6 / 13
1章:異世界、始動
飲み会!
しおりを挟む
受付嬢が4人分のギルドカードと住居証明書を準備しているあいだ、4人はカウンター横のベンチに腰掛けていた。
再会の感動、2日間の疲れ、色んな想いがひっきりなしに押し寄せ、誰もが疲弊しているはずなのに、妙に気持ちは冴えていた。
そんな空気の中、いちばん現実的な発言をしたのは、ユキヤだった。
「…さて、家を確保したのはいいが、どうやって戻るか……」
身の安全。この世界への理解。そして何よりこの世界で生計を立てていかなければならないこと……
考えるべきことはいくらでもある。
だが、その真面目な問いに返ってきた答えはあまりにも軽かった。
「戻る必要なくない?」
ミカンが迷いゼロの即答。
コウが笑いながら顎を上げる。
「ははっ!!わかるわ!俺もそう思った」
「いや~だってさ、異世界だよ?戻るより絶対こっちのが楽しいじゃん。学校もないし、めんどーな人間関係もないし!そして何より家族に会わなくていい!!さいこーだね。」
「それな~」
ミカンの言葉には、“元の世界に未練なし”というのがはっきりと滲んでいた。
ソウはというと、背にもたれたまま淡々と呟く。
「僕は…別にどうでも…どこにいようが生活は変わらないでしょ……」
あまりにも温度の違う三者三様の態度に、ユキヤは深いため息をついた。
「っはぁ~……お前らなぁ……少しは考えて__」
その瞬間だった。
「オメェら!!」
豪快で、壁一枚くらい簡単に突き破りそうな声が響いた。
「うわ、な、なんすか…」
ミカンが肩をすくめて振り向く。
そこには__さっき話しかけてきた、腕っぷしのいい冒険者が立っていた。彼は4人の前にどんと立ち、満面の笑みを浮かべた。
「転生者だったんだな!!先に言えよ~!!」
「は、ははは……」
ミカンは引きつった笑いを返す。
「登録って結構時間かかるんだよな!俺らと飲んで時間潰そうぜ!!歓迎会だ!!」
その唐突な提案に、ユキヤは思わずツッコミを入れる。
「いや、俺とミカンは未成年だから…」
「お?未成年?見た感じもう大人に見えるけどな」
「コイツらどっちも17だよ」
ソウがぼそっと補足する。
「なら飲めんじゃねぇか!!!」
「……?」
ミカンは一瞬思考停止。
「……こっちの世界の成人って…」
「ん?16歳だ!!」
ミカンが瞬時に目を輝かせる。
「おー!飲めるじゃん!」
「へ~!そうなんや!!なら飲もうぜ!」
コウまで勢いよく乗っかる。
「いや……いやいやいや!!ミカンはダメだからな!?こんな野郎がいっぱい居るところで飲もうもんなら…」
「え~いいじゃん!一緒に飲も?」
「ぐっ……!」
ユキヤが必死に止めるが、それもミカンのおねだりには負けてしまう。
「ユキヤ行くぞ~~!!飲み会やぁぁぁ!!」
「わ、わかった!わかったから肩組むな!!歩きにくいって!!」
コウはユキヤの肩を組みにずりずり引きずっていく。
「れっつごー!」
ミカンはユキヤの腕を組み引っ張る。
「ちょ、まっ…ひ、引っ張るなって…!」
そしてソウと冒険者が後ろからついていく。
「へぇ…アイツら付き合ってんのか!!」
「いや…そういう訳じゃないと思うけど…」
賑やかな声が充満するギルド奥の飲食スペース。大きな丸テーブルに、木製のジョッキと皿が次々と並べられていく。
「ほれ座れ座れ!!今日は転生者の歓迎会だ!!」
あの豪快な冒険者に促され、4人は半ば強制的に席へ着かされた。
テーブルの中心には巨大な肉の塊、焼き立てのパン、香辛料の効いたスープ……これぞ“冒険者の食堂”という豪快な食事がずらり。
「おぉ……!!久しぶりのご飯……!!!!」
ミカンは目を輝かせ、料理に釘付けになる。
一方ユキヤは___
(ミカンが飲むんなら俺は飲まずに見てないと……)と、隣でひやひやと眉を顰めていた。
ふいにソウがぽつりと口を開く。
「ちなみに……お酒って何あるの?」
