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1章:異世界、始動
家、到着!
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ギルドを出て、夜風を受けながら石畳を歩く。街の中心から少し外れたらとても静かで、どこか現実よりも柔らかい。
その中、4人が向かった先は___
地図に記された場所には、こぢんまりとした木造の家がぽつんと佇んでいた。
ソウが地図を確認しながら玄関の前で足を止める。
「えっと…ここかな」
その声は、安堵と警戒の入り混じった、なんともソウらしいものだった。
「おお…いかにもな感じだな」
ユキヤがそっと家を見上げる。木壁の質感や古びた取っ手、窓から漏れるほのかな光___
まさに“異世界の家”という雰囲気で、緊張とワクワクの入り混じった空気が漂った。
ギィ、と扉が軋む音を立てて開く。
「おー…掃除はされてるみたいやな!全然ホコリ臭くないわ!」
コウが真っ先に入ってキョロキョロと見回す。
前の転生者だろうか、少し床が古く、傷もついている。しかし、掃除がされているからか、歩きにくさなどはない。
「だね。良かった、余計な手間が増えなくて」
ソウがふぅ、と胸をなでおろすようにつぶやいたその瞬間___
「ユキヤの、やろ?」
コウが自然な流れで家事担当を押し付けようとしてくる。
「ナチュラルに俺に家事を押し付けようとすんな?」
ユキヤは眉ひとつ動かさず言い返す。
「ユキヤが一番家事できるでしょ」
ミカンが当然という顔で言ってくる。少し酔いの抜けたその声は、妙にしっかりしていて説得力があった。
「お前らが出来なさすぎんだよ……」
頭を抱えるユキヤ。この家の未来の苦労がすでに見えていた。
リビングを抜けて階段を上がる。木材のきしむ音が、夜の静けさに溶けていく。
二階に着いた瞬間、ユキヤがぽつりと呟く。
「……部屋2つしかなくね」
確かに、左右に一つずつ扉があるだけだった。
「ほんまやん、どうする?」
コウが軽くドアを押して中を覗く。ベッドは1つ。机と椅子、クローゼットがあるだけのシンプルな部屋だ。
「普通に考えたら男3人とミカンで分けるのがいいんじゃ……」
ユキヤの現実的な提案に___
「なんでこんな狭いところに男3人で寝なきゃいけないのさ」
ソウが即座に拒否する。その声には、疲労と、少しの嫌悪が混ざっていた。
「じゃあどうすんだよ」
ユキヤが言い返すが、ソウはだんまりだ。
そこにコウが口を挟む。
「まあ必然的に2人ずつで分けるよな」
軽いノリではあるが、言っていることは正しい。
「…じゃあ、俺とミカンはこっちに……」
ユキヤが何気なく言いかけた瞬間___
「当たり前のようにミカンと一緒になろうとすんのはどうなのさ?」
ソウのツッコミがいつも通りのトーンで飛んでくる。
「はぁ?俺しかいないだろ!!成人男性と女子高生が密室に2人きりなんて、普通に考えたら…」
ユキヤはミカンの身を案じるように言うが、
「思春期の男と一緒なのもどうかと思うけど?」
ソウが少し強い口調さらに追い討ちをかける。ユキヤのこめかみに血管が浮く。
「はぁ?」
視線がぶつかり、空気にぴりっとした火花が散る。
「また喧嘩しよって……」
コウは呆れきった表情でため息をついた。
そんな中、当の本人であるミカンはというと、酔いでふわふわした頭で2人の言い争いを眺めながら、心の中でつぶやいた。
(私は別にどっちでもいいんだけど……)
ただ、ちらっと横を見ると___
コウがずっとソウの方だけを気にしているのが目に入る。
(……なんかソウさんの事ばっか見てる)
その理由は察せたし、ミカンはすぐに理解した。
(ふーん、なるほどね)
ミカンは機転を利かせ、口を開く。
「…ユキヤの方がいいかな~」
「……!」
ユキヤの顔が一瞬で緩む。嬉しいのが顔に出てわかりやすい。
だが___
「だってソウさん非力だし…」
「非力……」
ソウの肩が静かに落ちる。
「おい、」
ユキヤが何か言いかけたが、ミカンは続ける。
「ユキヤなら掃除とか押し付けてもやってくれるっしょ」
「……はぁ……んな事だろうと思ったわ……」
結局そうか、とユキヤは頭を抱えたが……その頬はほんの少しだけ赤い。
