愚者の狂想曲☆

ポニョ

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1章

愚者の狂想曲 12 モンランベール伯爵家一行全滅! 攫われたマルガ

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「ほらもう泣き止んでマルコちゃん」

「だって!父さんや母さんは、一方的に駄目だって言って、オイラの話を全く聞いてくれないんだもん!」

マルコは瞳から、悔し涙を流しながら、肩を震わせている。マルガはマルコの頭を優しく撫でながら、



「それは、ギルスさんもメアリーさんも、マルコちゃんの事が心配なのですよ」

「そ…それは解ってるけどさ…でも…オイラは行商人になりたいんだ!」

「…まだ、ご主人様と私はこの村に居ますから、その間にじっくりとお話してみると、良いですよ」

マルガは微笑みながら言うと、マルコは泣きながらコクっと頷く。



「こんな所にいらっしゃったのですね」

その声にマルガとマルコが振り向くと、リーゼロッテが微笑みながら立っていた。



「そろそろ夕刻になります。一度家迄帰りましょう」

リーゼロッテの言葉に、マルガもマルコも頷いて、3人はゲイツの家に戻る事にした。

ゲイツの家迄戻って来たら、家の前でハンスが立っていた。



「あらハンス様。もう葵さんとお話は終わったのですか?」

「ええ。終わりました。ま…話といっても、私が最初会った時の事を、謝罪させて頂いただけなんですけどね。祖父やエイルマー兄さんの言う通り、葵さんは良き行商人でした。笑って許して頂けました」

リーゼロッテにそう言って、微笑むハンス。そんなハンスに微笑みながらリーゼロッテは



「それは良かったですね」

「ええ!…マルガさんにも、嫌な思いをさせて、申し訳無いと思っています」

ハンスはマルガに頭を下げる。マルガは少し慌てながら



「いえ!私も気にしていませんから!此れからもよろしくですハンスさん!」

マルガは嬉しそうにハンスに言うと、ハンスは微笑みながら



「そう言って貰えるとありがたいです。良き行商人様とは、懇意にさせて頂きたいですしね」

ハンスのその言葉に、嬉しそうな顔をするマルガ。そんなやり取りを見守っていたリーゼロッテが



「マルガさんも良かったですね。では、家に入りましょうか」

「ああ!言い忘れてました。葵さんは少しお疲れの様で、寝かせて欲しいとの事です。今はベッドでお休になられています。夕食は部屋のテーブルに置いておいて欲しいと言ってました」

「そうですか、葵さんも色々大変そうですし…」

そう言ってリーゼロッテがマルガとマルコを見ると、気まずそうに顔を見合わせて、苦笑いしているマルガとマルコ。



「それから私が此処で待っていたのは、マルガさんに少し手伝って頂きたい事が、有ったからなんですよ」

「私にですか?」

マルガは可愛い首を傾げて、ハンスに言う



「ええ。葵さんの許可も頂きました。ま~手伝いと言っても、夕食迄ですので、すぐに終わります」

「そうですか。ご主人様の許可が有るなら、私は大丈夫です。それで、どんな事をすれば良いのですか?」

マルガはニコっと笑ってハンスに言うと、



「手伝いの内容は、歩きながらでもお話ししますね。私について来て下さい」

「解りましたです!では行きましょうハンスさん!」

マルガは元気に言うと、ハンスの後について行き、リーゼロッテとマルコは家の中に入っていく。

マルコは、まだギルスとメアリーに話をするのは嫌だったらしく、ピュ~っと自分の部屋に帰って行った。リーゼロッテは、ギルスとメアリーに挨拶をして、自分の部屋に帰ろうとした時に、葵の事が気になったので、部屋に立ち寄る事にした。



「コンコン。葵さん…お身体は大丈夫ですか?」

扉の前でノックして、そう告げるが返事は帰って来ない。リーゼロッテは、そっと扉を開けて部屋の中に入る。すると、ベッドで気持ち良さそうに、寝息を立てる葵が目に入った。



「あらあら…靴を履きっぱなしで寝るなんて…よっぽど眠たかったのかしら…」

リーゼロッテは、葵の靴を脱がすと、ベッドの下にきちんと並べて置いた。そして、きちんと布団を葵にかけるリーゼロッテ。



「…意外と寝顔も可愛いのですね。元々、童顔だからかしら?…フフフ…気持ち良さそうに寝ちゃって…」

葵の寝顔を見ながら微笑むリーゼロッテ。ゆっくりと優しく、葵の顔を撫でる。



「そんなに…無防備で寝ていると…悪戯されちゃいますよ?葵さん…」

ゆっくりと、葵の顔に近づいてゆく。優しく葵の頬を撫でながら、額に唇を持って行き、そっとキスをする



「…私ったら…何をしてるんでしょう…。こんな事をしても…何も変わらないのに…」

リーゼロッテは少しギュっと拳を握る。揺れる瞳で葵を見ながら、



「…私も夕食まで、部屋でゆっくりさせて貰いましょう…。葵さん…ゆっくり休んでくださいね」

葵の頬を優しく撫でながら言うと、踵を返して、自分の部屋に戻って行った。











マルガはハンスの後をついて行っている。マルガの肩には、甘えん坊のルナが、チョンと乗っかって居た。



「所でハンスさん。私は何をしたら良いのですか?」

マルガは後ろを歩きながら言うと、ハンスが立ち止まり、マルガに振り返って



「それはですね、明日、モンランベール伯爵家御一行様が、この村を出立されるのはご存知ですよね?」

「はい!知ってます。明日出立して、港町パージロレンツォに、向かわれるんですよね?」

「そうです。それで、明日の別れに、この村で何か出来ないかなと思いましてね。こっそり、何か贈り物的な物をと、思っているんですよ」

「わあ!それは良いですね!」

マルガは楽しそうに言うと、尻尾を軽く振っていた。



「ええ。ですから、何が良いか一緒に考えて、準備も手伝って欲しいのですよ。マルガさんの他に、村の女性5人にも、お願いしています。他の5人も、私の話に賛同してくれています。ほら、彼処です」

そう言ってハンスが指さす方を、マルガが見ると、女性5人が楽しげに話をしていた。



「じゃ~皆さん待ってますので、行きましょうか」

「はい!ハンスさん!」

ハンスとマルガは、5人の女性の元に歩き出す。ハンスとマルガに気が付いた女性の一人が



「あら!ハンスさん待ってましたわよ!今も皆で、何が良いか、話をしていた所なのです」

楽しげに言う女性。マルガも好奇心から、ワクワクしていた。そんな中、ハンスが懐から、一つの小瓶を懐から取り出した



「これは私が作った香水なんですよ。これも明日のお別れの時に、アロイージオ様に献上しようと思っているのですが、初めて作った物でしてね…出来の良さが解らないのです。なので、女性の方に、出来栄えを評価して頂こうと思いましてね」

香水と聞いた女性達は色めき立ち、興味津々で小瓶を見ている。



「是非、その香水の香りを嗅いで見たいですわ!」

一人の女声がそう言うと、他の女性も頷いている。マルガも香水と聞いて、尻尾を楽しげに揺らしていた。



「では皆さん。近くに集まって下さい」

ハンスのその言葉に、5人の女性とマルガは、小瓶の直ぐ側まで集まる。



「蓋を開けるので、香水の香りを、目一杯嗅いでくださいね」

そう言ってハンスは小瓶の蓋を開ける。女性たちとマルガは、小瓶から流れ出す香りを、目一杯吸い込んだ。その瞬間、5人の女性とマルガは、パタパタと地面に倒れて行く。それを冷たい目で見つめるハンスは、何かの合図の様に、右手を高く上げる。暫くすると、茂みから5人の男達が現れた。