普段は無気力に見える彼が少し興味を示したせいで、テーブルの全員がそっちを向く。冒険者は待ってましたとばかりに笑った。
「なんでもあるぞ!!ビールにワイン、カクテル、サワー……おすすめなのはドラゴンの角を粉にして溶かした酒だ!」
聞いたこともないお酒に、ソウは一瞬で青ざめる。
「な、なにそれ……ぼ、僕は梅酒で……」
苦手なものを前にした猫みたいに肩を縮こませ、そっと選択肢から逃げた。
一方、テンションが上がりきっている男が一人。
「俺は~ビールはさっき飲んだし……ウィスキーで!」
コウは胸を張りながら注文。まるで元から常連みたいに堂々としていた。
ミカンはメニューを見ながら眉を寄せて唸っていた。
「ん~……何がいいんだろ…」
悩んでいるというより、楽しんでいる顔だ。
そんなミカンに、隣のユキヤは眉間を押さえてぼそっと言う。
「初めてなんだし弱いのに……」
注意はしてみるが、ミカンの好奇心の前ではほぼ無意味。
するとコウが、優しくも余計なお節介の顔で口を挟む。
「カルーアミルクとか飲みやすいんちゃう?」
「じゃあそれで!!」
「俺の話聞いてた?」
ユキヤの忠告は秒で無視された。
「ユキヤは~?」
「俺は別に……」
メニューを見るのも面倒くさそうに答える。
「ノリ悪いなぁ~」
「ウザ…」
コウにからかわれ、ユキヤはため息をひとつ。
「……はぁ……じゃ、一番弱いので」
すると冒険者が目を輝かせて言った。
「じゃあこのラムネサワーでいいか?」
「はい……」
軽くため息をつき返事するユキヤ。その横顔を、ミカンはこっそり口元をゆるめて見ていた。
こうして注文が出そろい、冒険者が勢いよく手を挙げる。
「おーい姉ちゃん!こいつらに酒と料理モリモリで頼む!!」
店員が笑いながらメモを取って去っていく。
テーブルの上は、もうすでに湯気と香りで満たされている。まるで、4人をこの世界が歓迎してくれているようだ。
しばらくして、店員が盆を抱えて戻ってきた。
「お待たせしました~!」
テーブルに並べられるジョッキとグラス。その香りと色だけで、誰のがどれかすぐ分かる。
コウの前には琥珀色のウィスキー。
ソウの前にはほのかに香る梅酒。
ミカンのグラスには、デザートみたいに甘い香りのカルーアミルク。
そしてユキヤの前には、炭酸の弾けるラムネサワー。
「わ!!来た来た!!」
ミカンが嬉しそうに手を叩く。そのテンションだけで周囲の冒険者が笑っていた。
豪快な兄ちゃんもジョッキを片手に声を張る。
「よし!!転生者4人の異世界初飲み会!乾杯だ!!」
ミカンとコウがノリノリでジョッキを掲げる。
「「いえ~い!かんぱーい!!」」
「か、かんぱい……」
ソウは小声ながらもグラスを合わせた。
ユキヤは__
(ミカンに度数高い酒飲ませたくないんだけど……)
心の中で頭を抱えつつも、仕方なくグラスを上げる。
「……乾杯」
グラスがぶつかる音が鳴った瞬間___
4人の肩からふっと力が抜けていくのがわかった。
昨日まで全員が、知らない場所で、知らない敵と向き合って、生きるのに全力だった。
だからこそ、この“安心してワイワイできる時間”は、胸にじんわり染みた。
カルーアミルクを口に運んだミカンが、満面の笑みを浮かべた。
「ん~!美味しい!コーヒー牛乳みたい!!」
はしゃぐ声が弾む。その無邪気さに、ユキヤは思わず口元を緩めた。
「お前、カフェオレとかそういう感じの好きだもんな」
「うん!めちゃ好きかも、これ!」
グラスを抱え込んで嬉しそうに揺れる姿は、まるで新しいお菓子を見つけた子供みたいだった。
「飲みすぎるなよ……」
心配そうなユキヤの声をよそに、ミカンはまたひと口。甘い香りがテーブルの空気まで柔らかくしていく。
その横では___
「……ッカァー!!うんめぇー!たまんねぇなぁ!!」
コウがウィスキーを豪快にあおっていた。喉を鳴らす音がやたらと清々しい。