そしてコウはソウの背中をぽん、と軽く叩いた。
「……ソウ、どんまい」
「…うるさい」
いつものようにからかうその声は、少しだけ嬉しそうだった。
部屋に入ると、急にしんと静かになった。
木造の家特有のあたたかい匂い。外から入り込む冷たい夜気。そのどれもが“今日からここが自分たちの部屋なんだ”と穏やかに教えてくれていた。
ただ__部屋の片隅にぽつんと置かれたベッドが、空気をやたらと重くしていた。
ユキヤはその一点を見つめて、無言で眉を寄せた。
「……で、ベッドが1つだけ、と…」
言葉にした途端、避けようとしていた問題が現実の輪郭を帯びる。
ミカンはベッドに近づき、ぴょこんと腰を下ろしながら軽い声で返す。
「じゃあユキヤは床ね」
「なんでだよ」
「えぇ~こんな可愛い可愛い女の子を床で寝かせるなんて……」
自分の頬を押して、わざとらしくかわいこぶる。
ユキヤは思わず口を開いた。
「可愛いとは……?」
その一言で、ミカンの表情が一瞬で無表情に切り替わる。
「殴っていい?」
「うっせー」
呆れと戸惑いが入り混じった声を出しながらも、ユキヤはどこか楽しそうだった。
ミカンがいつも通り元気なのが単純に安心で、酔いが抜けてきているのも分かったから。
そして、わざと大げさに肩を落としながら言う。
「……っはぁ~……仕方ねぇなぁ~」
最初から譲る気だったくせに、わざわざ渋るように言う。
ミカンはその優しさを察し、ほんの一拍置いて、ぽつりと声を落とす。
「じゃあ……一緒に寝る?」
静かな問いかけだった。酔った勢いでもなく、ふざけた調子でもない。ただ淡々に、落ち着いて出された提案。
ユキヤは反射的に振り向き、目を丸くする。
「っはぁ!? な、何言ってんの? まだ酔っ払って……」
声が少し裏返る。焦りが隠せていない。その反応に、ミカンは更に淡々と言葉を重ねる。
「だって明日、魔物討伐でしょ。アンタは主戦力なんだし、ベッドで寝た方がいいでしょ?」
「だ、だからって……なんで一緒に……」
「私は床で寝たくないから」
必要最低限の理由だけ。でもその表情はどこか甘えているようで、どこか突き放しているようで。ユキヤの胸を変にざわつかせた。
「なんなんだよ……」
嘆息をこぼしながらも、結局拒否する言葉は出てこない。
ミカンは"ぽすっ"とベッドの上を軽く叩きながら、ユキヤに向かって手招きした。
「ほら、おいで?」
何気ない言い方なのに、妙に胸がざわつく。ユキヤはしばらく黙り込み、視線を床へ落とす。
一緒に寝るという現実が、急に重くのしかかってくる。
「……」
考えている時間はほんの数秒だったが、部屋の静けさがそれを数倍に伸ばす。
やがて、覚悟を決めたように息を吐き___
「……おう…」
ベッドの端に並んで座った。木のきしむ音が、必要以上に大きく響く。
「…そういや、寝巻きとかって無くない?」
ミカンが自分のローブの裾をつまみながら言う。
「……たしかに」
「お金貯まったら買わないとね~」
「だな」
普通の会話なのに、どこかぎこちない。いつもなら軽口で流せるのに、この距離だと妙に意識してしまう。
ミカンはローブの留め具を外し、ぽつりと呟いた。
「とりあえず、ローブ邪魔だし脱ごうかな」
「俺も、マント脱ご……」
ふたりが同時に体を動かすと、布の擦れる音が小さく部屋に溶けていく。
ユキヤがマントをハンガーに掛け、ローブを受け取ろうとミカンの方をふと振り返る。
その瞬間、動きが止まった。
「……やっぱローブ着ろお前」
ミカンは赤色の無地のオフショル。肩が完全に出た薄いトップスに、ミニスカート姿になっていた。
酔いで火照った頬もあいまって、いつもよりもずっと大人っぽく見える。
「ヤダよ」
軽く笑いながら拒否するミカン。その温度の無邪気さが逆にユキヤの心拍を上げる。
「……はぁ……」
深いため息をつきながらも、後ろを向いたままではいられない。心のどこかで“男として全く意識されてない”という感覚が、胸を締め付ける。
とりあえずミカンからローブを受け取り、ハンガーにかける。
ミカンは布団をめくりながら、当たり前の顔で言った。
「ほら、寝るよー」
「……わかったよ……」
返事をしながら、ユキヤはそっと布団に潜り込む。その動作ひとつひとつが、昨日戦った魔物と対峙した時よりも慎重だった。