「ハンス…上手くやるじゃねえか!」

男は卑猥に哂いながらそう言う。ハンスはキュっと唇を噛みながら、



「早く…連れて行け!見つかってしまうぞ!」

吐き捨てる様に言うハンスに、哂いながら



「ハハハ、そうしよう。…こいつが、行商人の連れている奴隷の亜種か…こりゃ~確かに絶品だな!ま…とりあえず…今日はこいつらでお楽しみか…へへへ…」

ニヤッと笑う男達は、5人の女性とマルガを担ぎ、夜の茂みに消えて行った。



「…すまん…」

ハンスはきつく拳を握り、村に帰って行くのであった。











「リーゼロッテ姉ちゃんどうだった?葵兄ちゃん起きそう?」

マルコの問に、軽く溜め息を吐いて、横に首を振りながら、



「ダメですね。完全に寝入ってしまっていますね。いくら起こしても、起きませんでした」

呆れながら言うリーゼロッテに、一同が笑う。



「葵さんは良いとして、マルガさんはどうしたのですか?まだ帰って来ていない様ですが…」

「ああ!マルガ姉ちゃんなら、今日は村長さんの所のリアーヌ姉ちゃんの所に泊まるんだって。なんでも、意気投合して、友達になったとかって。ハンスさんがさっきそう伝えに来たよ。今頃女の子同士で、盛り上がってるんじゃないの?」

笑いながらマルコが言うと、なるほどと言った感じのリーゼロッテ。



「とりあえず、食事が冷めちゃうから食べちゃおう。葵兄ちゃんには、テーブルに置いておけば良いんじゃない?」

マルコの言葉に、一同が頷く。食事をはじめるリーゼロッテ達。



食事を終えたリーゼロッテは、葵の分の食事をテーブルに起き、自分の部屋に帰って来て居た。

寝衣に着替えベッドに入る。寝転がりながら、羊皮紙で張られた窓に、視線を移す。月の灯りが、羊皮紙越しに、美しく映っていた。



「…いよいよ明日…この村を出立する…か。覚悟を決めて…此処まで来たはずなのに…どうしても…葵さんとマルガさんの顔が、頭から離れない…葵さんの優しい瞳が…マルガさんの幸せそうな笑顔が…」

リーゼロッテはそう呟くと、自分の体を抱く様に、キュっと小さくなっていた。



「もう…寝ましょう…私には手の届かないものなのだから…」

リーゼロッテは瞳を揺らしながら、小さく呟くと、無理やり眠りにつくのであった。



翌朝、準備の整った、モンランベール伯爵家一行は、イケンジリの村を出立しようとしていた。



「何もおもてなしは出来ませんでしたが、また御用の際にはお立ち寄り下さい。アロイージオ様」

アロイス村長は笑顔でそう言うと、



「ええ!また必ず寄らせて頂きますよ。私はこの村を気に入ってますのでね」

笑顔で答えるアロイージオ。その横で、リーゼロッテがキョロキョロしながら立っていた。そこにマルコがやって来て



「駄目だ!やっぱり起きないよ葵兄ちゃん。何回も起こしたんだけど、起きる気配無し!リーゼロッテ姉ちゃんの出立だって言うのに…マルガ姉ちゃんも居ないし…何処に行ったんだろ…」

マルコが憤っていると、リーゼロッテが微笑みながら



「よっぽど疲れていたのかも知れませんね。マルガさんも、もう葵さんの所に行っているかも知れません。マルコさんが2人に、よろしく伝えておいて下さい」

「解った!リーゼロッテ姉ちゃん元気でね!」

「マルコさんもお元気で」

2人は挨拶を交わす。皆がそれぞれに挨拶を終わらせて、いよいよ出立の時が来た。沢山の豪華な馬車が列を作り、その周囲にラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊の40名が警護につく。その先頭にいるハーラルトが、声を高らかに叫ぶ



「それでは出立する!全体進め!」

その掛け声と共に、モンランベール伯爵家一行は移動を開始する。モンランベール伯爵家一行は一路、港町パージロレンツォに向けて進みだした。













イケンジリの村を出て、モンランベール伯爵家一行は、順調に街道を進んでいた。

客分であるリーゼロッテは、アロイージオと一緒の馬車に乗っている。何時もなら、和気藹々と話をしてくれるリーゼロッテが、窓の外を見つめ、儚げな表情をしているのが気になるアロイージオ。



「どうなされました?イケンジリの村を出てから、浮かぬ顔をしていますが…」

アロイージオはリーゼロッテにそう言って微笑む。



「え…すいません…アロイージオ様。私その様な顔をしていましたか?」

申し訳無さそうにリーゼロッテが言うと、フフフと笑いながらアロイージオが



「そうですね。心此処にあらずと、言う様な感じでしたね」

その言葉を聞いたリーゼロッテは、気まずそうに



「すいません…少し考え事をしていたもので」

儚げにリーゼロッテが言うと、何か心当たりの有りそうなアロイージオは



「ひょっとして…葵殿の事を考えていたのですかな?」

人の心理を読む事に長けていない、アロイージオからのまさかの言葉に、思わず動揺してしまったリーゼロッテ。



「おや…本当に葵殿の事を、考えていらっしゃったのですね」

その言葉に、恥ずかしそうに俯くリーゼロッテ。その表情を見て、意外そうな感じのでアロイージオは



「リーゼロッテさんみたいな美人が、葵殿の様な人を好みだとは、思いもよりませんでしたね。確かに…黒い髪に黒い瞳と言うのは、見た事の無い色と取り合わせですが…葵殿は…とりわけ顔立ちが良いという感じでは無かった様な気が…」

葵の事を思い出して、顎に手をつけて考えていたアロイージオに、目をキツくしてリーゼロッテは、



「そんな事はありません!葵さんは笑うと可愛いですし、優しい目をしてくれもします!真剣な時は、その黒い瞳に吸い込まれそうになりますし、顔も童顔で可愛い感じですが、悪くはありません!それに、葵さんの魅力は、そんな上辺だけのものじゃないと、思います!」

一気に捲し立てる様に言うリーゼロッテに、茫然とするアロイージオ。そのアロイージオの表情を見て、自分が何を言ったのか、気が付いたリーゼロッテは、アタフタと取り乱しながら



「す…すいませんアロイージオ様!い…今の言葉は…忘れて下さい!」

気恥ずかしそうに頭を下げるリーゼロッテを見て、可笑しそうに笑うアロイージオ



「ハハハ。いいのですよ。しかし…何時も冷静沈着なリーゼロッテさんが、その様に取り乱されるとは…葵殿の事が…好きなのですか?」

その優しく語りかける様な、アロイージオの言葉に、少し顔を赤らめ俯くリーゼロッテ。



「今日の出立の折には、体調不良で寝込まれていたらしいですが、彼も港町パージロレンツォに向かうと、言っていました。すぐに逢えるでしょう」

そう言って優しく微笑むアロイージオに、儚げな笑顔でしか返せなかったリーゼロッテ。



「本当にそんな事になれれば…良かったのですけれど…」

聞こえ無い様な、微かな声で呟くリーゼロッテ。



そんな、モンランベール伯爵家一行を、少し離れた所から、身を隠しながら眺めている者達がいた。



「ギルスのお頭、準備は出来ていやす。何時でもご命令くだせえ!」

右手にバトルアックスを持ち、バンディットメイルに身を包んだ男が言う



「よし!奴等が例の場所まで来たら、カチュアが結界魔法陣を発動させる。その後は一気に包囲して、やってしまえ。但し例の2人には手を出すなよ?無傷で捉えろよ?ベルント」