「おお!いい飲みっぷりだな!兄ちゃん!!」
冒険者たちから歓声が飛ぶ。
コウは得意げにジョッキを掲げ、片目を細める。
「ふっ……だろ?」
完全に“イケメンモード”だ。
一方で、ソウはというと__
「……うま」
梅酒をちびちび飲みながら、静かにつまみを食べ、静かに味わっていた。喧騒とは質の違う落ち着きをまとっているが、その肩の力が抜けた姿を見るに、彼も楽しんでいるようだった。
しばらく賑やかな宴が続いたころ、冒険者がニヤリと4人を見る。
「にしても、最近物騒なこと多いしな。特殊属性持ちの転生者さんなんて、ちょー頼られまくるんじゃないか?」
「そうか~?」
コウはウィスキー片手にケラケラ笑う。
現実味がないのか、むしろ楽しそうだ。
「これから大活躍だな!!」
「えへへ~」
ミカンは褒められていると勘違いして、頬を赤らめながら笑う。
その場は酒と笑い声で満たされ、誰もが上機嫌だった。
宴も半ばに差し掛かり、ギルドの飲食スペースは一層熱気を帯びていた。誰かが歌い、誰かが喧嘩し、誰かが抱き合って泣き___
冒険者たちの喧騒はまるで焚き火のように温かく、荒々しく、息づいている。
その一角で、ミカンは完全に酔っ払っていた。
「ミカン……流石に飲みすぎだって……」
ユキヤが心底心配そうに眉を寄せる。声は落ち着いているが、その目はずっとミカンを追い続けていた。
だがミカンはというと__
「ん~……んへへ」
返事になっていない気の抜けた声。そのまま、ふらりとユキヤに身体を寄せて___
ひっついた。
「ちょ、なん……!?」
ユキヤの肩がびくりと跳ねる。ミカンの髪が、ほのかな香りをまとって彼の首元をくすぐる。
ミカンはさらに顔を近づけると──
「ユキヤいい匂いだねぇ~……」
酔っているからか、囁き声はいつもよりもずっと甘くて、無駄に破壊力があった。
「あ、あの、み、ミカンさん??む、胸がですね俺の腕に……っ!」
ユキヤの顔が一気に赤くなる。ミカンの体温、呼吸、柔らかい感触___全てがユキヤの理性をじりじりと焼いていく。
「ん~……」
本人はそんな気など一切なく、安心しきった猫のように彼の腕に寄りかかっている。
そして、この状況を真正面から楽しんでいるやつがいた。
コウだ。
「なんや~イチャイチャしよって~」
手を口元に当て、にたぁっと口を歪めて笑う。わざとらしい挑発に、ユキヤは反射的に声を荒げた。
「ち、ちげぇから!! てか助け__」
ユキヤが救いを求めるが、コウは一切聞かない。まるでその言葉を避けるように、すっと視線をそらし___
「なぁソウ~」
と、わざとらしく隣の席へ逃げてしまう。
「おい!!!」
ユキヤの叫びも、喧騒に紛れて虚しく消えた。
コウはソウの横に腰掛け、肩をぽんぽん叩きながら声をかける。
「ソウ~飲んどるか~」
ソウは梅酒のグラスを両手で持ち、ちびちびと口に運んでいた。
「ん、飲んだよ。1杯」
「え~もっと飲もうぜ~」
「ヤダよ。僕酒弱いし……」
ソウは頬をほんのり赤く染め、目を伏せながら拒否する。その控えめな拒絶すら、どこか愛嬌があってコウの胸をときめかせた。
しかしコウはまったく引かない。
「ソウのカッコイイとこ見てみたーい!」
「そういうコールいらないから……」
ソウは本気で嫌そうに眉を寄せるが、その表情はいつもより少し柔らかく、酔いも手伝ってかどこか子供っぽい。
「え~つれへんなぁ~」
コウの楽しげな声が響き、ソウは肩を落としながら「……はぁ……」とため息をついた。
その横では、ミカンがユキヤにしがみついたまま、幸せそうに小さく笑っていた。
ユキヤは顔を真っ赤にし、手のやり場に困りながらも……ミカンの体をそっと支えている。
異世界で迎えた最初の夜は騒がしくて、温かくて、ちょっと恥ずかしくて……
だけど確かに、幸せだった。