ミカンが隣に身体を横たえた瞬間___
布団越しに伝わる体温が、ユキヤの胸をじわりと熱くする。
戦闘でも味わったことのない緊張が、静かな部屋に満ちていく。
灯りを落とす直前。荷物を下ろしたソウが、ぐったりと肩を落とした。
「やっと、横になれる……」
その声音には、今日一日の疲労が全部詰まっていた。森を歩いて、街を歩いて、飲み会に巻き込まれて……ソウには本当に長い一日だった。
「死にかけやな」
コウは軽く笑いながら言う。けれど、その目は心配そうで、ソウの様子をこまめに確認している。
ソウはベッドを見て、ため息を落とした。
___ベッドは、ひとつ。
「どうする、ベッド一つだけやで」
コウがわざとらしく首を傾げる。返事は決まっている、という顔で。
「コウが床に決まってるでしょ」
「えぇ~一緒に寝ようや~」
すでに結論を決めているテンションのコウに、ソウは眉を寄せた。
「なんでだよ……」
「ええやん~」
コウは悪びれる様子もなく笑っている。まるで「嫌って言っても無駄だぞ」と言わんばかりの、自信満々な顔。
ソウは額を押さえる。
「……はぁ……まぁ、明日のことを考えると、そうするしかないか……」
「さっすが~、分かっとるやん~」
コウは嬉しそうに笑い、さっさと布団をめくった。ソウは観念したようにコウの隣へ滑り込む。
布団が身体にかかる。ソウはもう一度深く息を吐いた。
「はぁ……せっま……」
肩と肩が触れ合う、ギリギリの距離。コウの体温がじわりと伝わってくる。
「こんな事ならユキヤと一緒の方がマシだった……」
「酷くない?」
コウは心外そうに眉を上げるが、声は笑っていた。
「デカイんだよ……」
「お前ら2人になったら、どうせ喧嘩しかせえへんやろ」
ソウは少し黙る。先程の喧嘩を思い出せば、否定はできない。
コウは続ける。
「それに、大人同士でしか話せんこともあるしな?」
冗談めかして言ったが、どこか含みのある声だった。
(……言ってもお前もガキだろ…)
ソウは心の中でむず痒さを覚えつつも、ふっと小さく呟く。
「まあ……」
その“まあ”には、拒絶でも承諾でもなく、コウを信頼しているからこそ出てくる曖昧な肯定が混じっていた。
「とりあえず……おやすみ」
「おん、おやすみ」
その中、4人が向かった先は___
地図に記された場所には、こぢんまりとした木造の家がぽつんと佇んでいた。
ソウが地図を確認しながら玄関の前で足を止める。
「えっと…ここかな」
その声は、安堵と警戒の入り混じった、なんともソウらしいものだった。
「おお…いかにもな感じだな」
ユキヤがそっと家を見上げる。木壁の質感や古びた取っ手、窓から漏れるほのかな光___
まさに“異世界の家”という雰囲気で、緊張とワクワクの入り混じった空気が漂った。
ギィ、と扉が軋む音を立てて開く。
「おー…掃除はされてるみたいやな!全然ホコリ臭くないわ!」
コウが真っ先に入ってキョロキョロと見回す。
前の転生者だろうか、少し床が古く、傷もついている。しかし、掃除がされているからか、歩きにくさなどはない。
「だね。良かった、余計な手間が増えなくて」
ソウがふぅ、と胸をなでおろすようにつぶやいたその瞬間___
「ユキヤの、やろ?」
コウが自然な流れで家事担当を押し付けようとしてくる。
「ナチュラルに俺に家事を押し付けようとすんな?」
ユキヤは眉ひとつ動かさず言い返す。
「ユキヤが一番家事できるでしょ」
ミカンが当然という顔で言ってくる。少し酔いの抜けたその声は、妙にしっかりしていて説得力があった。
「お前らが出来なさすぎんだよ……」
頭を抱えるユキヤ。この家の未来の苦労がすでに見えていた。
リビングを抜けて階段を上がる。木材のきしむ音が、夜の静けさに溶けていく。
二階に着いた瞬間、ユキヤがぽつりと呟く。
「……部屋2つしかなくね」
確かに、左右に一つずつ扉があるだけだった。
「ほんまやん、どうする?」
コウが軽くドアを押して中を覗く。ベッドは1つ。机と椅子、クローゼットがあるだけのシンプルな部屋だ。
「普通に考えたら男3人とミカンで分けるのがいいんじゃ……」
ユキヤの現実的な提案に___
「なんでこんな狭いところに男3人で寝なきゃいけないのさ」