ギルスの言葉に、ニヤッと笑うベルント。



「へえ!解っていやすよ。奴等にも徹底させていやすから、大丈夫でさ!」

そうやって、身を隠していると、モンランベール伯爵家一行が、その場所に入った。

その瞬間、辺りに魔力が立ち込める。その魔力に、ラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊、隊長のハーラルトが敏感に反応する



「なに!!魔力だと!?全員迎撃態勢をとれ!敵が近くにいるぞ!」

ハーラルトがそう叫ぶと、ラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊の40人の兵士達が、馬車を守る様に陣形を組もうと、動こうとした。だが、それは実行される事は無かった。



「もう遅いわ!パラライズフィールド!!!」

その女性の声が聞こえるやいなや、膨大な量の魔力が、モンランベール伯爵家一行を包み込む。



「ぐああああ!!」

声を上げるラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊の兵士達は、体が麻痺して動けなくなってしまっていた。



「こ…こんな所に…け…結界魔法陣だと!?」

茫然自失気味に、叫ぶハーラルト。

次々に体を麻痺させて、動けなくなって行く、ラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊の兵士達。

そんな動けないモンランベール伯爵家一行を、取り囲む集団が居た。それぞれが武装している。その中で、唯一動けるハーラルトは、剣を抜き、身構えていた。

そのハーラルトを見て、集団の中から男と女が前に出てきた。



「おいおい~。一人動ける奴がいるじゃんかよ」

その声に、振り向くハーラルト。そこには、不敵に笑うギルスとカチュアが立っていた。



「恐らく…マジックアイテムを持っているのでしょう…状態異常を防ぐ物を…」

「ヒュ~。そんな物、金貨30枚は軽くする物だろ?流石ラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊の隊長様ともなると、良いモン支給されてんな~。うらやましいぜ」

カチュアの言葉に、呆れながら言うギルス。その2人を見て、睨みつけながらハーラルトが



「これは貴様らの仕業だな!フィンラルディア王国、モンランベール伯爵家、ラウテッツァ紫彩騎士団に、こんな事をして、どうなるか解っておるのか!」

激しく言い立てるハーラルト。そのハーラルトを見て、小馬鹿にする様に笑うギルス。



「ハハハ!俺達をどうしてくれるって言うんだ?隊長さんよ~」

「…すぐに解らせてやる!私を本気にさせた事を、後悔するのだな!」

ギルスの言葉に、激昂しているハーラルトはそう叫ぶと、体全体に力を入れ始める。すると、ハーラルトの体の周りに、淡黄色に光る、オーラの様なものが現れる。



「ほお…気戦術の身体強化か…ラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊の隊長様なんだ…使えて当然か…」

気戦術…魔力の無い者が、唯一魔法を使える者や、強力な魔物と戦う為の手段である。体内の気の力を増幅させ、身体の能力を上げたり、攻撃力を上げたり出来る戦闘術である。習得には厳しい修行と、才能が必要で、上級者でないと習得出来無いと言われている。



「気戦術の身体強化は、五感は勿論の事、身体のあらゆる力を何倍にも強化出来る。初級者が中級者に勝つ事はあるが、初級者と中級者が上級者に勝つ事は、余程兵力差が無いと有り得ぬ。結界魔法陣で、騎士団の動きを封じた様だが、俺様を封じれなかったのが失敗だったな!俺様なら、この様な野盗崩れ30人位など、一瞬で殲滅してくれよう!」

ハーラルトはギルスを睨みつけて、そう言い放つ。



「…ギルス。私は結界魔法陣を発動中なので、戦えません。この隊長さんはギルスにお任せしても、宜しいですか?」

「ああ!かまわねえよ?もとより俺が倒そうと思っていたからな。カチュアは結界魔法陣に力を注いでくれ」

カチュアにそう告げると、ハーラルトの前に立つギルス。そして不敵に笑い、



「隊長さんの相手は俺がしてやるよ!」

「…若造が調子に乗りおって!…まあ良い。貴様を倒して、そこの女を殺せば、この忌々しい結界魔法陣は消えるであろう?ラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊に手を出した事を…後悔させてやろう!」

「さて…そんなにうまく行くかな?」

ギルスが腰につけている剣を鞘から引き抜く。それに答える様に、ハーラルトは身構える。

お互い睨み合っていたが、先に動いたのはハーラルトであった。もの凄い速さで、一瞬で間合いを詰めるハーラルト。



「はあああ!!」

掛け声とともに、空を切り裂く様に、振り下ろさせる剣。それと同時に、爆音が響く。



「ドガガガガ!!」

振り下ろされた剣の空圧で、地面が陥没していた。まるで地面を切り裂いたかの様だった。



「ほお!地裂斬か!なかなかやるじゃねえかよ隊長さんよ!」

その斬撃を躱したギルスはニヤっと笑っていた。



「…まさか、今の斬撃を躱すとはな。だが…まぐれはそう続かぬぞ!」

「へ!まぐれかどうか…試してみな!」

ギルスは剣の切っ先をハーラルトに向けて言い放つ。ハーラルトは再度身構えると、ギルスに斬りかかった。その風のように速い剣の切っ先が、ギルスに襲いかかる。



「ギャリリリン!!」

激しい金属音が聞こえる。それは、ハーラルトの斬撃を、ギルスが剣で受け止めた音だった。



「な…なにい!?気戦術で強化された、私の地裂斬を、受け止めただと!?」

「ふん!それだけじゃないぜ?」

驚愕しているハーラルトの腹部に蹴りを入れるギルス。ハーラルトはグフっと唸り声を上げて、蹴り飛ばされた。ヨロヨロと立ち上がったハーラルトは、ギルスを見て再度驚く



「き…貴様も…気戦術が使えるのか!?」

そこには、ハーラルト同様に、淡黄色に光る、オーラの様なものに身を包むギルスの姿があった。



「気戦術や身体強化が使えるのは、何もお前だけじゃないってこった!」

ハーラルトに不敵に笑うギルス。ギルスの纏っている、淡黄色に光る、オーラの様なものは、ハーラルトのものに比べて、大きく、力強く、輝きも強かった。



「さあ、これで終わりじゃないだろう?隊長さんよ!」

「当然だ!こんなもの、ダメージの内に入らぬわ!」

ハーラルトはきつい目をして言い放った。再度体制を立てなおして、身構えるハーラルト。それを見て、楽しそうに笑うギルス



「そうじゃねーと楽しくないからな!じゃ~今度は此方からも行くぜ!隊長さんよ!!」

そう言い放ち、疾風のごとく、間合いを詰めるギルス。その鋭い剣先がハーラルトに襲いかかる。激しい金属音が、辺りに鳴り響く。剣と剣が激しくぶつかり合い、火花が美しく舞い散っている。

何十手と斬り合いをしている2人だが、ハーラルトはギルスの斬撃を受けるので手一杯で、反撃出来る程の余力は全く無かった。



「流石にラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊の隊長様だな。俺の剣を此処まで受ける奴は、そうそう居ないからな!」

「ふん!こ…此れ位…俺様には、なんでもないわ!ラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊を舐めるな!」

「そうか…なら…もう一段…上げてみようか!」

そう言い放ったギルスの目が光る。先程とは比べ物にならない速さで、間合いを詰めるギルス。その速さから繰り出される斬撃を、ハーラルトは躱し切れないでいた。瞬く間に、体のあちこちを斬られるハーラルトの体からは、鮮血が流れ出す。フルプレートメイルの斬られた箇所から、滴り流れていた。