再会の感動、2日間の疲れ、色んな想いがひっきりなしに押し寄せ、誰もが疲弊しているはずなのに、妙に気持ちは冴えていた。
そんな空気の中、いちばん現実的な発言をしたのは、ユキヤだった。
「…さて、家を確保したのはいいが、どうやって戻るか……」
身の安全。この世界への理解。そして何よりこの世界で生計を立てていかなければならないこと……
考えるべきことはいくらでもある。
だが、その真面目な問いに返ってきた答えはあまりにも軽かった。
「戻る必要なくない?」
ミカンが迷いゼロの即答。
コウが笑いながら顎を上げる。
「ははっ!!わかるわ!俺もそう思った」
「いや~だってさ、異世界だよ?戻るより絶対こっちのが楽しいじゃん。学校もないし、めんどーな人間関係もないし!そして何より家族に会わなくていい!!さいこーだね。」
「それな~」
ミカンの言葉には、“元の世界に未練なし”というのがはっきりと滲んでいた。
ソウはというと、背にもたれたまま淡々と呟く。
「僕は…別にどうでも…どこにいようが生活は変わらないでしょ……」
あまりにも温度の違う三者三様の態度に、ユキヤは深いため息をついた。
「っはぁ~……お前らなぁ……少しは考えて__」
その瞬間だった。
「オメェら!!」
豪快で、壁一枚くらい簡単に突き破りそうな声が響いた。
「うわ、な、なんすか…」
ミカンが肩をすくめて振り向く。
そこには__さっき話しかけてきた、腕っぷしのいい冒険者が立っていた。彼は4人の前にどんと立ち、満面の笑みを浮かべた。
「転生者だったんだな!!先に言えよ~!!」
「は、ははは……」
ミカンは引きつった笑いを返す。
「登録って結構時間かかるんだよな!俺らと飲んで時間潰そうぜ!!歓迎会だ!!」
その唐突な提案に、ユキヤは思わずツッコミを入れる。
「いや、俺とミカンは未成年だから…」
「お?未成年?見た感じもう大人に見えるけどな」
「コイツらどっちも17だよ」
ソウがぼそっと補足する。
「なら飲めんじゃねぇか!!!」
「……?」
ミカンは一瞬思考停止。
「……こっちの世界の成人って…」
「ん?16歳だ!!」
ミカンが瞬時に目を輝かせる。
「おー!飲めるじゃん!」
「へ~!そうなんや!!なら飲もうぜ!」
コウまで勢いよく乗っかる。
「いや……いやいやいや!!ミカンはダメだからな!?こんな野郎がいっぱい居るところで飲もうもんなら…」
「え~いいじゃん!一緒に飲も?」
「ぐっ……!」
ユキヤが必死に止めるが、それもミカンのおねだりには負けてしまう。
「ユキヤ行くぞ~~!!飲み会やぁぁぁ!!」
「わ、わかった!わかったから肩組むな!!歩きにくいって!!」
コウはユキヤの肩を組みにずりずり引きずっていく。
「れっつごー!」
ミカンはユキヤの腕を組み引っ張る。
「ちょ、まっ…ひ、引っ張るなって…!」
そしてソウと冒険者が後ろからついていく。
「へぇ…アイツら付き合ってんのか!!」
「いや…そういう訳じゃないと思うけど…」
賑やかな声が充満するギルド奥の飲食スペース。大きな丸テーブルに、木製のジョッキと皿が次々と並べられていく。
「ほれ座れ座れ!!今日は転生者の歓迎会だ!!」
あの豪快な冒険者に促され、4人は半ば強制的に席へ着かされた。
テーブルの中心には巨大な肉の塊、焼き立てのパン、香辛料の効いたスープ……これぞ“冒険者の食堂”という豪快な食事がずらり。
「おぉ……!!久しぶりのご飯……!!!!」
ミカンは目を輝かせ、料理に釘付けになる。
一方ユキヤは___
(ミカンが飲むんなら俺は飲まずに見てないと……)と、隣でひやひやと眉を顰めていた。
ふいにソウがぽつりと口を開く。
「ちなみに……お酒って何あるの?」
普段は無気力に見える彼が少し興味を示したせいで、テーブルの全員がそっちを向く。冒険者は待ってましたとばかりに笑った。
「なんでもあるぞ!!ビールにワイン、カクテル、サワー……おすすめなのはドラゴンの角を粉にして溶かした酒だ!」