ソウが即座に拒否する。その声には、疲労と、少しの嫌悪が混ざっていた。
「じゃあどうすんだよ」
ユキヤが言い返すが、ソウはだんまりだ。
そこにコウが口を挟む。
「まあ必然的に2人ずつで分けるよな」
軽いノリではあるが、言っていることは正しい。
「…じゃあ、俺とミカンはこっちに……」
ユキヤが何気なく言いかけた瞬間___
「当たり前のようにミカンと一緒になろうとすんのはどうなのさ?」
ソウのツッコミがいつも通りのトーンで飛んでくる。
「はぁ?俺しかいないだろ!!成人男性と女子高生が密室に2人きりなんて、普通に考えたら…」
ユキヤはミカンの身を案じるように言うが、
「思春期の男と一緒なのもどうかと思うけど?」
ソウが少し強い口調さらに追い討ちをかける。ユキヤのこめかみに血管が浮く。
「はぁ?」
視線がぶつかり、空気にぴりっとした火花が散る。
「また喧嘩しよって……」
コウは呆れきった表情でため息をついた。
そんな中、当の本人であるミカンはというと、酔いでふわふわした頭で2人の言い争いを眺めながら、心の中でつぶやいた。
(私は別にどっちでもいいんだけど……)
ただ、ちらっと横を見ると___
コウがずっとソウの方だけを気にしているのが目に入る。
(……なんかソウさんの事ばっか見てる)
その理由は察せたし、ミカンはすぐに理解した。
(ふーん、なるほどね)
ミカンは機転を利かせ、口を開く。
「…ユキヤの方がいいかな~」
「……!」
ユキヤの顔が一瞬で緩む。嬉しいのが顔に出てわかりやすい。
だが___
「だってソウさん非力だし…」
「非力……」
ソウの肩が静かに落ちる。
「おい、」
ユキヤが何か言いかけたが、ミカンは続ける。
「ユキヤなら掃除とか押し付けてもやってくれるっしょ」
「……はぁ……んな事だろうと思ったわ……」
結局そうか、とユキヤは頭を抱えたが……その頬はほんの少しだけ赤い。
そしてコウはソウの背中をぽん、と軽く叩いた。
「……ソウ、どんまい」
「…うるさい」
いつものようにからかうその声は、少しだけ嬉しそうだった。
部屋に入ると、急にしんと静かになった。
木造の家特有のあたたかい匂い。外から入り込む冷たい夜気。そのどれもが“今日からここが自分たちの部屋なんだ”と穏やかに教えてくれていた。
ただ__部屋の片隅にぽつんと置かれたベッドが、空気をやたらと重くしていた。
ユキヤはその一点を見つめて、無言で眉を寄せた。
「……で、ベッドが1つだけ、と…」
言葉にした途端、避けようとしていた問題が現実の輪郭を帯びる。
ミカンはベッドに近づき、ぴょこんと腰を下ろしながら軽い声で返す。
「じゃあユキヤは床ね」
「なんでだよ」
「えぇ~こんな可愛い可愛い女の子を床で寝かせるなんて……」
自分の頬を押して、わざとらしくかわいこぶる。
ユキヤは思わず口を開いた。
「可愛いとは……?」
その一言で、ミカンの表情が一瞬で無表情に切り替わる。
「殴っていい?」
「うっせー」
呆れと戸惑いが入り混じった声を出しながらも、ユキヤはどこか楽しそうだった。
ミカンがいつも通り元気なのが単純に安心で、酔いが抜けてきているのも分かったから。
そして、わざと大げさに肩を落としながら言う。
「……っはぁ~……仕方ねぇなぁ~」
最初から譲る気だったくせに、わざわざ渋るように言う。
ミカンはその優しさを察し、ほんの一拍置いて、ぽつりと声を落とす。
「じゃあ……一緒に寝る?」
静かな問いかけだった。酔った勢いでもなく、ふざけた調子でもない。ただ淡々に、落ち着いて出された提案。
ユキヤは反射的に振り向き、目を丸くする。
「っはぁ!? な、何言ってんの? まだ酔っ払って……」
声が少し裏返る。焦りが隠せていない。その反応に、ミカンは更に淡々と言葉を重ねる。
「だって明日、魔物討伐でしょ。アンタは主戦力なんだし、ベッドで寝た方がいいでしょ?」
「だ、だからって……なんで一緒に……」
「私は床で寝たくないから」
必要最低限の理由だけ。でもその表情はどこか甘えているようで、どこか突き放しているようで。ユキヤの胸を変にざわつかせた。
「なんなんだよ……」
嘆息をこぼしながらも、結局拒否する言葉は出てこない。
ミカンは"ぽすっ"とベッドの上を軽く叩きながら、ユキヤに向かって手招きした。
「ほら、おいで?」