そして、ついに片膝をつき、蹲ってしまったハーラルト。苦悶の表情でギルスを見つめる。



「ぐ…魔法で強化された、このフルプレートメイルを、こうも簡単に切り裂くとは…」

「…俺が使っている剣は、ちょっとした名剣でな。使い手次第で、マジックアイテムも簡単に切り裂く事が出来るんだよ」

その言葉を聞いたハーラルトは、更に顔を歪める。そんなハーラルトを見たギルスは、剣を肩に担いで、トントンと楽しげに剣を揺らし、



「フム…剣の腕も中々。修羅場もそれなりに熟しているのが解る。経験もそれなりに積んでいるな。殺すのには惜しいな…。オイ!隊長さん!どうだ?俺の部下にならないか?隊長さんじゃ俺には勝てないのが解っただろ?無駄に命を捨てる事は無いと思うぜ?」

その言葉を聞いたハーラルトは、フラフラと血を流しながら、立ち上がる。



「は…馬鹿げた…事を…。俺様は腐っても、栄えある、ラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊の隊長だ!それに…主人であるアロイージオ様に、拾われた恩義もある!そんな事は…出来ぬな!」

フラフラになりながらも、身構えて剣先をギルスに向けるハーラルト。その目は、揺るぎない決意の光を放っていた。ソレを見た、ギルスは、軽く溜め息を吐き、



「…なるほど…。伊達にラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊の隊長なんかしてねえって事だな。いいだろう…その騎士道精神に敬意を評して、俺も本気でやってやるよ…」

その表情を真剣なものに変えて行くギルス。その表情を見たハーラルトはギュっと唇を噛む。

ギルスの気勢が高まり、体を包んでいる淡黄色に光るオーラは、輝きが増す。

それは一瞬の事だった。ハーラルトの体を、一迅の風が吹き抜ける。それと同時に、斬り込んでいたギルスの体は、剣を振り切った形で止まっていた。



「気戦術…瞬迅…斬…」

ギルスのその囁きと同時に、ハーラルトの体は、胸の辺りから綺麗に真っ二つになって崩れ落ちた。その死体からは、大量の血が吹き出していた。それを流し目で見ているギルス。



「た…隊長…」

苦悶の表情で、ハーラルトの死体を見つめる、ラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊の兵士達。



「さあ!これで動ける者は誰も居なくなった!野郎ども、例の2人以外は、残りは皆殺しだ!やってしまえ!」

そのギルスの声に、わあああ!と歓喜の声を上げる、ベルントの部下の兵隊達。その声にラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊の兵士達は、恐怖に染まっていた。身動きの取れない、無抵抗なラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊の兵士達に次々と襲い掛かる。皆が一刀の元に命を奪われ行く。断末魔の叫び声が辺りに響き渡る。

程なくして、そこには命を奪われ全滅した、ラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊の無残な姿があった。



「よし!野郎ども!金目の物は全て奪え!死体は森の中の見えない所に捨てて来い!地面の血は、上から土をかけて隠せ!」

ギルスがそう叫ぶと、兵隊達は指示通りに動いて行く。次々と金目の物を奪い、死体を森の中に運んで、打ち捨てている。手際よく、戦闘の跡を消して行く兵隊達。

そんな兵隊達を横目にしながら、ギルスとカチュアは、一台の豪華な馬車の前に来た。



「この馬車がそうか?例の2人が乗っている馬車か?」

ギルスの問に、頷き答えるベルントとカチュア



「そうみたいですね。ですが、此処に乗っているのが、件のモンランベール伯爵家の三男、アロイージオなら、さっきの隊長みたいに、状態異常を防ぐマジックアイテムを、持っている可能性は高いですね」

カチュアの言葉に、フムフムと頷くギルス。そしてニヤッと笑って



「よし!ベルント!この馬車の扉を開けろ!」

「え…俺ですか!?」

「お前以外にベルントって奴が居るか?さっさと開けろ!」

その言葉に、渋々扉に手を掛けるベルント。中から飛び出してきても良い様に、身構えながら、一気に扉を開けた。その開かれた馬車の中には、男女2人居て、2人共身動きが出来無くなっていた。

その様子にあっけにとられる、ギルスとカチュア



「…お前が、モンランベール伯爵家の三男、アロイージオか?」

ギルスの問に頷く、アロイージオ。



「そうだ…私がフィンラルディア王国、モンランベール伯爵家三男、アロイージオだ…」

身動きの取れないアロイージオは、顔を蒼白にしてそう答えた。



「お前…貴族のお坊ちゃんだろ?状態異常を防ぐ、マジックアイテムとか持ってなかったの?」

「有ると思うが…何処の鞄の中だったか解からん…」

「…装備品はきちんと装備しないと、持ってるだけじゃ効果を発揮しません。世界の常識ですよ?」

何処かの世界の村人Aの様な口調で言うギルス。アロイージオは気まずそうに俯いている。



「ほんと…噂通りの貴族の坊ちゃんだな。まあ…此方も噂通りだけどな!」

そう言って、ニヤっと笑うギルスの視線の先には、リーゼロッテがいた。



「噂通りの美女のエルフだな…可愛いお姫様~格好良い王子様が迎えに来ましたよ~」

ギルスは胸に手を当てて、軽くお辞儀をしながら、ニヤニヤしてリーゼロッテに言うが、リーゼロッテはきつい目でギルスを睨みつけるだけであった。そんなリーゼロッテにフっと笑い、



「気の強い女だな…俺は気の強い女…好きだぜ?どうだ?俺の女になるか?」

リーゼロッテの顎を掴み、顔を近づけるギルス。その言葉にも一向に反応せずに、只々ギルスを睨みつけるリーゼロッテ。そんなギルスを後ろから、抓るカチュア



「イテテテ」

「何をしているんですかギルス?また…詳しくお話しないとダメなんでしょうか?」

冷ややかな目で、ギルスを抓っているカチュア。



「解ってるって!ちょっとした冗談だよ!冗談!…ったっく…本当に嫉妬深いんだから…」

「何か言いましたか…ギルス?」

「何も言ってねえよ~。ベルント!とりあえずこの2人を縛っておけ!アジトに連れて帰るぞ!」

そう言われたベルントは、アロイージオとリーゼロッテを、後ろ手に縛り上げる。



「さあ野郎ども!アジトに引き上げるぞ!」

ギルスのその声に、勝鬨の様な声を上げる兵隊達。ギルス達は意気揚々とアジトに帰って行った。











羊皮紙の張られた窓から、暖かい日差しが射し込んでいる。その日差しが俺の網膜に、チカチカと刺激を与える。



「う…うん…ん…」

俺はゆっくりと瞼を開ける。徐々に視界がくっきりとしてくる。



『寝過ぎなのだろうか?…今日は何だか頭がぼやっとする。疲れが溜まってたのかな?』

そんな事を思いながら、体を起こし、ふと視線を体に向けると、服を着たままの姿だった。



「俺…服を着たまま寝てたのか…」

何故服を着たまま寝ていたのか気になって、昨日の事を思い出してみた。



「確か…部屋に帰って来て…ハンスさんと話してて…あ…そこから急に眠たくなって、寝ちゃったんだ!」

昨日の事を何とか思い出した俺。ふとベッドの下を見ると、靴が綺麗に並べてあった。



「ああ…きっと話しの途中で寝ちゃった俺を、ベッドに寝かせてくれた上に、靴まで脱がしてハンスさんが並べてくれたのか…ハンスさんに悪い事したな~。後で謝っておくか」

話の途中で勝手に寝てしまったと言う失態に、反省をしている俺は、いつもの朝のアレが無い事で、マルガが居ない事を思い出した。



「マルガ…何処行ったんだろ?何時も俺の隣にいるのに…」

そう疑問に思う俺は、部屋の中を見渡す。羊皮紙の張られた窓を開けると、太陽が高い位置にある。どうやら昼過ぎの様だ。テーブルの上には、食事が用意してあった。



「きっと寝ていて起きない俺を置いて、先にご飯食べちゃったんだね!マルガお腹空かせていたのかも…ごめんねマルガちゃん!ま~ご飯を食べさせて貰って、マルコとかと遊んでいるだろうけど!」

とりあえずお腹の空いていた俺は、勝手にその様に思い込み、テーブルにある昼食?を頂く事にした。



「うん。冷めてても美味しいね!お腹も空いているから、余計に美味しく感じるのもあるんだろうけど」

俺はパクパクと食事を食べてゆく。ほんと結構お腹空いてたんだよね!

