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赤と黒のロマンティスト

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そしてこの後、まるでヌイグルミの様に可愛いアベルを抱っこして、

何食わぬ顔でバスに乗った恵は今日もサッサと彰のマンションに到着したけれど

今日はアベルの歓迎会をしたいので

*****

帰宅早々アベルを連れてメッチャ広い台所に向かい、

「じゃあ今から美味しいケーキを焼くからさ?
とりあえずアベルはカウンターのテーブルでゆっくりしててね」

『うん、勿論そうさせてもらうよ恵ちゃん。
だって俺はフクロウだから、イスに座っているよりも
テーブルとかキャビネットの上に立ってる方が落ち着くからね』

「へぇ、そうなんだ~、じゃあ今夜彰さんにお願いをして
全部の部屋にアベル専用のテーブルを置かせてもらう事にするよ」

て感じの話をしながらイチゴのケーキを作っていたら

カウンターの上でニコニコしているアベルはいきなり唐突に


『ところで恵ちゃん。きっときみは知らない事だと思うから
今後の為にも一応かるく教えておくけど、
どうして彰のロックバンドが黒い宝石のオブシディアンで、
彰の宝物であるコンサートホールが真っ赤なカーネリアンなのか、その理由はね?』

とワンクッションを置いてすぐ、


『つまり彰は昔から黒と赤が大好きで、
実生活でも赤と黒を地で行く様な生活をしている男だから、
どんなに良い女も本気で愛せない黒い自分を表現する為に、
バンドの名前を黒曜石のオブシディアンにして、
そして太陽みたいに明るくて優しい自分を表す為に
父親の飛鳥から譲り受けたハコの名前を円行寺音楽堂から、
真っ赤な力強い宝石のカーネリアンホールに改名したんだよ恵ちゃん。
ちなみにオブシディアンは彰が経営をしているインディーズレコード会社の名前でもあるけどね、フフフッ……』


って感じの重大な発表をしてくれたので

とても説明が上手なアベルのおかげで彰の事が少し理解できたけど

そうは言っても肝心な部分が微妙にイマイチわからないので

ここはひとつ素直な気持ちで正直に……

「て事はさぁアベル、オブシディアンの歌を聞いたら
ロック初心者の私でも彰さんの黒い部分が分かるって事だよね?
じゃあイン ザ ミラーって曲を聞いて地下のルビーを盗んだ優香さんは、
彰さんの黒い部分とか赤い部分を誰よりも理解しているって事なの?」

と単刀直入な質問をしてみると


『そりゃあ優香はファン歴が長い女だから、残念だけど『そう言う事』になっちゃうよ恵』

「えっ?じゃあ私はシケモク屋敷の優香さんに負けているの?
そんなのダメだよアベル、だって彼女は彰さんや桐生店長を裏切って
カーネリアンホールに38個の盗聴器を付けたメンヘラ系の危ない信者で、
しかも何を考えているのかサッパリわからないパンプキンヘッドなんだから!」

『そうだね恵、確かにあの女は物凄く危険なタイプの信者だから
出来る事なら今すぐ恵にやっつけてもらいたいよ全く……』

「もちろん私はそのつもりだよ?でも私はオブシディアンの事を何も知らないから、
今すぐ私が優香さんをやっつける為には、とにかくオブシディアンの歌をガンガン聞いて、
そして彰さんの歌に影響を受けた彼女がドコの山荘にルビーを隠したのかを考察した後で、
クルクル若頭が彰さんのルビーを犬神様に献上するのを阻止しなきゃいけないから……
だからアベル、私は何をどうすれば、彰さんの作った曲を全部まとめて聞く事が出来るの?」

と一気に話が進展したので


『ありがとう恵ちゃん。じゃあ晩メシの準備が終わったら
リビングに置いてある白いキャビネットの一番下の引き出しを開けてごらん?
薔薇の模様の大きなCDケースの中に、オブシディアンのDVDが沢山入っている筈だから』

「うん、わかった。
じゃあ急いでケーキと晩御飯を作るから、もうちょっと待っててね」

と大急ぎで晩ごはんの準備を済ませた恵はこの後すぐに

アベルと二人でリビングルームに移動して、

さっそく白いキャビネットの中からDVDを取り出した後


『じゃあまずはScarlet Romanceスカーレット ロマンスのDVDを見る事にしようか恵ちゃん。
このアルバムは彰が大学4年生の時にインディースで出したアルバムだけど……
これを出した頃の彰は両親を亡くしたばかりでかなり荒れていたからね……
彰の黒い心を知りたい気持ちがあるならば、絶対にこれを見ておくべきだと思うよ?』


こうして恵はアベルに勧めてもらった

Scarlet Romanceのライヴ映像を見てみる事にしたけれど……

オシャレなDVDを片手に持って、大きなテレビの所に向かう

ロック初心者の恵は何故か突然このタイミングで、


(大学4年生の時にご両親を亡くしたって事はつまり、
今から6年位前の出来事だから、絶対に辛かった筈だよね……
私は子供の頃だったから、両親の事は殆ど覚えていないけど
でも半年前にお婆ちゃんを亡くした時は悲しすぎて毎日が放心状態だったからね……)

と心の中で無意識に、つらくて悲しい半年前の孤独な日々を思い出していた。
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