何気ない言い方なのに、妙に胸がざわつく。ユキヤはしばらく黙り込み、視線を床へ落とす。
一緒に寝るという現実が、急に重くのしかかってくる。
「……」
考えている時間はほんの数秒だったが、部屋の静けさがそれを数倍に伸ばす。
やがて、覚悟を決めたように息を吐き___
「……おう…」
ベッドの端に並んで座った。木のきしむ音が、必要以上に大きく響く。
「…そういや、寝巻きとかって無くない?」
ミカンが自分のローブの裾をつまみながら言う。
「……たしかに」
「お金貯まったら買わないとね~」
「だな」
普通の会話なのに、どこかぎこちない。いつもなら軽口で流せるのに、この距離だと妙に意識してしまう。
ミカンはローブの留め具を外し、ぽつりと呟いた。
「とりあえず、ローブ邪魔だし脱ごうかな」
「俺も、マント脱ご……」
ふたりが同時に体を動かすと、布の擦れる音が小さく部屋に溶けていく。
ユキヤがマントをハンガーに掛け、ローブを受け取ろうとミカンの方をふと振り返る。
その瞬間、動きが止まった。
「……やっぱローブ着ろお前」
ミカンは赤色の無地のオフショル。肩が完全に出た薄いトップスに、ミニスカート姿になっていた。
酔いで火照った頬もあいまって、いつもよりもずっと大人っぽく見える。
「ヤダよ」
軽く笑いながら拒否するミカン。その温度の無邪気さが逆にユキヤの心拍を上げる。
「……はぁ……」
深いため息をつきながらも、後ろを向いたままではいられない。心のどこかで“男として全く意識されてない”という感覚が、胸を締め付ける。
とりあえずミカンからローブを受け取り、ハンガーにかける。
ミカンは布団をめくりながら、当たり前の顔で言った。
「ほら、寝るよー」
「……わかったよ……」
返事をしながら、ユキヤはそっと布団に潜り込む。その動作ひとつひとつが、昨日戦った魔物と対峙した時よりも慎重だった。
ミカンが隣に身体を横たえた瞬間___
布団越しに伝わる体温が、ユキヤの胸をじわりと熱くする。
戦闘でも味わったことのない緊張が、静かな部屋に満ちていく。
灯りを落とす直前。荷物を下ろしたソウが、ぐったりと肩を落とした。
「やっと、横になれる……」
その声音には、今日一日の疲労が全部詰まっていた。森を歩いて、街を歩いて、飲み会に巻き込まれて……ソウには本当に長い一日だった。
「死にかけやな」
コウは軽く笑いながら言う。けれど、その目は心配そうで、ソウの様子をこまめに確認している。
ソウはベッドを見て、ため息を落とした。
___ベッドは、ひとつ。
「どうする、ベッド一つだけやで」
コウがわざとらしく首を傾げる。返事は決まっている、という顔で。
「コウが床に決まってるでしょ」
「えぇ~一緒に寝ようや~」
すでに結論を決めているテンションのコウに、ソウは眉を寄せた。
「なんでだよ……」
「ええやん~」
コウは悪びれる様子もなく笑っている。まるで「嫌って言っても無駄だぞ」と言わんばかりの、自信満々な顔。
ソウは額を押さえる。
「……はぁ……まぁ、明日のことを考えると、そうするしかないか……」
「さっすが~、分かっとるやん~」
コウは嬉しそうに笑い、さっさと布団をめくった。ソウは観念したようにコウの隣へ滑り込む。
布団が身体にかかる。ソウはもう一度深く息を吐いた。
「はぁ……せっま……」
肩と肩が触れ合う、ギリギリの距離。コウの体温がじわりと伝わってくる。
「こんな事ならユキヤと一緒の方がマシだった……」
「酷くない?」
コウは心外そうに眉を上げるが、声は笑っていた。
「デカイんだよ……」
「お前ら2人になったら、どうせ喧嘩しかせえへんやろ」
ソウは少し黙る。先程の喧嘩を思い出せば、否定はできない。
コウは続ける。
「それに、大人同士でしか話せんこともあるしな?」
冗談めかして言ったが、どこか含みのある声だった。
(……言ってもお前もガキだろ…)
ソウは心の中でむず痒さを覚えつつも、ふっと小さく呟く。
「まあ……」
その“まあ”には、拒絶でも承諾でもなく、コウを信頼しているからこそ出てくる曖昧な肯定が混じっていた。
「とりあえず……おやすみ」
「おん、おやすみ」
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