あっという間に食事を食べ終えて、タバコに火をつけ、一服していると、何かが頭を過る。



「なんか…大事な事を、忘れている様な気がするな~。なんだったっけ?」

そんな事を考えながら、タバコを吸っていると、窓の外から、騒がしい声が聞こえて来た。その声に誘われる様に、窓から外を見て、忘れていた事を思い出した。



「村の広場にあった…テントがない…あ!今日はリーゼロッテさん達が出立する日じゃなかったっけ!?」

俺は忘れていた、大事な事を思い出して、急いで家の外に飛び出る。テントが無いと言う事は、出立の準備が終わったと言う事。急いで村の入口に向かうと、大勢の人が集まって話をしていた。



「すいません!もう、モンランベール伯爵家御一行様は、出立されましたか?」

少し息の荒い俺の声に、真っ先に食いついたのはマルコだった。



「葵兄ちゃんやっと起きたんだね!」

「うん。所で、もうモンランベール伯爵家御一行は出発しちゃった?」

「それどころじゃないんだよ葵兄ちゃん!」

俺の問に、甲高い声でそう叫ぶマルコの顔は、鬼気迫るものがあった。俺はそんなマルコに戸惑いながら、



「ど…どうしたのマルコ?きちんと説明して」

慌てているマルコを落ち着かせ、訳を聞いてみる。



「葵兄ちゃんが寝ている間に、モンランベール伯爵家様達は出立しちゃったんだけど、そのモンランベール伯爵家様達が、この先の街道で襲われて…全滅しちゃったらしいんだよ!」

「はええ!?あの…ラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊を率いる、モンランベール伯爵家御一行様が全滅!?」

思わず変な声を上げてしまった。それ位、マルコの話は、突拍子も無い事だった。



イヤイヤイヤ…有るはずないだろ?あのハーラルト率いる、ラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊40人居た兵士達が全滅!?40人近く居た兵士達は、LV30後半からLV50弱の中級~中級上の兵隊クラス。隊長であるハーラルトなんかは、LV62の上級クラス。

そんな奴等を相手に出来る奴等は、間違いなく、国軍クラス。しかも、組織力を持った奴等ぐらいしか…相手に出来るはずがない…それを全滅って…

困惑している俺に、マルコは話を続ける。



「葵兄ちゃんが、信じられないと思う気持ちは解るけど、あの人の話を聞けば、理解して貰えると思うよ」

そう言って指をさすマルコ。その先には、沢山の人集りが出来ている。その中に鎧を着た兵士の様な男性が、地面に項垂れる様に座りこんで居た。

俺はその人集りの方に、マルコと一緒に歩いて行く。そして、俺に気が付いたアロイス村長が



「おお。葵殿。良い所に来られましたの。大変な事になっておるのじゃ!」

アロイス村長も、かなり狼狽していた。



「とりあえず、先にこの兵士様の話を聞いてくだされ」

アロイス村長の言葉に、俺は兵士に話を聞いてみた。兵士は項垂れながらも、俺に話をしてくれる。



「私達は、朝にこの村を出立しました。そして、港町パージロレンツォに向かって、街道を順調に進んでいました。でも、昼近くになった時でした。盗賊の集団に、待ち伏せをされて、攻撃を受けたのです」

「しかし…ラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊様位の兵士さん方なら、そんじょそこらの、盗賊の集団なんかに、引けをとらないはずでは?」

俺のもっともな意見に、周りの村人達も頷いていた。



「ええ、普通の状態で有ったなら、盗賊の集団などに、遅れは取らなかったでしょう。しかし、罠を張られていたんです。…結界魔法陣で、ラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊のハーラルト様と、私を除く兵士が、麻痺させられて、身動きが取れなくなってしまったんです。」

項垂れながら言う兵士の言葉に、更に困惑し、驚いてしまった俺。



け…結界魔法陣!?結界魔法陣って言ったら、トラップに良く使われる、設置型の魔法陣。その領域に入って来た者に、等しく魔法効果を与えるって聞いた事がある。

しかし、すぐに使える様な物ではなく、準備にも時間が掛かり、上級の能力の高い魔法使いが居ないといけないし、魔法陣に使う触媒も大変高額な物で、最低でも家が2軒は建てれる位高額だと聞いている。その分、威力は強大で、凄まじいらしいけど…

そんな事を考えていた俺に、話を続ける兵士



「兵士が麻痺させられて、動け無くなったので、最後の砦である、ハーラルト様のみが戦う事になったのですが…そのハーラルト様も…その盗賊の集団の頭みたいな人物に…殺されてしまいました…」

「ええ!?あのハーラルト様が!?ハーラルト様も何かの魔法を掛けられていたのですか!?」

「いえ、ハーラルト様は、状態異常を防ぐマジックアイテムを持っていましたので、結界魔法陣は効きませんでしたが…その盗賊団の頭らしき男に…一方的に…最後は…体を…上下…真っ二つにされて…」

そう言って、嗚咽混じりに泣き出す兵士。



オイオイオイ!!…隊長のハーラルトは、LV62の上級クラスだぞ!?厄介なスキルも持っていたのに、それを倒す!?真正面から戦って…それも一方的に!?最後は真っ二つだって!?そんな事出来る奴がこんな所に居るのか!?

その時、ふとイケンジリの村に来る迄に見た、ある事を思い出す。



…いや…居る…あの人達をやった奴なら…エドモン一行をやった奴等が戻って来てるなら…あり得る…

そして俺は、一番気掛かりに、なっている事を聞く事にした。



「兵隊様、リーゼロッテさんはどうなったか解りますか?」

「リーゼロッテさんとアロイージオ様は、盗賊の集団に縛られて連れて行かれました。その後、盗賊の集団が立ち去ってから、この村に逃げて来たので、そこから先は解りません…」

力無く言う兵士。リーゼロッテは殺されずに連れて行かれたのか…とりあえず生きているって事だ。



「私は運が良かった…。私は最後尾…殿を馬に乗って努めてました。魔法陣の発動に驚いた馬が、大きく飛び上がり、私を森の中の茂みに飛ばしたお陰で、私は魔法陣に麻痺させられる事なく、盗賊の集団に見つかる事なく生き延びれました…。しかし…皆が殺されていく中…私は何も出来ませんでした…それが悔しくて…」

「いや…そんな状態だと、何か出来る人の方が少ないじゃろう。貴方が生き残って、此処に帰ってくれたお陰で、わしらも手を打てたのじゃからの…」

そう言って、泣いている兵士を慰める、アロイス村長。



「手を打ったって…何かしたんですか?」

俺の問に、マルコが此処ぞとばかりに



「えっとね、エイルマーさんとハンスさんが、村の足の速い馬で、港町パージロレンツォの守備隊に助けを求めに行ってるんだ!あの馬なら、一晩走れば、港町パージロレンツォに着けるからね!しかも、街道を行くのではなく、地元の人しか知らない道だから、危険も低いからね」



なるほど…確かに、早馬なら一晩で、港町パージロレンツォに着けるだろう。そこから守備隊が此方に急いで向かって、更に1日…。合計2日待つ事になる…か。微妙な日数だ…。

盗賊の事だ、超美少女のリーゼロッテを、間違いなく犯すだろう。しかも、結構な人数…30人位は居たと言っていた。30人に連続で何回も、2日間犯され続けたら、命に関わる。

陵辱されるのは防げないとしても、せめて命だけは助けたい…

俺が戦って勝てる相手では無いのは、十分解っている。なんとか盗賊団を出し抜いて、リーゼロッテを助けれないものか…

とりあえず、マルガと一緒に相談して、助ける算段を考えてみよう。



「所でマルコ。マルガが見当たらないんだけど、何処に居るか知らない?」

俺のその問いに、集まっていた人々が、困惑の表情を浮かべ、俺を見ていた。俺が訳が解らないで居ると、アロイス村長が言いにくそうに、



「マルガさんも…居なくなってしまったのか…」

「え…ど…どういう事ですか!?」

アロイス村長の言葉に、体に寒気が走る。



「…先程解った事なのじゃが、村の者…女ばかり、6人程居なくなってしまったんじゃ。村の中や村の周辺を手分けして探してみたのじゃが、見つかりませんでした。何処に行ってしまったのか…」

その言葉を聞くやいなや、俺は走りだしていた。周辺の警戒LVを最大限に上げる。



この村は小さな村だ。俺の感知範囲は約30m。俺が走りながら感知すれば、例え何処かに監禁されていようと、見つける事が出来る。だが、村じゅうを走り回っても、それらしい気配は、感知出来なかった。

つまり、この村には、マルガは居ないと言う事だ。俺はさっきの人集りに戻って来た。



「マルコ!マルガを見たのは、何時が最後だか、覚えてる?」

「え…えっと…昨日の夕方に、オイラの家の前で、話したのが最後だよ。その後、ハンスさんにお手伝いを頼まれて、一緒に行っちゃったから。それから、見てないよ」

「マルガはハンスさんに、お手伝いを頼まれたの?」

「あれ?知らないの?ハンスさんは、葵兄ちゃんに、許可を貰ったって言ってたけど…」

俺が、ハンスさんに、マルガを手伝わせる許可を出しただって!?そんな許可を出した覚えはない!

その時、昨日ハンスが来た時の事を思い出した。俺は、ゲイツ夫妻の家に走り出す。



「葵兄ちゃん!どこ行くんだよ!」

マルコの問いかけに答える事無く、宿泊させて貰っている部屋に帰って来た。そして、食器の置かれたテーブルに向かう。そのテーブルの上には、さっき食べた食器と、昨日ハンスが持って来た、飲みかけの紅茶が入ったカップが置いて有った。俺は、昨日ハンスが持って来た、、飲みかけの紅茶が入ったカップを霊視で視る。俺の瞳が紅く妖しく光る。



「やっぱり…この紅茶の中には、強力な、即効性の睡眠薬が入っている…」

俺のレアスキルである霊視は、人の能力を視れるだけではない。物質の状態や詳細も、見抜く事が出来るのだ。物質の構成から、人体に影響が有るのか迄、視る事が可能。

この、紅茶の中には、睡眠薬が溶かしてあった。



『何故…ハンスは俺に睡眠薬を飲ませて、眠らせたんだ?恐らく…マルガを連れ去ったのもハンスと見て、間違い無いだろう。でも…理由が解らない…何故…』

そんな事を考えていると、部屋にマルコが入って来た。



「葵兄ちゃんさっきからどうしたのさ!」

俺は、昨日の事と、この紅茶の事、そして、恐らくマルガを連れ去ったのはハンスである事を伝える。

あからさまに、困惑しているマルコ



「葵兄ちゃんの話は解ったけど…どうしてハンスさんが…ハンスさんは、村の事を大事に考える様な人なのに…。マルガ姉ちゃんを連れ去って、どうしようって言うのかな…」

「それは俺にも解らない。マルガに何か、如何わしい事をしようとしているのか…それとも、何か他の理由が有るのかはね。でも、マルガを連れ去った事は事実だ」

俺はそう答えて、アイテムバッグを開き、戦闘装備を取り出す。それを見たマルコは



「葵兄ちゃん、そんな物出してどうする気なの?」

「マルガはこの村には居ない。ハンスさんも既に港町パージロレンツォに、向かってしまっているのなら、追いついて問いただすにも時間が掛かる。2日経てば、港町パージロレンツォから守備隊が来るのなら、俺はこの村の周辺を探した方が、効率的に考えても良いからね」

そう説明して、武具を装備して行くと、マルコが



「…なら、オイラもマルガ姉ちゃんを探すの手伝うよ!オイラもマルガ姉ちゃんに優しくして貰ったし、心配なんだ!」

「駄目だ!まだ村の周辺に、モンランベール伯爵家御一行様を全滅させた奴等も居るんだ。危険だから俺だけで行く」

「でも、葵兄ちゃんは、この村の周辺の事知ら無いでしょ?でも、オイラなら、この村の周辺の事も詳しいし、マルガ姉ちゃんが居そうな所迄、案内出来ると思うんだ!」

そう力説するマルコ。

確かに…。俺が闇雲に走り回るより、村の周辺に詳しいマルコの案内が有った方が良い。俺の感知範囲は約30m。マルガの200mには遠く及ばない。マルコの助力が有れば、助かるけど…まだ、盗賊の集団が居る。危険な目に合わせる訳には…



「葵兄ちゃんが、オイラの事を心配してくれてるのは解るけど、オイラだってマルガ姉ちゃんが心配なんだよ!危険な事や、危ないと思ったらすぐに逃げるから、オイラも手伝わせてよ!」

マルコはそう告げると、俺の手を掴み、真剣な眼差しで俺を見つめる。



「解ったよマルコ。絶対に危険な事がありそうな時は、俺を置いてでも逃げてね」

「解ってるって!約束は守るよ!じゃ~オイラは何をしたらいい?」

「俺の馬のリーズに、荷馬車に積んである、鞍を付けて来て」

「解った!行ってくる!」

マルコはそう言うと、ピュ~っと走り去った。俺の方も、戦闘武具を装備して行く。装備し終わって、外に出ると、家の前まで馬のリーズを連れて来て待っているマルコ



「手際が良いねマルコ」

「当たり前じゃん!葵兄ちゃんの弟子になるんだから、此れ位はね!」

俺の苦笑いを見て、マルコはニコっと微笑んでいた。俺は馬のリーズに乗り、前にマルコを乗せる。そのまま、村の出口まで行くと、アロイス村長はまだ兵士と話していた。馬に乗っている俺を見つけるアロイス村長



「アロイス村長!マルガを探してきます!」

「き…危険ですぞ葵殿!」

「すいません…こればっかりは…行かせて貰います!」

そう言って俺は馬のリーズの合図を送り走り出す。



「葵殿!くれぐれも気をつけてくだされ!」

アロイス村長の声が後ろから聞こえていた。マルガ…きっと助けるから…待ってて…

俺とマルコを乗せた、馬のリーズは村を出て走って行くのだった。













2頭の馬が、街道から外れた獣道を、身を隠すように走っていた。それは、盗賊団の事を、港町パージロレンツォの守備隊に報告し、助けを求める為に、走っている。その内の一頭に乗っている男が叫ぶ



「兄さん!止まって!誰か居るみたいだ!」

その声に、馬を止めるエイルマー。そして辺りを見回しながら、



「ハンス何処に居るんだ?」

小さな声で言うエイルマーに



「馬に乗っていると見つかるかもしれない。馬から降りて、立ち去るまで待とう。兄さん此方に来て」

その言葉に、素直に従うエイルマー。そして、ハンスの傍迄やって来て、



「それで…何処に居るんだ…ハンス?」

「彼処を見て兄さん」

ハンスはそう言うと、森の方を指さす。エイルマーがその指の先を見つめたその時、ハンスがエイルマーの腹部に、拳をめり込ませた。



「グフ!…な…なに…を…するんだ…ハ…ンス…」

唸り声を上げ、ハンスに問いかけながら、意識を失うエイルマーは、そのまま地面に倒れてしまった。意識の失っているエイルマーを抱きかかえるハンス。



「…ごめん兄さん…ごめん…」

ハンスは懺悔する様に意識のないエイルマーに言うと、馬にエイルマーを乗せ、自らもその馬に乗る。



「今は…これしかないんだ…」

そう小さく呟いて、馬を走らせていくハンス。











ラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊を全滅させて、意気揚々とアジトに帰って来た、ギルス達。



「よし!奪った物は、いつもの様にまとめておけ!後で分けるからな!馬と馬車も、奥に置いておけ!」

ベルントのその声に、兵隊達は奪って来た物を運んで行く。



「イケンジリの村の襲撃は夕刻!それまでは待機してろ!ま~腹が減ってるから、まずは飯だろうがな!」

ベルントのその言葉に、ドッと笑いが起きる。それを横目に、ギルスとカチュアは、縛られている、リーゼロッテとアロイージオを引っ張って、奥の方に連れて行く。そこには、服をボロボロに破かれ、半裸になった女性5人が、悲壮な面持ちで座らされていた。リーゼロッテはその女性達を見て目を細める。



「お前達もそこに座りな。そこの女達も、イケンジリの村の女だ。ソイツらみたいになりたく無かったら、大人しく座ってろ」

ギルスの言葉に、何も言わず、半裸の女性の傍に座る、リーゼロッテとアロイージオ。その時、リーゼロッテの目に、見た事のあるライトグリーンの綺麗な髪の毛をした少女が、横たわっているのが目に入った。

慌ててその少女に近寄るリーゼロッテ。その少女は、リーゼロッテのよく知っている少女、マルガであった。マルガを見たリーゼロッテは、表情を一変させる。



「貴方達!この少女にも、酷い事をしたの!?」

リーゼロッテの激昂した言い様に、ギルスは少し意外そうに



「なんだ?その亜種の嬢ちゃんと知り合いか?」

「そんな事は聞いてないわ!この子に何かしたのか、聞いているのよ!」

激しくギルスを睨むリーゼロッテ。ギルスはそれを可笑しそうに見つめていた。



「その亜種の少女には、手を付けていないわ。睡眠薬で眠っているだけよ。エルフの貴女同様、私達の貴重な商品なのだから」

ギルスの横からカチュアが、淡々とした口調で言う。リーゼロッテは黙って睨んでいる。そんな、2人を可笑しそうに見ているギルスが



「そういうこった。お前達は見目がすこぶる美しい。だから、奴隷商に売って、俺達の資金にする事にした。だから、大人しくしてる事だな。さもないと、隣の女達見たいにな目にあって貰う。うちの野郎どもは、女に飢えてるからな。容赦はないぜ?全ての穴にぶち込まれ、出されて…その横の女達を見たら、よく解るだろう?」

ギルスがニヤっと笑いながら言う。リーゼロッテは横目に女達を見たら、茫然自失で虚ろな目をして、精気を無くして、俯いていた。

そこに、卑猥な笑みを浮かべて、ベルントがやって来た。



「お頭~そこのエルフの女は解りやすが、そっちの亜種の少女は、処女じゃないんでしょ?だったら、奴隷商に売る迄、俺達に遊ばせてくだせえよ~。処女じゃないなら、そんなに高く売れないでしょ?」

マルガを舐めるように見て、舌なめずりをするベルント



「ば~か。これだけの器量がある美少女なら、たとえ処女じゃ無くても、一級奴隷として結構な金額で売れるんだよ。それに、お前達に遊ばせたら、即効で他の女達見たいに、壊してしまうだろう?そんな事になったら、商品価値が下がって、高く売れないだろうが!」

呆れながら言うギルス。ガハハと笑っているベルント。



「それより、この貴族の坊ちゃんの体を調べてくれベルント。例の物を持ってるか、確認してくれ」

ベルントはギルスに言われた通り、アロイージオの体を調べ始める。すると、豪華な上着の内ポケットに何かを発見したらしく、それを取り出すベルント。



「お頭!例の物って言うのは、これの事ですかい?」

それは、直径10cm弱の、装飾された青銅のメダルであった。メダルの中心には、鷹が羽ばたく姿が装飾されている。それをベルントから受け取り、マジマジと見つめるギルス



「やっぱり…間違いないな…」

キッと若干目をキツくして、ギュっと青銅のメダルを握り締めるギルス。そして、アロイージオを見つめメダルを見せながら



「貴族の坊ちゃん…お前これがどんな物か知ってるよな?」

「いや…全く知らない。とある人物から、預かった物だ。どういった物なのかは知らない」

アロイージオの瞳を見つめるギルスは、アロイージオが嘘を言っていない事を感じ取る。



「まさか、本当に知らないとはな…お前…本当に、筋金入りの箱入りの坊ちゃんだな…ったっく…」

盛大に溜め息を吐くギルス。



「まあいい!ベルント!俺とカチュアは、奴等を迎えに行く。そう言う約束だからな。…奴が来たら、手はず通りに頼む。…まあ~約束は守ってやると、伝えてくれ。行くぞカチュア!」

青銅のメダルをベルントに渡し、カチュアと共にアジトを出て行くギルス。



「まあ、そこで大人しくしてるんだな」

リーゼロッテとアロイージオにそう告げると、飯を食べている兵隊達の元に向かったベルント。



「いや~大変な事になりましたね~」

「…そうですね。何とかしないと…」

こんな所に来て迄、呑気なアロイージオに軽く溜め息を吐きながら、眠っているマルガの傍に行き、マルガを揺さぶる



「マルガさん、起きて下さい。マルガさん」

リーゼロッテの声と揺さぶりに、体をピクっとさせるマルガ。



「う…んん…。ご主人様おはようございます~」

寝ぼけ眼を微かに開いて、起きようとした時に、後ろ手に縛られていたのを知らなかった為に、ポテっと転けてしまうマルガ



「テテテ…」

その痛みに、目が覚めて、頭も回転しだしたみたいだ。



「起きましたかマルガさん。大丈夫ですか?」

「はれ?リーゼロッテさん?あれ?私…なんでこんな所に…確か…ハンスさんのお手伝いを、していたはずなのに…あれれ?」

マルガは今自分の置かれている状況が飲み込めず、辺りを見回し、可愛い首を傾げていた。



「マルガさん、落ち着いて聞いて下さいね。マルガさんは、そこの女性方と一緒に、攫われて来たんです」

リーゼロッテは此れまで有った事を、マルガに説明する。マルガは顔を蒼白にして、今自分の置かれている状況を飲み込めた様っであった。微かに震えているマルガに、縛られながらも、そっと寄り添うリーゼロッテ。リーゼロッテの暖かさに、少し震えの収まるマルガ。そんな、マルガの胸に、小さい何かが飛び込んで来た。