聞いたこともないお酒に、ソウは一瞬で青ざめる。
「な、なにそれ……ぼ、僕は梅酒で……」
苦手なものを前にした猫みたいに肩を縮こませ、そっと選択肢から逃げた。
一方、テンションが上がりきっている男が一人。
「俺は~ビールはさっき飲んだし……ウィスキーで!」
コウは胸を張りながら注文。まるで元から常連みたいに堂々としていた。
ミカンはメニューを見ながら眉を寄せて唸っていた。
「ん~……何がいいんだろ…」
悩んでいるというより、楽しんでいる顔だ。
そんなミカンに、隣のユキヤは眉間を押さえてぼそっと言う。
「初めてなんだし弱いのに……」
注意はしてみるが、ミカンの好奇心の前ではほぼ無意味。
するとコウが、優しくも余計なお節介の顔で口を挟む。
「カルーアミルクとか飲みやすいんちゃう?」
「じゃあそれで!!」
「俺の話聞いてた?」
ユキヤの忠告は秒で無視された。
「ユキヤは~?」
「俺は別に……」
メニューを見るのも面倒くさそうに答える。
「ノリ悪いなぁ~」
「ウザ…」
コウにからかわれ、ユキヤはため息をひとつ。
「……はぁ……じゃ、一番弱いので」
すると冒険者が目を輝かせて言った。
「じゃあこのラムネサワーでいいか?」
「はい……」
軽くため息をつき返事するユキヤ。その横顔を、ミカンはこっそり口元をゆるめて見ていた。
こうして注文が出そろい、冒険者が勢いよく手を挙げる。
「おーい姉ちゃん!こいつらに酒と料理モリモリで頼む!!」
店員が笑いながらメモを取って去っていく。
テーブルの上は、もうすでに湯気と香りで満たされている。まるで、4人をこの世界が歓迎してくれているようだ。
しばらくして、店員が盆を抱えて戻ってきた。
「お待たせしました~!」
テーブルに並べられるジョッキとグラス。その香りと色だけで、誰のがどれかすぐ分かる。
コウの前には琥珀色のウィスキー。
ソウの前にはほのかに香る梅酒。
ミカンのグラスには、デザートみたいに甘い香りのカルーアミルク。
そしてユキヤの前には、炭酸の弾けるラムネサワー。
「わ!!来た来た!!」
ミカンが嬉しそうに手を叩く。そのテンションだけで周囲の冒険者が笑っていた。
豪快な兄ちゃんもジョッキを片手に声を張る。
「よし!!転生者4人の異世界初飲み会!乾杯だ!!」
ミカンとコウがノリノリでジョッキを掲げる。
「「いえ~い!かんぱーい!!」」
「か、かんぱい……」
ソウは小声ながらもグラスを合わせた。
ユキヤは__
(ミカンに度数高い酒飲ませたくないんだけど……)
心の中で頭を抱えつつも、仕方なくグラスを上げる。
「……乾杯」
グラスがぶつかる音が鳴った瞬間___
4人の肩からふっと力が抜けていくのがわかった。
昨日まで全員が、知らない場所で、知らない敵と向き合って、生きるのに全力だった。
だからこそ、この“安心してワイワイできる時間”は、胸にじんわり染みた。
カルーアミルクを口に運んだミカンが、満面の笑みを浮かべた。
「ん~!美味しい!コーヒー牛乳みたい!!」
はしゃぐ声が弾む。その無邪気さに、ユキヤは思わず口元を緩めた。
「お前、カフェオレとかそういう感じの好きだもんな」
「うん!めちゃ好きかも、これ!」
グラスを抱え込んで嬉しそうに揺れる姿は、まるで新しいお菓子を見つけた子供みたいだった。
「飲みすぎるなよ……」
心配そうなユキヤの声をよそに、ミカンはまたひと口。甘い香りがテーブルの空気まで柔らかくしていく。
その横では___
「……ッカァー!!うんめぇー!たまんねぇなぁ!!」
コウがウィスキーを豪快にあおっていた。喉を鳴らす音がやたらと清々しい。
「おお!いい飲みっぷりだな!兄ちゃん!!」
冒険者たちから歓声が飛ぶ。
コウは得意げにジョッキを掲げ、片目を細める。
「ふっ……だろ?」
完全に“イケメンモード”だ。
一方で、ソウはというと__
「……うま」
