その男の右腕目掛けて炸裂した。

「うぎゃぁぁぁぁああああああああああああああ」
悲鳴をあげ、焼き焦げた腕を押さえる構成員。その攻撃を放ったのは、ルナだった。
「…ルナさん?」
アリシアが驚いて振り返ると、そこには普段の飄々とした態度は消え、明らかに殺意に満ちた表情のルナが立っていた。
「…その汚い口を、閉じろ」
ルナの眼は、その魔素によって、蒼く輝きを放っていた。

「て、てめぇ…ぶっ殺す…」

「殺すのは、あたしだ。…ここにいる全員、焼き殺してやる…レオ」

「銀よ」
そう言うと、レオの左手のガントレットが、瞬時に大楯へと展開される。
「広がれ」
レオの盾が、ゼロスたちの前方を守るように、網目状に広がった。
「いいよ、ルナ。思いっきりぶっ飛ばしても。こっちへのダメージは、僕が全部防ぐ」

「お前ら、やめろ!」

「お前ら!あの小娘を止めろっ!!」
他の構成員がレオの盾の壁を武器で殴りつけるが、それはびくともしない。

『一条の光を編み、雷鳴の鎖を紡げ…』
ルナが手を合わせ、離した瞬間に、彼女の周囲にバリバリと電気が走り、螺旋状に大きくなっていく。
「ふざけんな…フル詠唱で…人間相手にアレを撃つ気か!?」

ルナは構わず詠唱を続けた。
『その鎖を振るい、敵から敵へと繋ぎ渡せ…』
ルナの身体の周囲を、鎖状となった電撃が蛇のようにとぐろを巻く。
「逃げろっ!『雷光の連鎖』だっ!!!」

ルナの眼が、魔素でさらに蒼く輝いた。
「…消し炭になれ」
彼女が腕を掲げ、『逃れる術なし、雷光の…』
その最後の詠唱が言い終わる前に、凄まじい轟音と衝撃がギルドの壁を揺るがし、石造りの壁に巨大な穴を空けた。

ルナは不意に発生した轟音と衝撃に驚き、魔術を霧散させてしまう。
「…やめろ」
大穴を開けたのは、ゼロスの戦斧だった。

「…うごごご…いいところだったのに…」

「いいところじゃねぇだろ…お前も乗っかるな、レオ…」

「ははは…ごめん。なんか、僕もイラっとしちゃって…」

「…てめぇ、こんなことしてタダで済むと思ってんのか…?」
ゼロスは今までのやんわりした表情を消し、氷のように冷たい眼で、アイギスの構成員たちを見渡していた。
「お前らが売ってきた喧嘩だろうが。買ってやって、何が悪い?…それとも、なんだ?」
ゼロスは男の首元に、躊躇なく戦斧を振り下ろし、斬れる寸前のところでぴたりと止めた。
「…このまま、殺し合いの続きでもするか?」

「…てめぇ…」
男は、恨むような眼でゼロスを睨みつけた。

パン、とヘレナが手を叩いた。
「ゼロス!戻るぞ」
ゼロスは斧を肩に担ぎ直した。
「へーいよ」

そうして出ていこうとするゼロスらに、構成員が声をかける。
「てめぇら!これで終わると思っ…」
ヘレナは、後ろを横目で見やり、冷たく言い放った。
「終わらなかったら、私はもう止めんぞ。ゼロス達と殺し合いになる上、私は騎士団を介入させ、お前たちへの魔核の買い取りも停止させる。どうだ?好きにしたらいい」
「・・・・・・・・」
アイギスの構成員たちは、沈黙した。

「…戻ろう、ゼロス。詫びに、好きなだけ酒を奢ってやる」

「あら、得しちゃったっ!」

「はぁ…ゼロスは…。代わりにキレて、損したよぉぉぉ」
ルナが不満そうに言う。
「ルナちゃん、レディたるもの…」

「今はそのネタはいいよぉ…」

「…なら、あとでちゃんと、なんで怒ったか聞くからな」

「うぐっ…」

その背を、アイギスの構成員たちは、ただ静かに見守っていた。

(第26話/了)
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