「ル…ルナ!無事だったんですね!」

ルナはその声を聞いて、嬉しそうにマルガの膝に、頭をグリグリさせていた。そんなルナに、表情を和らげるマルガ。



「なんだ、亜種の少女も起きたのか!」

その声に振り向くと、飯を食べ終わったベルントと、兵隊が5人立っていた。ベルントは、膝下のルナを見て



「また帰ってきやがったのか。その白銀キツネは、捕まえようとしたら逃げるし、かと言って、お前の傍から離れねえし、よっぽど懐かれてるんだな」

フンと鼻で笑っているベルントに、後ろに立っている兵隊が



「ベルントさん。そんな事より、女達を連れてっていいですかね?飯も食べ終わったし、襲撃までまだ時間があるみたいなんで」

半裸の女達を見ながら、舌なめずりをしている。



「ったく、襲撃に行くまでだぞ?ほら!連れて行け!」

その声に歓喜の表情を浮かべる兵隊達は、5人の女達を捕まえ、引きずりながら、中央まで連れていく



「いや~~!!やめてください!助けて!!」

女達は口々にそう叫ぶが、その声に興奮すら覚えている兵隊達には、効果は無かった。女達は次々と、組み伏せられて、犯されて行く。



「ハハハ。この女、いきなり入れられて、よがってやがるぜ!やっぱり女はいいな!」

「オイ!俺にもやらせろよ!ぶっこみたくて我慢できねえよ!」

「なら尻の穴に入れてやれ!オラ!2本刺しだ!」

「じゃ~俺は口を犯そうか!これで3本刺しだな!」

女達は一度に複数の男達の相手をさせられ、呻き声を上げながら犯されている。



「ひ…酷い…やめてあげて下さい!」

マルガがベルントを睨めつけながら、言い放つ。そんなマルガを嘲笑いながら



「そりゃ無理だ。あの女達は、もう俺達の玩具だからな。な~に、あの女達もそのうち慣れてくるさ!気持良くて、もっと~ってな!それとも、お前があの女達と、変わってやるか?ま…お頭からの命令で、お前達には手を出す事は出来無いがな!奴隷商に売られる迄、大人しくしてるんだな!」

マルガに卑しい嗤いで言うベルント。マルガはベルントをキッと睨んでいた。



「そう言えば、お前は既に奴隷だったな。…って事は、村を襲撃した時に、お前の主人の行商人をきっちり殺して奴隷解放してから、再度奴隷にして売り飛ばすって事か。めんどくせえな!」

そう言って嗤うベルントに、逆上したマルガは



「私の大切なご主人様に、手出しなんかさせません!」

そう言い放つと、ベルント目掛けて飛びかかった。そして、右腕に目一杯の力で噛み付いた。



「イテテテテ!離しやがれ!この亜種が!」

そう言って、マルガを投げ捨て、振りほどく。ベルントの手からは、血が流れていた。



「このアマ…。へ!お前の大切なご主人様って奴を、殺すのが楽しみになってきたぜ!お前の目の前で、いたぶりながら殺してやる!お前の泣き叫ぶ姿を見るのが、今から楽しみだぜ!」

「ご主人様は、貴方の様なクズには負けません!私も今から楽しみです!きっと貴方は、私のご主人様の逆鱗に触れて、その牙で無残に殺される事でしょう!クズにお似合いの死に方なのです!」

そう言い放ったマルガはきつく睨みつける。ベルントの表情はみるみる変わっていく。背中に担いでいたバトルアックスを手に取り



「この亜種が!舐めやがって!ぶった切ってやる!!」

激昂したベルントは、マルガ目掛けて、バトルアックスを振り下ろす。マルガは動く事が出来ずに、キュっと目を閉じていた。



「ドガ!」

大きな音をさせて地面に叩き付けられる、バトルアックス。動けないマルガに、リーゼロッテが体当たりをして、避けさせたのだ。しかしその時に、バトルアックスの刃で左肩を切った様で、血が流れ出して居た。



「リーゼロッテさん!」

マルガはリーゼロッテに近寄り、傷を見る。そこそこ深いのか、血が手の甲迄流れていた。



「こいつ!余計な事をしやがって!お前も一緒に殺してやる!」

激昂しているベルントは再度バトルアックスを振り上げる。それを見たリーゼロッテが



「こんな事、貴方がしても良いのですか?私達は商品なんでしょう?その貴重な商品を殺してしまったら、さっきのお頭と呼ばれた男はどう思うのかしら?きっと貴方に何かの罰を与えるでしょうね。…あの男に殺されるかも…?」

ベルントを睨みながら言うリーゼロッテ。



「そ…そうですよ!ベルントさん!お頭の許可無く殺しちまったら、大目玉をくらいやすぜ!此処は…やめておいたほうがいいでやす!」

傍で見ていた兵隊がそう言うと、グッっと唸り、ゆっくりバトルアックスを下ろす。

そして、マルガにゆっくりと近づき、その右手を振り上げる。



「バシイイ!」

ベルントに左の頬を力いっぱい殴られたマルガは、飛ばされて地面を転がり蹲っている。

それを見て心配したリーゼロッテがマルガに近寄ると、左頬を赤く腫らして、口から少し血が出ているマルガ。余程痛かったのか、体を震わせながら、瞳に零れそうな涙を浮かべていた。



「ふん!俺はあの女の所に行ってくる!ソイツらを見張っておけ!」

そう言い放って、傍に転がっていたバケツを蹴っ飛ばして、アジトの奥に消えてゆくベルント。

リーゼロッテは何とかマルガに体を寄せて、マルガを起こす。



「…酷い腫れ…。マルガさん大丈夫ですか?」

「私は大丈夫です。リーゼロッテさんこそ大丈夫ですか?あの…すいません…私のせいで…」

「いいのですよマルガさん。でも、あまり無茶な事はしないで下さいね」

シュンとなっているマルガに、血を流しながらも、優しく言うリーゼロッテ。

そんな2人の元に、逃げていた白銀キツネの子供のルナが帰って来た。ルナも心配だったのか、マルガの膝にスリスリしている。それを見て少し微笑むリーゼロッテ。



「…本当に良く懐いている、白銀キツネですね。人に懐かないので有名な白銀キツネなのに」

「ルナは特別なんです!私の友達ですから!」

そう言って少し微笑むマルガ。そして、マルガはルナに顔を近づけて、小さな声で、



「ルナ…お願い…此処を出て、ご主人様を探して此処に連れて来て。ご主人様なら、きっと何とかしてくれると思うから…。今はルナにしか出来ない事なの。お願い出来る?」

そうマルガがルナを見ながら言うと、ルナは全速力で、アジトの外に向かって走り出した。



「おい…見張ってろって言われたけど…白銀キツネは別にかまわねえよな?」

「…当たり前だろうが!あんな白銀キツネほっときゃいいのさ!」

「だよな…」

苦笑いしている見張りの兵隊。



「…これで、ルナがご主人様を連れて来てくれます。きっとご主人様が何とかしてくれるから、大丈夫ですよリーゼロッテさん!」

「マルガさん…一体…あの白銀キツネの子供に何をしたの?」

困惑気味のリーゼロッテに、ニコっと微笑むマルガ。



白銀キツネの甘えん坊ルナは、俺を探す為に、必死で野山を走るのであった。



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