梅酒をちびちび飲みながら、静かにつまみを食べ、静かに味わっていた。喧騒とは質の違う落ち着きをまとっているが、その肩の力が抜けた姿を見るに、彼も楽しんでいるようだった。
しばらく賑やかな宴が続いたころ、冒険者がニヤリと4人を見る。
「にしても、最近物騒なこと多いしな。特殊属性持ちの転生者さんなんて、ちょー頼られまくるんじゃないか?」
「そうか~?」
コウはウィスキー片手にケラケラ笑う。
現実味がないのか、むしろ楽しそうだ。
「これから大活躍だな!!」
「えへへ~」
ミカンは褒められていると勘違いして、頬を赤らめながら笑う。
その場は酒と笑い声で満たされ、誰もが上機嫌だった。
宴も半ばに差し掛かり、ギルドの飲食スペースは一層熱気を帯びていた。誰かが歌い、誰かが喧嘩し、誰かが抱き合って泣き___
冒険者たちの喧騒はまるで焚き火のように温かく、荒々しく、息づいている。
その一角で、ミカンは完全に酔っ払っていた。
「ミカン……流石に飲みすぎだって……」
ユキヤが心底心配そうに眉を寄せる。声は落ち着いているが、その目はずっとミカンを追い続けていた。
だがミカンはというと__
「ん~……んへへ」
返事になっていない気の抜けた声。そのまま、ふらりとユキヤに身体を寄せて___
ひっついた。
「ちょ、なん……!?」
ユキヤの肩がびくりと跳ねる。ミカンの髪が、ほのかな香りをまとって彼の首元をくすぐる。
ミカンはさらに顔を近づけると──
「ユキヤいい匂いだねぇ~……」
酔っているからか、囁き声はいつもよりもずっと甘くて、無駄に破壊力があった。
「あ、あの、み、ミカンさん??む、胸がですね俺の腕に……っ!」
ユキヤの顔が一気に赤くなる。ミカンの体温、呼吸、柔らかい感触___全てがユキヤの理性をじりじりと焼いていく。
「ん~……」
本人はそんな気など一切なく、安心しきった猫のように彼の腕に寄りかかっている。
そして、この状況を真正面から楽しんでいるやつがいた。
コウだ。
「なんや~イチャイチャしよって~」
手を口元に当て、にたぁっと口を歪めて笑う。わざとらしい挑発に、ユキヤは反射的に声を荒げた。
「ち、ちげぇから!! てか助け__」
ユキヤが救いを求めるが、コウは一切聞かない。まるでその言葉を避けるように、すっと視線をそらし___
「なぁソウ~」
と、わざとらしく隣の席へ逃げてしまう。
「おい!!!」
ユキヤの叫びも、喧騒に紛れて虚しく消えた。
コウはソウの横に腰掛け、肩をぽんぽん叩きながら声をかける。
「ソウ~飲んどるか~」
ソウは梅酒のグラスを両手で持ち、ちびちびと口に運んでいた。
「ん、飲んだよ。1杯」
「え~もっと飲もうぜ~」
「ヤダよ。僕酒弱いし……」
ソウは頬をほんのり赤く染め、目を伏せながら拒否する。その控えめな拒絶すら、どこか愛嬌があってコウの胸をときめかせた。
しかしコウはまったく引かない。
「ソウのカッコイイとこ見てみたーい!」
「そういうコールいらないから……」
ソウは本気で嫌そうに眉を寄せるが、その表情はいつもより少し柔らかく、酔いも手伝ってかどこか子供っぽい。
「え~つれへんなぁ~」
コウの楽しげな声が響き、ソウは肩を落としながら「……はぁ……」とため息をついた。
その横では、ミカンがユキヤにしがみついたまま、幸せそうに小さく笑っていた。
ユキヤは顔を真っ赤にし、手のやり場に困りながらも……ミカンの体をそっと支えている。
異世界で迎えた最初の夜は騒がしくて、温かくて、ちょっと恥ずかしくて……
だけど確かに、幸せだった。
0
あなたにおすすめの小説
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
ペット(老猫)と異世界転生
童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる